#労務管理
2023/08/30

従業員満足度調査は実名と匿名どちらが効果的?メリットとデメリット

目次

    従業員満足度とは?

    従業員満足度とは、「仕事内容や職場環境についてどれくらい満足しているか」を示す指標のことで、「Employee Satisfaction」を略してESとも呼ばれます。
    満足度を構成する要素としては、仕事内容・人間関係・職場環境・賃金体系・福利厚生などが挙げられ、これらの満足度を測ることで、改善すべき点や維持すべき点を知ることができます。
    「いかに優秀な人材を確保するか」は、少子化による労働人口の減少・働き方の多様化が進む昨今、企業にとって大きな課題となっています。
    従業員満足度の向上に努めることは、優秀な人材の確保・定着に有効な手段であると考えられており、現在、各企業ではさまざまな取り組みがなされています。

    従業員満足度はどのように構成されているのか?

    アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏が提唱した「二要因理論」によれば、従業員満足度に関わる要因は2つ存在するとされています。
    「動機付け要因」と「衛生的要因」です。
    動機付け要因には、仕事へのやりがい・成長環境・承認環境・裁量の有無などが含まれ、満足度を高める働きがあるとされています。
    一方で衛生的要因には、先述した人間関係・職場環境・賃金体系・福利厚生などが含まれます。
    満足度を高める働きは強くないものの、「満たされていないと満足度低下の原因になり得る」という性質があります。

    従業員満足度を高めるための取り組み手順としては、不満要素(衛生的要因)を取り除いたうえで、満足要素(動機付け要因)の質を高めていくと良いとされています。
    どちらか一方を満たしただけでは、本質的に満足度を向上させることはできないため注意しましょう。

    従業員満足度

    会社の実態を探る従業員満足度調査とは?

    従業員満足度を高めるためには「現時点でどれくらい満足しているのか」「どこに満足していて、どこに不満があるのか」などについて知る必要があり、その調査方法として有効とされているのが「従業員満足度調査」です。
    従業員満足度調査はアンケート形式で行われることが多く、質問項目はアンケート対象者や目的によって異なります。
    たとえば、全社的・包括的な調査を行う場合は、動機付け要因と衛生的要因を網羅した内容であることが多くなっています。
    逆に、課題抽出がある程度出来ている、特定の従業員に向けた調査を行うなどの場合は、一部の項目に特化したアンケートを作成するケースもあります。

    従業員満足度調査の実施は、現場の声に耳を傾け、実情を知る良い機会となります。
    また、洗い出された課題に対して改善に取り組むことで、従業員からの信頼度が高まるだけでなく、人材の定着率や生産性の向上、顧客満足度や企業のブランド力向上も期待できます。
    調査によって課題を分析し、的確な改善策を施すことで、多くのメリットを享受することが可能なのです。

    従業員満足度調査は匿名か実名か?どちらがおすすめ?

    従業員満足度調査は、実名で行う場合と匿名で行う場合とがあります。
    その決定については、企業の判断に委ねられますが、実名実施と匿名実施にはどのような違いがあるのでしょうか。
    ここでは実名アンケートと匿名アンケートのメリットとデメリット、またデメリットを解消するための対応策について紹介していきたいと思います。

    匿名アンケートのメリット

    匿名アンケートの場合は、実名アンケートよりも率直な意見が集まりやすいというメリットがあります。
    辛辣な回答や普段の言動とギャップのある回答をしたとしても、誰の回答か分からないことで心理的安全性が確保されるためです。
    従業員満足度調査では、人事異動・人事評価・人間関係・給与などのセンシティブな質問項目が多くあります。そのため、「本音を回答しても良いのだろうか」と従業員が心理的不安を感じるケースも少なくありません。
    これらの不安要素を取り除き、質問に対して素直な回答を得やすくなる点が、匿名アンケート最大のメリットになるでしょう。

