#人材管理
2023/09/06

【人事向け実践】大企業AI人材の人事制度/育成プログラムのポイント、事例・サービスまとめ

目次

    AI人材の定義、求められる背景とは

    AI人材の定義、求められる背景

    産業界において、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT、コネクティッドカーや自動運転技術、事業活動へのビッグデータの活用など、AI(人工知能)の活用は2020年代に入り、ますます加速しています。そうした中でAIを活用できる技術者としてAI人材の需要が急激に高まっています。

    ここでは、AI人材とはどのような人材なのか、求められる背景を見ていきます。AI人材の採用や育成課題については「【人事必見】AI人材の採用/育成課題とは?制度とプログラムを解説」をご覧ください。

    AI人材の一般的な定義

    AI人材とは機械学習、ディープラーニングの知識、技術を持っている人材のことです。文部科学省では、AI人材の定義を以下のように定めています。

    • AIの問題を解決する人材

    AIに関する応用研究を担当する研究者が該当します。

    • AIを具現化する人材

    AIモデルの開発を行うデータサイエンティストや開発したAIモデルを現場環境に合わせて実装するAIエンジニアが該当します。

    • AIを活用する人材

    AIの技術的性質を理解した上で、事業の開発や現場課題の解決を行うAIプランナーが該当します。

    つまりAI人材は、AIを研究し進歩させる、AIを業務で活用できるように技術改善を行う、そして企業の専門領域や企業が持っている技術と組み合わせて新たな事業を開発する。これらの役割があると言えます。

    AI人材が求められる背景

    AI人材が求められる背景としてなぜ、AIが注目を集めているのかを見ていきます。

    • IT産業を変革する可能性

    AIはあらゆる産業の構造を変える可能性を秘めています。2020年代に入り、ウェブやIoTで利用できるデータのトラフィック量は日々増大しており、社会に与える影響は無視できない規模になっています。そうした状況下で、ビッグデータの活用を始めとした「AI技術」は、社会構造をも変革する新しい技術として期待されています。

    事実、AI技術への期待の高さから、GAFAと呼ばれる世界のIT業界を牽引する企業群が、大量のデータを保有して機械学習の技術開発に乗り出しています。

    • 労働力不足を解決する技術としての期待

    日本では少子高齢化により、2035年には国民の3人に1人が高齢者になると言われています。現役世代の労働だけでは、あらゆる企業・行政の事業、サービスを成立させることが難しくなります。そうした中で労働を削減、代替、効率化する手段として、AIの可能性に期待が集まっています。

    AI人材の需給状況

    AIの知識、技術を持っているAI人材ですが、高まる需要に対して、供給は不足しています。経済産業省の調査「IT人材需給に関する調査」によると、2020年時点で、日本のAI人材の需要と供給の差(需給ギャップ)は約4.4万人。2030年までには、約12.4万人にまでその差が広がると言われています。

    世界的に見ても、各国の企業で業務のAIへの置き換えがまさに進行中であり、AI人材の需要はより一層高まるものと思われます。世界のAIエンジニアの平均年収は1,000万円以上であり、世界のIT技術の集積地であるシリコンバレーでは平均年収3,300万円、新卒でも2,000万円を超えるとも言われています。

    こうした中、日本企業がAI人材を獲得するためには、AI人材が企業でやりがいをもって技能、スキルを最大限発揮できる環境を整備する必要があります。

    AI人材の人事制度とタレントマネジメントとの連携事例

    AI人材の人事制度とタレントマネジメントとの連携

    AI人材の世界的な市場価値は極めて高く、世界の獲得競争に勝つためには、従来の雇用慣行にとらわれない発想で、AI人材に特化した人事制度を構築し、処遇していく必要があります。AI人材の雇用方針として、育成を通じて「中長期的に成果を求めていくか」、育成はせず、「入社当初から成果を求めていくか」によって、制度設計の考え方が変わります。

    中長期の目線で育成、評価する場合は、タレントマネジメントへの連携が必要になります。タレントマネジメントとは、優秀な人材をリストアップし、その層に特化して戦略的な育成、評価を実施することです。タレントマネジメントについて詳しく知りたい方は「【完全版】タレントマネジメントとは?基本から実践的な方法まで解説」を合わせてご覧ください。

