人事評価
給与制度や給与形態とは?見直しポイントや手順、注意点などを解説
目次
給与制度は、会社の発展に向けてとても重要なミッションを果たします。社員との信頼関係を良い状態に保つためには、最適な給与設定を行わなければなりません。
そして、最適な給与設定を行うには、給与制度に関して理解している必要があります。
給与設定を行ううえで必要な給与形態の種類や、給与制度を見直すタイミング、注意点などについて解説します。
給与制度とは
そもそも給与制度とは、社員の労働に対する評価に基づいてお金を支払うときの土台となる考え方です。
給与の決定方法や、給与形態の方式、昇給の基準、手当などはどの企業も同じではありません。
それぞれに独自の制度が整えられています。
現在の主な日本企業では「月給制や年俸制などの給与制度」や「学歴や働いた年数、能力といった属人給と呼ばれる給与形態」を取り入れているケースが多いです。
なお、給与の主な構成は、基本給・賞与・成果報酬・各種手当が一般的です。
給与体系における賃金モデルとは
各企業の給与体系には、賃金モデルが用意されています。
賃金モデルとは、新卒で就職した一般的な人が標準的なペースで昇格・昇進した場合の給与の流れのことです。
つまり、賃金モデルによって、新卒社員が将来的にどのくらいの収入に落ち着くかを把握できるわけです。
賃金モデルには以下の2種類があります。
- 理論モデル賃金・・・ある条件で仮定する社員をモデルとして算出
- 実在者モデル賃金・・・実際に存在する社員をモデルとして算出
実際には、地域や業種、賃金モデルのバランスを念頭に置きながらの賃金決定が一般的です。
6つの基本的な給与形態
基本給は「年齢」「在籍年数」「タイトル(役職)」「成績」「ポジション」などさまざまな要素に分類され、決定されます。
それぞれを考慮し組み合わせながら決定される給与形態は以下のとおり。
- 年齢・勤続給
- 職務給
- 職能給
- 業績給
- 成果給
- 役割給
また、基本給だけでなく、必要に応じた手当もあります。合わせてどういった種類があるのか確認していきましょう。
1. 年齢・勤続給
年齢・勤続給は、年齢や勤続年数に応じて賃金が比例してアップしていく給与のこと。年功給とも言われます。
年齢や勤続年数が上がれば上がるほど、経験や知識が蓄積されていき、より大きな役職や仕事も任されるようになるでしょう。
そのため、支払う対価も大きくなるという合理的な理由が生まれます。
年齢・勤続給は最も一般的であり、年齢や勤続年数に応じた役職・賃金を与える人事制度である年功序列ができました。
2. 職能給
職能給は、社員個人の職務遂行能力を考慮して決定される給与のこと。主な評価基準として以下のものが挙げられます。
- 知識
- 経験
- スキル
- 資格
- リーダーシップ
- コミュニケーション能力
- ストレス耐性
社員の知見や功績によって左右され、在籍年数が評価に影響を与えることも少なくありません。ただし、あくまで職務遂行能力に基づいて決定される給与であるため、年齢に関係なく公正な決定が重要です。
3. 業績給
業績給とは、社員がもたらした仕事の成果や企業への貢献度に対して決定される給与のこと。
インセンティブや歩合制、出来高給与と同様の意味合いを持っています。
企業によって扱い方は異なり、賞与やボーナスに含ませたり、基本給に含めて支払ったりする企業もあります。
ただし、他の給与とは異なり業務の成果で決定されるため賃金のアップダウンは珍しくありません。
4. 成果給
成果給とは、社員が業務を通じて生み出した成果や功績を昇進や昇給の判断に活用するシステムのこと。
ただし、良い成果や功績を収めなければ、必ずしも良い評価につながらないわけではありません。
一見、業績給と似ていますが、大きく違う点があるのです。
それが、社員の能力や成果、成績にたどり着くまでの過程も評価対象となる点です。
そのため、頑張りが認められれば多少なりとも評価につながるでしょう。
5.職務給
職務給は、職務や仕事の内容、責任の重さによって賃金が決定される給与のこと。少数にしか任せられないような専門性の問われる職種や立場が深く関わってきます。
- その役職が企業にとってどれだけ重要なのか
- 勤めるために必要なスキルや知識の難易度はどれほどか
- 努力の度合いや成熟度はどれほどか
これらのような要素をうまく考慮しながら賃金を決定していくことが重要です。
6.役割給
役割給は、社員の役割に応じて決定される給与のこと。職務給よりも広い意味でとらえられ、業務や仕事の重要性というよりも役職や立場そのものによって反映されます。
職務給とは違い、ひとつひとつの業務を分析する必要はないため、評価基準が曖昧になりやすい側面があります。
とはいえ、役職がそのまま評価につながるため社員はモチベーション高く業務に臨めるでしょう。
必要に応じて手当もあり
一般的に、上記の給与形態にプラスして該当する社員には、手当が支給されるケースもあります。
主に支給される頻度の多い手当は以下の4つです。
- 時間外手当・・・残業や休日出勤、深夜労働に対して支払われる手当
- 通勤手当・・・通勤にかかる交通費などを補う手当
- 家族手当・・・配偶者や子どもがいる社員に対して支援を目的とする手当
