心理的安全性が高い組織を作るには?測定方法や対策をチェック
『心理的安全性』は、Googleが「組織の生産性を高めるために必要な要素」だと発表したことで一気に注目された言葉です。
心理的安全性について知る
2015年、Googleは生産性を上げる要素として『心理的安全性』を高めることがもっとも重要であるという調査結果を発表しました。
『心理的安全性』はもともとある心理用語で、Googleが作った言葉ではありません。
心理的安全性とは
ハーバード大学で組織行動学について研究しているエイミー・エドモンソン氏が最初に提唱したとされる言葉『Psychological safety』の和訳が『心理的安全性』です。
心理的安全性の定義
エイミー・エドモンソン氏は、チーム内において対人リスクを取るのに安全だという認識がメンバー間で共有されている状態を『心理的安全性』と定義しました。
プロジェクトチームや部署において、仕事に関する発言をきっかけに人間関係を損なったり、必要以上にストレスがかかったりすることがない状態が『心理的安全性』を担保できている状態です。
Googleの発表により注目を集めている
2012年、Googleは生産性の高いチームの共通点を探し出すために『プロジェクト・アリストテレス』と名付けた調査を開始しました。
4年に近い歳月と巨額の投資を費やした『プロジェクト・アリストテレス』は、生産性を高めるためにもっとも必要な要素は心理的安全性であるという結論を導き出しました。
これをきっかけに、心理的安全性という言葉が、ビジネスの世界で急速に注目度を高めたのです。
なぜ心理的安全性が必要?
Googleの発表で注目を集めた心理的安全性。さまざまな企業がその重要性について調査を重ねました。それらの調査結果も、「心理的安全性はビジネスにおいて重要である」と結論づけられたそうです。
現代のビジネスは多様化した市場の変化がめまぐるしいため、イノベーションの加速が課題となっています。イノベーションを起こすためには組織内で提案がしやすいこと、共感があることなどが必要です。そのために心理的安全性は不可欠と言えるでしょう。
イノベーションを持続的に生み出す土台作りにも、心理的安全性の高い組織であることが必要なのです。
心理的安全性は組織を成功に導く鍵の一つ
2015年、Googleはアメリカの通信会社『Associated Press』との共同研究結果として『チームを成功に導く五つの鍵』を発表しました。
心理的安全性・信頼性・構造と明瞭さ・仕事の意味・インパクト
心理的安全性を高めることは仕事の効率をあげる上では有効ですが、それだけでは、緊張感がなくなってしまうことも……。
心理的安全性以外の四つの要素についても、あわせて高めていく必要があります。
心理的安全性が高い場合のメリット
心理的安全性が高いと、生産性向上のほかにもさまざまなメリットが生まれます。
企業や職場への効果
高い心理的安全性が生み出す生産性の向上とイノベーションの活性化が、企業にとってもっとも大きなメリットです。
従業員が主体的に行動するようになり、お互いの意見交換も活発になると、新しいアイディアや改善案が生まれやすくなります。職場の雰囲気が良くなり、やりがいも感じられるようになるので、離職率を下げる効果もあります。
発言しやすい環境なので、従業員それぞれの課題や職場全体の問題点もあがりやすくなり、問題の早期発見にもつながります。
心理的安全性の高い組織には、ミスによる罰則や叱責の圧力がないため、隠蔽や改ざんなどが発生しづらくなるとも言われています。
組織の心理的安全性を高く保つことで、従業員がチャレンジ精神を発揮し、試行錯誤しながら成長できるのです。
個人に対する効果
心理的安全性が高まると、個人にとってもさまざまなメリットがあります。
第一に、情報共有が活性化します。良い情報だけでなく悪い情報もすばやく共有できるので、イレギュラーな出来事への対応が早くなります。
第二に、精神的なストレスが減ることで心に余裕が生まれ、広い視野や考え方ができるようになります。心理的安全性はメンタルヘルスケアの一環としても期待されています。
第三に、これは組織にとってのメリットでもありますが、組織へのエンゲージメントが高まります。仕事にやりがいを感じられるようになり、スキルアップなど、自発的に成長することができます。「この会社で将来はこういう仕事をしたい」といった、前向きなビジョンを描きやすくなります。
心理的安全性が低い場合の弊害
心理的安全性が低い場合、職務においてどのような弊害が出るのでしょうか。
四つの不安が発生
心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンソン氏によると、心理的安全性が低い組織には四つの不安が発生します。
