#労務管理
2025/06/13

社員名簿とは?記載項目・作成のポイント・管理方法・事例を解説

入退社手続きや年末調整など、あらゆる労務業務を簡単DX

目次
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社員名簿は、社内の情報管理や連携を円滑に進めるために欠かせないものです。ただ、「どの情報をまとめればいいのか」「どう整理すれば見やすくなるのか」悩む方も多いでしょう。

この記事では、社員名簿の基本的な書き方と作成のポイントを詳しく解説し、すぐに使えるテンプレートもあわせて紹介します。

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社員名簿とは?

社員名簿とは、企業や組織が在籍する社員の情報を一覧にまとめたものです。

一般的に、氏名、部署、役職、入社日、連絡先などの基本情報が記載され、社内での連絡や人事管理、組織運営に活用されます。

紙で管理する場合もありますが、近年ではデジタルツールやクラウドサービスを利用して、リアルタイムで情報を更新・共有できる形態が増えています。

社員名簿は、法的には作成義務はないものの、労務管理や緊急時対応の観点から、多くの企業で作成・管理が行われています。

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なぜ社員名簿は重要なのか?

社員名簿は、企業が法律を守り、従業員に関する情報を正確に管理するために重要です。まず、労働基準法という法律の第107条で、企業は「労働者名簿」を作成し、適切に管理することが義務付けられています。これは企業の規模に関わらず、従業員を一人でも雇用していれば必ず対応しなければならないルールです。

もし、この義務を怠ったり、名簿の内容が不正確だったりすると、法律違反となり、最悪の場合、300,000円以下の罰金が科される可能性があります。労働基準監督署が企業の状況を確認するために行う調査(臨検)の際にも、社員名簿は必ず確認される書類のひとつです。

さらに、社員名簿は日々の業務運営をスムーズに進めるうえでも役立ちます。たとえば、従業員の氏名、所属部署、連絡先などが正確に記載されていれば、部署間の連携や緊急時の連絡が迅速に行えます。

また、人事異動や昇進の記録、社会保険の手続き、あるいは業務中の事故発生時における労災申請など、さまざまな人事労務管理の場面で、社員名簿に記載された情報が必要となります。従業員の基本的な情報を一元的に管理することで、これらの業務を効率的に、かつ正確に進めることができるのです。

法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)との関係

社員名簿は、法律上では「労働者名簿」と呼ばれています。そして、この労働者名簿は、「賃金台帳」と「出勤簿」と合わせて、「法定三帳簿」と呼ばれる、法律で作成と保存が義務付けられた重要な書類のひとつです。

3つの帳簿は、それぞれ異なる情報を記録しますが、互いに深く関連し合っており、企業が従業員の労働状況を適切に管理し、法律を守るための基礎を形作っています。

帳簿名

主な内容

法的根拠(労働基準法)

労働者名簿(社員名簿)

氏名、生年月日、住所、履歴、業務内容、雇入年月日、退職事由など

第107条

賃金台帳

氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、基本給、手当、控除額など

第108条

出勤簿(相当するもの)

出勤日、労働日数、始業・終業時刻、休憩時間など(労働時間の適正把握のため)

(直接規定なし、第108条,第109条およびガイドライン等で実質的に要求)

賃金台帳は、従業員に支払う給料の計算根拠や金額などを記録するものです。

出勤簿は、従業員の出勤・退勤時間や休憩時間などを記録し、労働時間を正確に把握するためのものです(※厳密には「出勤簿」という名称の帳簿作成義務は法律に明記されていませんが、労働時間の把握義務を果たすために実質的に必要とされます)。

労働者名簿に記載された氏名や雇入年月日、業務内容といった情報は、賃金台帳で給与を計算したり、出勤簿で勤怠状況を管理したりする際の基本情報となります。労働時間に基づいて残業代を計算し賃金台帳に記録するには、出勤簿の正確な記録が不可欠です。

労働基準監督署が調査を行う際には、これら法定三帳簿がきちんと整備されているか、そして帳簿間の情報に矛盾がないかも確認されるため、社員名簿だけでなく、3つの帳簿全体を正確に管理することが重要です。

従業員名簿の保管期間や保存方法

社員名簿は、作成するだけでなく、法律で定められた期間、適切な方法で保管し続ける義務があります。

保管期間は労働基準法第109条により、従業員が退職したり、亡くなったり、あるいは解雇された日から数えて5年間保管しなければならないと定められています。以前は3年間でしたが、法改正により原則5年間となりました。

