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2022/03/01

従業員満足度の論文まとめ|様々な理論・調査に関する論文を紹介

目次

    企業に勤める従業員が、企業そのものや自らの業務を取り巻く環境についてどのように感じているかを表す指標として、「従業員満足度」があります。

    この従業員満足度については、これまで長きに渡ってさまざまな観点から研究が行われており、多くの研究者・識者が論文を発表しています。

    この記事では、従業員満足度とは何なのか、従業員満足度に関する研究・論文にはどのようなものがあるのか、なぜ従業員満足度を高めることが大切なのかについて説明していきます。

    従業員満足度とは?

    従業員満足度は英訳で「Employee Satisfaction」と記され、企業・官庁などに勤める従業員が、自身の仕事や仕事を取り巻く環境などの側面についてどう感じているかを表すものです。

    従業員満足度について最も多く用いられる定義に、アメリカの心理学者であるエドウィン・ロック氏(1938〜)の「個人の仕事への評価や、仕事からの経験によってもたらされる喜ばしい、もしくは肯定的な感情」というものがあります。

    そして、従業員満足度を測る要素としては物理的な職場環境を始め、上司・同僚との人間関係、仕事のやりがい、福利厚生、給与などが挙げられます。

    つまり福利厚生や企業のマネジメント、職場の環境、働きがいなどについて従業員がどれほど肯定的に捉え、満足しているかを表す指標が従業員満足度なのです。

    従業員満足度を取り巻く歴史

    従業員満足度を取り巻く歴史は古く、例としてアメリカでは1930年代にはすでに従業員満足度の調査がされていたと考えられています。

    企業・官庁などの組織とそこに関わる人々の関係に、物理的・社会的環境がどのような影響を及ぼすかを解明する「産業組織心理学」や、組織において個人が示す認知・行動・態度を体系的に研究する「組織行動学」といった分野が長年の研究の中心となってきました。

    従業員満足度の初期の研究者で最も有名なのが、アメリカの管理学者であるロバート・ホポック氏(1901〜1995)です。

    ホポック氏は、従業員満足度を「『私は、私の仕事に満足している』といわしめる心理学的・生理学的なもの、そして環境の組み合わせである」と規定、1935年に業務内容や同僚との関係が従業員満足度に与える影響について調査した著書「Job Satisfaction」を記しています。

    その後の1950~60年代以降は、従業員満足度研究の全盛期とも言われます。

    世界大戦後に技術革新が発展し、仕事の機械化が進んだことで作業が単調になったことから、労働者の勤労意欲の低下などを始めとする問題が深刻になっていったことがその背景にありました。

    次項で述べるフレデリック・ハーズバーグ氏の二要因理論が注目されるようになるのもこの時期です。

    1970年代のアメリカでは冷戦やベトナム戦争、2度の石油危機によりインフレーションが進み、失業率も高くなっていきました。

    そのような流れから、企業がより大きな業績を生み出す方法に注目が集まり、従業員満足度における研究も学術的研究からより実践的研究にシフトしていきます。

    さらに1990年代には、次項で述べるジェームス・L・ヘスケット氏の「サービス・プロフィット・チェーン」モデルが広く知られることになりました。

    これらのことから、長い年月を経ても従業員満足度がどれほど人々の関心を引き、信頼を獲得し、企業活動などに役立てられてきたかが分かるでしょう。

    従業員満足度に関連する論文

    従業員満足度に関して、これまで多くの論文が発表されてきました。
    ここでは、いくつかの代表的な論文について説明します。

    ジェームス・L・ヘスケット「カスタマー・ロイヤルティの経営」

    ハーバード・ビジネス・スクールの教授でもあるジェームス・L・ヘスケット氏が発表したのが、「カスタマー・ロイヤルティの経営」です。

    この論文のベースとなっているのが「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」です。

    サービス・プロフィット・チェーンとは、企業が従業員を大切にすることで従業員の満足度が向上、それによって従業員が顧客へ提供するサービスの品質も向上し、結果的に顧客の満足度の上昇・企業収益の向上につながるという考え方です。

    サービス・プロフィット・チェーンの仕組み

    サービス・プロフィット・チェーンの仕組み

    実際に本書の中では、いくつかの企業での調査において

    • 従業員満足度と顧客満足度との間に99%の因果関係が認められた

    • 顧客満足度を平均水準以上に得られた店舗の78%が、従業員満足度でも平均水準以上だった

    • 従業員満足度が1%増加すると、顧客満足度が0.22%増加する

    といった結果を得られたことが述べられています。

    両立することが難しい2つ以上の関係を、新たな価値を生み出すことで両立させることを「トレードオン」と呼びますが、顧客の満足度と企業が生み出す利益をどのように共存させ、トレードオンの関係に持っていくかということがこの論文では述べられています。