    一方、匿名であっても、アンケートの設計によっては本音での回答を得ることが難しい場合もあります。
    たとえば、匿名アンケートの中には、所属部署や雇用形態のみ回答するパターンのものも存在します。
    この場合は、部署ごと・雇用形態ごとの問題抽出・分析が可能になるため、匿名性を確保したうえで、完全匿名のパターンよりも課題の本質に近づけるというメリットがあります。
    しかし、所属部署や雇用形態のみではなく、地域や性別、入社年次などを記入するアンケートの場合は、一定の個人の特定ができるのではないかと、心理的安全性が下がる可能性があります。
    また、会社が発信するアンケートであれば、たとえ匿名であっても回答したログを取得されるのではないかと考える人もいるでしょう。
    匿名アンケートを実施する場合には、回答した個人の特定を行うことはないことなどを従業員へ十分に周知し、心理的安全性を確保した上で進めることが大切です。

    ▽心理的安全性について詳しく知りたい方は、こちらもご確認ください。
    心理的安全性が高い組織を作るには?測定方法や対策をチェック

    匿名アンケートのデメリット

    対照的に匿名アンケートにおけるデメリットとしては、回答を集めきれない可能性がある、適当に回答される恐れがある、個別の対応が難しい、などが挙げられます。
    調査側は未回答者の把握ができないため、全社向けに回答を催促することはできても、個別に催促することはできません。
    そのため、もし回答が集まらなければ回収を諦めなければならず、母数の少ない状態で集計を行うため、分析結果も信憑性に欠けるものとなってしまいます。
    また、回答を得られても、調査側からはどれが誰の回答かを特定することができません。
    そのため、回答者が深く考えずに適当な回答をする場合が多くなってしまう可能性もあります。

    さらに、調査結果に対して個別対応ができないため、具体的なアプローチがしづらいといったデメリットもあります。
    匿名であることによって課題の深堀りが難しく、的外れな改善措置になってしまう恐れもあるのです。

    実名アンケートのメリット

    実名アンケートを実施する場合は、個別対応が可能、回答漏れが防げる、責任感のある回答が得られやすい、回答者に対する先入観を払拭できる、といったメリットがあります。
    たとえば「人間関係」に関する評価が著しく低い回答者がいた場合、具体的な内容や深刻さの度合いについて、本人に直接ヒアリングすることが可能です。
    早期解決が必要な場合や問題が深刻な場合は、誰がその回答をしたのか明確に分かる実名のアンケートは大きなメリットになるでしょう。

    また、従業員満足度調査で正確なデータを得るためには、より多くの回答を集めることが重要です。
    実名アンケートであれば、回答を提出した人・提出していない人を正確に把握することができます。
    回答を提出していない人に対して、提出を促すことができるのは、実名アンケートの大きな強みです。

    さらに、実名アンケートでは、普段何の問題もなさそうに働いている従業員の不満や悩みを洗い出すことで、調査する側の先入観を払拭することも可能です。
    「淡々と仕事をこなしてくれていたけど、実は業務量の偏りに不満を感じていた」「周りとの生産性の差に不満を感じていた」など、意外な人が意外な不満や悩みを抱えているケースは多くあります。
    不満に気付かずそのままにしていると、突然離職してしまう可能性もあるため、思い込みを払拭してフラットな視点で改善に取り組める点はメリットになるでしょう。

    実名アンケートのデメリット

    それでは逆に、実名アンケートのデメリットについて紹介していきます。
    実名アンケートの場合は、回答内容の漏洩リスクがある、漏洩を懸念した回答者が本音で回答しない可能性がある、それによって正確なデータがとれない可能性がある、などのデメリットがあります。
    実名の場合は、当然ながら「誰が・どの項目に対して・どんな回答をしたのか」について、調査側で把握することができます。
    そのため、回答者に近しい人物が内容を閲覧した場合、具体的な状況が推測できてしまうのです。
    そうすると、回答者側は「誰かに見られた場合のリスク」に備えて無難な回答をしたり、受けの良さそうな回答をしたりする恐れがあり、正確なデータが取りづらい、改善点が洗い出しづらい、といったデメリットが生じる可能性があります。

    デメリット解消のための対応策は?