ただし、現在(2025年4月時点)は経過措置として「当分の間は3年間」の保管でもよいとされていますが、いつ5年間の義務が完全に適用されるかわからないため、将来を見据えて5年間保管できる体制を整えておくことが望ましいでしょう。この保管義務に違反した場合も、300,000円以下の罰金が科される可能性があります。

保存方法については、法律上は紙の書類として保管しても、パソコンなどを使って電子データとして保管してもよいとされています。

紙で保管する場合は、鍵のかかるキャビネットに入れるなど、紛失や盗難、不正な閲覧を防ぐ対策が必要です。電子データで保管する場合は、紙よりも検索や更新がしやすいというメリットがありますが、いくつかの要件を満たす必要があります。

具体的には、下記の要件です。

  1. 必要なときにすぐに画面に表示でき、きれいに印刷できること
  2. 労働基準監督署の調査などで求められた際に、すぐにデータを提出できること
  3. 誤って削除されたり、不正に書き換えられたりしないように保護されていること(改ざん防止)
  4. 法律で定められた保管期間(原則5年)を通じて、データが消えずに確実に保存できること、などです

これらの要件を満たすためには、アクセスできる人を制限したり、誰がいつアクセスしたかの記録を残したりできる、セキュリティのしっかりした人事管理システムやクラウドサービスを利用することが有効な方法となります。

社員名簿には多くの個人情報が含まれるため、個人情報保護法の観点からも、安全な方法で保管することが極めて重要です。

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社員名簿が必要となる主な場面(人事管理・労務管理・行政調査)

社員名簿は、以下のような場面で必要になる帳簿です。

  • 人事管理

  • 労務管理

  • 行政調査

人事管理においては、社員の配属や異動、昇進・昇格などにあたって、基本情報を参照する際に社員名簿が使用されます。

労務管理では、社員名簿をもとに、労働時間や休暇、給与などの労務管理が行なわれます。退職時の手続きや雇用契約書の管理などにも社員名簿が必要です。

労働基準監督署による行政調査が行なわれた場合、社員名簿の提出が求められることがあります。万が一の行政調査に備えて、適切な作成と保存が欠かせません。

人事管理や労務管理については以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。

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社員名簿に記載する項目と記載すべきでない項目

社員名簿にどのような情報を載せるかは、実は非常に重要な問題です。なぜなら、記載する項目には、法律で必ず載せなければならない「必須項目」、会社が業務の都合などで任意に追加する「任意項目」、個人のプライバシー保護などの観点から原則として載せるべきではない「不記載推奨項目」という区別があるからです。

この区別を理解せずに情報を管理してしまうと、法律違反になったり、従業員のプライバシーを侵害したりするリスクがあります。

労働基準法では、適正な労務管理のために最低限必要な情報を必須項目として定めています。一方で、会社によっては、緊急時の連絡体制や福利厚生の手続きのために、任意項目として追加の情報が必要になる場合もあるでしょう。

しかし、どんな情報でも自由に集めてよいわけではありません。特に個人情報保護法やマイナンバー法では、情報の利用目的を明確にし、必要最小限の情報を適切な方法で管理することが求められています。社員名簿は多くの人の目に触れる可能性もあるため、特に慎重な扱いが必要です。

どの情報を社員名簿に含め、どの情報を含めないかを正しく判断することが、コンプライアンスを守り、従業員との信頼関係を築くうえで大切になります。この後の項目で、それぞれの区別について具体的に見ていきましょう。

社員名簿に記載すべき必須項目

社員名簿には、労働基準法という法律とその施行規則によって、必ず記載しなければならない項目が9つあります。

項目

詳細

氏名

戸籍上の正式な氏名を記載します。

生年月日

年齢確認や社会保険の手続きなどで必要です。

履歴

主に社内での異動や昇進といった職務経歴を記録します。どこまで記載するかの明確な定義はありません。

性別

法律で定められた必須項目です。

住所

従業員への連絡や通勤手当の計算などに必要な、実際に住んでいる住所を記載します。

従事する業務の種類

担当している具体的な仕事内容や役職を記載します。ただし、従業員が常時30人未満の事業場では、この項目の記載は免除されます。

雇入年月日

実際に雇用契約が始まった年月日を記載します。

退職年月日及びその事由

従業員が退職または解雇された年月日とその理由を記載します。自己都合か会社都合か、解雇の場合はその具体的な理由も必要です。

死亡年月日及びその原因

単に法律で決められているから記載するだけでなく、日々の人事労務管理を適切に行う上で基礎となる重要なデータです。

これらの項目は、従業員一人ひとりを正確に識別し、基本的な雇用情報を管理するために不可欠なものです。

もし、これらの必須項目が記載されていなかったり、内容が間違っていたりすると、法律違反となり、罰則(30万円以下の罰金)の対象となる可能性もあります。そのため、企業はこれらの項目を漏れなく、正確に記載し、常に最新の状態に保つ必要があります。

