キャリア開発とは?メリットから成功させるポイント・取組例まで解説
人材データの一元管理を実現し、あらゆる人事施策の実行をサポート
- キャリア開発とは
- キャリア開発とは従業員のキャリア形成を支援する取り組み
- キャリア開発と関連用語の違い
- キャリア開発が注目される4つの背景
- 終身雇用や年功序列制度の維持が困難
- DX推進によるスキル習得の必要性
- 働き方とキャリア観の多様化
- 人材の流動化と定着率の課題
- キャリア開発に取り組むメリット
- 企業が取り組む3つのメリット
- 従業員にもたらすメリット
- キャリア開発におけるデメリット・注意点
- 研修・制度導入にコストがかかる
- 管理職の負担・面談スキルを考慮する必要がある
- 本人と会社の希望が合わない可能性がある
- スキル向上による転職リスクが高まる
- キャリア開発の取り組みを成功させる5つのポイント
- 従業員主体でキャリア自律を進める
- 管理職の負担や面談スキル不足を防ぐ
- 本人と会社の方向性のミスマッチを防ぐ
- 上司以外にも相談できる体制を整える
- キャリア形成を見直せる機会をつくる
- キャリア開発の具体的な取り組み7選
- 1on1面談で定期的な対話をする
- キャリアパスの提示と共有をする
- レベルや目的別のキャリア研修を行う
- 資格取得など自己成長を支援する
- 戦略的な人事異動とローテーションを実施する
- 副業を許可し新しい挑戦を後押しする
- 社内公募などチャンスを広げる
- キャリア開発に活用できる助成金
- 人材開発支援助成金
- キャリアアップ助成金
- キャリア開発で企業と従業員の成長を支えよう
現代は、テクノロジーの進化や市場環境の急速な変化により、自身のキャリアを企業に委ねるのではなく、主体的にキャリア開発を進める姿勢がこれまで以上に重要になっています。
この記事では、キャリア開発の定義から、キャリア形成との違い、目標設定の具体例、そして研修や面談といった具体的な手法までを詳しく解説します。
主体的なキャリア開発の重要性や、今すぐ行動に移せる具体的なヒントを紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
キャリア開発とは
なぜ「キャリア開発」が重要なのか、その基本的な意味と、混同されがちな関連用語との違いを解説します。組織として従業員のキャリア支援をすることが、企業の成長につながるため、、まずは基礎知識を正しく理解しましょう。
キャリア開発とは従業員のキャリア形成を支援する取り組み
キャリア開発とは、従業員の能力を最大限に引き出し、理想のキャリア構築を支援する取り組みです。
以前は、キャリア開発は出世や昇進に必要なスキルアップを支援するという位置づけで捉えられる傾向がありました。しかし、近年では、終身雇用の前提が崩れ、人材の流動化や変化の激しいビジネス環境が進む中で、従業員一人ひとりが自らのキャリアを主体的に考え、築いていくことが求められるようになっています。
そのため、企業には個人のキャリア自律を支援しつつ、経営方針と従業員のキャリアビジョンをどう重ね合わせるかが問われています。
具体的な施策には、階層別研修や、1on1面談、キャリアカウンセリング、メンター制度といった支援策のほか、社内公募制度のような挑戦する機会も含まれます。
キャリア開発と関連用語の違い
「キャリア開発」「キャリア形成」「キャリアデザイン」という3つの言葉は混同されがちですが、以下のように主体と目的が異なります。
関連用語 | 主体 | 内容 |
---|---|---|
キャリアデザイン | 個人 | 理想の働き方・生き方を考え、自分の将来像を設計するプロセス |
キャリア形成 | 個人 | デザインした将来像に向けて、日々の業務や学習を通じて経験を積む実践のプロセス |
キャリア開発 | 企業 | 従業員のキャリア形成を、研修や制度などで支援・促進する企業の取り組み |
個人が「キャリアデザイン」で計画を立て、それを「キャリア形成」という日々の実践で実現していく流れです。そのプロセスを企業が「キャリア開発」という支援策で後押しするという関係性になります。
