#労務管理
2023/09/20

年末調整はアルバイトでも必要?必要な条件や書類について解説

目次

    年末調整は、企業が所得税を正確に納めるために必要な手続きです。
    正社員などの正規雇用の従業員は、原則全員が年末調整の対象となります。
    一方で、アルバイトの従業員には年末調整は必要なのでしょうか。
    この点については、アルバイト従業員本人も理解していない場合があります。
    また、年末調整をしなければならないにも関わらず手続きをしなかった場合、どのようなことが起こると考えられるのでしょうか。
    この記事では、

    • 年末調整の概要

    • アルバイト従業員に年末調整が必要となる条件

    • 年末調整の手続きに必要な書類の種類

    • 状況別の年末調整の対応方法

    などについて解説します。

    年末調整とは

    年末調整とは、自社の各従業員が支払うべき年間の所得税額を企業が毎年末に計算し、過不足があればその金額を調整することを指します。

    では、なぜ年末に所得税額の調整が必要なのでしょうか。

    それは、企業が従業員に給与や賞与を支払う際に、支払額に応じた金額の所得税を徴収しているためです。この所得税を徴収することを源泉徴収と呼びます。ところが、源泉徴収の金額はあくまで概算額です。

    源泉徴収額が概算になるのには、主に2つの理由があります。

    1つ目は、毎月の給与支払額が変動する場合です。所得税は毎月の給与を元に計算、徴収されます。そのため、年収から所得税額を計算すると、源泉徴収額との間に差額が出る場合があります。

    2つ目は各種の保険料の支払を行う場合です。給与からの控除以外で各種の保険料などを支払うと、源泉徴収額と実際の所得税額にずれが生じるのです。

    そこで、12月時点の家族構成や年間給与額を元に、従業員ひとりひとりの所得税額を再計算するのです。年間給与額に基づいた所得税額が源泉徴収額よりも多かった場合は、追加で所得税が課税される場合があります。逆に、実際の所得税額よりも源泉徴収額の方が多かった場合は、その差額が従業員に還付されます。

    事前に概算で徴収した所得税額の過不足を年末に一斉に調整するのが、年末調整であると言えるのです。

    アルバイトで年末調整が必要な場合とは

    このように年末調整は、所得税額を正しく納めるための調整です。

    所得税と聞くと、学生などのアルバイト従業員には関係ないように感じられる場合もあるでしょう。実際は、アルバイトの従業員であっても年末調整が必要な場合があります。

    では、アルバイトで年末調整が必要になるのはどのような場合なのでしょうか。

    所得税は、社会保険料を控除した年収が103万円を超えた場合に課されます。そのため、年収が103万円を超える場合は、アルバイトでも年末調整が必要と言えます。

    また、年収が103万円以下の場合でも、月額の給与が88,000円以上になる月がひと月でもあると、源泉徴収が行われる場合があります。

    アルバイトはシフトの日数や労働時間によって、毎月の給与額が変動する場合があるでしょう。

    「年収が103万円以下だから年末調整は関係ない」と思い込まず、毎月の給料明細を確認し、所得税が引かれていないかを確認することが重要です。

    一方、年末調整が不要な場合もあります。

    具体的には、年末になる前にそのアルバイト先を退職している、年収が2,000万円を超えている、不動産や株式などで収入を得ている場合は、年末調整が不要となります。

    アルバイト先で年末調整ができる条件とは

    前述のとおりアルバイトであっても、年収が103万円を超える場合は年末調整が必要です。しかし、年収が103万円を超えたからといって、誰でも年末調整ができるわけではありません。

    アルバイト先で年末調整ができる条件には、以下のようなものがあります。

    年末時点でアルバイトとして在籍している

    年末調整を行う条件の一つに、年末調整を行う年の12月時点でそのアルバイト先に在籍していることがあります。言い換えれば、12月の給与をそのアルバイト先から受け取っているということです。

    年末調整は、本来支払うべき所得税額と源泉徴収額との差額を調整することが目的です。本来支払うべき所得税額は、12月の給与が確定しない限り、計算できません。そのため、12月末時点でその勤め先に在籍していない場合は年収の確認ができないのです。

    そのアルバイト先で一年を通じて働いている人、もしくは年度の途中から12月末時点まで働いている人が、その勤め先で年末調整を行えるということになります。

    「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している

    年末調整を行う条件として、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を勤め先に提出していることがあります。

    「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」とは、配偶者や扶養する家族の有無を勤め先に報告するための書類です。