    以下、雇用方針別に制度設計のポイントと企業事例を見ていきます。

    AI人材の人事制度

    • 中長期で成果を求める場合

    人材育成を通じて中長期で成果を求める場合は、即戦力の中途採用だけでなく、企業での勤務経験がない新卒も採用ターゲットとなります。日本型雇用慣行である終身雇用を前提とした制度設計を軸に、新卒からベテランまでの各ランクに応じた業務のアサインにより、育成し、知識、技能の向上、業務上の成果に応じた報酬を支払い、ランクアップしていく仕組みを構築します。
    よくある制度設計としてはAI人材専門のコースを作り、そのコースの中で育成、評価、昇格管理等のタレントマネジメントを行っていくパターンです。中長期的に見て、期待以上のパフォーマンスが見られなかった場合、その従業人のコース認定を取り消し、一般従業員のコースに転換させるという終身雇用が定着している日本企業ならではの運用も見られます。

    • 企業事例:ソニー(業種:総合電機メーカー / 社員数:約110,000名)

    ソニーグループ株式会社は、2019年にAI人材の新卒初任給(年収)を最高730万円にアップしました。入社時に通常、新卒はエントリーのランクになるところ、AI人材は下から4段階目の主任クラスに抜擢するというもので、ランクに対応した報酬になります。長期雇用を前提として、既存の人事制度の枠組みをベースに、AI人材に特化した仕組みを細部に設けているのが特徴です。
    同社は、翌2020年に専門的なITスキルを持つ従業員に対して、年収下限を1,100万円とする制度を導入しており、AI人材に特化した制度のマイナーチェンジを継続して実施しています。

    • 企業事例:ディー・エヌ・エー(業種:IT / 社員数:約2,600名)

    株式会社ディー・エヌ・エーは、2017年にAIスペシャリストコースを新設し、従来の新卒エンジニアが年収500万円ベースのところ、600万円から1,000万円という報酬レンジを設定しました。採用もコース別に行う等、AI人材を専門のコース内で中長期的に育成、評価、処遇するという同社の方針が現れています。

    • 企業事例:富士通(業種:総合電機メーカー・ITベンダー / 社員数:約129,000名)

    富士通株式会社は、2020年に「高度専門職系人材処遇制度」を導入しました。AI分野で優秀な専門人材を外部から採用し、処遇する受け皿として活用します。新卒採用で入社した社員も対象になります。新卒で入社した場合、ソニー同様に初任給の段階で飛び級により給与ランクをアップさせるとのことで、高度専門系職人材の最高年収は3,500万円程度と言われています。

    採用した人材は中長期的に育成、評価を行いますが、数年続けて期待を下回る成果だった場合、高度専門系職人材としての認定を取り消す仕組みとなっています。

    • 短期で成果を求める場合

    育成はせず、入社当初から成果を求めていく場合、即戦力の中途採用をターゲットとします。雇用形態は正社員にとらわれず、有期雇用での採用もあり得ます。「中長期で成果を求める場合」と比べて、育成、評価し、昇格させていくという雇用方針ではないので、ランクの数は少なく、報酬は業務上の成果に応じ、大きく変動する仕組みとなっています。

    よくある制度設計としてAI人材専門のコースを作るところまでは、「中長期で成果を求める場合」と同じですが、成果に応じて適用するランクを変え、報酬については月給は大きく変動させずに賞与で0円から数千万円の範囲で変動させるパターンが多いようです。賞与で変動させる理由としては、月給は日本の労働法規の規制から、大きく変動させることが難しいためです。

    • 企業事例:NEC(業種:総合電機メーカー・ITベンダー / 社員数:約112,000名)

    日本電気株式会社は、2020年に若手研究者向けに選択制研究職プロフェッショナル制度を導入し、20~30代の従業員9名に適用しました。従業員のランクを4段階に分け、月給はランクごとに支給する一方で、賞与は成果に応じて0円から上限なしで設定し、レベル3以上になると年収1,000万円を超える仕組みとしました。高度なAI人材に手厚く報いる一方で、高い成果が出せなければ年収が大きく下がるため、短期で成果を求める同社の雇用方針が現れています。