この構造を理解することで、個人と企業の役割が明確になり、双方が効果的にキャリアに向き合いやすくなります。
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キャリア開発が注目される4つの背景
なぜ「キャリア開発」が個人と企業双方にとって重要なテーマとなっているのか、その背景にある4つの社会・経済の変化を解説します。
<キャリア開発が注目される4つの背景>
終身雇用や年功序列制度の維持が困難
DX推進によるスキル習得の必要性
働き方とキャリア観の多様化
人材の流動化と定着率の課題
キャリア開発の必要性を根本から理解できれば、個人は自らの行動指針を、企業は人材戦略の方向性がわかるようになるでしょう。
終身雇用や年功序列制度の維持が困難
かつての終身雇用や年功序列制度はなくなりつつあり、会社に所属すれば安泰という時代は終わりを告げました。グローバル競争の激化や予測不能な市場変化により、企業が従業員の雇用を生涯保証するのは難しい状況です。
評価基準は年齢や勤続年数から個人の専門性や成果へと移行する「ジョブ型雇用」が進み、キャリア自律が必須となりました。キャリア自律とは、従業員一人ひとりが自らのキャリアを主体的に考え行動していくことです。
労働者は企業依存から脱却し、常に自身の市場価値を高める必要があります。企業側もまた、画一的な人材育成ではなく、多様な個人の成長を支援する役割への転換が求められています。
DX推進によるスキル習得の必要性
DX(デジタルトランスフォーメーション)とAIの急速な進化によって、今持っているスキルが通用しなくなるスピードが速まっています。そのため、スキルや知識を再習得する「リスキリング」が必須です。
AIや自動化で定型業務が代替される一方、データサイエンスやデジタル戦略立案といった新スキルの需要は急増しています。このスキルギャップを放置すると、個人のキャリアは停滞し、企業の競争力も失われるでしょう。
これからのキャリア開発は、知識を増やすだけでなく、デジタル時代に適応するスキルの再構築が中心になります。
働き方とキャリア観の多様化
リモートワークや副業・兼業の普及で働き方は多様化し、キャリアに対する価値観も大きく変化しました。ひとつの会社で昇進という単線的なモデルだけでなく、柔軟なキャリア設計が求められています。
時間や場所に縛られない働き方が可能になり、多くの方がワークライフバランス、子育て、自己実現などと仕事を両立させることを重視するようになりました。とくに副業は収入だけでなく、本業で得られないスキル習得や、社外ネットワークづくりはキャリア形成の一環となるでしょう。
厚生労働省が副業・兼業を促進しているため、従業員の挑戦を越境学習と捉え支援する企業もあります。個人はひとつの働き方にとらわれず、複数の仕事や役割を組み合わせてキャリアを築く時代です。企業側も、多様な価値観を尊重し、それぞれに合ったキャリア支援によって個人のスキルや個性が発揮できる職場づくりにつながります。
人材の流動化と定着率の課題
成長意欲の高い人材ほど、「この会社では成長できない」と感じた場合に、よりよい職場を求めて転職する傾向があります。
新たな人材採用にはコストがかかるため、既存社員の満足度とエンゲージメントを高め、長く活躍してもらうことは、企業の長期的な成長や安定した経営に直結します。
エンゲージメント調査では、「キャリア成長の機会」の有無が離職意向に大きく影響するともいわれています。
企業にとってキャリア開発への投資は、単なる育成コストではなく、組織力を維持・強化するための戦略的投資といえるでしょう。
キャリア開発に取り組むメリット
キャリア開発がコストではなく、企業と従業員の双方に利益をもたらす未来への投資であることを解説します。
キャリア開発を推進することで企業が得られる経営上のメリットと、従業員が自身のキャリアを豊かにするために得られるメリットを両側面から見ていきます。
企業がキャリア開発に取り組むメリット | 従業員にもたらすメリット |
---|---|
・従業員の主体性と生産性が向上する | ・スキルが向上する |
