人材管理
2023/09/12
ISO30414とは?49項目の人事情報開示規則と導入企業を解説
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「ISO 30414」とは人的資本に関する、11領域49項目に渡る人事と組織の情報開示ガイドラインです。
アメリカでは2020年に、上場企業の人的資本の開示が義務化され、注目を浴びています。日本でも人的資本の情報開示の義務化が進められています。
今回は、人的資本の情報開示ガイドラインである、「ISO 30414」の内容と導入による効果や導入例を解説します。
ISO 30414とは

「ISO 30414」とは、ISOが制定するマネジメントシステム規格で、「社内外に対する人的資本の情報開示の国際的なガイドライン」です。
2018年12月に制定され、「11領域49項目」にわたって、人的資本の情報開示規格を制定しています。
「ISO 30414」に則って人的資本の情報開示を行うことで、世界のどの国の企業であっても同じように人的資本の状況を把握することが可能になります。
ISOとは
そもそも、「ISO 30414」のISOとは、どのようなものでしょうか。
ISOとは、International Organization for Standardizationの略で、日本語で「国際標準化機構」を意味します。
ISOは国際的に通用する規格を制定する活動を行っており、ISOが制定した規格を「ISO規格」と呼びます。
ISO規格には、大きく分けて2種類の規格があります。
- 製品を対象にするモノ規格
- 組織の活動を対象にするマネジメントシステム規格
「ISO 30414」は、「組織の活動を対象にするマネジメントシステム規格」に該当します。
人的資本とは
「ISO 30414」で開示が求められている「人的資本(Human Capital)」とは、人が持つ知識・能力・技術などを、金銭と同様に資本とみなす概念のことです。
経済産業省においては、人材を資本として捉え、その価値を最大限引き出し、中長期的な企業価値向上につなげようとする人的資本経営に注目しており、近年その重要性が高まっています。
(参考)経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
▼「人的資本」に関してさらに詳しく
人的資本とは?注目される背景と開示効果、高める方法をわかりやすく解説
ISO 30414が注目される背景
ISO30414が注目され始めた、3つの背景について確認してみましょう。
ESG投資やSDGsの広がり
近年、環境問題や人権問題、持続的な成長という点に関心が集まっています。
そういった、ESGやSDGsへの関心の高まりから、企業がどのように自社の人材を育成・活用し、社会に貢献していくのか、という点が重要になり、「ISO 30414」への注目が高まっています。
ESG投資やSDGsについて、詳しく知りたい方は「【人事向け】SDGsとESGって何するの?読んでスッキリ具体的な取り組み方法を紹介」をご確認ください。
コーポレートガバナンス・コードの改訂
2018年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂されました。
その内容の一部に「事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべき」と記載され、「人材投資」つまり「人的資本の活用」について指摘されました。
このように人的資本の重要性の高まりから、「ISO 30414」が注目されています。
(参考)株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」
人的資本の重要性の高まり
経済産業省が2020年9月に発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(人材版伊藤レポート)」において、「持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である」と記載され、「人材戦略」つまり「人的資本の活用戦略の重要性」が指摘されました。
このように人的資本の重要性の高まりから、「ISO 30414」が注目されています。
(参考)経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」
ISO 30414の導入で期待される効果
人的資本の情報開示についての、国際的なガイドラインである「ISO 30414」を導入することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。
ここでは、「ISO 30414」を導入することで期待される3つの効果について解説します。
戦略人事の実行
「ISO 30414」を導入することで期待される効果の1つ目は、「戦略人事の実行」です。
戦略人事とは、企業の経営戦略を着実に遂行するために、戦略的に人事を行うべきであるという考え方です。
「ISO 30414」は、情報開示において、人的資本の状況を定量化することを求めています。この定量化こそが、「戦略人事の実行」につながります。
なぜなら人的資本の状況を定量的に把握することで、お金のように人的資本をコントロールし実効性の高い戦略を立案することが可能になるからです。
戦略人事について詳しく知りたい方は「戦略人事とは?人事戦略との違いや経営戦略を実現するための役割について解説」をご確認ください。
ステークホルダーへの透明性の高い情報提供
「ISO 30414」を導入することで期待される効果の2つ目は、「ステークホルダーへの透明性の高い情報提供」です。
「ISO 30414」に則った情報開示を行うことで、投資家をはじめとするステークホルダーが、企業の人的資本の状況を「定性」と「定量」の両面から把握することが可能になります。
それによって、ステークホルダーからこれまで以上に適正な評価を受けることができ、企業価値の向上につなげることが可能です。
HRテクノロジーの健全な推進
「ISO 30414」を導入することで期待される効果の3つ目は、「HRテクノロジーの健全な推進」です。