    所得税には、配偶者控除や扶養控除など、各種の控除があります。
    正確な所得税額を算出するためには、控除の対象となる家族がいないかを確認する必要があるのです。

    そのため、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない場合は、年末時点でそのアルバイト先に在籍していたとしても、年末調整を行うことができません。

    災害減免法の適用を受けていない

    大規模な災害によって、災害減免法が適用された場合は、年末調整の対象外となります。

    災害減免法とは、災害によって住宅や家財に一定以上の損失を受けた場合、所得税が軽減もしくは免除される制度です。災害減免法が適用されると、所得税の源泉徴収に猶予期間が設けられます。猶予期間ができると、その期間中は源泉徴収を行うことができないため、年末調整を行うこともできなくなります。

    年末調整に必要な書類とは

    年末調整を行う際は、いくつかの書類を提出する必要があります。

    以下で、各書類の内容について解説します。

    給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

    先に説明した通り、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、配偶者や扶養家族の有無を報告するための書類です。その年の最初の給与を受け取るまでに提出する必要があり、アルバイトの場合、最初の雇用手続きの際に記入・提出するのが一般的でしょう。

    学生のアルバイトでは、扶養家族がいるという人はあまりいないかもしれません。ただ、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出すると、勤労学生控除を受けられる可能性があります。

    勤労学生控除とは、アルバイトなどの収入に対して、一定の条件の下で受けられる所得控除を指します。

    勤労学生控除の金額は27万円であり、受けられる条件は以下の2点です。

    • 給与所得など、勤労による所得があること

    • 合計の所得金額が75万円以下であり、勤労による所得以外の所得が10万円以下であること

    二つ目の条件について「合計の所得金額が75万円以下」と聞くと、上限金額が低いと感じるかもしれません。

    しかし、前もって給与所得控除額として55万が差し引かれるため、実際には所得金額が130万円以下であれば良いとされています。

    また、勤労学生に該当することを証明するために、在学証明書などが必要になる場合があります。勤労学生控除は、アルバイトをしている学生にとっては大きな控除と言えます。

    年末調整を行う場合は、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を忘れず提出しましょう。

    給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書

    給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書とは、以下の3つの申告書が一つになったものです。

    • 基礎控除申告書

    「基礎控除」とは、年収が2,500万円以下であれば、合計所得金額に応じて最大で48万円の控除を受けられるものです。
    「基礎控除」という名称の通り、収入の中でも生活に必要な最低限の金額には税を課すべきではない、という考え方の下に設定された控除です。
    所得に応じて控除額が変わることから、本人の合計所得額を記入した基礎控除申告書の提出が義務付けられています。
    ただ、基礎控除申告書を提出する段階では、まだ年間の合計所得額が確定していません。
    そのため、普段の給与額などから算出した概算額を合計所得金額として記入することになります。

    • 配偶者控除等申告書

    結婚して世帯を持っている人のうち、合計所得金額が1000万円以下かつ配偶者の所得金額が133万円以下であれば、配偶者控除等申告書の提出により、配偶者控除もしくは配偶者特別控除を受けられる場合があります。
    配偶者控除等申告書には、配偶者の氏名や生年月日、マイナンバーの情報、その年の合計所得金額などを記入します。
    ただ、結婚していない学生のアルバイト従業員については、当然ながら記入不要となります。

    • 所得金額調整控除申告書

    所得金額調整控除申告書は、所得金額から一定金額を控除するための書類です。
    ただ、所得金額調整控除を受けるには、以下の要件のいずれかに該当する必要があります。

    1. 23歳未満の扶養親族がいる
    2. 本人が特別障害者に該当する
    3. 同一生計配偶者または扶養親族が特別障害者に該当する

    また、上の要件の前提として、給与収入金額が850万円以上である必要があるため、給与収入が850万円以下であれば所得金額調整控除申告書は記入不要となります。

    給与所得者の保険料控除申告書

    保険料控除申告書は、各種保険料について控除を受けるための書類です。保険料控除申告書の内容は、生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除に分かれています。

    社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除の枠については、勤務先の給与・賞与などからの天引き分以外に、支払っている金額がある人が記入します。

    また、小規模企業共済等掛金控除では、個人でiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している場合にも控除を受けることができます。

    給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書

    住居を購入するためにローンを組んだ場合、条件に合致すると控除を受けることができます。控除額は、ローンで借り入れた金額の年末時点の残高を元に決まります。

    ただ、その住宅に住み始めて1年目は確定申告をしなければなりません。その住宅に住み始めた2年目以降に、税務署から「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」が届くようになります。