企業が取り組む3つのメリット
企業が戦略的にキャリア開発を推進することで、以下のような3つのメリットを期待できます。
<企業が取り組む3つのメリット>
従業員の主体性と生産性が向上する
優秀な人材の獲得と離職率低下が期待できる
組織の活性化と促進につながる
これらのメリットは、企業の持続的な成長を後押しするでしょう。
従業員の主体性と生産性が向上する
キャリア開発は、従業員が仕事を自分ごととして捉える重要なきっかけとなり、主体性を引き出します。
キャリア面談などを通じて、従業員個人のキャリア目標と会社の業務がつながると、従業員は日々の仕事の意味や目的を明確にしやすくなります。
自分の成長が会社の成長につながるという実感は、仕事へのエンゲージメントを飛躍的に高め、結果として業務の質を向上させ、よりよい成果を生み出します。
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優秀な人材の獲得と離職率低下が期待できる
この会社で働けば成長できると思える環境は、採用市場における企業の魅力となり、優秀な人材の獲得を有利に進められます。
同時に、既存社員のキャリアへの不安を解消することでエンゲージメントを高め、離職率の低下にもつながるでしょう。
成長意欲の高い人材は、自身の市場価値を高められる環境を求めています。「社員のキャリアを本気で応援する」という企業の姿勢は、報酬や待遇以上に、従業員の満足度と帰属意識を高める要因となります。
組織の活性化と促進につながる
キャリア開発により部門や役職の壁を越えた人材交流と新たな知識・スキルの共有がされると、組織の新陳代謝が活発になり、新しいアイデアが生まれやすい風土が育まれます。
たとえば、社内公募制度による部署間異動は、異動した従業員が元の部署で培った専門的なスキルや仕事の進め方を新しい部署に持ち込むことで、特定の知識やノウハウが他部署に共有され、やがて組織全体に広がっていくことを期待できます。
また、副業や社外での越境学習で得た新しい視点やスキルが社内に持ち込まれると、既存のやり方に対する見直しや改善の視点が生まれ、業務改善や新規事業のアイデア創出につながるでしょう。
従業員にもたらすメリット
企業がキャリア開発に取り組むと、従業員に以下のようなメリットをもたらします。
スキルが向上する
キャリアが明確になる
従業員は業務に対するモチベーションが向上し、自身の成長と会社の成長が結びついているという実感を持てるようになります。
スキルが向上する
会社がキャリア開発を支援することで、従業員は提供される研修や業務を自身のスキルアップの機会として積極的に活用するようになります。
従業員が将来どうなりたいかという目標を明確にできれば、今何を学ぶべきかを意識的に取捨選択できるようになるでしょう。目的意識を持って取り組むことで、漠然とルーティン業務をこなす場合と比べ、スキルの習得スピードと質が向上します。
たとえば、「3年後には海外事業部で活躍したい」という目標を持つ従業員が、会社の語学研修制度を活用し、現在の業務でも海外取引先とのやり取りに自ら名乗りを上げるといった行動が見られるでしょう。
従業員のスキル向上とともに、組織全体の生産性や競争力の底上げにもつながります。
キャリアが明確になる
キャリア開発の一環として、自己分析やキャリア面談を取り入れると、どのような働き方を望んでいるか、どのような環境で力を発揮できるのかといった、キャリアの軸が明確になります。キャリアの軸が定まると、将来への漠然とした不安が具体的な行動目標に変わるため、日々の業務に目的意識が生まれます。
また、自分自身の判断基準が定まれば、日々の小さな選択から転職や異動といった大きな決断まで、自信を持って意思決定できるようになります。
たとえば、自己分析を通じて自分が「安定」よりも「自律・独立」を重視するタイプだと気づき、管理職への昇進より新規事業の立ち上げに挑戦するといった選択も可能になります。
今後のキャリアについて何からはじめたらよいかわからないという従業員の悩みを解消し、自律的なキャリア形成を後押しできるでしょう。