社員名簿に記載する任意項目

法律で定められた必須項目以外にも、会社が業務上の必要性から任意で社員名簿に記載を加えることができる項目があります。

任意とはいえ、どのような情報でも無制限に収集・記載してよいわけではありません。任意項目を追加する主な目的としては、より円滑な業務運営や従業員サポートの充実が挙げられます。

たとえば、緊急時に本人と連絡が取れない場合に備えて家族などの連絡先を把握しておく、社会保険の手続きをスムーズに進めるために必要な情報をあらかじめ管理しておく、従業員のスキルや資格を把握して適材適所の配置やキャリア開発に役立てるといったケースが考えられます。

任意項目としてよく挙げられる例には、以下のようなものがあります。

  • 社員番号や従業員コード

  • 役職名、所属部署名

  • 電話番号(社用、私用)、メールアドレス

  • 緊急連絡先(氏名、続柄、電話番号)

  • 顔写真

  • 家族構成、扶養家族の情報

  • 社会保険の被保険者番号など

  • 保有免許や資格

  • 学歴・職歴の詳細(「履歴」項目とは別に)

これらの任意項目を社員名簿に追加する際には、必ず個人情報保護法のルールを守る必要があります。

なぜその情報が必要なのかを明確にし、原則として情報を収集する前に従業員本人から同意を得なければなりません。

特に家族情報や顔写真など、プライバシーに関わる度合いが高い情報は、その必要性を慎重に検討し、目的外に利用されることのないよう、厳重な管理体制の下で取り扱うことが求められます。

記載すべきでない情報(マイナンバー・本籍・既往症・血液型など)

社員名簿は多くの従業員情報を集約する便利な帳簿ですが、その性質上、記載することが法律で制限されていたり、個人のプライバシー保護の観点から不適切だったりする情報もあります。これらの情報を安易に記載してしまうと、法的な問題や従業員との信頼関係の悪化につながる可能性があるため、原則として社員名簿への記載は避けるべきです。

その代表例が「個人番号(マイナンバー)」です。マイナンバーは、税金、社会保険、そして災害対策という、法律で定められた特定の目的以外で収集したり利用したりすることが厳しく禁止されています。社員名簿は人事労務管理全般で参照される可能性があるため、ここにマイナンバーを記載すると、目的外利用のリスクが非常に高くなります。マイナンバーは、必要な手続きの際にのみ利用し、専用の管理簿などで厳重に保管・管理しなければなりません。

次に注意が必要なのが、「要配慮個人情報」と呼ばれる情報です。これは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴(既往症)、犯罪の経歴、犯罪被害の事実など、不当な差別や偏見の原因となりうる可能性のある、特にデリケートな個人情報を指します。個人情報保護法では、これらの情報を取得する際には原則として本人の明確な同意が必要であり、管理も通常以上に厳格に行うことが義務付けられています。業務上どうしても必要な場合を除き、これらの情報を社員名簿に記載することは避けるべきです。

その他、本籍地や血液型といった情報も、一般的に通常の業務運営において必要となる場面はほとんどありません。これらの情報もプライバシーに関わるため、特別な理由がない限りは社員名簿に記載しない方が賢明です。社員名簿に記載する情報は、常にその必要性を吟味し、法律やプライバシーへの配慮を忘れないようにしましょう。

社員名簿の記入例

社員名簿に記載すべき項目は、労働基準法およびその施行規則によって定められています。必要事項がすべて記載されていれば、様式や書式に特別な決まりはありません。

厚生労働省が提供する「主要様式ダウンロードコーナー」からテンプレートを取得できるため、活用するとスムーズに作成できます。なお、社員名簿に必ず記載しなければならない項目は、以下の様式に記載されているとおりです。

厚生労働省|労働者名簿

(引用:厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)

