労務管理
生産性とは何を意味するのか。生産性向上のポイントや方法とは
目次
働き方改革によって、生産性の向上は全ての企業において急務です。生産性という言葉について、厳密に理解が及んでいる人はどれほどいるでしょうか。生産性向上のためには、まず生産性という言葉の定義について、しっかり確認しておきましょう。
生産性とは
働き方改革の影響もあり、長時間労働や非正規雇用待遇の改善が求められる中、企業にとって生産性の改善は取り組むべき重要課題の一つです。
まずは生産性とは何かを知っておきましょう。
生産諸要素の有効利用の度合い
ヨーロッパ生産性本部(EPA)によると、生産性とは「生産要素の有効利用の度合い」と定義されています。
物を作るという行為には、材料や設備、携わるスタッフなどの投資・投入が必要です。それによって生み出された産出物が、投入したコストに比べてどのくらい増えているかを示す割合が生産性です。
生産性は、「産出(output)÷投入(input)」の式で表すことができます。
生産性の主な種類
生産性には、労働者の視点から見た『労働生産性』と資本の視点から見た『資本生産性』があります。
『資本生産性』は、設備投資などの固定資産への投資の割合を見る数値です。
『労働生産性』は、労働者が生み出す売上や製品。ビジネスシーンで生産性と言う場合は、こちらの労働生産性を指すことが多いです。
生産性を測定する方法
また、労働生産性には『物的生産性』と『付加価値生産性』の2種類があります。
物的生産性は、数字として計測できるものを産出の対象とした生産性です。自動車工場で作った自動車の生産台数や販売金額、接客人数などが該当します。
物的生産性は「生産量÷労働量(労働者数×労働時間)」という計算式で表されます。
付加価値生産性とは、企業が新たに生み出した付加価値を対象とした生産性です。
付加価値は、売上高から原材料費や外注費用などの外部の費用を除いた値のことです。例えば、1本100円の原材料費・外注費用で作った商品を200円で売った場合、差額の100円が付加価値です。
この付加価値の割合を示す値が付加価値生産性であり、「 付加価値金額÷労働量(労働者数×労働時間)」という式で求めることができます。付加価値は、粗利益と考えるとわかりやすいでしょう。
日本の現状と生産性向上の必要性
働き方改革が政府から打ち出されたのは、日本の生産性の低さが問題視されたのが一因です。また、悲しい話ではありますが、日本は将来的にさらに生産性が落ちてしまう可能性が高いと言われています。
今の日本の現状から生産性向上がなぜ必要なのか、その理由を見ていきましょう。
日本の生産性の現状
日本の生産性の低さは、国際的にも問題視されています。2018年における日本人1人あたりのGDP(国内総生産)は世界26位。これは主要7カ国でも下位であり、同じアジア圏内のマカオや香港などに水を開けられているのが現状です。
日本の生産性が低い理由の一つは「求められているサービスの質が高すぎる」ということです。
日本の接客や従業員のサービスの質が高いのは世界的にも有名ですが、それは「お金にもならないことに労力を割きすぎている」とも言い換えることができます。
「サービスの質が高い」といえば聞こえは良いですが、「生産性の低い非効率な作業を削減することをしない企業が多い」と言い換えると大問題ですね。
生産性が低い理由の一つとしては、「労働時間が長すぎること」もあるでしょう。労働時間が長すぎるほど、生産性は低下していきます。
先進国として、日本は生産性の面で大きな遅れをとっているのです。
労働人口減少への対応
日本は現在、少子高齢化社会を迎えています。内閣府によると、2048年には日本の人口は1億人を割ると予測されています。
当たり前ですが、人口が減ると労働人口も減少します。2065年当たりには労働人口は4000万人弱となり、現時点より40%以上減少すると予想されています。そのため日本の生産力は今後、さらに下降すると言われています。