企業にとっても、人材活用のミスマッチを防ぎ、離職率の低下やエンゲージメントの向上が期待されます。
キャリア開発におけるデメリット・注意点
キャリア開発のメリットだけでなく、導入・推進する際に直面しやすいデメリットや注意点について解説します。
<キャリア開発におけるデメリット・注意点>
研修・制度導入にコストがかかる
管理職の負担・面談スキルを考慮する必要がある
本人と会社の希望が合わない可能性がある
スキル向上による転職リスクが高まる
デメリットや注意点の対策をすれば、形骸化や失敗を防ぎ、より効果的なキャリア開発を実現できるでしょう。
研修・制度導入にコストがかかる
質の高いキャリア開発プログラムの導入・運用には、研修費用やeラーニングシステムの利用料といった直接的な金銭コストに加え、従業員の業務時間を充てる時間的コストが発生します。外部のキャリアコンサルタントへの協力依頼や、新たな人事制度の設計・運用にかかる人件費も考慮する必要があるでしょう。
効果的に進めるには、まず自社の課題を明確にした上で、費用対効果を慎重に見極めることが重要です。
最初から大規模なシステムを導入するのではなく、社内の経験豊富な社員を講師とした小規模なワークショップからはじめるなど、スモールスタートで効果を検証しながら進めるとよいでしょう。
管理職の負担・面談スキルを考慮する必要がある
キャリア開発の成功は、管理職の関与に大きく依存します。1on1面談などのキャリアに関する対話は、管理職が部下一人ひとりと向き合うための時間確保と事前準備が求められ、大きな負担となりかねません。
また、面談は単なる進捗確認ではなく、部下の本音を引き出す傾聴力やコーチングスキルが不可欠です。一方的な対話や課題に対してアドバイスがないなど、スキル不足の管理職が担当すると、かえって従業員の不信感を招き、制度が形骸化するおそれがあります。
対策として、制度導入と同時に、管理職向けの研修をセットで実施し、面談の目的や基本的なスキルを学ぶ機会を設けましょう。すべての負担を管理職に押し付けず、人事部に専門の相談窓口を設置するなど、組織全体でサポートする体制を構築することが大切です。
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本人と会社の希望が合わない可能性がある
キャリア開発を通じて自己分析を深めた結果、「管理職ではなく専門職を極めたい」「異業種に挑戦したい」などのキャリア志向が明確になり、相互の希望が合わなくなる可能性があります。会社の事業戦略や人員計画と個人の希望が必ずしも一致するとは限らず、このギャップに対応しなくてはいけません。
ミスマッチを問題と捉えるのではなく、従業員の価値観が可視化されたと捉える視点が重要です。希望をすぐに叶えられなくとも、代替案を一緒に模索する対話が求められます。
会社のビジョンや期待を誠実に伝えつつ、個人の想いに寄り添う姿勢が、信頼関係を維持するために不可欠です。
スキル向上による転職リスクが高まる
会社がコストをかけて従業員のスキルを高めた結果、市場価値が向上し、よりよい条件を求めて他社へ転職してしまうリスクがあります。もし、スキルに見合う処遇や挑戦の機会が自社になければ、よりよい環境を求めて人材が流出するのは、ある意味で自然な流れです。
転職リスクをおそれて育成を止めるのは、企業の成長の妨げになりかねません。リスク管理ではなく、スキルアップした優秀な人材がこの会社で働き続けたいと思える魅力的な環境づくりが重要です。
成長に見合った評価制度や挑戦的な仕事、良好な企業文化など、エンゲージメントを高める施策とキャリア開発をセットで推進することがリスクへの有効な対策となります。
キャリア開発の取り組みを成功させる5つのポイント
キャリア開発を形骸化させずに成功させるための実践的な5つのポイントを解説します。
<キャリア開発の取り組みを成功させる5つのポイント>
従業員主体でキャリア自律を進める
管理職の負担や面談スキル不足を防ぐ
本人と会社の方向性のミスマッチを防ぐ
上司以外にも相談できる体制を整える
キャリア形成を見直せる機会をつくる