    先述した匿名アンケートと実名アンケートのデメリットについて、事前に準備・対策しておくことで、発生リスクを最小限におさえることが可能です。ここでは、先に挙げた各デメリットに対する対応策について紹介していきたいと思います。

    【匿名】回答を集めきれない可能性がある

    <対策>

    • 重要性が伝わるように目的を伝える

    • 回答期日前にリマインドする

    • 全員同じ時間に回答してもらう

    • 専用のチャットグループを作成、回答が完了した人から離脱してもらう

    上記の中でも特に重要なのは、目的の明示とリマインドです。
    回答率が低い原因にも色々ありますが、「どうせ改善されないから」「単純に忘れていたから」といった理由で回答されないことは非常にもったいないです。
    そのため「何のために実施したいのか」「調査に対して、実施側はどんな姿勢で取り組もうと思っているのか」など、調査目的や調査側の熱量が伝わるように協力を呼びかけましょう。
    また、回答期日の前日・当日にリマインドを行うことで、単純な回答漏れを防ぐことも可能です。

    【匿名】適当に回答される恐れがある

    <対策>

    • 調査目的を周知する

    • フィードバックを約束する

    • 質問文をわかりやすくする

    • 中央評価を撤廃する

    適当に回答してしまう理由のひとつとして、「調査に意義を感じていない」ということが考えられます。
    そのため、事前に目的を丁寧に説明することはとても重要です。
    また、せっかく調査に協力しても、何のフィードバックもなければ、回答者のモチベーションは下がってしまいます。
    フィードバックの日程・方法については、あらかじめ告知しておくと良いでしょう。
    また、すぐに良い改善策が見つからなかったとしても、調査結果を公表して今後の方針だけでも示すことが大切です。
    改善に対する姿勢や意欲をしっかり示すことで、信頼性や次回調査に対する協力意識も高まります。

    上記のほか、「回答に迷った時に無難な回答をする」というケースもあります。
    これについては、評価の選択肢を偶数にして「普通」や「どちらとも言えない」といった中央評価を撤廃する方法が効果的です。
    中央評価がないことによって考える時間が生まれるため、「とりあえず迷ったら中央評価にする」といった行動・思考を回避することができます。

    【匿名】個別の対応が難しい

    <対策>

    • 重要な問いには自由記述欄を設ける

    • 別途相談先を記載する

    匿名アンケートの場合は、ある特定の項目に関する評価が著しく低かった場合や、想像と実態の調査結果に大きなギャップがあった場合でも、その評価をつけた本人にヒアリングを行うことはできません。
    そのため一部自由記述欄を設けることで、匿名性を保ちながら、その評価をつけた詳しい理由や要望について知ることができるようになるでしょう。
    また、実名アンケートか匿名アンケート、どちらで実施するかは調査側が決定します。
    そのため、回答者側が「アンケート内容に関して相談したい」と思っても、匿名アンケートが実施された場合は回答者と回答内容がリンクしないため、相談しづらくなってしまいます。
    そういった場合のセーフティネットとして、希望者専用の個別対応窓口などを用意しておくと良いでしょう。

    【実名】本音で回答されない可能性がある

    <対策>

    • 活用目的を明示する

    • 閲覧範囲を明示・限定する

    • 外部機関に調査を依頼する

    • 調査側の情報モラル・情報セキュリティ教育を行う

    実名アンケートでよく起こりがちなのは、「回答内容が評価に左右するのではないか」「低い評価をつけたら面倒なやつだと思われるのではないか」といった不安から、正しい回答をする必要があるというバイアスがかかり、本音とは異なる回答をしてしまうといった事象です。
    従業員が心理的安全性を感じられるように、回答内容が人事評価や人間関係に影響を及ぼさないことや、どういった活用目的で誰が結果を見るのかなど、アンケート実施前に丁寧に説明するようにしましょう。

    また、社内で調査を実施する場合は、調査結果を閲覧できる人物の教育もしっかり行うようにしましょう。
    仲の良い同僚に特定の従業員の回答内容を漏らしてしまったり、調査結果を真摯に受け止められず感情的になってしまうと、回答者側は「話が違う」「次回からは協力できない」となり、最悪の場合、離職に至る可能性もあります。

    上記のような理由から、実名アンケートを行う場合は、従業員から「匿名だからこそ書けることもあるのに」といった意見が挙がることもあるでしょう。
    そのような場合には、なぜ匿名ではなく実名アンケートを行うのか、意図を丁寧に説明することが大切です。
    「個々の悩みに対してより正確に対応できる点において、企業と従業員の双方にメリットがある」ということを、理解しやすいように説明しましょう。
    十分な説明をした上で、調査における遵守事項を明確に定め、従業員が安心して回答できる体制づくりをしておくことが重要となるのです。

