ファシリテーションとは?役割や必要なスキル・アクションまで解説
異なる立場の人々が集まり、意思決定をする場に欠かせないのが「ファシリテーション」という技法です。
ファシリテーションというと、司会が会議を仕切ることを想像されるかもしれませんが、それはあくまで役割の一部分に過ぎません。
この記事では、ファシリテーションとはなにか、ファシリテーションを行うことで得られるメリット、ファシリテーションを行う「ファシリテーター」が果たすべき役割などについて紹介していきます。
ファシリテーションとは
ファシリテーションとは、会議をスムーズに進行するための技法です。
会議とは、複数の「人」が特定の「場所」に集まり、インプットされた「情報」をもとに、「どのような行動を起こすのか」などの新たな「情報」をアウトプットしていくことを指します。
もちろんオンライン会議においても、ファシリテーションの本質は変わりません。なんの計画性もなく、主導する人もいない会議では、参加者は「なんのために集まったのか」「どんな問題を解決しなければならないか」の擦り合わせすら満足にできません。
本筋から話が脱線し、会議時間を過ぎてもなんのアウトプットも得られないばかりか、「時間を無駄にした」と参加者のモチベーションをも著しく下げてしまいます。
ファシリテーションとは、会議を時間内に終わらせ、脱線しがちな話を本筋に戻し、適切なゴールへと参加者を導く手法のことを指します。
ファシリテーションの目的
ファシリテーションの目的は、会議をスムーズに進行し、会議で設定された目的・目標を達成することです。
会議に参加するのは、同じ部署の従業員だけではありません。ときには、利害が異なる人とも会議を行うことがあります。その際に、互いの目的・目標を見失わないために、このファシリテーションが活用されています。
ファシリテーションが広まった背景とは
ファシリテーションというワードは、1960~70年代頃、アメリカのビジネスシーンで使用され始めたという経緯があります。
ファシリテーションという言葉が流行したのは、トップダウンではなく、会議の参加者が考えを出し合い、意思決定をするという流れを受けてのことです。グローバル化が進み、異なる価値観の人々がともにひとつの目的に向かう際に、有効な手法として、このファシリテーションは着目されてきました。
現在に至るまで、企業にとどまらず、地域活動、グループ学習など、人が集まり、意思決定をする機会は各段に増えています。
会議を円滑に進め、参加者から意思決定のコンセンサスを取るには、このファシリテーションという手法が欠かせません。
ファシリテーションのメリット
では、具体的にファシリテーションのメリットについて紹介します。
アイディアが出やすくなる
ファシリテーションのメリットとして、発言者から意見が出やすいというメリットが挙げられます。
普段は周囲に遠慮をして、なかなか発言しない従業員からも、意外なアイディアが出ることもあります。
ファシリテーションを実践する役割を持つ「ファシリテーター」は、アイディアが出やすくなるよう、発言者の意見を尊重し、耳を傾けます。本筋に関連する重要な意見には、さらなる質問をして意見を深堀りします。
このように、発言者が答えやすいよう会議を進行していきます。
適切なアウトプットが出やすい
ファシリテーションを意識しない会議では、話が脱線したり、そもそもゴールがわかりにくかったり、適切なアウトプットが出にくいでしょう。
反対に、ファシリテーションを学んだ従業員は「どのように会議を進行すれば意見を出やすくなるのか」を理解しているため、適切なアウトプットが出やすくなります。
ファシリテーターとは
ファシリテーションの役割を担う人のことを「ファシリテーター」と呼びます。
後ほど詳しく述べますが、ファシリテーターには参加者が発言しやすい場の雰囲気作りや、意見を引き出すなど、認識の一致、相互理解を促す重要な役割があります。それらの目的を達成するため、司会とは別にファシリテーターを置くこともあります。
ファシリテーターの役割は多岐に渡るため、会議の場合は議事録を作成する担当者を別で立てておくことがおすすめです。
