#人材育成
2023/05/30

インストラクショナルデザインとは?効果的研修に必須キーワード

目次

    最近、社内で「DX推進」「ペーパーレス化」「電子申請」などの言葉を耳にしませんか?
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    人事のDXは社員教育にも広がってきています。LMS(ラーニングマネジメントシステム)や動画配信などのITが新たな人材育成の在り方を後押ししているのです。社員教育のDXにより、教育研修部門には、より効果的な社員教育設計の必要性が求められています。そこで今回は研修設計の基本であるインストラクショナルデザインについて解説します。

    インストラクショナルデザインとは?

    インストラクショナルデザインとは?

    効果的な研修を設計するにはどうすればよいのか。多くの人材育成担当者の共通の悩みではないでしょうか。まずはインストラクショナルデザインの概念について学んでみましょう。

    インストラクショナルデザイン(ID)は、日本語では教育設計を意味し、教育活動の効果・効率・魅力を高める手法のことです。

    教育設計学とは

    教育設計学はもともと、学校教育の中で「教育活動の効果・効率・魅力を高める手法」として研究されてきた分野です。単なる経験則や人生訓ではなく、科学的に効果的な教え方を追求していく考え方と定義されます。
    ただし教師的な立場から教える方法に限らず、目的を持って何かを学習することを促進するもの全般に適用する考え方です。近年は企業の中でもよりよい学びを得るための手法として普及し始めています。

    システム的アプローチとは?

    企業におけるインストラクショナルデザインの中心的な考え方が、「システム的アプローチ」です。システム的アプローチとは、目標や目的を定めて、あらかじめ評価方法を決めてから実施方法を検討する手法です。また、実施だけではなく、実施をしながら段階的に改善していく取り組みも含まれています。わかりやすいモデルでは計画、実行、評価、改善を表したPDCAサイクルが有名です。インストラクショナルデザインはこうした計画と実行、改善に対して体系的に取り組んでいくシステム的アプローチが基本的考え方です。

    インストラクショナルデザインで実現できること

    インストラクショナルデザインで実現できること

    近年、重要性が高まってきているインストラクショナルデザイン。具体的にはどのようなことが実現できるのでしょうか。

    ・効果的な研修設計が可能になる
    インストラクショナルデザインは学習内容の設計ではなく、学習の目的をもとに学習方法から効果測定まで学習の仕組みを設計する手法です。そのため、目的に対して効果的な教育手法を設計できます。研修設計においても、効果的な研修を設計できるだけではなく、時には研修ではない別の効果的な方法を選択することができるようになります。

    ・研修の効果測定が可能になる
    インストラクショナルデザインでは、教育効果を測定するための基本的なモデルがいくつか研究されています。後ほど紹介する、そのモデルを使用して研修設計を行うだけで、ある程度効果的な研修を実施できます。また、効果測定の方法もインストラクショナルデザインの考え方の中で示されているため、従来は難しかった研修の効果測定を考えることができるようになるのです。

    ・教育訓練コストを削減できる
    インストラクショナルデザインの考え方で社員教育を設計すると、本当に効果的な施策が何か吟味することができます。従来、日本企業では社員教育といえば集合研修が中心でした。何か必要な知識が発生するたびに研修を行ってきました。しかしインストラクショナルデザインの考え方では、必ずしも教育手法として研修が最適ではない場合もあり得るため、無駄な研修を削減することができます。その結果、教育訓練コストを下げることも可能になるでしょう。

    TOTE/ADDIE/ARCSモデルの使い方

    インストラクショナルデザインのモデルの使い方

    インストラクショナルデザインには代表的なモデルがあります。それぞれのモデルと使い方をご紹介します。

    受講者を選別するTOTEモデル

    インストラクショナルデザインのTOTEモデル

    TOTEモデルとは、ある特定のゴールに向かう時、そのゴールに到達したかをテストする考え方です。テスト(TEST)、操作(Operation)、テスト(TEST)、出口(Exit)の4つの頭文字からTOTEモデルになりました。

    TOTEモデルの考え方を適用すると、例えば研修ではまず事前テストを行って受講対象者を選別します。テストで特定の基準をクリアしていれば研修は受講せずに卒業となり、基準に達していなければ研修で能力開発を行います。そして研修後に再び事後テストを行い、基準に達していれば合格、そうでなければ補講を行って再度能力開発を実施するのです。
    これまでの日本企業では受講者に一律で研修を行うことが主流でしたが、TOTEモデルを導入すれば、事前にテストを行って受講者のレベルを把握したうえでレベルに応じた研修を実施できるようになります。