- 住宅手当・・・家賃や住宅ローンなどの支払い負担軽減を目的とした手当
なお、支給される金額についても企業によって規定が異なります。
給与計算に外せない「賃金支払いの5原則」を紹介
先ほど紹介した給与や手当は労働基準法に定められた「賃金支払いの5原則」に基づいて支払われなければなりません。
そこで「賃金支払いの5原則」について紹介します。
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
1. 通貨払いの原則
通貨払いの原則とは、日本の通貨(現金)で支払われなければならないというルールのこと。
そのため、小切手や商品券、自社製品などの物やドルやビットコインなど日本円でない通貨は違法となります。これは仮に社員が外国籍であっても同様です。
とはいえ、金融機関への振り込みや退職金の小切手支払いに関しては、社員の承諾がある場合のみ可能となります。また、労働組合と労使協定を締結していれば、通勤手当の定期券現物支給が認可されています。
2. 直接払いの原則
直接払いの原則とは、給与の支給を必ず労働者本人に支払わなければならないルールのこと。
給与が確実に労働者に渡らなければならないため、基本的には誰も間接的に受け取ることはできません。家族や親しい友人、その他の社内の従業員なども原則禁止されています。
とはいえ、やむを得ない場合や労働者本人の承諾がある限り、使者という体で給与受取人を指定可能です。
例えば、税金滞納による差し押さえなどの場合、差押債権者が給与受取人となることができます。
3. 全額払いの原則
全額払いの原則とは、決められた期間の賃金全額を労働者に対して支払うルールのこと。
例えば、銀行への振り込み手数料などを賃金から差し引いてはいけません。
とはいえ、所得税や住民税、社会保険料など、決められた項目の事前の控除は認められています。
ただし、以下の項目は労使協定がないと不当な天引きとなり違反とされるので注意が必要です。
- 社宅賃料
- 積立金
- 罰金
4. 毎月1回以上払いの原則
毎月1回以上払いの原則は、文字通り「毎月1回は賃金の支払いを行う」というルールのこと。仮に給与が年俸制である場合も毎月1回以上の支払いになるように調整が必要です。
なお、毎月「1回以上」なので、2回以上になっても構いません。場合によっては週払いや日払いになってもルール上問題ないのです。
ただし、労使協定を締結している場合や賞与・ボーナスや手当などの一時的な支払いは対象外。
5. 一定期日払いの原則
一定期日払いの原則とは「毎月◯日払い」といった形で給与の支払日を具体的な日付で決定するルールのこと。
毎月決められた期日であれば、月給においては毎月末、週給なら金曜日などの指定も可能です。
ただし、毎月第3金曜日など、月によって日付が変動するような指定の仕方はできません。
給与制度の見直しタイミングとは?
給与制度は、企業や社員両面においても非常に重要な制度です。そのため、企業の都合だけで変えてしまうと、社員の生活への影響やモチベーションの低下に繋がりかねません。
とはいえ、企業を取り巻く社会や環境の変化、社員の働き方や活躍に応じて適切な給与設定は異なるでしょう。
給与制度の自然な見直しタイミングは以下のとおりです。
- 法律改正の年
- 組織改革の時期
- 業績が良く資金にも余裕があるとき
また、「創業から◯周年」などキリの良い年に見直すのも選択肢の一つとして良いでしょう。
給与制度を見直すうえで着手すべきポイント
給与制度を見直すタイミングが分かったうえで、具体的にどのようなポイントを見直せば良いのでしょうか?
結論として、主にみるべきポイントは下記の3点となります。
- 給与構成内容
- 各種手当内容
- 支払い手段・期間
それぞれのバランスを良好に保つために、必ずどれか一つではなく、全体的に見直すようにしましょう。
給与構成内容
まずは給与構成内容の見直しです。先ほど紹介した「年齢・勤続給」「職務給」「職能給」「業績給」「成果給」「役割給」の6つを、企業の社員像や労働市場に応じて変更します。
なお以下の給与は「属人給」と一括りにされます。
- 年齢・勤続給
- 職能給
一方、以下の給与は「仕事給」と一括りにされます。
- 職務給
- 業績給
- 成果給
- 役割給
そして、属人給と仕事給をバランスよく合わせた「総合給」の3つが賃金構成として一般的です。
しかし、属人給や仕事給のみで構成する企業は少なく、大多数の企業では総合給が採用されています。
各種手当て内容
現在支給している手当の中で、社員ごとに必要な手当と不要な手当を見直すことで、より良い賃金構成となります。
例えば、公共交通機関から徒歩での通勤に変更の社員に通勤手当の廃止や、女性の社会進出が高まる中、家族手当は廃止傾向にあります。
支払い手段・期間
まずは、先ほど紹介した賃金支払いの5原則に沿っているかを確認します。そのうえで、社員の状況を見ながら最適な手段や期間を見出していきます。
例えば、賞与やボーナス支給の時期のみ頑張る社員がいるケースもあります。
給与制度の見直しをする際の具体的な手順
給与制度を見直すタイミングやポイントについて見てきましたが、実際に見直す場合はどのような手順が良いのでしょうか?