人事分野においてもテクノロジーの導入が進み、HRテクノロジーと呼ばれる技術が発達しています。
HRテクノロジーを活用することで、「従業員満足度の向上」や「生産性の向上」を望める一方、正しく使わなければ個人情報の漏洩リスクやプライバシー問題を引き起こす可能性もあります。
そういった危険性もある中で、「ISO 30414」に則った情報開示を行うことは、従業員の情報の活用方法の把握につながり、不正利用の抑止にもなります。
そのため、「ISO 30414」に基づく情報開示は、HRテクノロジーの健全な推進のためには欠かせない事項となるでしょう。
HRテクノロジーについて詳しく知りたい方は「HRテック(HR Tech)とは?人事がいま知っておくべき知識と導入方法」をご確認ください。
ISO 30414の11領域49項目とは
「ISO 30414」では「11領域49項目」において、人的資本の情報開示を求めています。
この「人的資本報告(HCR)」の目的は、労働力の持続可能性をサポートするために、組織への人的資本の貢献を検討し、コンプライアンスやダイバーシティについて、透明化することです。
ここでは、「ISO 30414の11領域49項目の一覧」について確認してみましょう。
(参考)ISO「ISO 30414:2018」
1.コンプライアンスと倫理
企業の「コンプライアンスと倫理」に関する領域で、以下の5項目が含まれます。
- 違法行為の数とタイプ
- 結審の数とタイプ
- コンプライアンスと倫理に関する研修を受講した従業員の比率
- 外部との争い
- 外部との争いから来る外部監査による発見とアクションの数とタイプとソース
2.コスト
人件費や採用費など「人事にまつわるコスト」に関する領域で、以下の7項目が含まれます。
- 総人件費
- 外部人件費
- 平均給与と報酬の比率
- 雇用に関する総費用
- 1人当たり採用費
- 社内外からの採用・異動費
- 離職費
3.ダイバーシティ(多様性)
「人材の多様性(ダイバーシティ)」に関する領域で、以下の2項目が含まれます。
- 労働力のダイバーシティ(年齢・性別・障害の有無など)
- リーダー層のダイバーシティ
4.リーダーシップ
CEOや社長をはじめとする「企業のリーダーシップを取る人材」に関する領域で、以下の3項目が含まれます。
- リーダーシップに対する信用
- 管理する従業員数
- リーダーシップの開発
5.組織文化
従業員のエンゲージメントや満足度などの「組織文化」に関する領域で、以下の2項目が含まれます。
- エンゲージメント、満足度、コミットメント
- リテンション比率
6.組織の健康・安全・福祉
従業員の健康・安全・福祉といった「健康経営」に関する領域で、以下の4項目が含まれます。
- けが等のアクシデントによって失った時間
- 業務上アクシデント数
- 業務上死亡者数
- 研修に参加した従業員の比率
7.生産性
売上高や収益、従業員一人当たりの生み出した利益などの「生産性」に関わる領域で、以下の2項目が含まれます。
- EBIT、収益、売上高、1人当たり利益
- 人的資本ROI
8.採用・異動・離職
従業員の「採用・異動・離職」に関する領域で、以下の14項目が含まれます。
- 空きポジションに適した候補者の数
- 入社前の期待に対する入社後のパフォーマンス
- ポジションを埋めるまでの平均期間
- 移行と将来の労働力の能力の評価
- 社内人材で埋められるポジションの比率
- 社内人材で埋められる重要なビジネスポジションの比率
- 重要なビジネスポジションの比率
- 重要な全ビジネスポジションに対する空きポジションの比率
- 社内異動比率
- 従業員層の厚さ
- 離職率
- 自主退職
- 重要な自主退職比率
- 退職理由
9.スキルと能力
従業員の有する「スキルと能力や能力開発」に関する領域で、以下の3項目が含まれます。
- 人材開発の費用
- 学習、開発
- 労働力のコンピテンシー比率
10.後継者育成計画
CEO等の経営陣や重要なポジションの「後継者育成計画」に関する領域で、以下の3項目が含まれます。
- 後継の効率
- 後継者のカバー率
- 後継者の準備率
11.労働力確保
企業が「どのくらいの労働力を確保できているか」ということに関する領域で、以下の4項目が含まれます。
- 従業員数
- 常勤従業員数
- 外部労働力
- 休職
▼「健康経営」についてさらに詳しく
健康経営とは?目的やメリット「健康経営優良法人」について解説
▼「コンピテンシー」についてさらに詳しく
コンピテンシーとは?活用メリットやデメリット、導入の流れを解説
ISO 30414導入のために人事部門がすべきこと
人的資本開示と人的資本に関するガイドラインである「ISO 30414」の意義や、企業と人事に求められる役割や、「ISO 30414」への人事部門がすべき対応や、人材データの活用方法について解説します。
人的資本経営と「 ISO 30414 」に人事はこれからどう向き合うべきか

日本で初めて「ISO 30414リードコンサルタント/アセッサー認証」を取得された慶應義塾大学大学院特任教授 岩本隆氏に、「ISO 30414」の意義や、企業と人事に求められる役割などについてお話を伺いました。
この資料で分かること
- 人的資本開示の重要性
- 「ISO 30414」が企業や組織にもたらすメリット
- 今後のデータ活用やタレントマネジメントの取り組み方
人的資本経営を成功に導く人事部門のKPIとは 〜ISO 30414への対応とHRテクノロジーの活用〜

一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム代表理事の香川憲昭氏に、「人的資本経営を成功に導く人事部門のKPI」をテーマとして、「ISO 30414」への対応やHRテクノロジーの活用についてお話を伺いました。
この資料で分かること
- 人的資本の情報開示はなぜ必要か
- 人的資本経営を成功に導く人事部門のKPI
- 人材データ活用までの4つのステップ
ISO 30414の導入企業例と日本の状況
「ISO 30414」の企業の導入状況はどうなっているのでしょうか?
