人材育成
2022/02/21
コンティンジェンシー理論とは?メリット、最適なリーダーの選び方を解説
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「コンティンジェンシー理論という名前を聞いたことはあるけれど、中身はよく知らない」
「リーダーシップと、どう関係があるのか知りたい」
「コンティンジェンシー理論を導入するメリットは何?」
こんな悩みをお持ちではないでしょうか。
世の中には数多くのリーダーシップ論がありますが、コンティンジェンシー理論は歴史が浅く、実際の人事にどう活用できるのか分からない人も多いですよね。
そこで、この記事ではコンティンジェンシー理論とは何か、発展した背景と導入のメリットデメリット等について解説します。
この記事を読めば、人事の知見を広げるヒントが見つかるので、ぜひ最後までお読みください。
コンティンジェンシー理論とは何か
コンティンジェンシー理論とは、いかなる環境でも力を発揮するリーダーは存在しないという理論です。
リーダーも人間なので、高いパフォーマンスを出せるかどうかは職場環境や人間関係などの外的要因が大きく影響します。
現代は社会の変化が激しいため、リーダーの在り方も変わらなければいけません。組織再編や事業売却など企業を取り巻く環境に合わせて、リーダーシップスタイルを選ぶ必要があります。
そのため、組織の変化に合わせて最適なリーダーシップを選ぶ際に、コンティンジェンシー理論が活用される傾向にあります。
コンティンジェンシー理論が注目される背景
コンティンジェンシー理論は1960年代から提唱された理論のため、他のリーダーシップ論や組織論と比べると歴史は長くありません。
ここではコンティンジェンシー理論が注目されるに至った背景を2つ紹介します。
リーダーシップは才能と考えられていた
1940年代までは、リーダーシップは生まれ持っての才能で決まるという「リーダーシップ資質論」が一般的でした。
具体的には、以下の資質は生来から備わっているという考え方です。
- 知性:知識と決断力、クリエイティビティ
- 行動力:シチュエーションに応じた正しい行動と忍耐力
- 信頼:責任感が強く、メンバーの信頼も厚い
上記の能力は訓練や勉強では習得不可能と信じられ、優れたリーダーを見つけるためには、リーダーシップ資質論に照らし合わせることが重要でした。
状況によってリーダーシップは変わる
1960年代になるとリーダーシップ資質論にほころびが出ました。なぜなら、産業が急速に発展し、組織の在り方が多様化しはじめたからです。
例えば、戦前までは国が大多数の軍人に滞りなく命令を出すトップダウン型のリーダーシップが力を発揮していました。
しかし、現代は産業がグローバル化し、異文化理解に長けたリーダーが求められます。上意下達な思考だけでは部下をまとめることは難しいでしょう。
このように時代の変化により、一律なリーダーシップが通用しなくなりました。そのため、状況によって求められるリーダー像は変わるというコンティンジェンシー理論が浸透し始めたのです。
コンティンジェンシー理論を発展させた3つの理論
ここでは、コンティンジェンシー理論が発展するに至った3つの概念について紹介します。
コンティンジェンシー理論を深く理解する上で重要な考え方なので、じっくり読んでください。
「機械的組織」と「有機的組織」
組織の構造にによって、成果を出すリーダーのタイプは変わってきます。組織には主に「機械的組織」と「有機的組織」に分けられます。
まず機械的組織とは、トップが強い権限を持ち、上意下達的に命令が下される組織のことを指します。行政機関や官僚気質な大企業が、典型的な例と言えるでしょう。大きな特徴が、意思決定に関わる人の数が限られていること。そのため、部下からのお伺いに応じたり、積極的に意見を汲み取ったりすることは多くありません。
一方の有機的組織は、機械的組織のように階層構造にはなっておらず、規模が大きい企業でも各部署がフラットな関係になっています。有機的組織のメリットは、個々の専門性を発揮しやすいことです。
例えば、技術関連で良いアイディアが出たら、上の命令に縛られることなく他の部署と自由に連携が取れるでしょう。もし機械的組織であれば、トップの認可が必要など組織の動きが鈍くなり、成長が遅くなる恐れもあります。
そのため、有機的組織は柔軟性を重んじるベンチャーなどによく見られる傾向にあります。
ここで注意すべきは、有機的組織と機械的組織に優劣はないという点です。例えば、もし軍隊を有機的組織にしてしまうと、指揮命令がバラバラになり秩序を保てなくなるでしょう。一方、スタートアップが機械的組織になると個人のスキルを発揮しづらくなり、組織の動きも遅くなってしまいます。
このように組織の特性に合わせて企業の在り方を考え、最適なリーダーを選ぶ必要があります。
条件適合理論
条件適合理論とは、組織が置かれる環境によって優秀なリーダーの定義は変わるという考え方です。
優れたリーダーには行動に特徴があるという「行動理論」が主流になったいました。
しかし、行動理論にさえ当てはまっていれば、成果を出せるというわけではありません。
リーダーが結果を出すためには行動理論に当てはまるだけでなく、リーダーが置かれている環境も影響すると判明したのです。