労働力減少への対策としてもっとも有効なのは、生産性をあげることです。労働人口が減っても、1人あたりの生産性が向上することで、ある程度の補填は見込めるでしょう。
労働人口への対応という観点からも、生産性の向上は必須です。
生産性の向上とは
労働人口減少の余波は、企業経営にも現れます。新たな雇用が減ると、事業の縮小や外部発注の機会が増え、社内の経営基盤を維持できなくなってしまう可能性があります。
それを防ぐためには、社員数が減っても現状の生産性を維持できるように、生産性を向上させることが必要です。
生産性を向上させるためには具体的に何をすればいいのでしょうか。まずは基礎的な部分から確認していきましょう。
生産性向上と業務効率化
生産性向上と似た『業務効率化』という言葉があります。しかし、この二つの言葉は似て非なるもの。明確な違いがあるのです。
業務効率化は、日々の業務の中で無駄と思われる部分を省き、余分な時間や費用を省くこと。つまり『コストの節約』です。
生産性向上は、経営資源を有効活用して大きな成果を生み出すためのものです。
例を挙げると、100円の投資を150円、200円へと成果をあげていくのが生産性向上であり、100円の投資そのものを80円に抑えるのが業務効率化です。
生産性の高い組織が行っていること
1000社以上のコンサルティング実績を持つコンサルタントによれば、生産性の高い組織には共通点があったそうです。
それは、「時間を大きなまとまりにする」ということです。例えば、書類を作成するのに集中的に3時間与えるのと、6日間に分けて30分ずつやらせるのでは、あがってくる書類の質がまるで違う物になるでしょう。
予定にない会議を頻繁に行ったり、メールで済むことをわざわざ会議や電話で行わせるといった行動は、生産性を低下させる恐れがあります。
生産性の高い組織では、達成可能な目標の設定や、仕事を面白いと思ってもらえるようなケアを末端社員にまで施していくなど、マネジメントについても細かく行っているという傾向が見られたそうです。
具体的な施策の方向性
生産性向上の施策には、次の四つのパターンがあるといいます。
一つは「投入資源を減らすこと」。無駄な作業工程や材料のロスを省き、生産をそのまま維持することができれば生産性が上がります。
二つ目は「成果を増やすこと」。投資についてはそのまま、付加価値や物的生産を高めることを指します。商品の値上げなどがこれに該当します。
三つ目は「規模の縮小」。採算の取れていない部門や店舗の売却、人員削減などです。投資を減らしつつ、それに伴う生産の減少を極力抑えることで、生産性を上げます。
最後の四つ目は「規模の拡大」。投資と生産の両方を拡大していく施策で、新たな部門の開設や採用人員の増加、新設備への投資がこれにあたります。
この四つの施策のうち、どの方向性からアプローチするのかを決めていくことがまず重要です。
生産性が落ちる理由
生産性を落とす要因と言われている中でも代表的なものを三つ紹介します。あなたの会社では、労働環境下で次のようなことが常態化していませんか?
長時間の労働
かつて日本は、長時間労働とそれに伴う過労死の多さについて、 国連の社会規約委員会から指摘を受けたことがあります。それほどに、日本の長時間労働は大きな問題となっているのです。
長時間労働は生産性を著しく低下させます。
長時間労働を続けるとストレスや疲労が蓄積し、集中力や判断能力が低下します。従業員の作業の進みが遅くなるばかりか、ミスや事故につながることもあるでしょう。
さらに、従業員が遅くまで建物を使えば施設の光熱代もかさみます。また、時間外労働は割増賃金が発生します。
複数のタスク
脳は構造上、二つ以上の物事を並列処理することが苦手だと言われています。一見すると同時処理しているように見えても、めまぐるしくスイッチを切り替えているだけなのです。負荷をかけ続ければいずれ限界が来ます。
別の案件の資料を見ながら、無関係な取引先と電話でやりとりをしたり、その裏で上司に返信するメールを作成していたり、従業員のマルチタスクが常態化していないでしょうか?
