労務管理
給与明細とは?見方のポイントや構造、Web給与明細利点を解説
目次
給与明細とは
社会人なら必ず知っておくべき給与明細の仕組み。ここでは、給与明細の概要や給与明細に関する法律の定めを説明します。
給与明細とは?
給与明細とは、支給される給与の支給項目、控除項目、差引支給額を記した明細書で、給与支払者である勤務先から必ず渡されるものです。支給項目のすべてを合算した総支給額から、控除項目を差し引いた額が差引支給額となります。
意外と知らない!?給与に関する法律の定め
労働者保護等を目的に、給与支払いに関する法律が定められています。ここでは、給与明細交付義務や賃金支払いの原則について解説します。
給与明細もらえない?企業がすべき給与明細交付義務
所得税法や健康保険法で、交付することが義務付けられている給与明細。アルバイト先から給与明細をもらえないケースなどがあるようですが、これは違法となる可能性が高いでしょう。
所得税法では、給与支払者には、労働者に給与の支払明細書を交付する義務を定めており、給与を支払う際に給与明細を交付しなければいけません。
所得税額や健康保険料などの控除項目は、給与支給額に応じた控除額を計算するため、給与の根拠を数字として通知することを定めているといえます。
給与明細交付義務の法律の定めについては、次のe-Gov法令検索を参考してください。
(※参考) e-Gov法令検索:「所得税法231条 給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書」
(※参考) e-Gov法令検索:「健康保険法167条 保険料の源泉控除」
知っておきたい、賃金支払いの各種原則
労働者が確実に賃金を受け取ることができるように、労働基準法第24条(賃金の支払)では、賃金支払いの原則を定めています。意外と思われることも労働者保護のために定められていますので、参考にしてください。
【通貨払いの原則】
賃金支払いは、銀行振込が一般的になっています。法律上、賃金は現金で支払わなければならないとされていますが、労働者の同意を得た場合は、銀行振込み等の方法で支払いができるとされています。
【直接払いの原則】
賃金は労働者本人に直接支払う義務があります。未成年という理由で親に支払う、あるいは配偶者に支払うことは認められいません。
【全額払いの原則】
賃金は、所得税や社会保険料など法令で定められているものは除き、全額労働者に支払われなければなりません。それ以外の項目控除は、労使協定を結んでいる、あるいは裁判所による債権差押命令などは認められます。
【毎月1回以上定期払いの原則】
賃金は、労働者生活保護の観点から、「毎月25日」などのように、毎月1回以上、一定期日を定めて、労働者に支払わなければなりません。
給与明細の見方のポイントとなる3つの構造
「支給項目」「控除項目」「差引支給額」の3つの構造からなる給与明細。ここでは、3つ項目について説明します。
支給項目を知る
給与の支給項目には、基本給をはじめとして各種手当や残業などの超過手当のほか、企業独自の手当や支給項目があります。
基本給・各種手当などの固定的手当
固定的手当には、基本給や住宅手当、家族手当のほか、役職手当など就業規則に定められた手当があります。
住宅手当は世帯主であること、家族手当は扶養家族がいることなど、各種手当の条件が就業規則に定められています。
これらの手当のうち、労働と直接的な関係がある手当は、「割増賃金の基礎となる賃金」としなければなりません。ただし、個人的事情に基づいて支給される次の手当に限り、除外できるとされています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
詳しくは、次の厚生労働省のサイトを参考してください。
(※参考)厚生労働省:「割増賃金の基礎となる賃金とは?」
残業代などの超過手当
変動的な手当は、残業手当や深夜残業手当、深夜勤務手当などの超過勤務手当があります。これらの超過勤務手当は、割増賃金の基礎となる賃金に基づいて、所定の割増賃金率を乗じて計算されます。
- 時間外労働 25%以上(※)
- 休日労働 35%以上
- 深夜労働 25%以上
(※)1カ月60時間を超える時間外労働については50%以上
詳しくは、次の厚生労働省のサイトを参考してください。
(※参考)厚生労働省:「割増賃金の基礎となる賃金とは?」
その他の支給項目
作業手当や夜勤手当など、企業独自に付与している手当もあります。独自で支給している手当については、就業規則に条件などが定められています。
就業規則について詳しく知りたい方は「就業規則あなたの会社は大丈夫?テレワークやパートタイムはどうなるの?」をご確認ください。
控除項目を知る
控除項目は、社会保険料や所得税、住民税のほか、労使協定の下で企業独自で控除している項目があります。