    効果的な研修を設計するARCSモデル

    インストラクショナルデザインのARCSモデル

    研修効果を高めるための基本的なモデルがARCSモデルです。ARCSは、Attention(関心)、Relevant(関連性)、Confidence(自信)、Satisfaction(満足)の4つの頭文字から生まれました。

    学習への動機づけを高めるために、動機づけに関する心理学の理論を結集して研究されたモデルです。ARCSモデルを活用すれば、研修の魅力を高めて「もっと学びたい」という意欲を引き出せます。

    例えば実際の研修で関心を高めるために面白い話題で受講者の注意を引き、研修と関連性のある分野を紹介し、受講者を褒めて自信を持たせ、少し難しい課題を与えて満足度を高めるのです。ARCSモデルを使えば、受講者の自ら学びたいと意欲を高め、効果的な研修を設計できます。また、ARCSモデルはLMS(ラーニングマネジメントシステム)の設計にも活用されています。

    最も代表的な手法:ADDIEモデル

    研修設計の基本モデルとして最も代表的なものにADDIEモデルがあります。もともと効果的な学校教育を設計するために生まれたインストラクショナルデザインが企業でも活用されるうちにADDIEモデルが生まれました。

    ADDIEモデル

    ADDIEは、分析(Analysis)・設計(Design)・開発(Development)・実施(Implementation)・評価(Evaluation)の頭文字です。
    企業において教育研修は何かを解決する手段です。ADDIEモデルを使用することで効果的な問題解決手段としての教育研修を設計できます。まずは課題を分析して、その課題に合う手法の設計と開発を行って実行し、最後に評価を行うのがADDIEモデルです。ADDIEモデルを活用すれば、本当に効果が出る研修の設計が可能になります。

    ラピッドプロトタイピングとeラーニング

    近年、ITの進展によりeラーニングが当たり前の時代になってきました。eラーニングはインターネット上で学ぶ方法です。動画を視聴するだけではなく、テストや受講者同士の交流により受講内容への理解を深めることができます。

    eラーニングに最適なインストラクショナルデザインのモデルがラピッドプロトタイピングです。もともとラピッドプロトタイピングはソフトウェア設計で使われてきた概念です。まず初期段階で学習ニーズの分析を行い、ニーズに合致するeラーニングのプロトタイプを最短で作成します。

    その後、プロトタイプに対して受講者や管理者からフィードバックを受けながら、最終版を作成していくのです。ラピッドプロトタイピングを用いてeラーニングを設計すれば、学習コンテンツをより効果的な内容へバージョンアップできます。

    eラーニングについてさらに詳しい知りたい方は「【自社でできる!】eラーニングによる最新人材開発手法とコンテンツ制作までを徹底解説」をお読みください。

    学ぶのにオススメの書籍本と活用事例を紹介

    インストラクショナルデザインの活用事例

    あなたが人事担当者であれば、より効果的で受講者からの満足度が高い学習手法を取り入れたいと一度は考えたことがあるのではないでしょうか。そこでインストラクショナルデザインを学ぶ方法と、実際の活用事例、ツールについてご紹介します。

    インストラクショナルデザインを学ぶためにおすすめの本

    まずはインストラクショナルデザインを独学で学べるおすすめの本をご紹介します。

    ・研修設計マニュアル(鈴木克明 著)
    インストラクショナルデザイン研究者の日本における第一人者である熊本大学の鈴木克明教授による著書です。インストラクショナルデザインの概念から実際の研修設計方法まで具体的かつ体系的にまとめられています。教育研修担当者や人材開発コンサルタントであれば必ず1冊は持っておきたい本です。詳細はAmazonにてご確認ください。

    ・ビジネス インストラクショナルデザイン (森田 晃子 著)
    初めてインストラクショナルデザインを学ぶなら森田晃子氏による「ビジネスインストラクショナルデザイン」がおすすめです。企業におけるインストラクショナルデザインの考え方をわかりやすい図解で紹介しています。この本に沿って研修設計を行えば、簡単にインストラクショナルデザインの考え方を適用した研修を開発できます。専門知識ではなく基本的なことだけで充分という方は、こちらの本を読むとよいでしょう。詳細はAmazonにてご確認ください。

