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人的資源管理とは?コーポレートガバナンス・コードやISO30414も解説

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人的資源管理とは?コーポレートガバナンス・コードやISO30414も解説

目次

    2021年6月、上場企業が遵守すべき事項を規定した、コーポレートガバナンス・コードが改訂されました。企業の中核人材における多様性の確保や、サステナビリティをめぐる課題への取組みなどの項目が追加されており、人的資源管理の公表が求められています。

    この記事では、人的資源管理の基本知識と、報告書作成の指針となる国際基準(ISO30414)の内容について解説します。「人的資源管理について、何をどんなふうにまとめたら良いのか分からない」という疑問解決の一助となれば幸いです。

    人的資源管理とは

    そもそも人的資源管理とは、人を経営資源の一つとみなし、活用する制度を設計・運用することです。英語のHuman resource management(ヒューマンリソースマネジメント)を日本語に訳した言葉で、頭文字をとってHRMなどと略されます。

    人的資源管理の目的は、組織の目標を達成するためであり、経営戦略と連動できている必要があります。人的資源管理が企業の持続的な成長に必要であるという考え方は、国際的に広がっています。2018年には、人的資源管理の国際ガイドラインとしてISO30414が公表されました。

    人的資源と特徴

    人的資源とは、4つの経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報のうち、最も重要な資源です。理由は、モノ、カネ、情報のすべてが、ヒトの存在がなければ活用できない資源だからです。

    人的資源の特徴の一つとして、喜怒哀楽や思考の主体性が挙げられます。言い換えると、従業員には感情があり、それぞれ意思を持って行動する自律を求めるということです。管理者の一方的な指示だけでは、従業員には不満が溜まり、怒りや悲しみの感情を抱きます。これは、他3つの資源にはない大きな特徴です。

    人的資源管理が重要視される背景

    人的資源管理が重要視される背景には、変革する現代社会において、無形資産が競争力の源泉であるという認識の拡大があります。企業のデジタル化が進み、必ずしも有形資産を保有していることが、大きな成果を上げる要因ではないという考え方が浸透してきました。

    さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大による、不可抗力的な働き方変革の波に煽られ、人的資源管理は一層重要視されるようになっています。

    実際に、アメリカでは、2020年に米国証券取引委員会により、上場企業の人的資源管理の開示が義務化されました。日本企業においては、2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂をきっかけに、人的資源を重要視する風潮が拡大しています。

    ESG投資の拡大

    人事労務の現場で人的資源化管理が重要視されるもう一つの理由は、国際的な「ESG投資」が拡大です。

    ESG投資とは、“従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。”(引用: 経済産業省「ESG投資」

    具体的には、国連持続可能な開発目標(SDGs)への取組み内容・姿勢などが、企業の収益性を測る評価指針として注目されており、ESG投資の判断材料となっています。

    経済産業省のデータによると、国際的なESG市場は、2016年では22.8兆ドルであったのに対し、2018年時点では30.7兆ドルまで拡大。日本では、同期間において0.5兆ドルから2.2兆ドルへと増加しており、今後も世界的に拡大傾向にある見方が一般的です。

    そのため、上場企業が資金調達をするためには、SDGsの取組みと関係が深い人的資本管理は軽視できない問題となっています。

    【2021年】コーポレートガバナンス・コードの改訂内容

    日本における人的資源管理の公開に、拍車をかける要因となったコーポレートガバナンス・コード。具体的な改定内容のうち、人的資源管理と関わりのあるものは以下3つです。

    1. 取締役会の機能発揮
    2. 企業の中核人材における多様性確保
    3. サステナビリティを巡る課題への取組み

    以下で、それぞれについて簡単に説明します。

    取締役会の機能発揮

    「取締役会の機能発揮」の項目では、プライム市場上場企業(2022年に新設予定)には、独立社外取締役を3分の1以上選任するよう追記されました。上場企業においては、取締役が有する能力や経験を表明するように書かれています。取締役の能力開示には、スキルマトリックスと呼ばれる表などを用いると効果的です。