無知だと思われる不安
例えば、不明点などを尋ねた際に「こんなこともわからないなんて」と失望されたり叱責されたりすると思うと、誰もが気軽に質問をすることができなくなります。
無能だと思われる不安
何かに失敗した際、失望されることを恐れると、ミスを隠蔽したり、報告しなかったり、情報共有をしなくなります。
邪魔をしていると思われる不安
自分の発言や行動が誰かにとって邪魔になっているのではないかという不安があると、積極的な発言や行動ができなくなってしまいます。
ネガティブだと思われる不安
それが改善案であっても、他のメンバーに批判や中傷だと受け取られ、意見できなくなる不安があると、発言することができなくなります。
組織の生産性を損なう
組織の心理的安全性が低いと、メンバーはさまざまな不安の中で仕事をするため、自分の持っているパフォーマンスをじゅうぶんに発揮できません。
さらに心理的安全性が低くなると、メンバー全員が疑心暗鬼になってしまい、組織として機能不全になることも。
組織が組織として機能しなければ、労働生産性の低下は避けられません。組織を脅かすような重大なミスや不祥事が発生するリスクも高まります。
心理的安全性の測定方法
自分が所属している組織の心理的安全性はどのくらいでしょうか?組織内にいるとなかなか測定することが難しいかもしれません。
そんな時は、エイミー・エドモンソン氏が提唱している心理的安全性の測定法を使ってみましょう。
七つの質問で測定する
エイミー・エドモンソン氏の論文には、七つの質問に対する回答結果で心理的安全性を測定する方法が記されています。
心理的安全性を測定する七つの質問
- チームでミスをした際に、批難されることが多い
- このチームでは、困難な課題を指摘することができる
- このチームでは、イレギュラーを排除する傾向にある
- このチームでは、リスクを取る際にも安心できる
- このチームのメンバーには問題を相談しにくい
- このチームでは、成果をないがしろに扱う人間がいない
- このチームでは、自身のスキルは尊重されて役立っていると感じる
この質問事項をもとに、匿名のアンケートなどを実施してみましょう。組織の心理的安全性をチェックすることができます。
心理的安全性を確保する際のポイント
施策を行う場合には、次のことを一つ一つ検証してみてください。
自己肯定感を得られるようにする
成果をきちんと評価する、人事部が意見を聞けるようにするなど、従業員の発言や行動を肯定するような体制をつくりましょう。
自分のしていることが認められると、従業員は自己肯定感が得られるようになり、心理的ストレスも大きく軽減します。
自己肯定感が高まると、積極性が増し、周囲とのコミュニケーションが増え、新たな仕事に積極的に挑戦していく傾向が見られるようになることが、これまでの研究でわかっています。
メンバーの自己肯定感を高めることは、心理的安全性の確保に直結する大切な要因の一つです。
四つの不安の原因を排除
心理的安全性を低下させたときに発生する四つの不安の排除も重要です。
必要なのは、メンバーの認識を変えることと環境づくりです。
「助け合うことで多くの問題が解決する」と理解してもらう
すべてのメンバーがフェアとなる関係性を構築する
発言の機会を均等に与える
ダイバーシティ&インクルージョン(多様化とその受け入れ)を推奨する
これらのことを実現できる組織にしていきましょう。
組織の編成を再チェック
個人の問題を取り除いても心理的安全性が確保できない場合は、チーム編成に問題があるのかもしれません。
チームメンバーの相性がよくなければ、積極的なコミュニケーションやフェアな関係には結びつきません。
価値観や考え方の違いはもちろんですが、男女比や年齢差などによっても相性は変わってきますので、心理的安全性の向上がなかなか見込めないようであれば、チームや部署の再編成を考えてみるのもよいでしょう。
ポジティブシンキングを意識
ポジティブシンキングを社内に浸透させるのも一つの方法です。相手に対する発言や言い方を変えるだけで、同じ物事でもポジティブに伝わる効果が期待できますし、施策としては『サンクスカード』の導入などの方法があります。サンクスカードは、あらかじめカードを従業員に配布しておき、働く上で親切にされたり感謝する出来事があったりしたときに、お礼の言葉をカードにして相手に渡すという施策です。
社内の雰囲気が明るくなれば、心理的安全性も高まっていくでしょう。
評価の方法を変える
成果主義の評価方法に切り替えている企業が増えています。従業員同士の競争意識を生む効果はありますが、一方で、足の引っ張り合いやストレスが強くなるマイナス面も……。