    インストラクショナルデザインの活用事例

    日本ではまだまだ企業での活用事例は少ないですが、代表的な事例を2つ紹介します。

    ・ベーリンガーインゲルハイム
    ドイツ系製薬会社であるベーリンガーインゲルハイム社は、日本でも歴史ある会社です。働きやすい環境ランキングでは外資系の中で常に上位にランクインしています。ベーリンガーインゲルハイム社では2000年代初頭からADDIEモデルを研修部門に取り入れ、担当者が職場の問題のヒアリングを行い、分析をもとに最適な研修を設計しています。従来は現場の問題をヒアリングせず研修を行っていたところをADDIEモデルを取り入れて改善したことで、より効果的な研修を実施できるようになりました。

    ・日本ユニシス
    eラーニングにおけるインストラクショナルデザインの先駆けである日本ユニシス株式会社では、かなり早い段階から「研修」ではなく「自学自習」に取り組んできました。2002年頃から社員が自ら学ぶための「自習室」を用意し、PCを100台以上も並べてeラーニングコンテンツを充実させてきました。コンテンツにはTOTEモデルやARCSモデルの考え方を取り入れ、受講者のレベルに応じた学習内容を提供しています。研修一辺倒の社員教育ではなく、社員が自ら学びたくなるeラーニングを設計して学習の機会を提供することで効果的な社員教育を実施しています。

    インストラクショナルデザインの歴史

    インストラクショナルデザインは、近年、学校教育だけではなく、企業などでも取り入れられています。インストラクショナルデザインはどのように発達してきたのでしょうか。

    ・キャロルの学校学習時間モデル

    インストラクショナルデザインの発展に大きく影響を与えたのが1963年に発表されたキャロルの「学校学習の時間モデル」であるとされています。それまで学校教育では児童によって能力差があるのは先天的要因が大きいと考えられてきました。
    参考:「研修設計マニュアル」鈴木克明著、北大路書房

    しかし、キャロルは学習時間に注目し、人によって必要な学習時間が異なることを提唱したのです。そして学習に必要な時間に対して学習した量から「学習率」という考え方を発表しました。この考え方により、「その人に必要な学習量」を達成すれば、次の学習段階へと進む完全習得学習という指導方式が広まっていったのです。何かを学ぶために必要な学習量と学習時間という考え方は、現在でも語学学習や資格試験の学習に活用されています。

    ・IT時代の教育効果促進

    その後、インストラクショナルデザインに大きな影響を再び及ぼしたのが2000年代のIT革命です。ITを活用した教育効果アップや研修のコスト削減への注目が集まり、教育効果を測定する手法への関心が高まりました。そこで脚光を浴び始めたのがドナルド・カークパトリックが1954年に提唱した「カークパトリックの4段階評価モデル」です。IT時代の教育効果測定へのニーズの高まりからこのモデルの活用が企業で広まり、インストラクショナルデザインは企業の中で少しずつ定着していきました。

    カークパトリックモデルについて詳しい知りたい方は「カークパトリックの4段階評価法とは?研修のROI効果測定方法までを徹底解説」をお読みください。
    (※参考):日本におけるインストラクショナルデザイン研究の動向

    なぜいまインストラクショナルデザインが注目されるのか?

    2000年代に注目されたインストラクショナルデザインはなぜまたいま再び注目されているのでしょうか。

    ・テレワークの普及による教育研修のオンライン化
    2019年に発生した新型コロナウィルスの影響により、2020年以降から急速にテレワークが普及しました。テレワークの普及に伴い、従来対面で実施してきた研修もオンラインで実施することになりました。それにより1日かけて実施する集合研修よりも、短時間で効果を上げるオンライン研修のニーズが高まりました。こうした背景をもとにインストラクショナルデザインが注目されています。

    ・長期的な企業価値向上への取り組み
    世界的なSDGsやESGへの取り組みの盛り上がりにより、企業における人材活用を定量的に表現する必要性が高まってきています。定量的に研修教育効果を測るためには、評価方法を含めた研修設計が必要になります。そのため、研修の実施から効果測定までを一貫して設計可能なインストラクショナルデザインの考え方が求められているのです。
    人事部門のSDGsやESGの取り組みについて詳しい知りたい方は「【人事向け】SDGsとESGって何するの?読んでスッキリ具体的な取り組み方法を紹介」をお読みください。