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社員名簿を作成する際の6つの注意点

社員名簿を作成し、適切に管理していくうえで特に注意すべき6つのポイントを解説します。

<社員名簿を作成する際の6つの注意点>

  • 掲載する情報の範囲を明確にする

  • 個人情報保護法を遵守する

  • 本人の同意をしっかり取得する

  • 最新情報を常に保つ体制をつくる

  • 目的外利用を防ぐルールを設ける

  • 紙・デジタル問わず紛失や漏洩対策を講じる

社員名簿は企業の運営に役立つ大切な書類ですが、多くの個人情報が含まれているため、取り扱いには細心の注意を払う必要があります。

これからお伝えする注意点をしっかり理解し、日々の管理業務に活かすことで、思わぬトラブルや法的なリスクを防ぎ、従業員との信頼関係を守ることにもつながります。

掲載する情報の範囲を明確にする

社員名簿を作りはじめる前に、まず「どの情報を載せるか、どの情報は載せないか」という情報の範囲をきちんと決めることが大切です。

情報の範囲を最初に明確にしておかないと、後で「この情報は本当に必要だったのか?」「必要な情報が漏れていた」「載せてはいけない情報を載せてしまった」といった問題が起こりかねません。たとえば、労働基準法で定められた必須項目は必ず含める必要があります。一方で、緊急連絡先のような任意項目を追加する場合は、「なぜその情報が必要なのか」という理由をはっきりさせておくべきです。

マイナンバー(個人番号)のように法律で利用目的が厳しく制限されている情報や、病歴のような特にデリケートな個人情報は、原則として社員名簿には含めない、というルールを明確にすることが重要です。

個人情報保護法を遵守する

社員名簿を扱ううえで、絶対に守らなければならないのが個人情報保護法という法律です。この法律は、個人のプライバシーを守るために、企業などが個人情報をどのように扱うべきかについて、基本的なルールを定めています。

社員名簿に記載されている氏名、住所、生年月日、連絡先といった情報は、ほぼすべてがこの法律で保護されるべき個人情報にあたります。

もし、この法律を守らずに不適切な取り扱いをしてしまうと、国(個人情報保護委員会)から指導や命令を受けたり、場合によっては罰金(法人には最大1億円以下)が科されたりする可能性があります。

また、情報漏洩などを起こしてしまった場合には、従業員から損害賠償を求められたり、会社の評判や信用が大きく傷ついたりするリスクもあります。

個人情報保護法では、企業に対して、個人情報を利用する目的を明確に従業員に伝えること、情報を安全に管理するための対策(安全管理措置)を講じること、本人の同意なく情報を目的外に利用したり第三者に提供したりしないこと、従業員本人から情報の開示や訂正などを求められた際に適切に対応すること、などを義務付けています。社員名簿の管理担当者は、まずこの法律の存在と基本的な義務を理解しておくことが不可欠です。

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本人の同意をしっかり取得する

社員名簿に記載するために従業員の個人情報を集める際には、原則として、その情報を集めること、利用することについて、従業員本人から事前に「同意」を得ることが大切です。

これは個人情報保護法の基本的な考え方であり、本人の知らないところで勝手に情報が扱われることを防ぐための重要なルールです。特に、会社が任意で追加する項目や、デリケートな要配慮個人情報を収集する場合には、この同意を得る手続きが不可欠となります。

大切なのは、「何のために」「どのような情報」を利用するのかを具体的に本人に説明し、そのうえで明確な意思表示として同意をもらうことです。

たとえば、「緊急時にご家族に連絡するため、ご家族の連絡先を教えていただけますか?」といった形で目的を伝え、同意書に署名してもらう、あるいは人事システム上で同意確認のチェックを入れてもらうといった方法が考えられます

口頭での同意も有効ですが、後で「同意した覚えはない」といったトラブルにならないよう、同意を得たことが記録として残る形で行うことが望ましいでしょう。

最新情報を常に保つ体制をつくる

社員名簿は、一度作ったら終わりではありません。従業員の状況は日々変化するため、名簿に記載されている情報が常に最新で正確な状態であるように、継続的に管理していくための社内体制を整えることが重要です。

まず、法律でも、社員名簿の記載内容に変更があった場合は、「遅滞なく訂正しなければならない」と定められています。たとえば、従業員が引っ越しをして住所が変わったり、結婚して氏名が変わったりした場合、古い情報のまま放置しておくことは法律違反にあたります。

また、実務上でも、情報が古いと、重要な連絡が届かなかったり、給与計算や社会保険の手続きでミスが発生したりするなど、さまざまな問題が起こり得ます。

ポイントは、変更があった情報を速やかにキャッチし、確実に名簿に反映させる仕組みを作ることです。たとえば、「住所や氏名、家族構成などに変更があった場合は、速やかに会社に届け出てください」というルールを明確にし、従業員に周知徹底したうえで、届け出の方法をわかりやすく定めましょう。