ここでは、日本の「ISO 30414」の導入状況にあわせて、日本よりも早く「ISO 30414」の導入が進んでいる世界の状況も紹介します。
ISO 30414の世界での導入状況
2018年12月に制定された「ISO 30414」は、その後どのように導入が進んでいるのでしょうか。
アメリカでは、2020年8月に米国証券取引委員会が非財務情報の開示に関する要求事項を改訂し、上場企業に対して人的資本情報の開示を義務化しています。
また、ドイツでは人事領域に関するレポートを出して投資家に説明する企業も増えています。
「ISO 30414」導入事例:ドイツ銀行
ドイツ銀行はHRレポートとして「Human Resources Report 2021」を発表しています。
これは、「ISO 30414」に準拠していると認められており、2020年にドイツ銀行が発表した「Human Resources Report 2020」に続き、2年連続でドイツ株価指数DAX40を構成する企業で初めて、人材関連のKPIを提供しました。レポートは全10章で構成されており、「ISO 30414」で制定された開示項目に則って作成されています。筆者訳となりますが、章立ては以下の通りです。
- 従業員の管理による人員の最適化と付加価値の向上 Optimized workforce Adding value by managing our workforce
- 人材労働力の拡充 Enriching our workforce
- リーダー育成 Developing our leaders
- ダイバーシティとインクルージョンを通してより強い銀行へ A stronger bank through diversity and inclusion
- 働き方の未来像の再構築 Reimagining the Future of Work
- モチベーションが高く魅力的な職場環境づくり Creating a motivating and engaging working environment
- パフォーマンスに対する報酬 Rewarding performance
- 従業員の育成 Developing our employees
- 従業員ウェルビーイングの充実 Ensuring our employees' wellbeing
- 危機管理体制の強化 Strengthening consequence management
(参考)Deutsche Bank「Human Resources Report 2021」
日本でのISO 30414の導入状況
日本では、企業において「ISO 30414」の導入が進んでいないのが現状ではありますが、「ISO 30414」の日本語訳版が発刊されるなど、「ISO 30414」が浸透し始めています。
また、「人材版伊藤レポート」やコーポレートガバナンス・コードなどで人的資本の重要性がより高まっており、「ISO 30414」への注目度も今後上昇していくものと考えられます。
これからは世界の先進的な事例を参考にしつつ、各企業において取組みを進めていくことが重要です。
▼「人的資源管理」についてさらに詳しく
人的資源管理(HRM)とは?目的や課題と企業例
▼「ウェルビーイング」についてさらに詳しく
ウェルビーイングとは?意味と定義「5つの要素」を解説
▼人的資本TIMESでさらに詳しく
人的資本経営を成功に導く人事部門のKPIとは 〜ISO 30414への対応とHRテクノロジーの活用〜
人的資本経営と「ISO 30414」に人事はこれからどう向き合うべきか
〜海外企業の実践事例から紐解く〜投資家・従業員視点の人的資本経営とは
「人材版伊藤レポート2.0」から考える人的資本経営〜これからのリスキリングと従業員エクスペリエンスとは〜
人的資本の把握をタレントマネジメントシステムでカンタンに
今回は「ISO 30414」について解説しました。人的資本の重要性が高まっている昨今、自社の人的資本の状態を定性・定量の両面から把握をすることは非常に重要です。
特に定量的に把握することは、今後HRテクノロジーを導入したり、戦略人事を行っていく上で必要不可欠になるでしょう。そこで役に立つのがタレントマネジメントシステムです。
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▼「タレントマネジメント」についてさらに詳しく
【完全版】タレントマネジメントとは?基本・実践、導入方法まで解説
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