労務管理
働き方改革関連法案とは。法案の概要やポイントを解説
目次
少子高齢化による労働人口の減少や長時間労働時間が長らく問題視されてきた日本の労働環境。これを改善するための『働き方改革関連法案』が2019年4月から施行されました。2020年から施行される項目もあるので、法案の概要やポイントを見直しておきましょう。
働き方改革関連法案とは
2019年4月から『働き方改革関連法案』が実施され、企業は当法案に対応することを義務づけられています。
働き方改革の目的
日本では、以前から少子高齢化による労働人口の減少が問題となっています。このままだと2065年には労働人口が4割減少し、国内の生産力が大きく下がってしまうと予測されています。また、育児や介護と両立する必要があるといった、これまでのワークスタイルと異なった働き方を希望する人も増えてきました。
厚生労働省のホームページには、働き方改革の目的についてこのように書かれています。
” 「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人一人がより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。 ”
育児や介護など、いろいろな事情で思うように働けなかった人たちがこれまで以上に労働参加することができれば、労働人口を増やすことができます。そのため、今後は一人一人が働きやすい環境をさらに整えていく必要があります。
また、かねてより問題になっている長時間労働に対応すべく、労働環境を変えるための対策として用意されたのが『働き方改革関連法案』です。
働き方改革関連法案の概要
働き方関連法案には二つの主旨があります。「労働時間の見直し」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」です。
労働時間の見直し
2013年、国連の機関である社会権規約委員会が、長時間労働による過労死問題について懸念を示し、対策を講じるよう政府に勧告しました。国際的にも日本の労働時間は見直しを求められています。
働き方改革関連法案には、労働時間の上限や有休取得の義務が定められています。
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
正社員と非正規雇用の待遇格差は、これまで何度も話題になった問題の一つです。社会保険への加入や最低賃金などに関する格差を見直すことも、働き方改革関連法案の施行によって義務づけられました。
その他にも、働き方改革関連法案には労働に関するさまざまな改革が盛り込まれています。
企業の定義と適用時期
法案の施行は、大企業と中小企業によって時期が異なります。
大企業と中小企業の定義
働き方改革関連法案では、中小企業の範囲を定め、それに当てはまらない企業を大企業としています。それぞれの定義を確認しておきましょう。
中小企業の定義
働き方改革関連法案における中小企業は、下記の①②のいずれか、または両方の条件を満たしている企業のことを言います。
①資本金の額または出資金の総額
小売業・サービス業…5000万円以下
卸売業…1億円以下
その他の業種…3億円以下
②常時使用する労働者数
小売業…50人以下
サービス業・卸売業…100人以下
それ以外…300人以下
大企業の定義
前項であげた中小企業の定義に当てはまらない企業が、働き方改革関連法案における「大企業」です。
関連法案の適用時期
働き方改革関連法案の適用時期は、項目別に細かく規定されていますが、全企業に対して同時適用の項目と、大企業と中小企業で適用時期が違う項目があります。
下記の項目は2019年4月に全企業に適用されています。
- 年次有休取得の時季指定
- 勤務間インターバルの努力義務
- 産業医の機能強化
- 高度プロフェッショナル制度の創設
- フレックスタイム制の精算期間延長
下記の項目は大企業と中小企業で適用時期が異なります。
- 時間外労働の上限規制…大企業は2019年4月、中小は2020年4月
- 同一労働同一賃金の義務化…大企業は2020年4月、中小は2021年4月
- 割増賃金の中小企業猶予措置廃止…中小は2023年4月
これらに違反すると、行政指導や罰則が科せられる可能性があります。
法案のポイント
時間外労働の上限規制の導入
働き方改革関連法案の施行前は、具体的な残業時間の上限はありませんでした。法案は労働時間の上限を明確に定めています。
週40時間を超える労働は残業とみなし、残業時間は月に45時間、年間360時間以内とし、特別な事情がない限りはこれを超えることはできません。
特別な事情がある場合は、月に平均80時間の残業が認められますが、これも年間で6カ月以内と定められています。
年次有給休暇の確実な取得
有給は労働者の権利ですが、これまでは労働者側から有給を申請しなければ休暇が取得できませんでした。少人数で回している、他の従業員が申請していないなどの理由で申請しづらくなってしまう心理的障壁もあり、日本の有給取得率は最高でも50%程度にとどまっています。
働き方改革関連法案では、10日以上の有給が付与されている労働者に、年5日の有給休暇を与えることが義務化されます。
同一労働同一賃金
同じ業務内容にもかかわらず、非正規雇用者に対して、正社員よりもはるかに低い賃金が支払われていることがあり、かねてより問題視されていました。
働き方改革関連法案では、待遇格差の解消が義務化されています。
雇用形態に関係なく、同一の仕事をしているのであれば同一の賃金の支払いを義務づけると同時に、待遇差がある場合はその内容や理由について説明することも義務化しています。
その他の改革について
上記で紹介した主要項目以外の改革内容です。
中小企業の時間外労働における割増率
限度時間を超えて働く場合は、25%以上の割増賃金を支払うことが義務づけられています。
実は以前からも、残業時間が月60時間を超える分は、25%ではなく50%の割増賃金を支払うことが義務づけられていましたが、中小企業は適用が猶予されていました。
2023年以降はこの猶予制度が廃止されます。中小企業であっても、月に60時間を超えた場合の割増賃金は、大企業と同様に50%を支払うことが義務化されるのです。
従業員の健康情報の取り扱いや管理義務
働き方改革関連法案により労働安全衛生法が改正され、厚生労働省が『労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針』というガイドラインを作成しました。この指針によって、雇用者は労働者に対して健康面を管理する義務を負うことになりました。
