従業員エンゲージメントが高い企業の共通点とは?成功事例や向上に効果的な施策も紹介
組織状態の把握から分析・課題抽出までワンストップで実現
- 従業員エンゲージメントとは?
- 従業員満足度との違い
- モチベーションとの違い
- ロイヤリティとの違い
- 従業員エンゲージメントの3つの構成要素
- 理解度
- 帰属意識
- 行動意欲
- 従業員エンゲージメントが高い企業の6つの共通点
- 明確なビジョン・ミッションが社内に浸透している
- 経営層と現場のコミュニケーションが活発
- 上司によるフィードバックの文化が根づいている
- 裁量権と成長機会が適切に与えられている
- 従業員の声をすぐに反映する仕組みがある
- 心理的安全性が高く挑戦が歓迎される環境がある
- 従業員エンゲージメントが低い4つの原因
- 上司との関係に信頼が築けていない
- 評価や報酬が努力に見合っていないと感じている
- 意見を言っても変化しないという諦め感がある
- 職場の人間関係や風土にストレスを感じている
- 従業員エンゲージメントを高める5つのメリット
- 離職率の低下により採用・教育コストを削減できる
- 生産性が向上し、業績アップに直結する
- 従業員が主体的に行動し、イノベーションが生まれる
- 組織への信頼感が醸成され、企業ブランドが強化される
- 従業員の健康やメンタルの安定により労働損失が減る
- 従業員エンゲージメントを高めるための9つの施策
- ミッションやビジョンを策定し、全社員に浸透させる
- 社内コミュニケーションの機会を意図的に設計する
- ピアボーナスや称賛制度で仲間からの承認や賞賛を促す
- 評価制度を見直し、納得感と透明性を高める
- スキルアップやキャリア形成を支援する仕組みをつくる
- 柔軟な働き方とワークライフバランスを実現する
- 福利厚生を見直し、従業員満足度を高める
- 定期的なエンゲージメントサーベイで現状を可視化する
- 上司による定期的な1on1とフィードバック文化の醸成
- 従業員エンゲージメントの4つの測定方法
- センサスサーベイ:年1回の全社調査で組織の全体像を可視化する
- パルスサーベイ:高頻度な調査で変化をタイムリーに把握する
- eNPS:従業員の推奨度からロイヤルティを定量的に測定する
- 1on1ミーティング:対話を通じたエンゲージメントの質的把握
- 従業員エンゲージメントを高めた5つの事例
- 多大な労力と時間を大幅に削減。 迅速に課題を抽出し、 改善アクションを明確化した方法とは?
- 自社に最適なオリジナル研修を設計。 社員の成長と高い満足度を実現した独自の1on1研修とは?
- 現場主導の組織改善を図る。 従業員がいきいきと働くための取り組みとは
- 人事業務効率化とエンゲージメント向上を推進。人材育成に力を入れるC-Unitedの取り組みとは
- カギは現場主導の組織改善。一人ひとりの社員体験を継続的に向上させる取り組みとは
- おすすめの従業員エンゲージメント向上ツールHRBrain
- 従業員エンゲージメント向上は組織成長への第一歩
企業の成長や持続的な競争優位性を左右する重要な要素として、いま従業員エンゲージメントが注目を集めています。
単に従業員の満足度を高めるだけでなく、組織に対する愛着心や自発的な貢献意欲を引き出すことこそが、これからの企業経営には不可欠となっているのです。
本記事では、従業員エンゲージメントが高い企業に共通する6つの特徴を詳しく解説します。そもそも従業員エンゲージメントとは何か、従業員満足度やモチベーション、ロイヤリティとの違いなども整理しながら、エンゲージメント向上の重要性と背景を解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントとは、社員が仕事や組織に対して持つ自発的な貢献意欲や愛着心を指します。単なる満足度とは異なり、エンゲージメントが高い従業員は、自ら進んで成果を上げようとしたり、組織の目標達成に主体的に関わろうとしたりする特徴があります。
エンゲージメントが高まることで、離職率の低下や生産性の向上、顧客満足度の向上にもつながるため、多くの企業が重視するようになっています。
近年では、上司との関係性、成長実感、企業理念への共感といった要素が、エンゲージメント向上に大きな影響を与えることがわかっており、重要度を増している概念のひとつです。
ここからは、従業員エンゲージメントと似た概念である、従業員満足度やモチベーション、ロイヤルティとの違いを解説します。

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従業員満足度との違い