また、部署異動や昇進など会社側で発生する変更についても、人事担当者が責任を持って速やかに名簿に反映させる業務フローを確立します。可能であれば、従業員自身がシステムを通じて情報を更新できる仕組みを導入すると、より効率的かつ迅速に情報を最新化できます。年に数回、全従業員に自分の登録情報に誤りがないか確認してもらう、といった定期的なチェックも有効な方法です。

目的外利用を防ぐルールを設ける

社員名簿に記載されている従業員の個人情報は、その情報を集める際に「何のために使うか」を明確にし、その目的の範囲内でのみ利用することが鉄則です。

これを「利用目的の特定」と「目的外利用の禁止」といい、個人情報保護法で定められた重要なルールです。このルールを守るために、会社として明確な決まりを作り、それを従業員全員が理解し、遵守することが求められます。

たとえば、業務連絡や給与計算のために収集したメールアドレスや電話番号を、本人の同意なく、自社の商品やサービスの宣伝メールを送るために使ったり、関連会社に提供してマーケティングに利用させたりすることは、典型的な目的外利用にあたる可能性があります。

また、社内であっても、自分の業務とは関係ないのに、他の従業員の給与額や人事評価、プライベートな情報などを興味本位で閲覧することも、目的外利用と見なされるべき不適切な行為です。

誰がどの情報にアクセスできるのか、システム上でしっかり設定し、そのルールを全員が守るように徹底しましょう。

紙・デジタル問わず紛失や漏洩対策を講じる

社員名簿には、従業員の大切な個人情報がたくさん詰まっています。そのため、管理している社員名簿が、万が一にも紛失したり、盗まれたり、あるいは外部に情報が漏れたりしないように、しっかりとした対策を講じることが必要です。

社員名簿を紙のファイルで管理している場合でも、Excel(エクセル)のような表計算ソフトや専用の人事管理システムなどでデジタルデータとして管理している場合でも、どちらにも共通していえます。

もし情報漏洩のような事故が起きてしまうと、従業員に多大な迷惑をかけるだけでなく、会社は法律による罰則を受けたり、損害賠償を請求されたりするほか、社会的な信用を失ってしまうという深刻な事態に陥る可能性があります。個人情報保護法でも、企業に対して、管理する個人データを安全に保つための措置を講じることを義務付けています。

具体的な対策としては、まず紙で管理している場合は、社員名簿を保管するキャビネットや部屋には必ず鍵をかけ、アクセスできる人を限定します。持ち出す際のルールも決め、不要になった書類はシュレッダーで確実に処分します。

デジタルデータで管理する場合は、ファイルやシステムにアクセスするためのパスワードを複雑にし、定期的に変更します。アクセスできる権限も、役職や業務内容に応じて必要最小限の人だけに与えましょう。

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社員名簿の管理における6つのポイント

社員名簿を作成した後、それを適切に管理していくために押さえておきたい6つの重要なポイントを解説します。

<社員名簿の管理における6つのポイント>

  • 常に情報を最新かつ正確な状態に保つこと

  • 誰が情報にアクセスできるのか、権限を明確に設定すること

  • 管理の責任者を定め、運用ルールを組織で徹底すること

  • 万が一のデータ消失に備え、バックアップ体制を整えること

  • 誰がいつ編集したのか、履歴を残す仕組みを導入すること

  • 退職者や異動者の情報を速やかに整理・更新すること

社員名簿は一度作ったら終わりではなく、日々の運用の中で適切に管理し続けることが、その価値を維持し、リスクを回避するために不可欠です。

正確な情報を常に最新に保つ

社員名簿を作った後、最も基本となる管理のポイントは、そこに記載されている情報を常に最新かつ正確な状態に保ち続けることです。従業員の方々の状況は、結婚による氏名の変更、引っ越しによる住所の変更、あるいは部署の異動など、日々変化していく可能性があります。

法律(労働基準法)では、名簿の内容に変更があったら遅滞なく、つまり速やかに訂正することが義務付けられています。

また、実務上でも、例えば緊急連絡が必要な時に古い連絡先に電話してしまったり、社会保険の手続きで間違った住所を使ってしまったりすると、業務に支障が出たり、従業員の方に迷惑をかけたりすることになります。

会社の信頼にも関わる問題です。個人情報保護法という法律でも、データの内容を正確・最新に保つよう努めることが求められています。そのためには、情報の変更があった場合に速やかに会社に報告してもらうルールを作り、従業員の皆さんに周知徹底することが大切です。