ファシリテーターの役割
では、ファシリテーターが果たすべき役割について、詳しく紹介します。
出発点と到達点を定めて共有する
会議を設定する際に、今回の会議はどこから始めて(出発点)、どこにたどり着く(到達点)ことを目的とするのか。それを事前に決め、参加者に伝えることが重要です。
また、そもそもの議題が難解な場合は、その問題をかみ砕き、参加者が理解しやすいよう平易に変換して落とし込むことも必要となります。
ファシリテーターがこの出発点と到達点を正しく理解し、設定することが会議で適切なアウトプットを出すための鍵となります。
参加者を把握する
同じチーム、部署の間で行われる会議は、改めて言葉にしなくとも、共通の認識があり、説明を省いても伝わることがあるでしょう。
しかし、他部署との会議となるとどうでしょうか。
持っている情報にバラつきがあったり、ミッションが異なっている場合もあります。例え社内であったとしても、売上を追う営業部と、法律を遵守する法務部では、意見が対立することも少なくありません。
それぞれの部署、参加者が「議題に対してどのような意見・認識を持っているのか」をあらかじめ洗い出す必要があります。地道な作業ではありますが、会議を成功させるためには、重要なステップです。
また、参加者の中で、声の大きな人、決定権を持つキーパーソン、参加者それぞれの関係性など、事前に把握しておくことも役立ちます。
発言しやすい場の雰囲気作り
スムーズな会議には、発言がしやすい雰囲気作りが欠かせません。「シーン」とした中で、自分の意見を言うことは、誰でも気が重いですよね。「本当は言いたいことがあるのに、言い出せない」というのは、参加者にとっても、もちろん企業にとっても損失です。
ファシリテーターは、発言者の意見に耳を傾け、その意見を尊重し、意義があるものだと伝える必要があります。その働きかけを継続することで、発言者は自信を持って発言できるようになります。発言しやすい場の雰囲気作りは、活発な意見出しに重要な役割を果たします。
論点のズレを修正する
いくら発言しやすい場の雰囲気作りといっても、話が本筋と脱線することを許容してはいけません。
「論点がズレてきた」と感じたら、改めて会議のゴールに立ち返り、目的(到達点)を再確認することが必要です。
話が盛り上がることは一見よいことのように思えますが、それに時間を取られてしまっては本末転倒です。特に、決定事項を確認し、コンセンサスを取る時間が圧迫されるようなことは避けなければなりません。
論点がズレてきたと気づいたとき、ファシリテーターは勇気をもって話に切り込み、話の軌道修正を行いましょう。
タイムキーパー
会議の時間は有限です。「議題の共有に〇分」「ディスカッションに〇分」など、会議の時間配分についても、事前に決めておきましょう。
スライドにあらかじめ時間配分を記載して、会議冒頭に流れを共有すると、参加者も心づもりができます。会議中、到達点とともに時間配分もスライドに投影しておく、または資料とともに配布する、など常に参加者の目に触れるようにしておくと、進行がスムーズです。
結論付けと合意形成(コンセンサスをとる)
会議は、新しい「情報」・「行動」を生み出す場でもあります。
「どの担当者が」「いつまでに」「なんのタスクを終わらせるのか」を明確にする必要があります。参加者の意見を再確認し、結論付け、コンセンサスを取りましょう。
もちろん、一回の会議ですべての議題を消化できないこともあるでしょう。その場合は、「決まったこと」「決まらなかったこと」を明確にして、次回の会議へと引き継ぎましょう。
ファシリテーションに必要なスキル
ファシリテーションに必要なスキルを紹介します。
本筋・意見を理解する力
ファシリテーターは参加者の意見を汲み取り、理解する力が求められます。また、本筋から議論が離れたときにも、引き戻すスキルが必要です。
会議の本筋・参加者の意見を、正しく理解できるよう努めましょう。
話を整理する力
会議の際に参加者から出される様々な意見を分類・整理する力が大切になります。それには物事を体系的に理解・整理し、筋道を立てる考える「論理的思考力」が必要となります。抽象的な言葉は、具体的な言葉に置き換えるなどして、普段から話を整理する力を養いましょう。