    実現のためのタレントマネジメントシステムとLMSとの関係性

    インストラクショナルデザインのチェック項目

    近年はインストラクショナルデザインに基づいた人材育成を簡単に実現できるツールが登場しています。

    LMS(ラーニングマネジメントシステム)

    LMS(ラーニングマネジメントシステム)は、従来のeラーニングシステムとは異なり、受講者に合ったコンテンツを提供するプラットフォームです。TOTEモデルに基づいて受講者におすすめコンテンツをレコメンドする機能や、ARCSモデルに基づいて受講者に関連性の高いコンテンツを学ばせる仕組みが搭載されています。受講者同士の交流も促進できるため、LMSを使用すれば交流を通じて学習への動機づけを高めこともできるでしょう。
    LMSについて詳しい知りたい方は「【基礎編】LMSとは?eラーニング研修の効果的な活用方法を解説」をお読みください。

    タレントマネジメントシステム

    ADDIEモデルの実践に不可欠なのがデータ収集と分析です。タレントマネジメントシステムは社員データの収集と分析が簡単にできるツールです。高度なタレントマネジメントシステムであれば自動的にグラフ化やドリルダウン分析ができるので、課題の抽出に使えます。また、アンケートツールを使用すれば教育コンテンツに対する受講後の評価を得ることもできます。

    タレントマネジメントシステムについてさらに詳しく知りたい方は「人材を可視化するには?タレントマネジメントシステムとスキルマップを紹介」をお読みください。

    インストラクショナルデザインのチェック項目

    インストラクショナルデザインのチェック項目

    今回の記事を読んでインストラクショナルデザインを活用して研修効果を測定したいという方もいらっしゃるでしょう。そこで最後に研修効果を測定するためのためのチェック項目をご紹介します。

    バランスト・スコアカードの活用

    バランスト・スコアカード(BSC)は経営手法のひとつですが、研修効果を測定するためにも使用できます。

    バランスト・スコアカードでは、財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の4つの視点から研修効果を検証します。まず財務の視点は、実際に研修によって売上高や利益率などの収益が向上したかをチェックする項目です。

    研修は、すぐに売上にはつながらないかもしれません。しかし企業の研修は何らかの成果をもたらすために実施される問題解決手段であるべきです。そのため財務の視点からも研修効果を測ることはとても重要と言えるでしょう。

    また、顧客の視点からは顧客満足度や顧客定着率をチェックします。次に業務プロセスの視点では、業務が効率化できたかを検証します。最後に学習と成長の視点は従業員満足度やエンゲージメント指標など、人がきちんと育っているかをチェックする項目です。このように、バランスト・スコアカードの考え方から研修効果をチェックすれば、収益の視点からも効果を測定できるのです。

    研修設計シートの活用

    一定の効果的な研修を同品質で提供するには研修設計シートの活用がおすすめです。設計に必要な項目をあらかじめ整理しておきチェックリスト化して全ての研修設計時に適用すれば、一律の品質で設計ができます。

    【研修設計シートの項目例】
    ①課題:ADDIEモデルに基づいて、データから分析した課題を書き出します
    ②目的:課題に対してどうあるべきか、目標や目的を書きます
    ③成果物:研修を通じて受講者や人事担当者、会社が得られる成果物を記します
    ④実施内容:課題の解決に最適な手段として実施内容を書き出します
    ⑤BSC視点のゴール

    最後にBSCの4つの視点から研修のゴールを設定します。
    ぜひ自社に合う研修設計シートを作成して研修の標準化を進めていきましょう。

    現代にはインストラクショナルデザインが必要不可欠

    キャリアが多様化する現代では、企業が一律の研修を提供する仕組みは時代にそぐわなくなってきています。一人一人の能力に合わせて学習内容を提供するインストラクショナルデザインの考え方が必要不可欠です。また会社が「教える」のではなく、社員が自ら「学ぶ」ことが重要です。特に、変化の激しい現代社会では、会社よりも現場で日々学んでいる社員の方が情報や技術に詳しい可能性があります。インストラクショナルデザインに基づいて社員が自ら学ぶようになれば、よりタイムリーに社員と会社の成長を実現できるようになるでしょう。

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    HR大学編集部
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