従業員エンゲージメントは、しばしば従業員満足度と混同されますが、これらは明確に異なる概念です。従業員満足度は、従業員が給与、福利厚生、労働時間、職場環境といった会社から提供される要素に対して、どの程度満足しているかを示す指標です。これは、従業員側から見た会社への受動的な評価といえるでしょう。
満足度は現状への評価に留まる一方、エンゲージメントは未来への貢献意欲を含む点が大きな違いです。企業は、従業員の満足度を高めるだけでなく、エンゲージメントを向上させることで、組織全体の活性化を図る必要があります。
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モチベーションとの違い
従業員エンゲージメントとモチベーションも、密接に関連しながらも異なる意味を持つ言葉です。モチベーションは、一般的に動機や意欲と訳され、人が目標に向かって行動を起こし、それを維持するための心理的なエネルギーを指します。たとえば、新しいスキルを習得したい高い成果を出したいといった個人的な意欲がモチベーションです。
高いモチベーションを持つ従業員が、必ずしもその意欲を組織への貢献に向けるとは限りません。自己成長への意欲は高くても、それが会社の目標達成に結びついていなければ、エンゲージメントが高いとはいえないのです。
企業にとっては、従業員一人ひとりのモチベーションを高めることと同時に、その意欲を組織全体の目標達成へと方向づけを行い、エンゲージメントを育むことが重要になります。
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ロイヤリティとの違い
従業員エンゲージメントとロイヤリティも、同一視されがちですが、ニュアンスが異なります。ロイヤリティは、一般的に忠誠心と訳され、従業員が所属企業に対して抱く愛着や忠誠の度合い、この会社に長く勤め続けたいという帰属意識を示すものです。長年の勤務や安定した雇用関係の中で育まれる要素のひとつです。
企業としては、従業員のロイヤリティを基盤としつつ、エンゲージメントを高め、組織の持続的な成長を促すことが望ましいといえます。
従業員エンゲージメントの3つの構成要素
従業員エンゲージメントの構成要素は、以下の3つです。
<従業員エンゲージメントの3つの構成要素>
理解度
帰属意識
行動意欲
従業員エンゲージメントの向上を目指すうえで、何にアプローチすべきかを把握するために、構成要素を正しく理解しましょう。
理解度
従業員エンゲージメントにおける「理解度」とは、単に業務内容や手順を知っているということではありません。組織が掲げる経営理念やビジョン、中期的な事業戦略、社会における存在意義と方向性を従業員一人ひとりが深く理解し、共感している状態を指します。
企業が向かう方向や目標の達成に向けて、自身の役割がどのように位置づけられ、どのような貢献を期待されているのか、具体的な業務目標や求められる成果についても明確に認識していることが重要です。
理解度が高まることで、従業員は日々の業務と組織全体の目標とのつながりを実感でき、「自分の仕事には意味がある」「この目標達成に貢献したい」という納得感や目的意識を持ちやすくなります。
理解度が低い状態では、従業員は自分が何のために働いているのかを見失い、指示待ちになったり、組織の方針とずれた行動をとってしまったりする可能性があります。経営層やマネージャーからの丁寧な情報共有、目標設定の際の対話、組織の価値観を浸透させる取り組みなどが、理解度を高める鍵です。
帰属意識
「帰属意識」は、従業員が「自分はこの組織の一員である」「ここに自分の居場所がある」と感じられる、情緒的なつながりや心理的な安全性の度合いを示す要素です。
単に雇用されているという事実だけではなく、組織やチームのメンバーとして受け入れられ、尊重され、大切にされているという実感にもとづいています。上司や同僚との良好な人間関係、互いに助け合い、認め合えるチームの一体感、そして「失敗しても非難されない」「自由に意見をいえる」といった心理的安全性が確保された職場環境が、帰属意識の醸成には不可欠です。
帰属意識が強い従業員は、組織に対して自然な愛着を感じ、「この仲間たちと共に目標を達成したい」「この組織のために力を尽くしたい」というポジティブな感情を抱きやすくなります。離職率の低下や従業員のメンタルヘルスの向上にも直結します。
反対に、疎外感や孤独感を抱えている従業員は、組織への貢献意欲が湧きにくく、エンゲージメントも低下しがちです。インクルーシブな組織文化の醸成、コミュニケーションの活性化、公正な評価と処遇などが、従業員エンゲージメントの要素のひとつである帰属意識を高めるうえで重要です。