社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)
社会保険とは、国民が生活するうえで必要な社会保障を受けるために加入する保険であり、「健康保険」「厚生年金」「雇用保険」などがあります。
これらの保険料は、給与支給額に基づき定められた料率で控除されます。また、保険料の負担は、標準報酬月額に応じた保険料額、労働者と事業主が折半など、各々定められた費用負担率によって算出されます。また、企業によっては、独自の年金制度として企業年金を導入していることもあります。
社会保険料について詳しく知りたい方は、「社会保険料控除とは?控除対象や計算、年末整をわかりやすく解説」をご参考ください。
企業年金について詳しく知りたい方は、「企業年金とは?企業年金の種類、いつまで・いくらもらえる?簡単解説」をご参考ください。
所得税
所得税は、個人の所得に応じてかかる税金です。支給項目から通勤手当などの非課税項目を差し引いた課税所得に対して、扶養人数や所得に応じた所得税率を乗じ、所得税額を算出します。
所得税額 = (課税所得 × 所得税率) - 税額控除額
企業は、毎月支給する給与から所得税を源泉徴収し、翌月10日までに、所轄の税務署に納付します。
そのうえ、12月の給与支給時に年末調整によって、年間の課税所得に所得税率を乗じて各種所得控除することで税額を計算します。
この年末調整時における所得税額と月々徴収した所得税額との過不足額について、年末調整として12月の給与支給時に還付、または徴収するのです。
詳しくは、次の国税庁のサイトを参考してください。
(※参考)国税庁:「源泉所得税」
住民税
住民税は、都道府県に納付する「都道府県民税」と市区町村に納付する「市町村民税」の2つで構成されています。
都道府県民税・市町村民税のそれぞれは、さらに、前年の個人所得に応じて課税される「所得割」、一定額を課税する「均等割」に分かれます。
住民税は、その年の1月1日現在に居住している都道府県、市区町村に収める必要があり、6月から翌年5月までの1年間、分割して徴収します。
なお、勤務先企業で徴収することを「特別徴収」、納税者本人が納税通知書により納税することを「普通徴収」といいます。
財形、持株会など企業特有の控除項目
財形や持株会拠出、社宅使用料などの控除は、所得税や社会保険料などのように法律で認められている控除項目ではありません。
労使間で賃金労使協定を締結することにより、これらの控除を行うことができます。勤務先企業においては、福利厚生として新たに財形や社宅、持株会を導入するときは、必ず賃金労使協定を締結してください。
差引支給額を知る
支給項目の合計である総支給額から、控除項目の合計額を差し引きます。この差し引いた手取り額が差引支給額であり、労働者に支給される対象額となります。
なお、労働基準法では通貨で支給することになっていますが、労働者同意の下、銀行振込で支給することが一般的です。
給与明細は保管すべき!?
毎月、勤務先から交付される給与明細。使うこともなく捨てていることもあるのではないでしょうか。ここでは、給与明細の保管すべき理由や保管期間、保管方法について解説します。
保管すべき理由
給与明細を保管すべき理由として、「失業給付」「確定申告」のほか、銀行にお金を借り入れるときなどに給与明細か必要になります。そのほか、万が一、賃金未払いなどがあった場合にも給与明細が必須です。
また、年金の支払期間に空白がないように、勤務先が厚生年金を支払っているか確認することも重要です。
勤務先企業としては、労働者の傷病手当金申請や賃金未払い請求、税務調査の対応に給与明細の保管が必要となります。
どのくらい保管すべき?
給与明細の保管期間は、基本的には5年が目安となります。
賃金請求権の時効が5年となっているほか、確定申告をする場合、5年間の給与明細が必要になることが理由にあげられます。
なお、賃金請求権の消滅時効期間は、従来2年間でしたが、2020年4月の労働基準法改正により、労働基準法第115条(時効)によって、5年間に伸長されています。ただし、経過措置として当面の間は3年間となっています。
勤務先企業としては、賃金請求権の時効のほか、税務調査の間隔が3年に1回、場合によっては5年まで遡ることもあることから、同様に保管期間は5年が目安となります。
保管方法は?
給与明細を年毎にファイリングすることで、保存期間を過ぎた給与明細を破棄するなどの管理もしやすくお勧めです。データで残す場合は、写しを提出することがあることから、スキャンして残すことが望ましいといえます。
押さえておきたい、Web給与明細の利点
テレワークの進展を背景に、給与明細の印刷、振り分け、発送処理などの事務手続きをWebで行うことができるWeb給与明細が注目されています。ここでは、Web給与明細のメリットや導入事例を紹介します。
Web給与明細とは?