これらのポイントを押さえることで、従業員と企業が共に成長できるキャリア開発を実現できるでしょう。
従業員主体でキャリア自律を進める
キャリア開発において、企業は指示・命令するのではなく、従業員が「自ら考え、選び、学ぶ」ことを支援する環境設計に徹します。会社から一方的に与えられたキャリアパスでは、従業員の内発的なモチベーションは引き出せず、やらされ感が募ってしまうためです。
たとえば、画一的な研修ではなく、従業員が自由に講座を選べるeラーニングシステムの導入や、自発的な学びへの金銭的支援が効果的でしょう。
企業から従業員に対して具体的なキャリアを提示するのではなく、従業員自身の希望を汲み取ったうえで、自らのキャリアについて自律的に考えられるよう支援することが大切です。
管理職の負担や面談スキル不足を防ぐ
キャリア開発のキーパーソンである管理職を孤立させず、制度の導入と支援をセットで行うことが大切です。スキル研修やサポート体制が整えば、管理職の負担を軽減し、面談の質のばらつきを防げきやすくなります。
管理職は必ずしもキャリア支援の専門家ではないため、役割を丸投げすると、負担感から疲弊したり、スキル不足から面談が逆効果になったりするリスクがあります。会社として明確な指針とサポートを提供することで、管理職は安心して役割を果たせるようになります。
具体的な支援策として、1on1研修やコーチング研修を実施し、傾聴や質問の基礎スキルを学んでもらう機会を設けましょう。
本人と会社の方向性のミスマッチを防ぐ
会社のビジョンや事業戦略を従業員に透明性高く共有し、定期的な対話を通じて、会社が目指す方向と個人のキャリアプランをすり合わせる機会を設けると、方向性のミスマッチを防ぎやすくなります。
会社が求める人材像を従業員が理解すれば、それを踏まえて自身のキャリアを考えられます。会社が従業員の希望を把握すれば、それを活かす道を一緒に探すことが可能です。
キャリア面談の場で、Will-Can-Must(やりたいこと・できること・すべきこと)のフレームワークを活用するのが有効です。上司が、従業員の「Will」と「Can」を丁寧にヒアリングした上で、会社としての「Must」を誠実に伝え、この3つの円が重なる部分を一緒に見つけ出せば、納得感のあるキャリア開発を実現できるでしょう。
上司以外にも相談できる体制を整える
直属の上司は身近な相談相手ですが、評価を気にして本音を話しにくかったり、相性が合わなかったりする場合もあります。また、一人の上司の経験則だけに頼ると、視野が狭まる可能性もあるでしょう。
他部署の先輩や専門家といった、複数の相談先があれば、多様な視点からアドバイスを得られ、従業員の心理的安全性を高め、客観的な意思決定を促せます。
従業員が自分の悩みや状況に応じて、最適な相談相手を選べるキャリア支援を構築すれば、キャリア開発への参加意欲が高まるでしょう。
キャリア形成を見直せる機会をつくる
キャリアは一度計画したら終わりではなく、常に変化し続けるものと捉えましょう。そのため、定期的に自身のキャリアを振り返り、必要に応じて軌道修正できる節目の機会を制度としてつくりましょう。
たとえば、入社3年目・5年目といった節目で「キャリアデザイン研修」を実施したり、昇格や異動のタイミングでキャリアシートの提出と面談を義務付けたりする振り返りの機会が考えられます。
キャリア開発を点のイベントではなく、継続的な線のプロセスとして設計し、PDCAサイクルを回す仕組みを根付かせると、従業員の自律的な成長を支えられるでしょう。
キャリア開発の具体的な取り組み7選
キャリア開発の具体的な取り組みを7つご紹介します。
<キャリア開発の具体的な取り組み7選>
1on1面談で定期的な対話をする
キャリアパスの提示と共有をする
レベルや目的別のキャリア研修を行う
資格取得など自己成長を支援する
戦略的な人事異動とローテーションを実施する
副業を許可し新しい挑戦を後押しする
社内公募などチャンスを広げる
従業員一人ひとりのキャリアに寄り添って支援することで、各々の成長や企業へのポジティブな影響につながっていくため、ぜひ上記の取り組みを実践してみましょう。
1on1面談で定期的な対話をする