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行動意欲
「行動意欲」は、従業員エンゲージメントの要素の中でも、具体的なアクションや成果に最も直結する要素です。「理解度」によって組織の目標と自身の役割を認識し、「帰属意識」によって組織への愛着や仲間との一体感を感じた従業員が、「組織の成功のために、自ら進んで貢献したい」と強く願い、実際に行動に移そうとする意志の力を指します。
単に与えられた業務をこなすだけではなく、より高い目標達成や組織全体の成長に向けて、自発的にエネルギーを注ごうとする姿勢として現れます。
たとえば、現状の業務プロセスを改善しようと工夫する、新しいアイデアを積極的に提案する、困難な課題にも果敢に挑戦する、自身のスキルアップに励む、チームメンバーをサポートするといった行動です。
行動意欲が高い従業員は、主体的に考え、動き、周囲を巻き込みながら、期待以上の成果を生み出す原動力となります。
従業員の自律性を尊重し、挑戦を奨励する風土、成長機会の提供、成果に対する適切な評価とフィードバックなどが、この行動意欲を刺激し、持続させるために不可欠な要素といえるでしょう。
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従業員エンゲージメントが高い企業の6つの共通点
従業員のエンゲージメントが高いと評価される企業に共通して見られる、組織文化や制度面での特徴について詳しく解説します。
主な共通点として、以下の6つが挙げられます。
<従業員エンゲージメントが高い企業の6つの共通点>
明確なビジョン・ミッションが社内に浸透している
経営層と現場のコミュニケーションが活発
上司によるフィードバックの文化が根づいている
裁量権と成長機会が適切に与えられている
従業員の声をすぐに反映する仕組みがある
心理的安全性が高く挑戦が歓迎される環境がある
従業員エンゲージメント向上を目指している企業は、ひとつの指針として共通点を理解していきましょう。
明確なビジョン・ミッションが社内に浸透している
従業員エンゲージメントが高い企業は、自社が何のために存在するのか(ミッション)、そしてどこへ向かおうとしているのか(ビジョン)を明確に言語化し、組織全体で共有しています。このビジョンやミッションが単なる形式的な言葉で終わらず、従業員一人ひとりの意識にまで深く浸透していることが重要です。
従業員は、会社の目指す方向性と自身の業務とのつながりを理解することで、仕事に対する意義や目的意識を持つことができます。たとえば、自社の製品やサービスが社会にどのような価値を提供しているのかを具体的に理解していれば、日々の業務にも誇りを持って取り組めるでしょう。ビジョン・ミッションの浸透には、経営層からの継続的なメッセージ発信はもちろん、朝礼や社内報、イントラネット、研修など、あらゆるチャネルを通じた働きかけが有効です。
また、企業の価値観が評価制度や日々の行動指針に反映されていることも、従業員の共感を促し、浸透を深める上で効果的です。組織全体が同じ方向を向き、一体感を持って目標達成に取り組むための基盤が、明確なビジョン・ミッションの浸透によって築かれます。
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経営層と現場のコミュニケーションが活発
従業員エンゲージメントが高い企業の特徴として、役職や部署に関わらず、オープンで活発なコミュニケーションが行われている点が挙げられます。
特に、経営層と現場の従業員との間の双方向コミュニケーションが確保されている点は重要な共通点です。経営層は、会社の経営状況や戦略、意思決定の背景などを透明性を持って従業員に伝え、理解と納得を促します。
一方、現場からは、日々の業務で感じている課題や改善提案、顧客の声などが経営層にスムーズに届く仕組みが機能しています。このような情報の行き来が活発であることで、従業員は会社の方針を自分事として捉えやすくなり、経営に対する信頼感も高まります。
具体的な取り組みとしては、全従業員が参加できるタウンホールミーティングの定期的な開催や、経営層が直接現場を訪れて従業員と対話する機会、社内SNSなどを活用した情報共有などが挙げられます。
重要なことは、形式的な場だけでなく、日常的に気軽に意見交換ができる雰囲気づくりです。経営層と現場の距離が近く、互いの状況を理解し合える関係性が、組織全体の一体感とエンゲージメントを高める土壌となります。
上司によるフィードバックの文化が根づいている
従業員エンゲージメントの向上において、直属の上司との関係性は極めて重要です。エンゲージメントが高い企業では、上司が部下の成長に関心を持ち、日頃から質の高いフィードバックを行う文化が根付いています。
