#人材育成
2024/02/29

リスキリングとは?実施する意味やリカレントとの違いについて解説

目次

    企業の成長のためには、従業員ひとりひとりが必要な知識やスキルを習得し、生産性を向上させていくことが大切です。

    そこで、近年注目を集めているのが、リスキリングという考え方です。

    リスキリングは、現代の働き方における課題に対応し、人材育成にも役立つとされています。

    そこでHR大学(株式会社HRBrain)は従業員規模50名以上の企業の経営層・メンバーを対象に、リスキリングに関するアンケートを実施しました。

    この記事では、実施したアンケートの結果を踏まえながら、リスキリングの概要や実際に職場がリスキリングに取り組む目的、リスキリングを導入する際のステップなどについて解説します。

    リスキリングを推進するための従業員のスキル管理について

    リスキリングとは

    リスキリングとは、業務に必要な知識やスキルについて学ぶことを指します。

    「re-skilling」という単語が語源であり、直訳すると「スキルの向上を繰り返す」という意味になります。

    経済産業省では、リスキリングを以下のように定義しています。

    「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
    出典:「リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流―

    「re-skilling」という語源や、経済産業省の定義を踏まえると、リスキリングとは「学び直し」を指す言葉といえるでしょう。

    また、リスキリングと似た言葉に「リカレント教育」があります。

    リカレント教育も、社会人が学び直しを行うことである点は、リスキリングと共通しています。

    リスキリングとリカレント教育の大きな違いは、リスキリングが企業主体で実施されることが多いのに対して、リカレント教育は学習する本人が自主的に実施する場合が多い点であるといえます。

    リスキリングが注目されている背景とは

    近年、リスキリングには多くの注目が集まっています。

    リスキリングが急速に注目されるようになった理由について、以下で2点に分けて解説します。

    DXが世の中に浸透してきた

    リスキリングが注目される理由のひとつに、DXの浸透が挙げられます。

    DXはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語であり、デジタル技術を活用し、変化の激しいビジネス社会で自社の競争力を高めることを指します。

    自社のDXを強化するためには、エンジニアなどの技術職のみではなく、デジタルを専門としない一般の従業員までもがデジタルに関する知識を深めることが大切です。

    このようなデジタル人材の必要性の高まりとともに、自然とリスキリングに注目が集まってきていると考えられます。

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    政府がリスキリング支援に注力すると明言

    近年、政府がリスキリングに向けた支援を積極的に行っていることも、リスキリングが注目されている理由の一つといえます。

    経済産業省では、2021年から「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を頻繁に実施しています。

    検討会では、政府に関連する各部署の代表や各民間企業の役員層のメンバーらが、デジタルに関連する人材政策などについて話し合っています。

    また、岸田文雄総理は、2022年10月にリスキリングの支援制度を政策に盛り込むことを表明しました。

    具体的な制度として、リスキリングの協力企業への支援や、リスキリングから転職までを一貫して支援する制度の新設などが挙げられています。

    このように政府をあげたリスキリングの推進が社会全体に認知されるようになり、リスキリングに注目が集まるようになっていると考えられます。

    リスキリングの助成金を経済産業省が支援

    近年、リスキリングのために、経済産業省が助成金を支援する動きが広がっています。

    具体的な助成金制度には、以下のようなものがあります。

    • キャリアアップ支援事業

    キャリアアップ支援事業は、現在働いている人が自身のキャリアについて専門家に相談できる「キャリア相談対応」や、その内容を踏まえて学習が受けられる「リスキリング提供」、さらに「転職支援」を一体的に実施する体制です。

    補助事業者に以下の金額が補助され、支援を受ける人は補助額以上の軽減額で講座を受講できます。

    1. リスキリング講座の受講を修了した場合:受講費用(税別)の1/2相当額(上限40万円)
    2. リスキリング講座の受講を経て転職し、その後1年間継続して就業している場合:追加として受講費用(税別)の1/5相当額(上限16万円)
    • 第四次産業革命スキル習得講座認定制度

    第四次産業革命スキル習得講座認定制度は、ITやデータなど、雇用の創出に貢献し、将来的に成長する見込みが高いと考えられる分野でのキャリアアップのために、教育訓練講座を認定する制度です。