    従業員満足度調査のメリット・デメリット

    ▽本音を引き出すコツについて詳しく知りたい方は、こちらもご確認ください。
    【人事基礎編】社内アンケートとは?本音を引き出すコツを解説

    従業員満足度調査のステップ

    実名アンケートと匿名アンケート、どちらの形式で調査を行うか決定したら、先述したデメリットを考慮しながらアンケートを作成していきます。
    ここでは、従業員満足度調査を行う流れについて記載していきたいと思います。

    ステップ1:質問内容を策定する

    質問内容を設計するにあたって重要なことは、目的を明確にする、回答しやすい質問文にする、適度な質問量にする、分析しやすい設計をするということです。
    「どのような質問を投げかけたら実態に近づけそうか」「認識の齟齬が起きない内容になっているか」をチェックしながら、質問を策定しましょう。
    また、質問数を多く設定しすぎると、回答者が注意散漫になる可能性があります。
    トピックが限定されている場合は5分~10分程度、包括的なアンケートの場合でも15分程度で回答できる量がおすすめです。
    なお、評価スケールは「普通」「どちらとも言えない」といった「中央値」がない偶数設定にした方が、分析しやすくなるでしょう。

    ステップ2:アンケートの配布・回収・集計・分析

    質問設計が完了したら、従業員に配布し、回答期間終了後に回収・集計・分析を行います。
    紙やエクセルシートを従業員ひとりひとりに配って、調査を行うという手段もありますが、その場合は集計の際に転記の手間が発生します。
    最近ではGoogleフォームなどの無料ツールや、アンケート機能が搭載された人材管理システムを活用することで、カンタンに集計・分析作業ができるため、調査方法は状況に合わせて検討してみると良いでしょう。

    ステップ3:改善策の検討・周知

    集計・分析作業が完了したら、結果をまとめてフィードバック・改善策の準備を進めていきます。
    この時に重要なのが、優先順位をつけて改善を進めていくということです。
    上記の図の通り、総合満足度の結果に大きく影響する要素でありながら、満足度が低かった項目に関しては早めに対策を講じた方が良いでしょう。
    また、想定と実態が大きくかけ離れていた項目があった場合も、調査側が実態把握できていない状況ということになるため、注視した方が良いでしょう。
    前述した通り、調査終了後に何のリアクション・フィードバックもないと、回答者のモチベーションが低下し、次回以降の協力が得られない可能性があります。
    すぐに改善策を打ち出すことが難しい場合でも、調査結果を受けての率直な感想や、今後検討している方針については発信した方が良いでしょう。

    関連記事:従業員満足度とその集計例は?調査のメリットについて紹介!

    まとめ

    従業員満足度調査は、定期的な実施と改善を繰り返すことで、改善度合いを測れるだけでなく、調査に対する信頼性や協力意識も高まります。
    改善が進み従業員満足度が向上していけば、人材の定着率や生産性、顧客満足度や企業のブランドイメージの向上にもつながるでしょう。
    調査後は的確な分析・判断のもと、改善策を施していくことがとても重要です。
    実態に即した率直な回答が集まるよう、質問設計を工夫したり、回答者に配慮したリスクヘッジを行ったりすると良いのではないでしょうか。

    また、回答方法は、より事実に即した調査結果を得られる、個々の悩みや不満にダイレクトに対応できるという点で、実名回答の方がより効果的と言えます。
    得た結果を活かして従業員に還元するための調査であること、情報のセキュリティには十分な対策を行うことを説明した上で、より従業員への具体的なアプローチが可能になる実名での従業員満足度調査を行ってみてはいかがでしょうか。

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    株式会社HRBrain 吉田 達揮
    吉田 達揮
    • 株式会社HRBrain 執行役員

    • ビジネス統括本部 本部長

    • 人的資本TIMES編集長

    新卒で東証プライム 総合人材サービス企業に入社。2020年HRBrainに入社。
    人事制度コンサルティング部門の立ち上げから大手企業向けのクラウド営業に従事。
    また社内タレントマネジメントのユニットの立ち上げと運営を担当。
    以後、事業企画にてゼネラルマネージャーとして全社戦略の策定・推進を担当。
    その後、組織診断サーベイ「EX Intelligence」を提供しているEX事業本部を管掌。
    2022年4月に執行役員へ就任。2023年4月よりビジネス統括本部の本部長として全体を統括。「人的資本TIMES」の編集長も兼務。

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