これは、単に年に数回の人事評価面談を行うだけでなく、日常業務の中での継続的な関わりを意味します。具体的には、部下の仕事ぶりを注意深く観察し、良かった点や成果を具体的に褒め、改善が期待される点については客観的な事実にもとづいて建設的なアドバイスを行います。定期的な1on1ミーティングなどを通じて、部下のキャリアプランや悩みにも耳を傾け、目標達成に向けたサポートを行うことも重要です。
このような質の高いフィードバックは、部下にとって自身の現在地を確認し、成長の方向性を定めるための貴重な機会となります。
また、上司は自分のことを見てくれている、気にかけてくれているという感覚は、安心感と信頼関係を育み、仕事へのモチベーションを高めます。フィードバックが一方的な指示や評価に偏らず、対話を通じて行われることもポイントです。
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裁量権と成長機会が適切に与えられている
従業員が仕事に対して主体的に関わり、やりがいを感じるためには、一定の裁量権が与えられていることが重要です。エンゲージメントが高い企業では、従業員の役職や経験に応じて、業務の進め方やスケジュールの調整、意思決定への参加など、適切な範囲で裁量が認められています。
すべてを細かく指示されるのではなく、自身の判断で工夫できる余地があることで、従業員は仕事に対するオーナーシップを持ち、責任感を持って取り組むようになります。マイクロマネジメントのように、細かく指示され管理される環境では、従業員の自律性は育ちません。
成長の機会としては、新しいスキルを習得するための研修プログラムの提供、資格取得の支援、より難易度の高い業務への挑戦機会、社内公募制度による異動や昇進のチャンス、メンター制度によるサポートなどが挙げられます。この会社で働き続ければ、自分は成長できるという実感は、エンゲージメントを維持・向上させる上で非常に強力な動機付けとなります。
企業は、従業員を信頼し、適切な裁量を与え、継続的な学びと挑戦の機会を提供することで、彼らの潜在能力を引き出し、エンゲージメントを高めることができるでしょう。
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従業員の声をすぐに反映する仕組みがある
従業員エンゲージメントが高い企業は、従業員の声に真摯に耳を傾け、それを組織運営や制度改善に迅速に反映させる仕組みを構築・運用しています。
従業員が日々の業務で感じている課題、改善提案、職場環境に対する要望などを、気兼ねなく発信できるチャネルが用意されています。そして、寄せられた声に対して、企業側が聞きっぱなしにせず、真剣に受け止め、具体的なアクションを起こし、その結果を従業員にフィードバックすることが重要です。
自分の意見が会社を動かし声を上げれば改善されるという実感は、従業員の当事者意識を高め、組織への信頼と貢献意欲を大きく向上させます。
意見収集の方法としては、以下のような手法が考えられます。
定期的な従業員エンゲージメントサーベイや満足度調査
より頻繁に行うパルスサーベイ
匿名の意見箱や提案制度の設置
イントラネット上のフォーラム
部門ごとのミーティングや1on1ミーティング
重要なのは、単に意見を集めるだけでなく、収集した意見を分析し、優先順位をつけて改善策を実行し、その進捗や結果を透明性を持って従業員に共有することです。従業員の声を組織改善の貴重な資源と捉え、継続的に反映していく姿勢が、エンゲージメントの高い組織文化を育みます。
心理的安全性が高く挑戦が歓迎される環境がある
従業員がその能力を最大限に発揮し、高いエンゲージメントを維持するためには、職場の心理的安全性が確保されていることが不可欠です。
心理的安全性が高い職場とは、従業員がありのままの自分でいることができ、他のメンバーからの拒絶や不利益を心配することなく、自分の考えや意見を自由に発言したり、疑問を呈したり、新しいアイデアを試したりできる環境を指します。
無知だと思われないか否定されないか罰せられないかといった不安を感じずに、安心して行動できる状態です。このような環境では、従業員は本来持っている能力やアイデアを自由に発揮しやすくなります。
多様な意見が活発に交わされることで、イノベーションが促進され、問題解決能力も向上します。また、失敗を恐れずに挑戦できる文化は、組織全体の学習意欲を高め、変化への対応力を強化します。心理的安全性を醸成するためには、リーダーがメンバーの発言を傾聴し、異なる意見を尊重する姿勢を示すこと、チーム内で互いを支援し、協力し合う関係性を築くこと、失敗を許容し挑戦を奨励する文化を育むことが重要です。