    • 企業事例:NTTドコモ(業種:情報・通信 / 社員数:約26,000名)

    株式会社NTTドコモは、2019年にAI・ビッグデータに特化した技術者向けにシニア・プロフェッショナル制度を導入し、4名の在籍者と1名の採用者に適用しました。NEC同様、即戦力の人材を対象としており、完全年俸制で成果に応じて賞与が大きく変動する仕組みとなっています。最高年収は3,000万円超で設定されています。

    ・企業事例:パナソニック(業種:総合電機メーカー / 社員数:約260,000名)
    パナソニック株式会社は、2020年にAI技術やデータ分析などの開発を強化するため、AIエンジニア向けに高度技術人材コースを導入しました。年収水準は750万円~1,250万円で設定されています。着目すべきは雇用形態であり、1年毎の嘱託契約、雇用期間は最長5年としている点です。

    募集している開発分野においては、中長期の雇用は想定しておらず、短期で成果を得ることを目的とした同社の事業方針が伺えます。

    AI人材の育成プログラム導入のメリット、選定ポイント、活用事例

    AI人材の育成プログラム導入のメリット、選定ポイント、活用事例

    AI人材を企業内で育成する場合、AI専門部署、AI研究開発法人への派遣や担当業務、プロジェクトへのアサインによる、OJTを通じた育成がメインになります。したがって基本は前章で取り上げた人事制度の運用を通じて、育成していきますが、機械学習などに関する研修プログラムを実施してAI人材の技能、スキルを強化する方法があります。ここでは外部ベンダーが手掛けるAI人材育成プログラムについてサービス導入のメリット、選定のポイント、企業の活用事例について解説します。

    育成プログラム導入のメリット

    外部ベンダーの育成プログラムを導入するメリットは次の2点です。

    • プログラムの設計にかかるコスト・工数を削減できる

    2020年代に入り、ようやく各企業がAI技術の自社への導入に本腰を入れてきている背景もあり、プログラムに活用できる題材としてのAI案件は少ないのが現状です。一部大企業は有名国立大学と提携して、独自の教育プログラムを開発していますが、資金力、社会的知名度のない企業に独自開発は困難です。そうしたときに外部ベンダーのサービスは、独自開発にかかるコスト・工数を削減できるメリットがあります。

    • 目的や対象者のレベルに合わせた豊富なメニューを利用できる

    外部ベンダーのプログラムは主にAIによる実務の効率化を目的として、モデルの開発・実装を行うデータサイエンティスト・エンジニアを育成するサービスと、事業の開発や現場で起こった課題の解決を目的として、AIの活用企画を行うプランナーを育成するサービスの2つに大別されます。それぞれの目的、人材育成に適した難易度、学習スタイルのメニューが用意されており、その中から自社に適したものを選択することが可能です。例えば、AIエンジニア育成のプログラムであれば機械学習、ディープラーニングに関する知識を講義で学んだ後に、実践的なプログラミング演習を行うといった内容になります。

    育成プログラム選定のポイント

    外部ベンダーの育成プログラムを選定するポイントは次の3点です。

    • AI活用目的と学習スタイルとの合致度

    AIでどのような課題を解決したいのか、企業がAIを活用する目的に応じた学習スタイルが用意されているかが、ポイントになります。学習スタイルは以下の3つがあります。

    1.講師による講義・セミナースタイル
    基礎的なAIリテラシー習得を目的とする場合に採用されます。受講者のレベルごとにカリキュラムをカスタマイズできるサービスもあります。

    2.ワークショップスタイル
    実際のビジネスでどのようなAI活用ができるのか、企画力の習得を目的とする場合に採用される学習スタイルです。ケーススタディーを通じて課題の解決方法や、新規事業の企画方法を習得できます。

    3.演習スタイル
    AIを実務レベルで活用するための技能習得を目的とする場合に採用されます。実際の業務で発生している課題を題材にしており、現場の課題を元にデータ分析やAIの活用手法を習得できます。

    • 自社ニーズと難易度の合致度

    受講内容を従業員が習得し、業務に活用するためには、自社ニーズに合った難易度のプログラムを採用する必要があります。受講者のレベルに応じたメニューなのか、学習内容は実務にすぐ活かせるものなのか、事前にベンダーに自社の現状を伝え、アドバイスを受けることが重要です。