    保険会社や航空会社、またディズニーやマクドナルドなど多様な分野の企業・団体の事例が豊富に取り上げられており、具体的な解説が述べられていることも本書の大きな特徴と言えるでしょう。

    フレデリック・ハーズバーグ「How do you motivate your employees?(邦題:モチベーションとは何か?)」

    アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ氏(1923〜2000)が発表したこの論文では、業務における満足・不満足を引き起こす要因に関する「二要因理論」が述べられています。二要因とは、「衛生要因」と「動機付け要因(モチベーター)」のことです。

    二要因理論の中では、不満足に関する要素を「衛生要因」と呼び、これが満たされないと業務において不満足の状態になるとされています。

    この不満足の状態が長く続くと、残念ながら離職といった望ましくない事態につながってしまいます。

    「衛生要因」とは、整備されていないと従業員は不満を感じますが、逆に整備されていても特段満足につながるわけでない要素と言えるもので、具体的なものとして企業の方針・管理方法・労働環境・報酬や時間などの労働条件などが挙げられます。

    一方で、業務への満足感をもたらすものを「動機付け要因(モチベーター)」と呼んでいます。

    「動機付け要因(モチベーター)」には業務における達成感・責任範囲の拡大・能力の向上や自己の成長などがあります。ないからといってすぐに不満につながるものではありませんが、あればあるほど仕事に前向きになれる要素と言えます。

    この理論では「仕事での満足度はある特定の要因が満たされると上がり、逆に不足すると下がるわけではない」、「満足に関わる要因(=動機付け要因)と不満足に関わる要因(=衛生要因)は別のものである」としています。

    この二要因理論は、従業員が毎日の始業・終業時刻や働く時間を自分で決められる「フレックスタイム制」や、支給された補助金の範囲内で従業員が希望する福利厚生メニューを選択・利用できる「カフェテリア・プラン」など、数々の制度が誕生するのに貢献し、従業員満足度に関する理論的基礎となりました。

    二要因理論についての詳細はこちら

    田口浩「コンタクトセンタにおける社員満足度と顧客満足度の関係性について」

    この論文は、大手損害保険会社の東京海上日動で知られる、東京海上グループ内の企業「東京海上日動コミュニケーションズ」の上級執行役員である田口浩氏が2018年に発表しました。

    「東京海上日動コミュニケーションズ」では、保険知識に精通した従業員が顧客の困りごとや質問に答えるコールセンター事業を展開しています。

    この論文はそのコールセンターを舞台に、従業員満足度と顧客満足度の関係性を調査したものです。

    海外ではなく、日本の有名なグループ企業における研究・論文であるため、比較的イメージがしやすく、読みやすいのではないでしょうか。

    調査の中で田口氏は、2012年度から2016年度までの5年間、従業員満足度と顧客満足度をそれぞれ計測しています。

    さらに、コンタクトセンターで働く従業員が企業側へ抱えている不満要素をアンケートで調査しており、その結果「評価に対する不満」「職場環境に対する不満」などの項目が不満要素として挙げられました。

    その後、そうした従業員の不満を取り除くため、社内で評価制度の改善や従業員と管理職との面談、他社のコンタクトセンターとの交流会などの施策を実施しました。

    すると、従業員満足度は2014年を底に2015年、2016年と上昇していったのです。

    さらに、従業員満足度が前年と比べて低下した年には顧客満足度も同様に下がっており、従業員満足度が上昇した年には顧客満足度も上がっていたことが分かりました。

    つまりこの論文は、「従業員満足度が上がれば、顧客満足度も上がる」という理論を実証したものと言えます。

    【参考】
    田口浩「コンタクトセンタにおける社員満足度と顧客満足度の関係性について」

    鈴木研一・松岡孝介「従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係―ホスピタリティ産業における検証―」

    明治大学経営学部の専任教授である鈴木研一氏・東北学院大学経営学部の教授である松岡孝介氏によるこの論文は、ホテル業を経営しているある日本の企業について6年間の調査を行い、従業員満足度と顧客満足度、さらに財務業績の関係を検証したものです。

    このように従業員満足度・顧客満足度から財務業績に至るまで一連の関係を扱った研究は会計学の分野では非常に少ないことから、貴重なものとされています。

    こちらの調査によって、鈴木氏・松岡氏は

    • 従業員満足度と従業員が提供するサービスの質の相関には、正の関係が見られた(従業員満足度が上がると、サービスの質も上がった)

    • 従業員が提供するサービスの質と顧客満足度の相関には、正の関係が見られた(サービスの質が上がると、顧客満足度も上がった)

    • 顧客満足度は、稼働可能客室当り粗利益への効果が認められた(顧客満足度が上昇すると、一客室当たりの利益増加に効果があった)

    ということを導き出しています。

    つまり、従業員満足度の上昇がサービスの質の向上へつながり、それによって顧客満足度が上がり、財務業績が改善するサービス・プロフィット・チェーンの流れができているということを実証したのです。

