#労務管理
2023/11/14

裁量労働制の働き方とは?専門型、企画型の違いやデメリットまで解説

目次

    働き方が見直されている中で、注目されている裁量労働制とはどういった働き方の制度なのでしょうか。ここでは、裁量労働制の基本から目的、仕組みを解説します。

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    裁量労働制とは

    裁量労働制とは

    裁量労働制とは  

    裁量労働制とは、労働者と使用者の間であらかじめ定めた時間分、働いたものとみなす「みなし労働時間制」の1つです。つまり、実際の労働時間が定められた規定の労働時間より短くても長くても、規定の労働時間分働いたことになります。始業時間や終業時間も労働者本人が決定できるため、自由度の高い働き方をすることが可能です。

    裁量労働制の目的

    裁量労働制の目的は、生産性を向上させ、より高い成果をあげることにあります。専門性の高い技術職などの特定業務では勤務時間が固定されていることで、効率が悪くなり高い成果を発揮しづらい場合があります。そこで働き方の自由度を高め、能力を存分に発揮できるような環境の実現を目指し、裁量労働制が作られました。

    裁量労働制の仕組み  

    裁量労働制は、始業時間から終業時間まで、労働時間に関する事項は労働者の裁量に任されています。

    【遅刻、残業、早退、半休の扱い】
    どのような働き方をしたとしても、定められた労働時間分働いたとみなされます。そのため、遅刻や残業、早退、半休という考え方はありません。

    【残業代の扱い】
    残業がないため、残業代は原則発生しません。しかし、特例として以下の2つに当てはまる場合は割増賃金が発生するため注意が必要です。

    • 22時以降翌朝5時までの間に労働した場合

    • 法定休日に労働した場合

    他の勤務形態との違い

    裁量労働制はいくつか似ている労働制があります。ここではフレックス制、変形労働時間制、事業外みなし労働制、高度プロフェッショナル制度との違いを解説します。

    • フレックス制との違い

    フレックス制とは、1日の出退勤時間を労働者が決められるもので、1日の労働時間は実労働時間として計算されます。裁量労働制は実労働時間は関係なく、規定の労働時間で計算されるため、ここが違いとなります。

    • 変形労働時間制との違い

    変形労働時間制とは、年間で見たときに繁忙期と閑散期がある程度決まっている場合、時期に応じて労働時間を週単位、月単位で調整する制度です。労働者に労働時間の裁量はなく、時期によって会社が決めた労働時間を働くことが違いとなります。

    • 事業場外みなし労働時間制との違い

    事業場外みなし労働時間制は、通勤する事業場の外で業務を行う場合に適用するみなし労働時間制です。裁量労働制とは、みなし労働時間制という点で同じです。違いは対象業務にあり、事業場外みなし労働時間制は、使用者の指揮監督が及ばない業務が対象となります。また、裁量労働制では発生しない時間外労働にも割増賃金が発生するという違いがあります。

    • 高度プロフェッショナル制度との違い

    高度プロフェッショナル制度とは、専門知識を要し一定以上の年収がある専門職を労働時間の規制対象外とする制度です。労働時間が労働者の裁量に委ねられている点は裁量労働制と同じです。違いは対象業務と割増賃金にあります。対象業務は裁量労働制よりも狭く、証券アナリスト、コンサルタント、公認会計士などの19業務が対象となります。また、裁量労働制では割増賃金が深夜・休日労働に対して発生するのに対して、高度プロフェッショナル制度では発生しません。

    専門型と企画型の2種類の裁量労働制と職種例

    専門型と企画型の2種類の裁量労働制と職種例

    裁量労働制には専門型と企画型の2種類があります。ここでは2種類の裁量労働制の解説と職種例を解説します。

    専門型裁量労働制とは 

    専門性の高い職種に対して適用される制度が専門型裁量労働制です。次に紹介する19業務に限って、事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定を締結することによって、導入することができます。

    専門型裁量労働制の職種例

    専門型裁量労働制は以下の19業務に限られています。

    (1)    新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
    (2)    情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
    (3)    新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
    (4)    衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
    (5)    放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
    (6)    広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
    (7)    事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
    (8)    建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
    (9)    ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
    (10)    有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
    (11)    金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
    (12)    学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
    (13)    公認会計士の業
    (14)    弁護士の業務
    (15)    建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
    (16)    不動産鑑定士の業務
    (17)    弁理士の業務
    (18)    税理士の業務
    (19)    中小企業診断士の業務

    (※引用)厚生労働省:「専門業務型裁量労働制

    企画型裁量労働制とは  

    企画型裁量労働制とは、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象とした制度です。専門型裁量労働制に比べ、導入要件は厳しくなっています。
    (※参考)厚生労働省:「企画業務型裁量労働制

    企画型裁量労働制の職種例  

    企画型裁量労働制に該当する職種として、

    • 経営企画

    • 人事

    • 財務・経理

    • 企画戦略

    などの主に本社機能や管理部門の業務が該当します。ただし、経営企画や人事に属していたとしても、企画、立案、調査及び分析を行わない業務に従事する従業員は対象はなりません。

    裁量労働制のメリット・デメリット

    裁量労働制のメリット・デメリット

    裁量労働制は働き方の自由度を高めるなどのメリットがありますが、活用方法によってはデメリットもあります。ここでは、裁量労働制のメリット・デメリットを企業側と従業員側の双方から解説します。