論理的思考が身につけば、問題解決のために有効な意見を見分け、深めるためのアプローチが可能となります。
ファシリテーションには、参加者の話を整理するスキルが必要です。
人に質問する力
発言者の意見で「補足が必要だ」と感じる場合もあるでしょう。
その場合、ファシリテーターには率先して質問するスキルも必要となります。
「〇〇とは、つまり▲▲▲のことでしょうか?」「〇〇について、具体的に教えていただけますか?」など、参加者の共通認識を強固にするために質問をしましょう。
発言者に「あなたの意見を聴いています」というサインを送るだけでなく、目的に対するアプローチ方法を深めることができます。
人の意見を聴く力
ファシリテーターには、人の意見を聴くための力も必要です。
発言者が話しやすいよう、ファシリテーターから「あなたの話を聴いています」というサインを出すことも重要です。
発言者に体・顔を向けて、相槌を打つこと。
また、発言者の言葉を要約し「あなたの話を聴いて、理解しています」と示すこと。
これらファシリテーターの態度により、発言者は自身の発言が尊重されていると感じ、意見を言いやすくなります。
このように、人の意見を聴くことも意識しましょう。
ファシリテーションのやり方、事例
では、実際にどのようにファシリテーションを行えばよいのでしょうか。
会議、ワークショップ、それぞれの事例について紹介します。
会議の場合:①会議前における準備
ファシリテーターは、会議に臨む前に事前準備を行いましょう。
まずは会議の目的・目標を定め、どのような会議の進め方をしたらスムーズにそこへたどり着けるのか、考えます。
また、会議の参加者の情報を集めましょう。
すべての参加者が、共通認識を持てるよう工夫が必要です。ときには、社内用語を改めて定義しなおすことも必要かもしれません。
参加者がストレスなく、発言できるよう事前送付する資料にも配慮をしましょう。
会議を行う会場の設備を確認しましょう。
資料はプロジェクターに投影するのか、紙での配布を行うのか、それとも両方が必要なのか。とくに、プロジェクターとパソコンを繋ぐケーブルの用意や、スライドの投影の仕方など、設備まわりに不安がある場合は、事前確認をしておくとスムーズです。
また、ファシリテーターは、会議中は参加者の発言に神経を集中する必要があります。
議事録の作成まで手が回らない場合は、議事録の作成者を別途立てて、事前に依頼しておきましょう。
【会議前のチェックリスト】
会議の目的・目標を定める
会議の参加者情報を集める
すべての参加者が共通認識をもって、議論できるように準備する
資料が紙の場合は、紙で資料を用意する
資料がプロジェクターなどで投影の場合は、ケーブルや投影方法の確認をする
会議の場合:②会議中
会議が始まったら、まず参加者に目的・目標(到達点)を伝えましょう。
会議で何を話し合うのか、何が問題なのか。その問題をどうやって解決するのか。参加者から意見を引き出し、深めるべき発言には質問をぶつけ、課題解決のために有効なアプローチを探りましょう。
ときにはブレインストーミングなどの手法を使うことも有効です。
論点がズレてきたときには、目的・目標を参加者にリマインドしましょう。
また、ファシリテーターにはタイムキーパーとしての役割もあります。話が脱線した場合、話を本筋に引き戻す勇気も必要です。
最後には、会議で出た成果を確認し、参加者にコンセンサスを取ることも重要です。「時間がなくなってしまった」とならないように、この時間は必ず確保しておきましょう。
【会議中のチェックリスト】
会議の参加者に目的・目標を伝える
参加者から質問を引き出す
参加者の発言を深める
論点がズレた場合、話を本筋に引き戻す
タイムキーパーとしての役割を果たす
会議で得られた成果を確認し、コンセンサスを取る
会議の場合:③会議後
会議後は、速やかに議事録を作成しましょう。会議によって得られた成果を言語化し、参加者に回覧します。
今回の会議の結果を受けて、次回の会議の目的・目標を定め、参加者のスケジュールを押さえます。