    【参考】
    鈴木研一・松岡孝介「従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係―ホスピタリティ産業における検証―」

    なぜ従業員満足度を高めることが大切なのか

    1900年代前半から現在に至るまで、従業員満足度についてさまざまな提唱がなされ、研究が行われてきました。

    それだけ従業員満足度は企業の経営にとって大きな意味を持ち、従業員満足度を高めることが企業にとって有利に働くと考えられてきたのです。

    では、従業員満足度を高めることはなぜ大切なのでしょうか。従業員満足度の向上が企業にもたらすメリットについて説明します。

    従業員の業務に対するモチベーションの向上

    従業員満足度が高いことは、従業員にとって業務にあたる環境が快適であるということの表れと言えます。

    快適な就業環境は、企業や部署といった組織への帰属意識を高めます。

    組織への帰属意識の高まりは、各従業員が組織全体やチームへ貢献したいという意欲を高く持ち、積極的に業務を行うためのモチベーションにつながります。

    前向きな姿勢で業務にあたる従業員は業務を効率的に行い、主体的に活動するため、生産性も高くなりやすいでしょう。

    また、従業員満足度の高さが従業員同士の人間関係にも良い影響を与え、コミュニケーションが活発になることも期待できます。

    顧客満足度の向上

    企業が社内サービスの質を上げることにより従業員満足度が向上すれば、従業員が自社の商品・サービスへの理解をより深めるために努力したり、顧客に対して親身に対応を行ったりすることが多くなると考えられます。

    そうなれば従業員が顧客に提供するサービスの質が向上するため、顧客の満足度が上がっていくことが期待できるでしょう。

    つまり、従業員満足度が直接的に顧客満足度に影響を及ぼすというより、サービスの向上が間接的に顧客満足度に影響していくのです。

    さらに顧客が企業のサービスに満足し、企業のファンやリピーターが増えれば、そのことが売上や利益の拡大につながり、結果的に業績が伸びることも期待できるでしょう。

    ワーク・ライフ・バランスの改善

    従業員満足度の調査項目には、職場における人間関係や自身が抱える仕事量などについて問うものがあります。

    このような項目についての回答状況を見ることで、企業側は従業員のメンタルに関する状態を把握できるでしょう。

    従業員がどのようなことで業務において負荷を感じているか、またどのくらいストレスを感じているのかを把握できれば、改善に向けた施策を行うことで従業員のメンタル状態を向上させられることが期待できます。

    従業員のメンタルを整えるには、「業務量が多すぎる」「残業が多い・休みが少ない」といった、ワーク・ライフ・バランスに悪い影響を及ぼす状態を解消することが大切です。

    このように従業員満足度の向上には福利厚生を充実させることが不可欠であるため、自然と従業員のワーク・ライフ・バランスが整っていくことが期待できるのです。

    勤務時間が長過ぎない・有給休暇が取りやすい・業務配分が適切であるといった環境を整えることで、自然と企業が従業員ひとりひとりにとって働きやすい場所となっていくでしょう。

    離職の防止

    従業員満足度を向上させることは、優秀な人材の流出を防ぐことにもつながります。

    当然ながら、経営側や部署のやり方に不満を持つ従業員が多い企業は離職率が高くなりがちで、人材がなかなか定着しません。

    離職者が多く人員が足りなくなってしまうと、企業には頻繁に採用活動を行う必要があり、それには求人広告を出したり応募者と面接を行ったりするなど、多くの時間とコストがかかります。

    顧客へのイメージという観点からも、企業の離職率が高いと「担当者が頻繁に変わる会社である」「商品やサービスへの知識が浅いスタッフが多い」など良くない印象を与えてしまうでしょう。

    それに対し、従業員満足度が高い企業は自然と従業員の定着率が上がります。

    そうなれば企業側は採用活動にかける時間やコストを省くことができ、サービスの強化など本来の経営業務に注力することができると期待できます。

    まとめ

    従業員満足度について、現在に至るまで長い間多くの学者・研究者が調査を行い、多くの論文が発表されてきました。

    研究の成果や論文の内容は研究者によってさまざまですが、全体を通じて従業員満足度が顧客満足度につながり、やがてそれが企業の成長につながっていくことが明らかになっています。

    働き方改革やワーク・ライフ・バランスの充実が叫ばれ、日々あらゆる変化が起こる社会の中で生き残っていくために、企業にとって従業員満足度はますます重要な指標になっていくと考えられます。

    従業員満足度の向上、ひいては企業の成長・拡大を考えていく際には、現在までに各研究者が論文・著書で提唱した理論を深く理解し、その理論に基づいたより効率的な施策を実行していくことが大切になるでしょう。

    HR大学編集部
    HR大学 編集部

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