そして、報告があった情報や、会社側で発生した異動情報などを、担当者が責任を持って、速やかに社員名簿に反映させる仕組みを確実に運用していく必要があります。年に数回、従業員自身に登録情報に間違いがないか確認してもらう機会を設けるのもよい方法です。

アクセス権限を明確に設定する

社員名簿には、従業員の氏名や住所、連絡先といった個人情報が多く含まれています。中には、給与や評価に関する情報など、特に機密性の高い情報が含まれる場合もあるでしょう。

これらの大切な情報が、権限のない人の目に触れたり、不正に持ち出されたり、あるいは誤って書き換えられたりしないように、社員名簿のデータに「誰がアクセスできるのか」という権限を明確に設定し、厳しく管理することが非常に重要です。

これは、情報漏洩などのセキュリティリスクを防ぐための基本的な対策であり、個人情報保護法で企業に義務付けられている「安全管理措置」のひとつです。

たとえば、一般の従業員は自分の情報しか見られない、所属長は自分の部下の基本的な情報だけを見られる、人事担当者は全従業員の情報を編集できるけれど、給与計算担当者以外は給与情報には触れられない、といったように、役割や立場に応じてアクセスできる範囲や操作を細かく決めましょう。

人事管理システムを使っている場合は、システムに備わっている権限設定機能を利用して、ユーザーごとや役割ごとに、より詳細な権限管理を行うことができます。一度設定したら終わりではなく、従業員の異動や退職があった際には、速やかに権限を見直し、不要になった権限は削除するといった継続的な管理も大切です。

管理責任者を定めて運用ルールを徹底する

社員名簿を会社全体で適切に管理し続けるためには、「誰が責任を持って管理するのか」という管理責任者をはっきりと決め、「どのように管理していくのか」という具体的な運用ルールを作成し、それを組織全体で守っていく体制を作ることが不可欠です。

もし、誰が責任者なのか曖昧なままだったり、明確なルールが決まっていなかったりすると、日々の情報の更新が疎かになったり、セキュリティ対策が不十分になったり、いざというときの対応が遅れたりする原因になりかねません。

また、管理方法が担当者の経験や勘だけに頼ってしまうと、その人が異動や退職した際にうまく引き継ぎができず、管理の質が低下してしまうおそれもあります。しっかりとした責任体制とルールに基づいて管理することは、個人情報保護法で求められている、組織として安全を守るための仕組みを実践するための基本です。

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バックアップ体制を整え、万が一のリスクに備える

社員名簿のデータは、企業にとって非常に重要な情報資産です。しかし、どんなに注意していても、パソコンの故障、うっかりした操作ミスによるデータ削除、地震や火事といった災害、あるいは悪意のあるコンピューターウイルスによる攻撃など、予期せぬ出来事によってデータが失われてしまう可能性はゼロではありません。

もし、社員名簿のデータが全て消えてしまったら、法律で定められた義務を果たせなくなるばかりか、給与計算や各種手続きがストップするなど、会社の業務に大きな混乱が生じてしまいます。こうした最悪の事態を防ぐために、社員名簿のデータは必ず定期的にバックアップを取得し、万が一データが消えてしまっても復旧できる体制を整えておくことが、リスク管理の観点から極めて重要です。特に、Excelファイルや人事管理システムなど、デジタルデータで社員名簿を管理している場合には、バックアップは必須の対策といえます。

理想的には、毎日あるいは少なくとも毎週、自動的にバックアップが作成されるように設定しましょう。バックアップしたデータは、普段使っているパソコンやサーバーとは別の外付けハードディスクや信頼できるクラウドストレージなどに保管します。

できれば、複数の場所に保管したり、何日か前のデータも残しておいたりすると、より安心です。さらに、ただバックアップを取るだけでなく、「本当にこのバックアップからデータを元に戻せるのか?」を確認するための復旧テストを、年に数回など定期的に行っておくことも非常に大切です。クラウドサービスを利用している場合は、どのようなバックアップサービスが含まれているか、契約内容を確認しておきましょう。

編集履歴や変更ログを残せる仕組みを導入する

社員名簿のデータを管理していく中で、「誰が」「いつ」「どの情報を」「どのように変更したか(追加、修正、削除など)」という記録、いわゆる「編集履歴」や「変更ログ(操作ログ、監査ログとも呼ばれます)」を残せる仕組みを導入することは、管理の透明性を高め、データの信頼性を確保する上で非常に有効です。