    企業の中核人材における多様性確保

    「企業の中核人材における多様性確保」の項目では、女性や外国人、中途採用者の管理職登用への見解や、測定可能な自主目標設定を開示するよう追記されました。また、多様性を確保するための人材育成方法や、社内環境の整備方針についても、実施状況を公表しなければなりません。

    サステナビリティを巡る課題への取組み

    「サステナビリティについての基本的な方針と取組み」の開示を求めています。特に、プライム市場上場企業では、環境と経済の好循環を目指した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などの国際的枠組みに基づく開示をする必要があります。
    (参考:
    日本取引所グループ「改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」

    ISO30414の人的資源管理の指針

    人的資源管理についての報告書をまとめるにあたり、指標となるのが国際規格のISO30414です。ISO30414では、人的資源管理をレポートするためのガイドラインが、11領域に渡って定められています。企業が人的資源管理について情報開示をする場合、国際規格に則った開示を行うことで、国際レベルに合わせられます。

    ISO30414では、以下の11領域の中で、58に分かれた細かい指針が定められています。

    1. コンプライアンスと倫理
    2. 人的資源コスト
    3. 多様性
    4. リーダーシップ
    5. 組織風土
    6. 組織の健康・安全性・福祉
    7. 生産性
    8. 採用
    9. スキル・能力
    10. 後継者育成
    11. 労働力の確保

    それぞれの領域が、具体的にどのようなことを表しているのか、詳しく見ていきましょう。

    コンプライアンスと倫理

    「コンプライアンスと倫理」とは、社内で発生した苦情や懲戒処分、法的措置が必要になったトラブルなどに関する内容です。

    例えば、ハラスメントや差別についての申立て件数や、種類ごとの懲戒処分の件数などが定量データとなります。その他、コンプライアンス研修を受けた従業員の割合や、その内容なども、この領域で取り上げられています。

    人的資源コスト

    「人的資源コスト」とは、労働力や採用、離職にともなうコストなどについての内容です。

    例えば、ひとりの従業員が離職した際には、新たな人材確保のための採用・教育コストや、離職者の業務を補うための残業コストなど、さまざまなコストが発生します。IOS30414は、これらの人的資源にかかるコストを定量的に把握し、開示すべきだと規定しました。

    また、社員のみならず派遣社員やギグワーカーにかかるコストも内容に含まれます。

    多様性

    ISO30414では、大企業が対外開示するべき情報として「多様性」を強調しています。コーポレートガバナンス・コードでも、多様性に関する項目は開示義務として追記されており、人的資源管理における重要な指針です。

    具体的には、年齢や性別、障害、その他の人材の割合などを数値化して表すことが求められます。また、従業員全体とは別に、経営陣の多様性を表す構成比の開示も規定されています。

    リーダーシップ

    「リーダーシップ」とは、社内の指導に対する従業員の信頼度や、管理職一人あたりの部下数、リーダーシップの開発についての規定です。

    指導に対する信頼度は、適切な調査をすることでスコア化するなどして、定量化すると良いでしょう。また、リーダーシップの開発の項目では、研修を受けた従業員の割合などがデータとなり得ます。

    組織風土

    「組織風土」とは、従業員の主にモチベーションなどに関する指針です。従業員満足度や、エンゲージメント、コミットメントについてや、従業員の定着率が含まれます。

    リーダーシップと同様、社内で適切な調査を行い、スコア化することで定量化が可能です。従業員定着率は「X年後の定着人数÷X年前の入社人数×100%(X=任意の年数)」の計算式で算出できます。

    組織の健康・安全性・福祉

    組織の健康・安全・福祉とは、労災や従業員の健康・安全研修に関する指針です。これらは比較的、日本企業にも浸透している概念ではないでしょうか。

    労災の件数や発生率や、健康や安全に関する研修受講割合などを算出し、定量化ができます。

    生産性

    生産性とは、従業員一人当たりのEBIT(Earnings Before Interest and Taxes、和訳:利払前税引前利益)・売上・利益や、人的資本のROI(Return on Investment、和訳:投資利益率)に関する指針です。