従業員一人ひとりが安心して自分らしくいることができ、前向きに挑戦できる環境こそが持続的なエンゲージメントを支えます。
従業員エンゲージメントが低い4つの原因
従業員エンゲージメントが低下してしまう主な原因について解説します。エンゲージメントを高めるためには、まずその低下要因を理解することが重要です。
従業員のエンゲージメントが低い状態にあるとき、主に以下のような原因が考えられます。
<従業員エンゲージメントが低い4つの原因>
上司との関係に信頼が築けていない
評価や報酬が努力に見合っていないと感じている
意見を言っても変化しないという諦め感がある
職場の人間関係や風土にストレスを感じている
上司との関係に信頼が築けていない
従業員のエンゲージメントに影響を与える要素のひとつが、直属の上司との関係性です。上司に対して信頼できない、尊敬できないと感じている場合、従業員のエンゲージメントは著しく低下する傾向にあります。
なぜなら、上司は部下の日常業務の指示、評価、成長支援など、仕事におけるさまざまな側面でかかわる身近な存在だからです。その上司との間に信頼関係がなければ、部下は安心して仕事に取り組むことができません。たとえば、上司が部下の意見に耳を傾けない、指示が不明瞭で一貫性がない、約束を守らない、適切なフィードバックを与えない、高圧的な態度を取るといった状況は信頼関係を大きく損ないます。
結果として、部下は正当に評価してもらえないのではないかと相談しても意味がないと感じ、仕事への意欲や組織への貢献意欲を失ってしまうのです。パフォーマンスの低下はもちろん、最悪の場合、離職につながる可能性も否定できません。
企業としては管理職のコミュニケーション能力や傾聴力、フィードバックスキルなどを高めるための研修機会を提供し、部下との間に良好な信頼関係を築けるよう支援することが、エンゲージメント低下を防ぐうえで重要といえるでしょう。
評価や報酬が努力に見合っていないと感じている
従業員が自身の仕事ぶりや成果に対して、正当に評価されていない努力や貢献が報酬に反映されていないと感じることは、エンゲージメントを低下させる大きな原因となります。
多くの従業員は、自分の頑張りが認められ、それに見合った評価や報酬を得ることを期待しています。この期待が満たされないと、頑張っても報われない不公平だといった不満や不信感が募り、仕事へのモチベーションは大きく損なわれてしまいます。
たとえば、評価基準が曖昧であったり、評価プロセスが不透明であったりすると、従業員は評価結果に納得感を得ることが難しくなります。また、高い成果を上げても昇給や昇進につながらない、あるいは同僚と比較して明らかに不公平な評価を受けていると感じる場合も同様です。
従業員はこれ以上頑張る意味がないと感じ、自発的な貢献意欲を失ってしまう可能性が高まります。企業は、客観的で透明性の高い評価制度を構築し、従業員一人ひとりの貢献度を公正に評価することが不可欠です。
評価基準を明確にし、評価プロセスを従業員に丁寧に説明すること、そして成果や貢献度を適切に反映した報酬制度を設計・運用することが、エンゲージメントの維持・向上につながります。
意見を言っても変化しないという諦め感がある
従業員が自分の意見をいっても、どうせ何も変わらない提案しても無駄だといった諦めの感情を抱いている状態も、エンゲージメント低下の深刻な原因となり得ます。
多くの従業員は、日々の業務や職場環境に対して、何らかの課題意識や改善のアイデアを持っています。自分の意見や提案が組織をより良くするきっかけになるかもしれないという期待を少なからず抱いています。しかし、勇気を出して意見を述べたり、改善提案をしたりしても、それが全く聞き入れられなかったり、検討される様子すらなかったりする経験が続くと、従業員は次第に声を上げるだけ無駄だという無力感を抱くでしょう。
このような諦め感は、組織に対する当事者意識や貢献意欲を著しく低下させます。たとえば、定期的に従業員サーベイを実施していても、その結果が共有されず、具体的な改善策も示されない場合や、会議で発言しても上司や他のメンバーに聞き流されてしまう場合などは諦めにつながるでしょう。
企業は、従業員の意見を真摯に受け止め、検討し、可能な範囲で改善につなげるプロセスを確立することが重要です。たとえすべての意見を採用できなくても、検討結果やその理由を丁寧にフィードバックすることで、諦め感を防ぎ、エンゲージメントを向上・維持しやすくなります。
職場の人間関係や風土にストレスを感じている
従業員が多くの時間を過ごす職場において、人間関係や組織風土はエンゲージメントに大きな影響を与えます。同僚や他部署との関係が悪かったり、組織全体の雰囲気がネガティブであったりすると、従業員は大きなストレスを感じ、仕事への意欲を失ってしまうことがあります。