組織としては、このようなマルチタスクを可能な限り減らす仕組みが重要です。管理職やチームリーダーが、現在、部下が何をしているのかの作業を把握できるツールの導入や、連絡手段を統一するなど、マルチタスクにならない環境作りも重要です。
個人とチーム生産性のアンバランス
チームで仕事を行う場合、メンバーの能力によって作業速度に差が出てくることはよくあります。生産性を低下させるよくあるミスとしては「作業の早い人に、遅い人ができない分の仕事をやらせて、終了時間を同じにすること」です。
チーム全体の作業スピードを高めるという点では効率的に見える手法です。しかし、「仕事ができない人の方が負担が少なく、できる人の負担が増える」という状態になってしまうのは、ただ生産量の帳尻を合わせているだけで、健全な状態とは言えません。
まして業務の負担に応じた給与ももらえず、役職も同じだと、仕事が早い人は会社に対する不満が募り、モチベーションが低下してしまいます。
チームの生産性をあげる理想の考え方は「作業速度の速い人に合わせること」です。平均にならすのではなく、ボトムアップの方向性で対策を考えましょう。
生産性を上げるポイント
生産性が落ちる理由を確認したら、次は生産性を上げるためのポイントを確認しましょう。経営者として舵を切るために押さえておくべき項目です。
現状把握と明確な指示
まずは、自社の生産性がどの程度のものかを把握するところからはじめましょう。さしあたって、物的生産性と付加価値生産性の2種類を明らかにします。
付加価値生産性は付加価値を時価で計算する『名目労働生産性』と固定価格で付加価値を計算する『実質労働生産性』に分けて計算します。まずは『実質労働生産性』に重点を置いて考えてみると良いでしょう。
同時に、現状の問題点の洗い出しも行います。その2点からどうすれば生産性が上げられるのか、具体的な数値も設定しましょう。目標達成の時期や期間、部署や会社全体でやるべきことを明確化し、指示・指導を行います。
現状把握のないまま生産性を上げようとすると、抽象的な指示や現実に即さない数値を目標にしてしまう可能性があります。現状を把握することで目標を具体的にし、指示を明確化していきましょう。
ITツールの活用
「投入資源を減らすこと」も重視しましょう。データの集計や分析などは、ITツールを利用すれば自動で行えることです。人の手で行うことが人的資源と人件費の無駄遣いとなってしまうものは、積極的に自動化するべきでしょう。
AIの発達によって、タスク管理やコミュニケーションツールなど、業務をサポートするためのクラウドサービスが多く市場には出回っています。そういったツールの活用も生産性向上に貢献するでしょう。
情報の可視化を行う
会社の規模が大きくなるほど、社員1人1人が会社の実態を把握することが難しくなります。自社がどのような取り組みをしているのか、自分の今している仕事がどんな位置付けにあるかを知らないまま取り組んでいる社員がいるかもしれません。
そのような状況下では、積極性や学ぶ意欲の向上は見込めません。日々の作業に必要な情報だけでなく、会社が何を目指しているのか、そのために何をすべきかなどの情報共有を行うことが、結果としてモチベーションを高め、生産性の向上に繋がります。
コア事業とノンコア事業の設定
『時間管理のマトリクス』という手法があります。これは、タスクに対し『重要性』と『緊急性』を属性付けて管理することです。
タスクを『重要で緊急性の高いもの』『重要ではないが緊急性の高いもの』『重要だが緊急性の低いもの』『重要ではなく、緊急性の低いもの』の4つに区分し、個人レベルで行うように指導すると共に、経営レベルでも取り入れていきましょう。
本来リソースを注ぐべきコア事業と、ノンコア事業を設定することで優先順位が明確化すると共に余分な作業を削ることができます。将来を見越した先行投資を行うのも、いずれ生産性の向上に繋がる結果が得られるかもしれません。
適切な人材配置が鍵
得意分野やチームメンバーとの関係によって、同じ業務であってもパフォーマンスはまったく変わってくるでしょう。生産性向上のためには、それらを踏まえた上での適切な人材配置も必要です。