条件適合理論によると、リーダーが力を発揮するために考慮すべきポイントは次の2つ。
- 職場の人間関係
- 業務の難易度
部下とそりが合わなければ、仕事はスムーズに進まないでしょう。不得手な業務を任されていたら、リーダーのポテンシャルは発揮されにくいかもしれません。
このように、リーダーの行動特性以上にリーダーを取り巻く環境にも注意を払わなければいけません。
コンティンジェンシーモデル
コンティンジェンシーモデルとは、リーダーが成果を出すうえで影響を与える環境を定義したモデルで、経営心理学者のフィドラーが提唱しました。
コンティンジェンシーモデルでは、環境を数値で表す状況変数が採用されています。状況変数とは以下の項目を数値したもの。
- 部下との人間関係
- 仕事内容の明確さ
- リーダーの権限の強さ
これに加えてフィドラーが加えた評価値がLPCです。
LPCとは、職場で最も苦手な人間に対する評価のこと。
苦手な人に対する評価が高いと人間関係を重視し、逆に苦手な人への評価が低いと生産性を重視するタスク志向の人であることが分かっています。
このようにLPCと状況変数をかけ合わせた数値によって、適したリーダー像が変わってきます。そのため、リーダーを選定するときは過去の実績だけでなく、状況変数に照らし合わせて総合的に検討する必要があるでしょう。
コンティンジェンシー理論を導入する3つのメリット
コンティンジェンシー理論の内容は分かったと思いますが、導入することでどんな利点があるのかピンとこない人もいるでしょう。
ここでは、コンティンジェンシー理論を導入するメリットを3つ紹介します。
組織の柔軟性が上がる
コンティンジェンシー理論を導入するメリットの一つとして、組織をフレキシブルにしやすいことが挙げられます。
繰り返しになりますが、どんな状況でも結果を出せるリーダーは存在しません。そのため、組織の方針や社会変化に合わせてリーダーを変えていく必要があります。
例えば、同世代だけを相手にしていたリーダーであれば、根底の価値観が似ているため、明確な指示がなくても部下は的確な動きをしてくれるでしょう。
しかし、幅広い年代の人をまとめる場合、信条や価値観も違うケースが多いので「あうんの呼吸」は通用しない可能性が高いです。そのため、物事をロジカルに伝えられるリーダーが適しているでしょう。
このように、コンティンジェンシー理論に照らし合わせたら、社会の変化に合わせてリーダーを変えられるため、組織の柔軟性が上がるでしょう。
ピラミッド型の人事体系に縛られにくい
コンティンジェンシー理論を活用すれば、ピラミッド型の人事に捉われにくくなります。
特に有機的組織は、組織内の部署がフラットな関係になっているため、個々のリーダーシップを発揮しやすくなります。
例えば会社の上層部がテクノロジーに疎かったとしても、コンティンジェンシー理論を導入していれば、技術部門のリーダーの意見が尊重されるでしょう。
このように、コンティンジェンシー理論は官僚体質な組織のデメリットを補ってくれる点で魅力的です。
変化への対応力があるリーダーを育成できる
コンティンジェンシー理論を利用すれば、変化に強いリーダーを育成しやすくなります。前に述べたように、部下との相性や権限の強さによってリーダーの振る舞いは変わる必要があります。
例えば、部下との関係も良好でやるべき業務も明確、リーダーの権限も強ければタスク志向のリーダーが成果を残す可能性が高いでしょう。
一方で部下との関係が良くても、業務内容が明らかでなったりリーダーに権力が無ければ、人間関係を重視する人がリーダーに適しています。
このように、コンティンジェンシー理論を活用すれば、変化に対応できるリーダーを育てられるでしょう。
コンティンジェンシー理論を導入する3つのデメリット
コンティンジェンシー理論はリーダーを選ぶ際に有効なベンチマークですが、完璧というわけではありません。
デメリットを3つ紹介します。
環境の変化に合わせることが難しい
コンティンジェンシー理論では、環境の変化に合わせることが難しい場合があります。なぜなら、定められた条件に応じて、最適なリーダーや組織の在り方を決めるからです。
そのため、時代の変化にどう対応すべきかまでは考慮していません。今は社会の変化が激しく、コンティンジェンシー理論だけにこだわって人事を決めると、組織の混乱を招く恐れがあるでしょう。
たとえば、人事異動でその部署のリーダーと合わない部下が配属されたとしましょう。リーダーのパフォーマンスが落ちるからといって、その都度リーダーを配置換えすると秩序を保てなくなります。
このように、変化の激しい現代で無理にコンティンジェンシー理論を採用すると、逆効果になるリスクがあります。
誤った方向へ組織を導くリスクがある
コンティンジェンシー理論は、組織の方向性を間違えるリスクがあります。特に有機的組織は組織内の各部署がフラットな関係にあるため、上層部が一括でコントロールするのが難しくなるでしょう。
もし、とある部署が間違った方向へ進めば止めにくくリスクがあります。最悪の場合、業績が下がるかもしれません。
経営・経済の専門家もコンティンジェンシー理論を適用しても、必ずしも業績が良くなるとは限らないと主張しています。