    企業にとってのメリット

    まずは企業にとってのメリットを2つ解説します。

    • 労務管理の負担軽減

    裁量労働制は月の労働時間を予め定めた時間分働いたとみなす制度です。そのため、基本的に労働時間管理が楽になります。また、深夜手当や休日手当を除き、残業代が発生しないため、残業代の計算が不要になります。このように裁量労働制を導入することで労務管理の負担を軽減することが可能です。

    • 従業員満足度の向上

    裁量労働制は働き方の自由度を高める制度です。そのため、上手く活用することで従業員の労働環境を改善し従業員満足度の向上につなげることができます。ただし、活用方法を誤ると裁量労働制のデメリットの側面が強く出てしまうので注意が必要です。

    企業にとってのデメリット

    続いて裁量労働制導入による企業側のデメリットを解説します。

    • 導入手続きが手間

    裁量労働制は導入方法が通常の労働制に比べ複雑で手間がかかります。特に企画型裁量労働制においては、「委員の半数が労働者である」などの要件を満たす労使委員会を設置し、委員の4/5以上の多数決によって、労働基準法第38条の4に定められた8つの事項を決議する必要があります。このように、導入するまでの手続きが複雑で手間となります。

    • 長時間労働常態化によるリスク

    裁量労働制は働き方の自由度を高めますが、長時間労働が常態化するリスクもはらんでいます。長時間労働による過労や労災などが起こる可能性もあり、運用には注意が必要です。企業によっては、残業代を出す必要のない制度であることを利用し、本来であれば適用外である職種に対して裁量労働制を適応し、みなし労働時間には収まらない業務量を課すことで人件費を抑えるという活用をしていた企業が賠償の支払いを命じられた過去事例もあります。

    従業員にとってのメリット  

    次に従業員にとってのメリットを解説します。

    • 働き方の自由度が高まる

    働き方の自由度が高まることが、従業員にとっての最大のメリットになるでしょう。時間の使い方を自分の裁量で決められるようになるため、仕事の調子が良い日は長く、悪い日は早めに切り上げる、といったことができるようになります。

    • 仕事の効率次第で実労働時間を減らせる

    裁量労働制は効率よく仕事を進め、業務を終わらせることができれば、規定の労働時間よりも実労働時間が短くなっても問題ありません。実労働時間に関係なく、みなし労働時間分の給与が払われます。そのため、仕事の効率を上げ、実労働時間を減らすことができれば時間当たりの給与を上げることも可能です。

    従業員にとってのデメリット 

    メリットの一方で、従業員にとってデメリットになる可能性も大きいのが裁量労働制です。裁量労働制の導入によって起きる可能性がある2つのデメリットを解説します。

    • 残業代が原則ない

    仕事を効率よく進めることができれば、みなし労働時間よりも短い実労働時間で同じ給与額をもらうことができますが、逆にみなし労働時間よりも長い労働時間でも給与額は基本的に変わりません。そのため、通常の労働制に比べ損をしてしまう場合もあります。

    • 制度の違法適用によるリスク

    裁量労働制は残業代が原則でないという仕組みを利用し、制度を違法に適用し人件費を抑えようとする企業があった事例が過去にあります。また、裁量労働制が適用されていても、上司の管理下にあり自分の裁量で労働時間をコントロールすることができない場合も考えられます。このように裁量労働制が適用されていても実質的に、働き方が制限されたり、長時間労働を強要されたりするリスクがあります。

    裁量労働制の導入方法と注意点

    裁量労働制の導入方法と注意点

    裁量労働制は導入にいくつかの手順を踏む必要があります。ここでは裁量労働制の導入方法と運用時の注意点を解説します。

    裁量労働制の導入方法 

    裁量労働制は専門型と企画型で導入方法が異なります。

    • 専門型裁量労働制の導入方法

    専門型裁量労働制の導入には、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と書面による労使協定を締結する必要があります。労使協定には次の事項を定めます。

    1. 制度の対象業務
    2. 対象業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
    3. 労働時間としてみなす時間
    4. 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
    5. 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
    6. 協定の有効期間(3年以内とすることが望ましい。)
    7. 上記に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

    労使協定の締結後は、所管の労働基準監督署に届け出る必要があります。

    • 企画型裁量労働制の導入方法

    企画型裁量労働制の導入には、「委員の半数が労働者である」などの要件を満たす労使委員会を設置し、委員の4/5以上の多数決によって、労働基準法第38条の4に定められた、次の8つの事項を決議する必要があります。

    1. 制度の対象業務
    2. 制度の対象労働者
    3. 対象業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
    4. 労働時間としてみなす時間
    5. 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
    6. 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
    7. 協定の有効期間(3年以内とすることが望ましい。)
    8. 上記に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

    決議後は、所定の様式に従い所管の労働基準監督署に届け出る必要があります。

    裁量労働制の導入時の注意点

    裁量労働制は活用方法を誤れば、従業員にとって不利益が多い制度になりかねません。このようなことにならないよう、導入時には

    • 本当に適用可能な業務なのか

    • 適用した場合、従業員の不利益にならないか

    をしっかりと確認しましょう。もし、違法な適用をしてしまった場合、労働争議に発展し会社が賠償を支払うなどのリスクを背負う可能性があります。また、適用自体は違法でなかったとしても従業員にとってメリットがある制度なのか考えることも重要です。従業員が気持ちよく働くことができ、高い成果を上げることができる労働環境を作る上で、裁量労働制の導入が最適なのかを見極めましょう。

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    HR大学編集部
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