たとえば、部署間で協力する姿勢がなく、対立や責任の押し付け合いが常態化している職場や、陰口や噂話が横行し、互いを尊重する文化がない職場では、従業員は安心して働くことができません。また、過度な失敗を許さない、挑戦を歓迎しないといった硬直的な組織風土も、従業員の心理的安全性を脅かし、エンゲージメントを低下させる原因となります。
ポジティブで健全な職場環境と組織風土を築くことが、エンゲージメント向上のための重要な土台となります。
従業員エンゲージメントを高める5つのメリット
従業員エンゲージメントを高めることは、組織の持続的な成長に不可欠な要素です。従業員が自社や仕事に対して愛着や誇りを持つことで、単に満足度が上がるだけでなく、企業の業績にも直結するさまざまな好影響を期待できます。
従業員エンゲージメントを高めることで得られる5つのメリットは、以下の通りです。
<従業員エンゲージメントを高める5つのメリット>
離職率の低下による採用・教育コストの削減
生産性向上による業績アップ
従業員の主体的な行動によるイノベーション創出
組織への信頼感醸成による企業ブランド強化
従業員の健康・メンタル安定による労働損失削減
離職率の低下により採用・教育コストを削減できる
従業員エンゲージメントを高める重要なメリットのひとつは、従業員の離職率が低下し、結果として採用や教育にかかるコストを大幅に削減できる点にあります。
エンゲージメントが高い従業員は、自社に対する愛着や仕事への貢献意欲が強く、組織の一員として長期的に貢献したいと考える傾向があります。会社への信頼感や仕事へのやりがいを感じているため、転職を考える可能性が低くなるのです。
従業員が1人退職すると、新たな人材の募集広告費、選考プロセスに関わる人件費、入社後の研修費用など、多大なコストが発生します。
特に、専門知識や経験を持つ人材の流出は、金銭的なコストだけでなく、組織の知識やノウハウの損失にもつながります。従業員エンゲージメントを高め、人材の定着を促進することは、コスト削減効果だけではなく、組織力の維持・強化にもつながり、企業の安定した経営基盤を築くうえで重要です。
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生産性が向上し、業績アップに直結する
従業員エンゲージメントの向上は、従業員一人ひとりの生産性を高め、企業全体の業績向上に直接的な影響を与えます。エンゲージメントが高い従業員は、自身の仕事に誇りと責任感を持ち、与えられた業務をこなすだけではなく、より高い成果を目指して主体的に取り組みます。
目標達成への意欲が高く、自ら業務の改善点を見つけ出し、効率化を図ろうと努力する傾向があります。
従業員の高いモチベーションが、業務の質の向上、顧客への丁寧な対応、新たな価値創造へとつながるためです。
エンゲージメントの高い従業員は、単に個人のパフォーマンスが高いだけではなく、周囲のメンバーにも良い影響を与え、チーム全体の生産性を引き上げる効果も期待できます。
従業員エンゲージメントを高める施策への投資は、企業の収益力を強化し、持続的な成長を実現するための重要な戦略といえるでしょう。
従業員が主体的に行動し、イノベーションが生まれる
従業員エンゲージメントが高い組織文化は、従業員の主体的な行動を促し、結果として新しいアイデアやイノベーションが生まれやすい環境を創出します。
エンゲージメントの高い従業員は、単に指示された業務をこなすだけでなく、常に組織全体の目標達成を意識し、より良い方法はないか、新しい価値を生み出せないかと自ら考える姿勢を持っています。自分の仕事が組織の成功に貢献しているという実感や、会社への信頼感は、従業員が失敗を恐れずに新しい挑戦をするための心理的な土壌となるでしょう。
たとえば、Googleでは20%ルールという制度を設け、従業員が業務時間の一部を自身の興味関心にもとづくプロジェクトに費やすことを奨励しています。このような従業員の自律性を尊重する文化が、革新的なサービスや製品の創出につながっているのです。従業員が組織の課題を自分ごととして捉え、積極的に解決策を提案したり、部門を超えて協力したりするようになることで、組織全体の活性化と競争力強化が期待できます。
イノベーションは企業の持続的成長に不可欠であり、その源泉となる従業員の主体性を引き出す上で、エンゲージメント向上は重要です。
参照:イノベーションが生まれる職場環境をつくる|Google re:Work
組織への信頼感が醸成され、企業ブランドが強化される