コンティンジェンシー理論には,高業績を生み出す適合への道筋がいくつもありうるという等結果性の概念がある。構造をいじることで業績が必ずしも向上するわけではないのに,なぜ構造をいじるのか,という問いが生じる。
組織を束ねるリーダーにそれなりの能力が問われます。
専門性を高めにくい
コンティンジェンシー理論を導入すると、リーダーの専門性を高めにくくなる可能性があります。なぜなら、組織の環境が変化する度に、最適なリーダーを選びなおさなくてはいけないからです。
例えば、人事異動で部下との関係が一変した場合、現在のリーダーでは成果を出しにくいかもしれません。その場合、すでに人脈を築いている他の部署の方が成果を残すかもしれません。
この場合、リーダーも異動することで成果を出しやすくなりますが、異動先の部署で一から新しいことを学ぶ必要があります。
このように、コンティジェンシー理論だけを考慮して人事を組むと、リーダーの専門性が失われるリスクがあります。
コンティンジェンシー理論を活用するために企業やるべき3つの取り組み
ここでは、コンティンジェンシー理論を活用するために企業がやるべき取り組みを3つ紹介します。
前述のメリットを最大限活かすうえで大切なことなので、じっくり読んでください。
多彩な人材を採用する
多様な人材を採用するのも、コンティンジェンシー理論を活かすために欠かせません。なぜなら、リーダー候補が増えるからです。
たとえば、海外ビジネスに強いリーダーを求めているなら、外国人を採用すると成果を出しやすくなるかもしれません。
女性に理解ある会社を目指すなら、女性管理職の採用が有効である可能性が高いです。
このように、採用する人材の幅を広くすれば、環境に見合ったリーダーを選びやすくなります。
海外ビジネスを視野に入れる
コンティンジェンシー理論を活かすために、海外事業も視野に入れることをおすすめします。
なぜなら、リーダーのポテンシャルを発揮できる可能性が高いからです。
海外は、ビジネスの慣習や常識が日本と異なるケースが多々あります。そのため、日本では上手くリーダーシップを発揮できない人でも、海外だと成果を出すことも珍しくありません。
部下や同僚がリーダーシップを発揮できるチャンスを多く作るためにも、ぜひ海外ビジネスに力を入れてください。
人事制度を抜本的に見直す
コンティンジェンシー理論を導入するために、人事制度を大胆に見直すことも必要です。
保守的な企業だと、以下のようなルールが残っていることも多いのではないでしょうか。
- 入社数年目でないと昇進試験を受けられない
- 育休・産休取得者は一定期間、管理職登用の対象外
- 大卒資格がないとキャリアアップできない
従来の人事制度に固執すると、たとえ社内に優れた人材がいてもリーダーに選べなくなってしまいます。
組織のポテンシャルを最大化するためにも、人事制度の見直しも検討しましょう。
コンティンジェンシー理論を活かせるおすすめの本
コンティンジェンシー理論を効果的に活用するためには、本での学習も必要です。なぜなら、組織論やリーダーシップを体系的に学べるからです。
ここでは、おすすめの本を2冊紹介するので、興味のあるものから読み進めてみてください。
組織論再入門
組織論再入門は、野村総合研究所で人事コンサルティング領域を立ち上げた野田稔氏の著書。
多様な組織問題に直面した時に、どうすれば組織の戦略を実現できるか糸口が見つけられると評判の本です。
大きな特徴は、理論だけに留まらず筆者の実務経験に裏打ちされて解説されていること。実際に購入した人のレビューを読むと、ビジネス論を筆者の経験で裏打ちしている点を高く評価していました。
組織構造やリーダーシップ論など人事全般を幅広く学びたい人におすすめの一冊ですね。
日本の組織におけるフォロワーシップ
本書は、部下の観点からリーダーや組織への効果的なアプローチを解説した本です。
著者の西之坊氏も「リーダーシップの研究はたくさんあるが、部下などフォローワーが取るべき行動に関する研究は不足している」と主張しています。
本書ではコンティンジェンシーアプローチなどリーダーシップ論のレビューを初め、日本の組織に置ける効果的なフォローワーシップをアンケートなどの実証実験から考察しています。
コンティンジェンシー理論は組織やリーダーの在り方に重点を置いていますが、実際の組織では部下の振る舞いも軽視できません。
「今リーダーでない自分はどうやって組織に貢献すべきか」と悩んでいる人におすすめしたい一冊と言えるでしょう。
まとめ
この記事では、コンティンジェンシー理論とは何か、メリットデメリット、活用するために企業がやるべき取り組みなどについて紹介しました。
しつこいようですが、どんな環境でも成果を出せるリーダーと言うのは存在しません。リーダーの職権や部下との相性によって、結果は大きく変わります。
成果が振るわない管理職でも、部署を変えたらリーダーシップを発揮するかもしれません。一方で、今は順調なリーダーでも組織再編で成果を出せなくなる可能性もあります。
このように組織の変化に合わせて最適なリーダーを選ぶなら、コンティンジェンシー理論は有効な指標になるでしょう。
この記事を参考に、ぜひ人事制度を見直してみてください。
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