    具体的には、以下のような支給を受けることができます。

    1. 専門実践教育訓練給付金制度:認定講座のうち、要件を満たし、厚生労働大臣の指定を受けた講座で、受講者に受講費用の最大70%が支給される。
    2. 人材開発支援助成金制度:専門実践教育訓練給付金制度を利用できる場合に、受講者本人ではなく、受講者が所属する企業に受講費用の最大75%が支給される。

    (参考)経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業

    現在リスキリングに取り組んでいる企業は

    リスキリングは、政府が大規模な支援を行うなど、急速にその普及が進んでいます。

    実際にリスキリングへの取り組みを行っている企業は、どのくらいあるのでしょうか。

    アンケートの結果は、以下のようになりました。

    現在、あなたの会社でリスキリングに取り組んでいますか?
    • 現在取り組んでいる:23.8%

    • 今後取り組む予定・検討中:20.6%

    • 現在取り組んでいない:55.6%

    アンケートへの回答企業の内、「現在取り組んでいる」「今後取り組む予定・検討中」を合わせると、約4割の企業が社内でのリスキリングを実践している、もしくは検討しているという結果となりました。

    リスキリングは、事前に社内で制度を整備する必要があるなど、実施までに大きな工数がかかりますが、それでも多くの企業がリスキリングに関心を寄せていることが分かります。

    リスキリングを実施する目的とは

    企業は、どのような目的でリスキリングを実施するのでしょうか。

    アンケートの結果で、特に回答が多かった項目は以下の2つになりました。

    リスキリングを実施する目的を教えて下さい。
    • 事業成長や新規事業に必要なスキルを持った人材を育成するため:20.1%

    • 社員のキャリア支援のため:18.1%

    どちらの項目も、自社と従業員双方の成長を重視した目的といえるでしょう。

    このことから、企業がリスキリングについて、社会環境や労働環境の変化とともに今後必要とされるスキルを学び直してもらう機会であると考えていることが分かります。

    リスキリングの実施方法とは

    企業は、どのような方法でリスキリングを実施するのでしょうか。

    アンケートの結果から、特に多かった項目は以下の2つになりました。

    どのような方法でリスキリングに取り組んでいますか?
    • eラーニングサービスの活用:21.4%

    • 外部セミナーの受講:14.2%

    自社独自の社内研修を運用していると回答した企業も一定数ありましたが、多くの企業が外部のリソースを活用して、学習の機会を提供していることが分かりました。

    リスキリングでは、座学の他に実践的な課題に取り組むこともあるため、外部のサービスをバランスよく活用すると良いでしょう。

    リスキリングで身につけてもらいたい分野とは

    企業は、従業員にどのような分野のスキルを身につけてほしいと考えているのでしょうか。

    アンケートの結果から、特に多かった項目は以下のようになりました。

    どのような分野のスキルを身につけてもらいたいですか?
    • データ分析:16.2%

    • 情報セキュリティ:13.5%

    • ITリテラシー:11.1%

    リスキリングによって企業が従業員に期待するスキルの大半は、ITに関する項目ということが分かりました。

    近年、DX化が進むと同時に、新たなツールやシステムが次々と生まれています。

    また、データを業務改善に活用したり、マーケティング部門で活かしたりする機会も増えてきました。

    そのような流れの中で、デジタルツールに関する深い知識を持った人材が必要とされています。

    リスキリングが注目されるようになった要因の一つが、企業のDX化促進であったことがアンケート結果からも読み取れます。

    リスキリングを導入するにあたってのステップとは

    アンケートの結果から、多くの企業がリスキリングに関心を持ち、IT分野を中心とした従業員のスキルアップを期待していることが分かりました。

    それでは、自社でのリスキリングの導入は、どのような流れで行うと良いのでしょうか。

    以下で、リスキリングの導入ステップについて5段階に分けて解説します。

    リスキリングを導入するにあたってのステップ

    1. 経営戦略や人材戦略に紐づいた人物像や期待スキルを設定する
    2. 教育プログラムを考える
    3. コンテンツを決める
    4. 従業員に取り組んでもらう
    5. 習得した知識やスキルを実践で活用する