    • プログラミング環境の提供可否

    学習スタイルが演習スタイルで、機械学習やディープラーニングをテーマとしたプログラムの場合、計算処理のためにGPU環境というプログラミング環境が必要になります。GPU環境を提供しているベンダーを選定すれば、プログラミング環境設定にかかるコストや工数を削減できます。

    育成プログラムの活用事例

    外部ベンダーの育成プログラムを導入している企業事例を2社紹介します。それぞれAIの活用目的、プログラムの導入目的と学習スタイル、プログラムの内容について取り上げます。

    1.AIの活用目的
    製品の画像検査・騒音検査に機械判定化を導入する

    2.プログラムの導入目的
    製造技術者向けにデータ解析の基礎知識を習得させる

    3.学習スタイル
    講師による講義・セミナースタイルと演習スタイルの併用

    4.プログラムの内容
    講義・セミナースタイルで実施:AIの概念・機械学習の仕組み・統計量の基礎知識等
    演習スタイルで実施:統計量の可視化手法

    1.AIの活用目的
    保険業務に最適なアルゴリズムを適用し、業務効率化を行う

    2.プログラムの導入目的
    IT技術者にデータ分析の手法やAI・機械学習モデルのモデリング手法を習得させる

    3.学習スタイル
    講師による講義・セミナースタイルと演習スタイルの併用

    4.プログラムの内容
    講義・セミナースタイルで実施:AI・機械学習モデルの理論的背景
    演習スタイルで実施:プログラミング実装、モデリングの実践演習

    AI人材の育成プログラムの外部サービス紹介まとめ

    AI人材の育成プログラムの外部サービス紹介まとめ

    最後に外部ベンダーが提供している育成プログラムについて、AIの活用目的別に代表的なものを紹介します。自社で外部サービスを活用する際、ご参照ください。

    実務効率化をAIの活用目的にする場合

    AIの知識・理論を理解した上で、自社のデータを元に、プログラミングやデータ分析の演習を行い、AIの実務への活用方法を習得します。学習した内容を実務に即座に活かすことができます。

    ベンダー名:SKYDISC   
    対象業種:製造業
    金額:50万円〜100万円 ※AI簡易診断パッケージの金額
    学習スタイル:講師による講義・セミナースタイル、演習スタイル
    主な特徴:製造業の実践的なデータ分析手法を習得可能、独自の課題に合わせた教育プログラムのカスタマイズが可能

    ベンダー名:NABLAS   
    対象業種:全業種
    金額:要問合せ
    学習スタイル:講師による講義・セミナースタイル、演習スタイル
    主な特徴:エンジニアやデータサイエンティスト向けに演習中心の実践的なプログラム提供、GPU環境提供あり

    事業の開発や現場課題の解決をAIの活用目的にする場合

    AIを正しく理解し、ビジネスで活用するための体系的なAI知識・実践的スキルを習得します。新規事業開発や現場課題の解決に必要な企画力を磨くことができます。

    ベンダー名:トレノケート   
    対象業種:全業種
    金額:71,500円 ~ 220,000円
    学習スタイル:講師による講義・セミナースタイル、ワークショップスタイル、演習スタイル
    主な特徴:AIのビジネス企画力を持つAIビジネスプランナーと開発・運用力を持つAIエンジニアを育成するプログラムを提供

    ベンダー名:ラーニングエージェンシー
    対象業種:全業種
    金額:基本料金20万円(月額)+受講ライセンス料金5万円(10名 / 月)
    学習スタイル:講師による講義・セミナースタイル、演習スタイル
    主な特徴:全講座、オンライン講座として提供、スマホ演習対応機能あり

    AI人材の育成~定着は今後の企業活動に必須

    機械学習・ディープラーニングなどの技術を扱うAI人材は、最先端のテクノロジーを活用し、組織の成長や価値提供できる人材です。企業の事業活動にAIが与える影響が深化する過程において、企業存続・活性化に必要不可欠な人材と言えるでしょう。

    世界的なAI人材の獲得競争に勝ち残るためにも、採用したAI人材の育成・定着に関わる施策を検討するとともに人事/スキルデータを適切に管理することが必要です。

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    HR大学編集部
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