【会議後のチェックリスト】
速やかに議事録を作成する
参加者に回覧する
次回の会議の目的・目標を設定する
次回の会議に出席する、参加者のスケジュールを押さえる
ワークショップの場合:①ワークショップにおける準備
ワークショップとは、参加者が主体的に取り組む体験型の講座のことです。セミナーに比べ、参加者が能動的に話し合う場面が、多く組み込まれています。こうしたワークショップでのファシリテーションは、事前準備がとくに重要です。
「どのような順番で進行をするのか」「話し合う時間は十分に取れているのか」、入念にシミュレーションを行いましょう。
また、会議室や会場を借りる場合、テーブルや椅子のレイアウトにも配慮しましょう。
模造紙や付箋などを使用する場合は、それらを貼るスペースがあるかも確認が必要です。
当日に慌てないよう、あらかじめ準備を行いましょう。
【ワークショップ前のチェックリスト】
議題について話し合う時間の配分を、入念にシミュレーションする
会議室を借りる場合は、事前に室内を把握する(レイアウト・設備の確認など)
ワークショップの場合:②ワークショップ中
ワークショップのファシリテーターは、参加者の対話がスムーズに進むよう立ち回りましょう。
参加者が相手を打ち負かすような議論や討論を始めた場合は、ワークショップの目的に立ち返るよう促しましょう。
振り返り用のメモを残しておくことも、次回の反省に役立ちます。
【ワークショップ中のチェックリスト】
参加者から発言を引き出す
参加者の発言に気を配り、議論や討論が始まった場合は目的に立ち返るよう促す
振り返り用のメモを残しておく
ファシリテーションの場合:③ワークショップ後
ワークショップ終了後は、残しておいた記録を振り返りながら、次回に活かせるところはないかを考えましょう。
成果物を確認し、目標への達成度を確認します。また参加者から、どのような学びがあったのか、確認しましょう。
【ワークショップ後のチェックリスト】
ワークショップ全体の振り返り
成果物を確認し、目標への達成度を確認する
参加者からのフィードバックを受ける
ファシリテーションの手法を学ぶには
ファシリテーションの手法を学ぶには、専門家が主催するワークショップ、セミナー、研修に参加することが有効です。
現在はZoomなどのツールを使用した、オンラインでの研修も充実しています。
また、現在では対面ではなくオンライン会議が主流になっています。
オンラインならではの、ファシリテーターが意識すべきポイントもあります。
個人で学ぶほか、社内にファシリテーターの役割を担える従業員が不足している場合には、社員研修の一環として、導入を提案してみましょう。
まとめ
ファシリテーションは、会議をスムーズに進める技法のことです。
グローバル化が進んだ時代背景を受け、異なる背景・意見を持つ人々が、相互理解を進め、ともに目的・目標を達成するために、発達した経緯があります。
ファシリテーションを担う役割の人をファシリテーターと言います。
ファシリテーターは、会議の事前準備にはじまり、会議中、会議後に果たすべき役割があります。
【ファシリテーターの役割】
出発点と到達点を定めて共有する
参加者の把握(保有情報や立場)をする
発言しやすい場の雰囲気づくり
論点のズレを修正する
タイムキーパー
結論付けと合意形成(コンセンサスをとる)
会議が終了した後は、議事録を送付し、次の会議のための準備に取り掛かります。
ファシリテーターの役割を果たすために、以下のスキルが求められます。
【ファシリテーターのスキル】
本筋・意見を理解する力
話を整理する力
人に質問する力
人の意見を聴く力
また会議、ワークショップでは、ファシリテーターの注意する部分に若干の差異があります。
それぞれの特徴を意識して、準備に臨みましょう。
ファシリテーションの能力を高めたい場合は、専門家が主催するワークショップ、セミナー、研修への参加がおすすめです。
また、ファシリテーションの手法を学ぶと、従業員自身のスキルアップだけでなく、会議に主体的に参加する意識も養われます。
社員研修の一環として取り入れることも、有効です。