    経営戦略や人材戦略に紐づいた人物像や期待スキルを設定する

    まずは、自社の経営戦略を決定し、経営戦略と連動した人材戦略を定めることが大切です。

    その上で、自社の人事戦略を推し進めるために、今後どのような人物が必要か、どのようなスキルが求められるかを考えます。

    自社に必要なスキルを考える際は、従業員ひとりひとりが現在保有しているスキルを正確に把握することが重要です。

    各従業員が持つスキルとその習熟度を詳細まで分析することによって、自社が育成するべき人物像がより正確なものとなるでしょう。

    教育プログラムを考える

    自社に必要な人物像やスキルを設定した後は、それらの条件を達成するための教育プログラムを考えます。

    プログラムの実施方法には、社内研修やeラーニング、外部の社会人大学など、さまざまな種類があります。

    実施方法のアンケート結果でも取り上げられていたように、外部セミナーの受講や外部研修への派遣なども含めた多くの方法の中から、自社に合った方法でのプログラムを策定すると良いでしょう。

    ▼「研修」についてさらに詳しく
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    コンテンツを決める

    教育プログラムの内容が決定したあとは、プログラムで実施するコンテンツを考えます。

    具体的なコンテンツの形式には、オンライン教材や、紙媒体のテキストなどがあります。

    リスキリングに充てられる予算や、教育プログラムの内容は企業でそれぞれ異なります。

    そのため、自社内で開発する、外部のものを活用するなど、コンテンツの形式は自社のニーズに合わせて決定すると良いでしょう。

    従業員に取り組んでもらう

    コンテンツまで策定し、準備が整ったら、いよいよ従業員にリスキリングに取り組んでもらいます。

    普段の業務と並行して行うため、軌道に乗るまではなかなか思うように学習が進まない場合もあるでしょう。

    そのような場合でも、学習を開始してすぐの時期は、従業員に学びを強制しないことが大切です。

    企業側は、従業員がモチベーションを維持しながら長期的に学び続けられるよう、サポートする立場に徹しましょう。

    習得した知識やスキルを実践で活用する

    従業員がリスキリングで習得した知識やスキルも、実務で役立てなければそのまま忘れられてしまう可能性があります。

    できる限り企業側で、従業員がリスキリングで得たスキルを活かせるような場面づくりを企業側で行いましょう。

    また、その結果に対するフィードバックも実施し、従業員が継続的にスキルを磨き続けるためのサポートを心がけることが大切です。

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    フィードバックとは?意味や効果と適切な実施方法をわかりやすく解説

    リスキリングを導入するにあたっての課題とは

    企業がリスキリングを導入する際の課題には、どのようなことがあるのでしょうか。

    アンケートの結果から、特に多かった項目は以下の2つになりました。

    リスキリングに取り組むにおいての課題は何ですか?
    • スキル向上に時間がかかる:17.3%

    • 配偶・処遇との連動:16.0%

    アンケートの結果からは、従業員に思うようにスキルが身についていないと感じている企業が多いことが分かります。

    考えられる理由として、学習内容の難易度が高い場合や、日々の業務で忙しく十分な学習時間を確保できない場合などがあります。

    また、学びを実施している従業員に対する配偶・処遇についても、人事制度などと連動させることに難しさを感じている企業が多くなりました。

    従業員としては受講後の給与アップやキャリアアップを望むところですが、企業側がその声に十分に応えられないケースが多くあることが分かりました。

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    リスキリングを推進するにあたって企業がすべき支援とは

    リスキリングは、従業員のスキル向上による自社の事業成長の観点からも有効な施策です。

    それでは、従業員へのリスキリングの推進にあたり、企業はどのような支援を行うべきなのでしょうか。

    以下で3点に分けて解説します。

    取り組みやすい環境をつくる

    リスキリングは、通常の業務と並行して実施するものです。

    時には外部プログラムの受講時間の兼ね合いによって、就業時間を調整しなければいけないなど、学習が業務に影響を及ぼす場合もあるでしょう。

    業務に影響が及ぶ場合にも、周囲の人たちが学ぶことへの理解を示し、協力し合うことが大切です。

    周囲に理解してもらい協力を得るためには、なぜリスキリングを行うのか、リスキリングによってどのような良いことがあるのかなど、学ぶことの意義を社内全体に十分に説明することが必要です。