Web給与明細とは、給与明細をメールやWeb経由で配布し、PCやスマホで閲覧できるようにするシステムです。従前は、現場作業員にはPCが貸与されないなどのデバイス問題から広くは浸透しなかったものの、テレワークの進展やDXの取り組みを背景に検討する企業が増えています。
Web給与明細のメリット
Web給与明細を導入することによって、勤務先企業としては「給与明細の印刷」「各拠点への仕分け作業」「発送手続き」などの合理化を図ることができます。また、Web化することで給与明細の保管をデータで管理できるほか、テレワーク対応も可能となります。
労働者としては、「PCやスマホで手軽に給与明細を確認できる」「自身での保管作業が不要」などのメリットがあります。
ただし、所得税法上、給与明細をWebで交付することに従業員が承諾すれば明細の電子化は可能ですが、書面での交付請求があれば応じなければならないとされています。対象人数が多い場合、初回ログイン時に、同意を取り付けるようなシステムがお勧めです。
Web給与明細の導入事例
Web給与明細の導入で、配布作業などの業務効率化や給与明細の紛失リスクや誤配の防止などの効果を上げている企業が多くありますが、ここでは導入事例を紹介します。
事例:オリジン東秀株式会社
オリジン東秀株式会社では、従来は人事部門にて紙で印刷・封入し、それを全拠点に配布し、さらにマネージャーからスタッフへ配布していました。このコストを大幅に圧縮することができましたが、とくに、配布先人数が多いことから大きなコスト削減を実現しています。
労働者がすぐに確認できることに加え、マネジャーからスタッフに渡す手間もなくなったほか、Web給与明細は紛失リスクや遅配がなく、社内も高い評価を受けています。
参考にしたい、給与明細テンプレート3選
給与明細は、企業毎に支給項目や控除項目に違いがありますが、テンプレートを見ることなどにより、一般的な給与明細を知ることで新たな気づきがあることもあります。
ここでは、給与明細の各種テンプレートを紹介します。
Excelで使える給与明細テンプレート
株式会社エクシア
株式会社エクシアが運営するオンラインメディア「bizroute」では、「部門別テンプレート」メニューから各部門で使えるテンプレートをダウンロードすることができます。経理カテゴリーの「給与明細」で、Excelで使える給与明細のテンプレートを公開しています。
無料でダウンロードできる給与明細のテンプレート
スマートキャンプ株式会社
スマートキャンプ株式会社が運営する「BOXIL SaaS」では、ビジネステンプレートを公開しており、「給与明細のテンプレート」のページで、さまざまな色を用いた給与明細のテンプレートを公開しています。計算式が組み込まれたテンプレートもありますので、参考にしてください。
無料給与明細作成ツール
弥生株式会社
弥生株式会社が運営する「給与明細.net」では、ブラウザの画面上で支給項目、控除項目などの給与明細に必要な項目を入力することで、給与明細をPDFファイルとしてダウンロードすることができます。
【まとめ】構造をしっかり理解し、適切に給与明細を管理しましょう
本記事では、給与明細の意外と知らない法律の定めや構造のほか、テレワークを背景に更なる注目を浴びているWeb給与明細について説明しました。
給与明細は、労働者本人の給与支給額のほか、将来受け取る年金の基礎となる情報や年金額の支払い実績、各種税金や社会保険料の支払い内容が記載された重要な情報が盛り込まれています。
労働者にとっては、自身を守るためにも給与明細の見方を知っておくことが必要であり、勤務先企業にとっては、所得税法や健康保険法の義務に基づく重要な責務となります。
給与明細の「支給項目」「控除項目」「差引支給額」の構造をしっかり理解するとともに、法令上の定めなどの根拠に基づく保管期間を理解し、適切に給与明細を管理しましょう。
HRBrainは人事評価と目標管理を確かな成長につなげる人事評価クラウドです。
HRBrainは、従業員の目標設定から評価までのオペレーションの全てをクラウド上のソフトウエアで効率化するサービスです。MBOやOKR、1on1などの最新のマネジメント手法をカンタン・シンプルに運用することができます。
「そろそろ人事制度を整備したいが大変だし、誰に相談したらいいか分からない・・」
「もっと目標意識を高めて、メンバーに自発的に成長をして欲しい・・」
「管理作業に時間・工数が掛かりすぎる。無駄な業務に時間を割きたくない・・」
このような悩みをHRBrainで解決できます!
無料トライアル実施中!ぜひお試しください!
労務管理
HR大学 編集部
HR大学は、タレントマネジメントシステム・従業員エクスペリエンスクラウドを提供するHRBrainが運営する、人事評価や目標管理などの情報をお伝えするメディアです。難しく感じられがちな人事を「やさしく学べる」メディアを目指します。