なぜなら、もし後になって社員名簿の情報に間違いが見つかったり、「誰かが勝手に情報を書き換えたのではないか?」といった疑いが生じたりした場合に、この変更履歴を確認することで、いつ誰がどのような操作をしたのかを正確に追跡し、原因を突き止めやすくなるからです。

また、自分の操作が記録されているという事実があるだけでも、データを扱う担当者はより慎重に、責任感を持って作業するようになり、意図的な情報の改ざんや、安易な修正といった不正行為を未然に防ぐ効果も期待できます。

個人情報保護法においても、このような記録を残すことは、情報を安全に管理するための技術的な対策(技術的安全管理措置)の一つとして考えられています。

多くの人事管理システムや一部のグループウェアには、このような変更履歴や操作の記録を自動的に取得・保存する機能が標準で備わっています。記録される情報の詳細度(日時、操作者、操作内容、対象データなど)はシステムによって異なりますが、詳細な記録が残るほど、問題発生時の調査や原因分析に役立ちます。

Excelで管理している場合でも、共有機能を使えば変更履歴をある程度追跡できますが、システムのログ機能ほどの詳細さや確実性はありません。大切なのは、単に記録を残すだけでなく、定期的にそのログを確認し、不審な操作がないかなどをチェックする運用も合わせて行うことです。

退職者・異動者の情報は速やかに更新・整理する

社員名簿の管理においては、従業員が会社を退職した場合や、社内で部署が変わったり、役職が変わったりした場合の情報の取り扱いも重要なポイントです。これらの変更があった際には、関連する情報を速やかに社員名簿に反映させ、特に退職した従業員の情報については、法律のルールに従って適切に整理・管理する必要があります。

まず、従業員が退職した場合は、社員名簿にその「退職年月日」と「退職理由」を正確に記録しなければなりません。そして、退職した方の社員名簿データは、労働基準法で定められた期間である退職日から数えて原則5年間(当面は3年間)は保管しておく義務があります。

この保管期間を守ることは大切ですが、同時に、現在働いている従業員の情報と混ざらないように、明確に区別して管理することが推奨されます。例えば、紙のファイルなら退職者用のファイルに分けたり、システムであれば従業員のステータスを「退職」に変更して、普段の検索対象から外したりするといった方法です。

保管期間が満了した退職者のデータは、個人情報保護の観点からも、確実に削除しなければなりません。一方、従業員に部署異動や役職変更があった場合は、名簿の「履歴」欄にその事実を記録するとともに、現在の所属部署や役職の項目も速やかに最新の情報に更新することが重要です。

これにより、常に会社の最新の組織状態が社員名簿に反映され、アクセス権限の見直しなども適切に行えるようになります。

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人事管理システム導入の3つの成功事例


人事管理システムを導入し、社員名簿管理の効率化や戦略的な人材活用に成功した企業の事例を3つ紹介します。

<人事管理システム導入の3つの成功事例 >

  • 効率化と透明性を実現する 戦略的人事への挑戦と タレントマネジメントシステム導入までの道のり

  • M&Aで拡大した企業の挑戦。一元管理とペーパーレス化ではじめるタレントマネジメント

  • 紙運用からの脱却。システム化で実現する一元管理とタレントマネジメント

これらの事例から、システム導入がもたらす具体的なメリットと成功のポイントを学ぶことができます。

効率化と透明性を実現する 戦略的人事への挑戦と タレントマネジメントシステム導入までの道のり

みえなか農業協同組合_導入事例

みえなか農業協同組合では、複数法人の合併により人事データが分散し、紙ベースでの管理による業務効率の低下とデジタル化の遅れが課題となっていました。組織規模の拡大に伴い、人材配置の把握や管理業務の複雑化も進み、戦略的人事の推進に向けた環境整備が急務となっていました。

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人材データの一元管理と業務の電子化により、業務効率が大幅に向上し、戦略的な人材育成や適材適所の配置が可能となりました。さらに、人事評価プロセスの透明性と納得度の向上により、働きやすい職場環境の構築と組織力の強化を目指す体制づくりに成功しています。

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M&Aで拡大した企業の挑戦。一元管理とペーパーレス化ではじめるタレントマネジメント

アシードホールディングス株式会社_導入事例

アシードホールディングス株式会社では、M&Aによる事業拡大に伴い、グループ各社で人事制度やルールが異なっていたため、従業員の行き来や交流が進まず、グループ全体の活性化が課題となっていました。また、従業員情報が紙で個別管理されていたため、ホールディングス全体での情報把握・活用ができていない状況にありました。