    学びへの協力体制を整え、誰もがリスキリングに取り組みやすい環境を作ることが、リスキリングを推進する上での企業の大きな役割といえるでしょう。

    リスキリングの目標設定・評価を行う

    モチベーションを維持しながらリスキリングを行うためには、学習する意義を従業員自身が理解し、明確な目標を持つことが重要です。

    従業員が能動的に学習に取り組めるよう、企業は各従業員にどのようなスキルが必要なのか、そのスキルをいつまでに、どのような方法で習得するのかなどを、事前に従業員本人と一緒に確認し、目標設定を行うことが大切です。

    また、設定した目標については、学習の途中や修了後に振り返りや評価を行います。

    それらの結果は、専用のデータベースや管理システムなどを活用して可視化しておくと、人事異動や配置の際に役立つでしょう。

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    従業員へ説明をし理解を促す

    従業員の中には、学習そのものが苦手な人や、デジタルやITの分野に興味がない人もいるでしょう。

    そのような従業員に能動的に学習を行ってもらうためには、学習によって従業員自身の適性を伸ばせること、新たなスキルや得意分野が見つかる可能性があることなど、学ぶことによるメリットを企業から積極的に伝えてあげることが大切です。

    その際には、企業側のメリットではなく、従業員自身にとってのメリットを強調して説明することが、モチベーション向上のためにも重要です。

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    リスキリングを推進するためのスキル管理

    効率的なリスキリングの推進のためには、従業員が現在どのようなスキルを保有しているのかを正確に可視化し、把握することが大切です。

    しかし、従業員や部署の数が多いほど、従業員全員のスキル管理を一元的に行うことは難しくなっていくため、早めに社内の運用体制を充実させることが大切です。

    「HRBrain タレントマネジメント」は、リスキリングの履歴をはじめとした、従業員ひとりひとりのスキル管理や目標設定のプロセスなど、あらゆるデータを一元管理し可視化します。

    従業員のスキルマップや、これまでの実務経験、研修などの育成履歴や、異動経験、人事評価などの従業員データの管理と合わせて、1on1やフィードバックなどの面談履歴、OKRなどの目標管理とマネジメント業務をクラウド上で一元的に管理できるため、人事業務の効率化が期待できます。

    従業員データをもとに、チームの最適化やチームに不足しているスキルや人材のピックアップも可能です。

    HRBrain タレントマネジメントの特徴

    • 検索性と実用性の高い「データベース構築」を実現

    運用途中で項目の見直しが発生しても柔軟に対応できるので安心です。

    • 柔軟な権限設定で最適な人材情報管理を

    従業員、上司、管理者それぞれで項目単位の権限設定が可能なので、大切な情報を、最適な状態で管理できます。

    • 人材データの見える化も柔軟で簡単に

    データベースの自由度の高さや、データの見える化をより簡単に、ダッシュボードの作成も実務運用を想定しています。

    ▼「タレントマネジメント」についてさらに詳しく
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    ▼「タレントマネジメント」お役立ち資料まとめ
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    本記事の「リスキリング」に関するアンケート調査概要

    • 対象:従業員数50名以上の企業の経営層・メンバー

    • 期間:2024年1月26日

    • 回答人数:500名


    株式会社HRBrain 吉田 達揮
    吉田 達揮
    • 株式会社HRBrain 執行役員

    • ビジネス統括本部 本部長

    • 人的資本TIMES編集長

    新卒で東証プライム 総合人材サービス企業に入社。2020年HRBrainに入社。
    人事制度コンサルティング部門の立ち上げから大手企業向けのクラウド営業に従事。
    また社内タレントマネジメントのユニットの立ち上げと運営を担当。
    以後、事業企画にてゼネラルマネージャーとして全社戦略の策定・推進を担当。
    その後、組織診断サーベイ「EX Intelligence」を提供しているEX事業本部を管掌。
    2022年4月に執行役員へ就任。2023年4月よりビジネス統括本部の本部長として全体を統括。「人的資本TIMES」の編集長も兼務。

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