従業員エンゲージメントを高めることは、従業員と組織との間の信頼関係を深め、企業のブランドイメージとしての魅力を内外に示すうえで大きなメリットです。エンゲージメントの高い従業員は、自社の商品やサービス、企業文化に対して誇りや愛着を持っています。そのため、顧客に対してはもちろん、自身の友人や知人に対しても、自社について肯定的に語る傾向があります。
このような従業員による自発的な情報発信は、企業の評判を高め、信頼性を向上させる強力な力となります。特に採用面においては、働きがいのある会社というポジティブな評判が広がることで、優秀な人材を引きつけやすくなります。従業員紹介制度(リファラル採用)においても、エンゲージメントの高い従業員は積極的に協力してくれる可能性が高く、採用コストの削減と同時に、企業文化にマッチした人材の獲得につながります。
従業員が生き生きと働き、会社に貢献している姿は、社外に対して最も説得力のある企業ブランディングといえるでしょう。
従業員の健康やメンタルの安定により労働損失が減る
従業員エンゲージメント向上への取り組みは、従業員の心身の健康維持やメンタルの安定につながり、結果として欠勤や休職といった労働損失を減少させる効果があります。
エンゲージメントが高い従業員は、仕事に対する満足感や達成感を得やすく、ストレスへの耐性が比較的高い傾向が見られます。また、自身の仕事に意義を見出し、組織から必要とされていると感じることは、精神的な安定に寄与するでしょう。
企業が従業員のウェルビーイングを重視し、健康診断の補助、相談窓口の設置、ストレスチェックの実施、休暇取得の推奨といった具体的なサポートを提供することは、従業員が安心して働ける環境作りにつながります。
従業員エンゲージメントを高め、心身ともに健康で意欲的に働ける状態を維持することは、損失を未然に防ぎ、組織全体の活力を維持するために不可欠です。
従業員エンゲージメントを高めるための9つの施策
従業員エンゲージメントを高めることは、企業の持続的な成長に不可欠な要素です。しかし、具体的に何をすれば良いのかとお悩みの方も多いのではないでしょうか。
従業員エンゲージメントを効果的に向上させるための具体的な9つの施策を、それぞれの目的やポイントとともにご紹介します。
<従業員エンゲージメントを高めるための9つの施策>
ミッションやビジョンを策定し、全社員に浸透させる
社内コミュニケーションの機会を意図的に設計する
ピアボーナスや称賛制度で仲間からの承認や賞賛を促す
評価制度を見直し、納得感と透明性を高める
スキルアップやキャリア形成を支援する仕組みをつくる
柔軟な働き方とワークライフバランスを実現する
福利厚生を見直し、従業員満足度を高める
定期的なエンゲージメントサーベイで現状を可視化する
上司による定期的な1on1とフィードバック文化の醸成
これらの施策を自社の状況に合わせて組み合わせ、継続的に取り組むことで、従業員一人ひとりが仕事への熱意を高め、組織全体の活性化へとつなげていきましょう。
ミッションやビジョンを策定し、全社員に浸透させる
従業員エンゲージメントを高めるための出発点は、企業の存在意義であるミッションと、目指すべき未来像であるビジョンを明確に定め、それを全社員に深く理解・共感してもらうことです。従業員は、会社がどこへ向かっているのか、社会に対してどのような価値を提供しようとしているのかを知ることで、自身の仕事とその大きな目標とのつながりを見出すことができます。
ミッション・ビジョンを浸透させるためには、経営層が自身の言葉で熱意をもって語り続けることが重要です。全社集会や社内報、イントラネットなど、あらゆるチャネルを通じて、具体的な事業戦略や日々の業務と結びつけながら、繰り返し発信しましょう。
また、研修やワークショップを通じて、従業員自身がミッション・ビジョンについて考え、自分の言葉で語る機会を設けることも効果的です。企業の揺るぎない軸であるミッション・ビジョンが従業員一人ひとりの心に響き、日々の行動指針となることで、組織全体が同じ方向を向き、エンゲージメントの高い状態が実現します。
社内コミュニケーションの機会を意図的に設計する
組織内の風通しをよくし、従業員エンゲージメントを高めるためには、部門や役職といった壁を越えたコミュニケーションが活発に行われる機会を、企業側が意図的に設計し、創出していく必要があります。コミュニケーションが不足すると、情報の偏りや誤解が生じやすくなるだけではなく、従業員は組織の中で孤立感を深め、エンゲージメントが低下する一因となります。
特に、現場の意見やアイデアが経営層に届きにくい状況は、従業員の当事者意識を削ぎ、ボトムアップでの改善活動を停滞させてしまいます。