    人的資源に関わるコスト削減や、給与形態、人的資本への投資に対するリターンなど測定し、データ化します。

    採用

    採用の領域には、15の指針があります。とくに大企業が対外開示すべきとされる指針は、採用にかかる平均日数と重要ポストが埋まるまでの時間や、重要ポストを含む内部登用率です。

    その他、採用社員の質や、将来必要となる人材の能力、離職の理由なども規定されています。適切な人材を確保し、計画性を持って人的資源を活用・育成できているかどうかなどを表す指標です。

    スキル・能力

    スキルと能力は、従業員の能力開発に関する指針です。

    研修費用や研修の参加率、従業員一人当たりの研修受講時間などを集計したものがデータになり得ます。その他、従業員のコンピテンシーを評価し、平均値を算出したコンピテンシーレートの開示も必要です。

    後継者育成

    後継者育成とは、内部継承率や後継者の継承準備度など定量的に把握しようとする指標です。後継者候補の人数や、数年後までに後継者として継承可能な人数などを表明しましょう。

    労動力の確保

    労働力の確保とは、主に雇用形態別の社内の従業員数や、その割合についての指針です。また、欠勤についても言及しています。不可抗力的な理由やストレス、体調不良などで突発的に欠勤した人数のデータが必要です。

    人的資源管理には人事戦略の改革が不可欠

    人的資源管理の情報開示のために報告書を作成する業務は重要です。しかし、人事戦略に実態が伴っていなければ意味がありません。忘れてはならないのは、人的資源管理の目的は、企業の持続的成長であることです。本来の目的を見失い、情報開示の業務が目的になっては意味がありません。

    冒頭でも述べた通り、人的資源とは、四つの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)のうち最も重要な資源だと考えられています。そして、人的資源を最適化するには、従来の日本型マネジメントを見直す人事戦略の改革が不可欠なのです。

    人的資材管理に関するおすすめ本

    人的資源管理についての理解を深めたい方のために、おすすめの書籍を3冊紹介します。本を読むことで、人的資源管理に関する知識が定着すれば、報告書作成にも活かされることでしょう。今回は、初心者でも読みやすい本を中心に厳選したので、ぜひ参考にしてみてください。

    図解 人材マネジメント 入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ

    『図解 人材マネジメント 入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ』は、人材マネジメントの入門書です。人材開発や組織開発だけでなく、採用や異動、人事評価、等級など、人事のすべての領域が体系的にまとまっています。図解を用いて分かりやすく解説されているので、簡単に人材マネジメント領域を学び直したい場合にもおすすめです。

    著者は、リクルートマネジメントソリューションズ社にて、50社以上の人事制度を構築・組織開発を支援した経験を持つ坪谷邦生氏。こちらは、同氏のイベントレポートです。

    「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?

    『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』は、人的資源管理のリアルな課題を取り上げ、原因と対策を解説している本です。従業員が抱える心理的ストレスのパターン解説や「組織内ターゲティング戦略」の方法を具体的に解説しています。

    現代の多くの企業が抱える、人材資源管理の問題を網羅的に取り上げているので、現場の人事労務担当者の必読書です。

    心理的安全性のつくりかた

    「心理的安全性のつくりかた」は、健全な衝突を生み出し、困難を乗り越えられる組織作りに必要な、心理的安全性の重要性を解説している本です。書籍で読者が選ぶビジネス書グランプリ2021において、マネジメント部門賞を受賞しています。人事戦略を立案し、形骸化させずに運用するうえで重要な考え方を理解するために役立つ一冊です。

    まとめ

    人的資源管理とは、人を経営資源の一つとみなし、経営戦略と連動させて設計・運用する必要があると述べました。人的資源管理を開示するにあたって課題となるのは、どのようにして定量化したデータを収集するかです。自社に最適な人事戦略を設計すると共に、タレントマネジメントシステムなどのHRテックツールの活用すれば、正確なデータ収集が可能になります。効率良い人事戦略の運用のために、検討してみると良いでしょう。

    HR大学 編集部

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