上司と部下が1対1で定期的に行う1on1面談は、単なる業務進捗の確認ではなく、中長期的なキャリアについて対話する取り組みのひとつです。
年に数回の公式な評価面談だけでは、従業員の日々の悩みやキャリア観の変化をタイムリーに捉えるのは難しいでしょう。定期的な対話を通じて信頼関係を築き、本音を引き出すことで、エンゲージメントを高め、個人の成長と目標達成をきめ細かく支援できます。
面談では「最近、仕事でやりがいを感じたことは?」といった内省を促す問いかけをするなど、部下の考えを引き出すコーチング型のアプローチが有効です。
まずは月1回30分からでも対話の時間を確保し、管理職には「1on1は部下のための時間である」という意識を持ってもらうためのスキル研修をセットで実施すると、キャリア開発において意味のある面談になるでしょう。
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キャリアパスの提示と共有をする
社内でどのようなキャリアを歩めるのか見通しが立たないと、従業員は成長の目標を描きにくいです。社内にどのような職務や役職があるかや求められるスキルや経験を共有し、目指すべきゴールと道筋が可視化されることで、日々の業務や学習に対するモチベーションは大きく向上します。
たとえば、専門職を極めるスペシャリストコース、組織を率いるマネジメントコースのように複数のモデルを提示しましょう。各等級で求められるスキル要件を職務記述書として公開することも効果的です。
ただし、ここで提示するキャリアパスはあくまでモデルケースであり、従業員を縛るものではないと明確に伝えましょう。
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レベルや目的別のキャリア研修を行う
キャリアの悩みや必要なスキルは年齢や役職によって異なるため、全員に同じ研修を実施しても効果は限定的です。新入社員、中堅社員、管理職といった階層別や、DXスキル、リーダーシップといった目的別に多様なキャリア研修を実施できると、主体的な学びを促進し、研修効果を期待できます。
例えば、若手向けには自己理解を深めるキャリアデザイン研修、中堅向けには後輩指導を学ぶOJTリーダー研修、管理職向けにはコーチング研修などが考えられます。
重要な点として、研修を受けさせて終わりにならないようにしましょう。研修後には、上司との1on1で学びを共有したり、職場で実践するアクションプランを立てたりするなど、学びを実務につなげる仕組みをセットで実施するのがポイントです。
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資格取得など自己成長を支援する
従業員が自ら必要な学びを見つけ、行動した際は、金銭的に支援すると、組織全体に学習する文化が根付き、多様なスキルを持つ人材が育つでしょう。
具体的には、ITパスポートやTOEIC、簿記といった汎用的な資格から、専門分野の高度な資格まで、取得時に受験費用や報奨金を支給します。
導入にあたっては、支援対象の範囲に一定のガイドラインを設けつつも、従業員の多様な興味に応えられるよう、一定の柔軟性を持たせた制度設計を検討しましょう。
戦略的な人事異動とローテーションを実施する
同じ環境に長くいると、経験やスキル、人脈が固定化し、成長が停滞する場合があります。
異なる環境に身を置く経験は、既存のやり方を見直すきっかけとなり、新たなスキルや経験、視点をもたらす可能性があります。
たとえば、若手社員に複数の部署を経験させて会社全体の業務理解を深めてもらう制度や、将来の幹部候補を事業の中核部署へ計画的に配置する制度などは、さまざまな環境で成長を促す機会となるでしょう。
ただし、従業員の希望を尊重する必要があるため、キャリア面談などを通じてその目的や期待を伝え、本人の納得感を得ることが大切です。異動後のフォローアップも実施しましょう。
副業を許可し新しい挑戦を後押しする
副業で得た学びや視点を本業に還元してもらうことができれば、企業と個人の双方にとってWin-Winの関係を築けます。