指針では、健康診断やストレスチェックにより、労働者の心身の安全に関する情報を収集して保管し、必要があれば使用すること、情報保管のために必要な措置を講じることなどが定められています。
高度プロフェッショナル制度
” 高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。 ”
高度プロフェッショナル制度は、『残業代ゼロ制度』『ホワイトカラー・エグゼンプション』とも呼ばれており、「残業代が一切なくなるのではないか」といったデマが増えるきっかけともなりました。
高度な専門的知識を必要とする業務に従事し、年収1075万円以上の年収を得ている労働者に対しては、残業代の支払い義務がなくなる制度です。
制度の適用には本人の同意が必要で、健康診断の実施や有給の取得義務、1年に1回、2週間以上の休暇を設けることも義務づけられます。
成果さえ出せば一日に短時間の労働で終わらせることもできるので、働く側にとっては自由に労働時間を選ぶことができるのがメリットです。一方で、長時間労働の助長などを心配する声もあがっています。
勤務間インターバル制度
終電ギリギリまで働いた後に、翌日は早朝から出社というような事態を防ぐために、前の勤務から次の勤務まで一定のインターバルを設けようというのが、『勤務間インターバル制度』です。
フレックスタイム制
フレックスタイムは、従業員側で始業・就業時間を設定できる制度で、子供の送り迎えや介護などの家の都合に合わせて労働時間を決められます。
これまではフレックスタイムの精算期限の上限が1ヶ月までとされていました。そのため、1ヶ月の間で労働時間を調整する必要がありましたが、働き方改革関連法案によるフレックスタイム制の改正により、精算期限の上限が3ヶ月と定められ、3ヶ月単位で労働時間を調整することが可能になりました。
企業が優先的にすべき対応
働き方改革関連法案は多くの改革を企業に求めています。その中でも優先すべきこととは何でしょうか。
労働時間の把握
2019年4月から、健康管理と過重労働防止のため、企業が労働者の労働時間を把握することが法律で正式に義務づけられました。みなし残業などで労働時間の把握が難しかった労働者についても、正確に把握することが必要です。
時間外労働の削減
大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適用の項目です。割り増しの賃金を払おうとも、上限時間を超えた労働をさせることはできません。
単純に残業禁止を社員に命じるだけでは、生産性の低下や、会社に内密で残業しようとする従業員を生み出す可能性があります。人員増加や従業員のスキルアップなどの対応が必要でしょう。
すでに配送業では当日配送の廃止、配達時間の変更や送料の値上げなどの改革が進んでいます。
高度プロフェッショナル制度への対応
高度プロフェッショナル制度は、労働時間の裁量が従業員に委ねられます。
制度について理解が少ないと、従業員間で異なる働き方について不満や軋轢が生まれる可能性があります。高度プロフェッショナルに対する理解を徹底することが必要です。
高度プロフェッショナル制度の導入を希望する場合は、どの事業のどのグレードの社員を対象にするかなど、社内のルール化も必要です。
働き方改革関連法案と罰則
労働時間の上限や有休取得は義務化されており、違反すれば罰則が科されます。
時間外労働の上限規制に違反した場合
働き方改革関連法案において上限が設けられた労働時間を超えた場合は、『6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金』が科せられます。
残業代を支払っていたとしても、規定時間を超えると立派な違反。罰則が科せられるので注意が必要です。
運輸会社や百貨店、家電メーカーなどが書類送検された例もあります。
年次有給休暇の取得義務に違反した場合
有給取得義務のある労働者に年5日の有給を取得させないと、30万円以下の罰金が科せられます。
罰金は労働者の人数ごとにカウントされます。例えば100人の違反者があれば、企業に対して3000万円以下の罰金が科せられます。
意図的でなくても、違反と見なされることがあるので、有給が発生する社員のリストアップと、有給取得状況を確認できるシステムを構築しておきましょう。
罰則のない条項でも注意
『同一労働同一賃金』や『高度プロフェッショナル制度』には、特に罰則はありません。
しかし、対応する姿勢がなければ労働者から訴えられたり、労災発生時に対応義務を怠ったとして補償責任が発生したりする可能性があります。企業としてしっかり対応しておきましょう。
働き方改革を進める上で活用できる助成金
特定の改革を行った企業に対して、政府は助成金を出しています。積極的に利用するとよいでしょう。
時間外労働等改善助成金
時間外労働の上限設定に取り組んだ中小企業に対して助成金が支払われます。
労働時間削減だけではなく、インターバルの導入や職場意識改善など、取り組みによって条件が細分化しているため、具体的な改革の方向性を決めて取り組むことが必要です。
金額は1企業につき最大200万円と決まっています。実施期間は2020年2月まで。
業務改善助成金
事業内の最低賃金を引き上げるためにかかった設備投資の費用を一部負担する助成金制度です。助成金額は、地域と賃金を引き上げた人数によって変わります。
賃金引上計画の提出と、実際に支払った実績が必要です。
キャリアアップ助成金
有期契約労働者や短時間労働者などの非正規雇用労働者を正社員に登用するなど、待遇改善を行った際に利用できる助成金です。
待遇改善の内容は、健康診断の実施や賃金価格の改定、短時間労働者の労働時間延長などがあり、企業規模と対象人数によって助成金の額は大きく異なります。
支給要件が細かく設定されている上に、キャリアアップ計画書を含めた細かい書類提出が必要になります。
法案の理解が重要
働き方改革関連法案では、労働時間や有休取得についてさまざまな義務が定められており、守られていないと罰則が科せられることもあります。法案をしっかり理解しておくことが大切です。
働き方改革をきっかけに、社内の労働環境を改めて見直し、改善していきましょう。
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HR大学 編集部
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