適切な人材配置には従業員一人一人の性質を把握することが重要です。アンケートや面談によって上司がヒアリングする機会を定期的に設けましょう。
一人一人の持つスキルや個性に注目して人材を活用することを『タレントマネジメント』といいます。適材適所のマネジメントに加え、目標設定やキャリアアップのサポートなども、生産性を上げるためには欠かせません。
生産性向上のためのIT活用方法
IT的な観点からも生産性を上げていきましょう。作業の効率化やコストを減らすことで、余ったリソースを他に注ぎ込むことができます。
ウェブ会議
国内各地や海外を含めて、ビジネスマンの活動範囲が広範囲に及ぶ場合、全員が同じ時間に集まることは困難です。直接顔を合わせた会議を設けることができない場合は、ウェブ会議を導入してみてはいかがでしょうか。
GoogleハングアウトやSkypeなど、相手と違う場所にいながらミーティングを設けるためのツールは数多くあります。
中には、1万人以上が参加できる大規模会議向けのツールもありますので、積極的に活用してみることをおすすめします。
モバイル端末導入やシステム化
ITツールはタスクの自動化や作業のサポートに役立てることができますが、モバイル化についても確認しておきたいところです。
クラウドサービスを導入して、会社のデータベースや掲示板などに、スマホなどのモバイル端末でアクセスできる環境を整える企業は近年かなり増えています。
外出先から資料の確認やデータ編集ができれば、移動中の無駄な時間を有効活用したり、取引先から別のデータ提示を求められた際、社に戻ったりメールで転送を頼んだりする必要がなくなり、効率化につながり、生産性もアップします。
モバイル端末の導入だけでも生産性が大きく向上する可能性があります。そのための環境や制度をある程度システム化することも行っておくべきでしょう。
補助金や助成金の活用
生産性向上施策を行いたいとは思っていても、そのために予算を割くことが厳しい企業もあるでしょう。そんな企業には、補助金や助成金制度を利用するという方法があります。
国の施策
生産性向上は日本にとって重要な課題であるため、国は企業の生産性向上を積極的に支援しています。要件項目を満たすことで受け取ることができる助成金は、例えば以下のものがあります。
・キャリアアップ助成金 ・業務改善助成金
・労働異動支援助成金 ・両立支援等助成金
・人材開発支援助成金
この中でも、特に生産性に直結すると言えるのが『業務改善助成金』と『人材開発支援助成金』の2つです。
業務改善助成金は、設備投資やサービス向上により、生産性の引き上げに伴い、最低賃金を引き上げた場合に助成金が出るという仕組みです。
また、人材開発支援助成金は労働生産性を向上させるための職業訓練を実施した場合に助成金が出るという仕組みになっています。
助成金を活用することで、事業拡大や人材育成の負担を軽減することができます。
地方公共団体の補助金や助成金
地方公共団体が主導で実施している助成金制度もあります。例えば、宮崎県宮崎市では、市内の中小企業が生産性や付加価値向上につなげる設備投資を行った場合、上限200万円の補助金を出す制度を設けています。
また、神奈川県川崎市や大分県でも同様の試みを行っていて、そのことは地域の発行しているパンフレットや県のホームページ等に記載されています。チェックしてみると良いでしょう。
本質を理解して生産性アップ
生産性を向上させるためには、生産性の意味と本質を理解し、企業の現状を踏まえた上での改革や施策を行うことが重要です。
過去の企業の実例などを参考に、行う施策が生産性に与える影響を予測した上で検討、実施していきましょう。
人事の生産性を高めるために
生産性が低い理由の一つとして、「労働時間が長すぎること」が挙げられます。クラウド人材管理システム「HRBrain」では、人材データを一元管理し、人事業務を最大73%効率化することができます。
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HR大学 編集部
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