具体的な手順は以下のとおり。
- 賃金水準の調査
- 制度の見直し
- 移行シミュレーション
- 社員への説明
それぞれ見ていきましょう。
賃金水準の調査
まずは、同業種の競合他社がどういった賃金基準を設けているのかを調査します。調査方法は特に決まりがありませんが、一般的には以下の2種類。
- 賃金構造基本統計調査・・・厚生労働省による国内労働者の賃金水準を示した統計
- 各種調査機関・・・民間企業が公表している統計
賃金構造基本統計調査は、国家が発表していることもあり信憑性が高いです。一方、各種調査機関は、労働組合の統計も確認できますが、必ずしも正確とは限りません。
そのため、両方確認することが望ましいでしょう。
制度の見直し
賃金水準を調査後は、自社の給与制度と比較し、修正すべき賃金項目がないかを確認します。
ただし、単純に賃金水準に合わせるのではなく、会社の理想像からはかけ離れてはいけません。
バランスを取りながら見直す必要があります。
移行シミュレーション
実際に導入する前に、既存社員を想定した移行シミュレーションを必ず行います。この段階を省略してしまうと、万が一、社員に不都合が発生するなどの問題が発生した場合に対応ができません。
シミュレーションを行い、課題が見られれば修正を繰り返し、より良い給与制度にしていきます。
入念な準備を重ねたうえで実際の導入に移りましょう。
社員への説明
シミュレーションで問題がなければ、実際に新たな制度を導入していきます。このときに社員には以下の内容を正確に説明していく必要があります。
- 給与制度の変更点
- 変更した主な背景
社員が正確に理解をしたうえで、給与制度を進められるようにしましょう。
給与制度を見直すうえでの注意点
給与制度を見直すうえで、注意しなければならないポイントがあります。
主な注意点は以下の5つ。
- 従業員の対価に見合っているか
- 従業員の生活を支えられるように機能しているか
- 人件費などのデータから分析を行い、課題を見つける
- 従業員に対する匿名アンケートも実施する
- 給与制度の見直しは細心の注意を払い、自社に見合ったものを検討する
それぞれの注意点をしっかりとおさえておきましょう。
社員の対価に見合っているか
どれだけ一般的な給与水準や企業の理想像に沿っていても、社員の労働対価に見合っていなければ適切な給与とは言えません。
そのため、しっかりと社員の特徴や能力を公正に評価したうえで給与を決定していく必要があります。
社員の生活を支えられるように機能しているか
社員の生活が支えられない給与では、良好な関係は保てません。
もちろん、社員の頑張りや能力に応じて上下はありますが、どんな社員でも最低限の生活が担保されるような給与設定にする必要があります。
人件費などのデータから分析を行い、課題を見つける
人件費の調整は、必ずデータを用いた分析を行わなければなりません。
間違っても感情や感覚で決定してはならず、データから明確な根拠を持って課題を見つけ、解決しましょう。
社員に対する匿名アンケートも実施する
社員は給与に対しての不満を表立って打ち明けることはほとんどありません。
しかし、給与を検討する際、社員の意見は非常に重要な意味を持ちます。
匿名のアンケートを実施し、定期的に社員の意見を反映させるようにしましょう。
給与制度の見直しは細心の注意を払い、自社に見合ったものを検討する
給与制度は細心の注意を払って行いましょう。
給与の設定を高くすれば企業の資金に余裕がなくなりますし、反対に低くすれば社員の不満が膨らみかねません。
十分な検討を重ねたうえで調整していくことが必要です。
年功序列と成果主義はどっちが良い?
年功序列と成果主義のそれぞれの特徴やメリット、デメリットについてまとめました。
かつては、年功序列が一般的でしたが、社会の変化に応じて成果主義を採用している企業が増えています。
若い人でも成果を出せるなら、高い給与設定にする方が企業にとってもメリットが大きいのです。
こんな給与も?新しい給与体系の事例2選
最後に、現在導入されている新しい給与体系の事例を2つ紹介します。
実際に給与制度を見直す際に、参考にしてみてください。
事例1. 三菱UFJ銀行
国内最大手銀行である三菱UFJ銀行は2019年に給与体系を一新しました。
かつての年功序列型から職能給と職務給などの成果給に比重を置いた総合級に変更しています。
変更の背景として、金融AIフィンテックの進出やキャッシュレス化による人員・店舗削減が挙げられます。
同様の傾向は、今後他の銀行でもみられてくるでしょう。
事例2. 株式会社カヤック
株式会社カヤックには「サイコロ給」と「スマイル給」といった全く新しい給与体系が導入されています。
- サイコロ給:毎月サイコロを振り、出た目で自分の給与を決定(基本給は固定)
- スマイル給:社員同士で笑顔を贈り合う制度。毎月誰かによる「〇〇給」が明記されます。スマイルなので0円。
このようなユニークな給与体系を導入することで、社員が楽しく業務に取り組めるようになるでしょう。
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HR大学 編集部
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