タレントマネジメントシステム「HRBrain」を導入し、グループ全体の従業員情報を一元管理・ペーパーレス化を実現。さらに、目標設定や人事評価、自己申告書、異動届などの申請業務もシステム上で運用し、データ活用を推進しています。

従業員情報の一元管理とペーパーレス化が進み、必要なデータを迅速に確認できるようになったことで、現場からも利便性向上の声が多く寄せられているそうです。今後は蓄積されたデータをもとに、人材配置や組織分析、従業員の定着促進に活用していくことを目指しています。

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紙運用からの脱却。システム化で実現する一元管理とタレントマネジメント

中国電機製造株式会社_導入事例

中国電機製造株式会社では、人事情報がエクセル・ワード・紙でバラバラに管理されており、管理工数が大きいという課題を抱えていました。さらに、人事考課制度の評価基準が複雑で、「評価基準がわかりづらい」という声も現場から上がっており、適正な評価やモチベーション向上が難しい状況でした。

人事情報を一元管理するために「HRBrain」を導入し、社員名簿のデジタル化と情報集約を実施しました。加えて、HRBrainのコンサルティングサービスを活用し、新しい人事考課制度の設計と目標設定研修を実施しました。また、アンケート機能やロール設定機能を活用し、情報管理や社員コミュニケーションの効率化も図っています。

人事情報の一元管理が実現し、ハイパフォーマーや異動希望者の抽出が簡単にできるようになりました。紙での運用が不要になり、作業時間や工数が大幅に削減されたとともに、新しい人事考課制度に対して現場から「わかりやすくなった」という評価を得ることができ、評価の納得度向上にもつながりました。さらに、社員名簿の活用により、顔と名前の一致や緊急連絡先情報の即時確認など、現場運用の利便性も向上しています。

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社員名簿に関するQ&A

社員名簿に関して、人事労務担当者の方からよく寄せられる質問や疑問について、Q&A形式で分かりやすく解説します。

<社員名簿に関するQ&A>

  • 社員名簿の対象者は?

  • 法人種別による作成義務の内容の違いは?

社員名簿の対象者は?(アルバイト・パート・役員・派遣・出向)

社員名簿の対象者には、正社員だけでなく、アルバイトやパート、役員、さらには派遣社員や出向者も含まれます。

基本的に、企業に所属して働くすべての労働者の情報を網羅することが望ましいとされています。特に、労働契約を結んでいる場合や業務上の指示・管理下にある場合は、雇用形態に関わらず名簿に記載することが一般的です。

派遣社員については、派遣元で管理される情報もありますが、受け入れ先企業として最低限の情報管理が求められるケースもあります。役員についても、組織上重要なポジションであるため、適切な情報管理が必要です。

法人種別による作成義務の内容の違いは?(一般社団法人・医療法人・NPO・有限会社・合同会社等)

社員名簿の作成義務や内容は、法人種別によって異なります。

たとえば、一般社団法人やNPO法人では「社員=法人の構成員」とされ、、会員名簿として管理されます。

一方、医療法人や株式会社(有限会社、合同会社含む)では、労働基準法に基づき、雇用する従業員の名簿作成が義務付けられています。特に医療法人は、医療従事者特有の資格情報管理も求められます。

合同会社や有限会社も、社員(従業員)名簿の管理は一般的な会社と同様に必要ですが、登記事項など法人運営上の管理対象は若干異なるため、注意が必要です。

HRBrain 労務管理 資料ダウンロード

社員名簿を正しく作成・保存しよう

社員名簿は、企業や組織に在籍する従業員の情報をまとめた帳簿であり、人事管理や労務管理などさまざまな場面で活用されます。

社員名簿を作成する際は、労働基準法で定められた必須項目をベースに、任意項目を盛り込んだうえで、プライバシーに配慮することが大切です。

作成した後は、最新かつ正確な情報への更新、閲覧者の明確化などの管理を徹底し、形骸化や情報漏えいなどのリスクを避ける対策が求められます。

人材管理にも欠かせない帳簿であるため、現在の状態を確認したうえで、最新の社員帳簿への更新や管理体制の見直しを行いましょう。


株式会社HRBrain 中野 太朗
中野 太朗
  • ISO30414リードコンサルタント/アセッサー

  • ビジネス統括本部 エンタープライズセールス

新卒で大手総合人材サービス会社にて新卒採用のコンサルティング営業に従事し、スタートアップ〜ナショナルクライアントまで数百社を担当。2023年にHRBrainに入社。上場企業中心に組織診断サーベイ、タレントマネジメント等を提案。

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