副業によって、異なる分野の業務を経験することで、本業の安定を維持しながら低リスクで新しい分野に挑戦できる機会を得られます。
従業員のキャリアの可能性を広げ、自律性を高めるだけでなく、柔軟な働き方を認める企業として採用においても有利に働きます。
導入の際は、本業への支障や情報漏えいを防ぐため、「週〇時間まで」「競合他社での副業は不可」といった明確なルールづくりが不可欠です。
副業を人材流出のリスクとおそれるのではなく、外部でのOJTと捉える発想の転換が必要です。個人の学びを組織の資産に変える仕組みを考えていくのがよいでしょう。
社内公募などチャンスを広げる
社内の空きポジションを全従業員に公開し、自らの意思で応募できる社内公募制度は、従業員の挑戦意欲を引き出し、キャリア自律を促す仕組みです。
会社主導の異動だけでは見過ごされがちな、従業員の隠れた才能や情熱を発掘できるメリットがあります。「自ら手を挙げてキャリアを掴む」という経験は、従業員のオーナーシップ意識を向上させ、組織全体の活性化につながるでしょう。
この制度を成功させるには、運用上の公平性と透明性が重要です。募集情報を全社にオープンにし、選考プロセスを明確にしましょう。また、応募の秘密を厳守し、万が一不合格でも本人に不利益がないよう徹底すると、挑戦しやすい環境を整えられます。
キャリア開発に活用できる助成金
キャリア開発の推進にあたって大きなハードルとなりがちなコストを軽減するための具体的な手段として、国が提供している助成金制度をご紹介します。これらの制度を賢く活用して、コストを抑えながら効果的な人材育成や組織力強化を実現しましょう。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、企業が従業員に職務関連の専門知識や技能を習得させるための職業訓練を実施した場合、訓練経費や期間中の賃金の一部が助成される制度です。
近年は、以下のようにリスキリングやDX人材育成といった現代的な課題に対応したコースが拡充されています。
<現代的な課題に対応したコース>
管理職研修
DX推進のためのプログラミング講座
サブスクリプション型eラーニング導入
具体的なコースには、従業員の自発的な学びを支援する「人への投資促進コース」や、新規事業に伴う大規模な学び直しを支える「事業展開等リスキリング支援コース」などがあります。
活用には訓練計画の事前提出が必要なため、まずは厚生労働省のウェブサイトで自社の研修が対象になるかを確認し、早めの準備をおすすめします。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、パートタイマーや契約社員などの非正規雇用の労働者に対して、正社員への転換や処遇改善に取り組んだ事業主に対して助成される制度です。
代表的な「正社員化コース」では、有期契約社員などを正社員に転換した場合に助成が受けられます。対象労働者を6カ月以上雇用しており、正社員化前6カ月間の賃金と比較して3%以上増額してするなど、一定の条件があります。また、キャリアアップ管理者を定め、キャリアアップ計画書を管轄労働局へ提出しなければいけません。
キャリアアップ助成金は、人材開発支援助成金との併用も可能です。たとえば、パートで活躍する優秀な人材を正社員に登用し、その後正社員として必要なスキルを習得する研修を実施するといった組み合わせをかなえられます。
人材の確保・定着と多様な人材の活躍推進に直結するため、非正規雇用の従業員が多い企業は、積極的に活用を検討すべきでしょう。
キャリア開発で企業と従業員の成長を支えよう
本記事では、キャリア開発の重要性と、1on1面談や研修といった具体的な進め方を解説しました。
キャリア開発は、従業員の自律的な成長を支援することで、組織全体の活力を高め、新しいアイディアを生み出すための施策です。企業が積極的にキャリア開発に取り組めば、従業員は自分の将来を会社に託せるという安心感を得て、意欲的に業務に励むようになります。結果として、優秀な人材の定着や、変化に強い組織づくりにつながるでしょう。
自社の状況に合わせて、できることからキャリア開発の取り組みをはじめてみましょう。