    ただ、住宅ローンの借り入れを前提とした控除であるため、学生のアルバイトなどの場合はあまり対象になることはないでしょう。

    さまざまなパターンの年末調整

    アルバイト先で年末調整ができる条件には、年末時点までそのアルバイト先に在籍していることや、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していることなどがあります。

    それでは、年度の途中でアルバイト先を辞めた場合や、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していなかった場合はどうなるのでしょうか。

    以下で、さまざまなパターンの年末調整の対応方法について説明します。

    アルバイトを掛け持ちしている場合

    アルバイトをいくつか掛け持ちしている場合は、その内のどれか一つのアルバイト先で年末調整を行います。最も収入が大きいアルバイト先で行うのが一般的ですが、どの職場で年末調整を行うかについて明確な基準はありません。

    どれか一つのアルバイト先を決め、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出し、年末調整を行いましょう。

    また、年末調整を行ったアルバイト先以外での収入については、合計金額が年間で20万円を超える場合には確定申告を行う必要があります。

    確定申告の際は源泉徴収票が必要になるため、各アルバイト先から確実に受け取り、紛失しないように注意しましょう。

    株取引などの副収入がある場合

    株の売却や配当による収入も、所得税などの課税の対象になります。ただ、株取引による収入は年末調整には関係しません。

    年末調整は、あくまで給与収入に関して行う調整であるためです。
    株取引による収入については、別で確定申告を行いましょう。

    年度の途中でアルバイトを辞めた場合

    年度の途中でアルバイトを退職した場合、退職したアルバイト先で年末調整を行うことはできません。

    退職後に他の職場に就いていない場合は、退職したアルバイト先から源泉徴収票を受け取った上で確定申告を行う必要があります。

    一方、退職後に他の職場で働き始め、年末まで在籍した場合は、退職したアルバイト先の源泉徴収票を提出し、新しい職場で併せて年末調整をしてもらうことができます。

    次の職場も退職している場合は、二つの職場から源泉徴収票をそれぞれ受け取り、確定申告を行いましょう。

    給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していない場合

    会社では、従業員ひとりひとりが提出した給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の内容から、毎月差し引く所得税額、つまり源泉徴収税額を計算しています。

    そのため、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、年末調整を行う上で欠かせない書類です。

    一方、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の提出がない場合、本来なら所得税がかからない給与額であっても、一定の割合で税が課されることになってしまいます。課税によって手取り金額が減ると、その分だけ損をすることになります。

    給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、アルバイトの場合でも忘れずに必ず提出するようにしましょう。

    年末調整をしない場合どうなるのか

    年末調整の対象者であるにも関わらず、年末調整の手続きを行わなかった場合、どうなるのでしょうか。年末調整を行わないことによる最も大きな影響は、税金を多く払うことになる点です。

    年末調整の際は、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を始めとした各種書類を提出することにより、所定の控除が行われます。
    控除を行った上で、所得税を払い過ぎていることが分かれば、払い過ぎた分が本人に還付されます。

    しかし、年末調整をしなかった場合は控除が受けられないため、所得税を過払いしていた場合でも還付がありません。結果的に、所得税を多く払い過ぎてしまうことになるのです。

    年末調整を行えなかった場合でも、確定申告を行えば所得税の払い過ぎを防ぐことはできます。ただ、確定申告はアルバイト先では行ってもらえません。

    確定申告にかかる手間や時間を考えると、アルバイト先で年末調整をしてもらえるのが理想的です。

    所得税を払い過ぎて損をしないため、また確定申告によって不要な手間や時間をかけることにならないためにも、年末調整は確実に行うことが大切です。

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    まとめ

    年末調整は、働く人ひとりひとりの給与に応じ、所得税額の過不足を精算するために重要な手続きです。

    一定の金額の給与を得ている場合、アルバイト従業員であっても年末調整は必要です。
    年末調整を行わなかった場合、手取りの収入が減ってしまい、損をすることになりかねません。

    アルバイト先で年末調整を行うためには、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出するなど、必要な条件があります。

    正しい金額で所得税を納税するためにも、必要な書類は忘れずに職場に提出しましょう。

    また、仮に年末調整を行うことができなかった場合は、退職した職場から源泉徴収票を受け取った上で、確定申告を行うことが大切です。

    HR大学編集部
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