「ミスができない」「同期との差が気になる」など、仕事に対して余分なプレッシャーを感じてしまうことが、心理的安全性を低下させる要因になります。
近年、Googleがランク制の評価制度を廃止したことが話題になりました。適切で、かつ従業員のストレスにならない評価方法について検討してみましょう。
具体的なマネジメント方法
心理的安全性を高めるためのマネジメント方法の実例です。
OKRを設定する
目標管理のためのマネジメント手法はいくつかありますが、その中でも、OKRは心理的安全性を高める効果に定評があります。
OKRはアメリカのIntel社で初めて採用され、その後はGoogleやFacebookなどいくつもの世界的大手企業が採用しています。
OKRは、組織全体の『Objectives』(目標)をまず設定し、その下に連なる形で『Key Results』(目標達成の主要な成果)を設定します。その下に連なる部署や組織の目標も同じように設定していくのですが、OKRの詳細については、HR大学にもいくつか記事がありますが、基礎知識については下記の二つが参考になると思います。
Googleやメルカリも導入する目標管理手法、OKRの基礎知識
OKRを導入したい!でもやり方がわからない…設定のポイントと目標の作り方
組織全体の目標に向かって従業員たちが協力体制を築きやすくなり、協調性とコミュニケーションが増していくので、心理的安全性が高まる効果が見込めます。
マンツーマンでの面談を行う
マネージャーと従業員が1対1で定期的にミーティングを行う手法は、欧米ではすでに一般的なものですが、近年日本でも注目を集めています。
個人の課題や今後のビジョン、会社でやりたいことなどを直接ヒアリングできるだけではなく、マネージャーと従業員の間に信頼関係を築くためにも役立ちます。
マンツーマンの面談を定期的に行う手法は1on1と呼ばれており、HR大学にも1on1についての記事がありますので参考になさってください。
1on1を実施することで、日頃不満に思っていることを解消できる可能性がありますし、「社内に頼れる人間がいる」という認識があるかないかで、ストレスの度合いはかなり変わります。
組織サーベイを行う
『組織サーベイ』とは、企業のパフォーマンス向上のために、現状の課題や改善点の洗い出しを行う調査のことです。調査内容は、組織の制度や働き方だけではなく、個人のエンゲージメントなど多岐にわたります。
心理的安全性に焦点を当てることで、何が心理的安全性を低くしているのかがわかれば、高めるために何をすればいいのか、対策を考えることができます。
組織サーベイのためのアプリや、専門の調査機関も存在しています。本格的に解決を図りたいと考える場合は、活用してみるのもよいでしょう。
心理的安全性について学ぶには
心理的安全性は、生産性にも関わってくる重要な要因の一つです。組織内で活用するために、本格的に学んでみたいと考える人も多いのではないでしょうか。
セミナーやワークショップに参加
心理的安全性は日本でも注目を集め、セミナーやワークショップが開かれる機会も多くなっています。実際に、講師や経験者を通して情報を得られるのは良い機会です。
書籍を活用する
心理的安全性について詳しく書かれている書籍も多く出ています。
分かりやすいものとしては、心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンソン氏の著書である『チームが機能するとはどういうことか』がおすすめです。心理的安全性が果たす役割や機能について詳しく書かれています。
ほかにも、分かりやすく心理的安全性について記述された本はありますので、購入してみてください。
書籍名:チームが機能するとはどういうことか―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ
組織の心理的安全性を確保する
生産性を高めるために、従業員のパフォーマンスを上げるのは大切なこと。心理的安全性を確保した環境下なら、イノベーションも生まれやすくなります。
働きやすい環境づくりの一環として、心理的安全性を確保することは重要な施策と言えるでしょう。
心理的安全性を高めるために
心理的安全性を高めるには、社員間のコミュニケーションを活性化させることが大切です。「HRBrain」では、柔軟な権限設定ができる人材データベースの活用により、社員の相互理解を深め、社員間のコミュニケーションを活性化させることを実現します。
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