社内コミュニケーションを活性化させるためには、双方向性を意識した以下のような取り組みが重要です。
部署を横断したプロジェクトの推進
社内SNSやチャットツールの積極的な活用
自由に意見交換ができる目安箱の設置
経営層と従業員が直接対話できるタウンホールミーティングの開催
異なる部署のメンバーと交流できるシャッフルランチや社内イベントの企画
これらの施策を通じて、従業員が安心して自分の意見を発信でき、互いに協力し合える心理的安全性の高い環境を醸成することが、エンゲージメント向上につながります。
ピアボーナスや称賛制度で仲間からの承認や賞賛を促す
従業員エンゲージメントを高めるためには、上司からの評価だけではなく、共に働く同僚からの承認や賞賛が日常的に得られる文化を醸成することが有効です。
そのための具体的な施策として、ピアボーナスや称賛制度の導入が注目されています。ピアボーナスとは、従業員同士が互いの貢献や協力に対して、感謝のメッセージと共に少額のインセンティブ(ポイントなど)を送り合う仕組みです。
人は、自分の仕事ぶりや行動を身近な仲間から認められることで、自己肯定感が高まり、仕事へのやりがいやチームへの所属意識を強く感じることができます。特に、日常業務の中での細やかなサポートや協力といった、従来の評価制度では見過ごされがちな陰の貢献に光を当てられる点が、ピアボーナスの大きなメリットです。
これにより、従業員は誰かが見てくれていると感じ、ポジティブな行動が促進されます。専用ツールを活用するほか、サンクスカードの交換や、チームミーティングでの称賛タイムの設定、社内報でのグッドプラクティスの共有なども有効な手段です。従業員同士が互いを尊重し、感謝し合うポジティブな文化を育むことが、組織全体のエンゲージメントと熱意を高めることにつながります。
評価制度を見直し、納得感と透明性を高める
従業員が自身の働きぶりや成果に対して、公正かつ適切に評価されていると感じられることは、仕事へのモチベーションやエンゲージメントを維持・向上させる上で極めて重要です。そのため、既存の人事評価制度が従業員の納得感を得られているか、評価基準やプロセスが透明であるかを定期的に見直し、改善していく必要があります。
評価基準が曖昧であったり、評価プロセスが不透明であったりすると、従業員はなぜこのような評価なのか何を頑張れば評価されるのかといった不信感や不満を抱きやすくなります。これは、従業員の仕事への熱意を削ぎ、エンゲージメントを低下させる大きな要因となります。
納得感と透明性を高めるためには、まず評価基準を具体的かつ客観的に定め、従業員に明確に周知することが第一歩です。期初に上司と部下で目標と評価基準についてすり合わせを行い、共通認識を持ちましょう。
評価期間中には定期的なフィードバック面談を実施し、進捗状況や期待を伝え、最終評価の際にはその根拠を丁寧に説明することが求められます。評価制度の改善は、従業員の主体的な行動や成長意欲を引き出し、組織全体の活性化を促すための重要なきっかけとなります。
スキルアップやキャリア形成を支援する仕組みをつくる
従業員一人ひとりが仕事を通じて成長を実感し、将来に向けたキャリアを主体的に築いていけるよう、会社として学びの機会を提供し、キャリア形成を支援する仕組みを整えることは、エンゲージメント向上に大きく貢献します。
多くの従業員は、自身のスキルを高めたい、専門性を深めたい、キャリアアップしたいという成長意欲を持っています。会社がその意欲に応え、成長を後押しする姿勢を示すことは、従業員の学習モチベーションを高めるだけではなく、この会社で働き続けたいという組織への愛着や貢献意欲にもつながります。
具体的な施策としては、業務に関連する知識やスキルを学べる研修プログラムの提供、資格取得費用の補助、書籍購入支援、eラーニングシステムの導入などが挙げられます。
また、経験豊富な先輩社員が助言を行うメンター制度や、定期的に上司とキャリアについて話し合うキャリア面談の機会、希望する部署や職務に挑戦できる社内公募制度なども、従業員の主体的なキャリア形成を力強くサポートします。
従業員の成長したいという熱意に応えることは、個人の能力開発に留まらず、組織全体の知識・スキルの底上げと、将来のリーダー育成にもつながる重要な投資です。
柔軟な働き方とワークライフバランスを実現する
従業員の多様なライフスタイルや価値観を尊重し、仕事と私生活の調和を図れるよう、リモートワークやフレックスタイム制度といった柔軟な働き方を導入・推進することは、従業員エンゲージメントを高めるうえで効果的な施策のひとつです。
育児や介護、自己啓発、趣味など、従業員が仕事以外の時間も大切にできる環境を整えることで、心身の健康維持やストレス軽減につながります。
また、企業が従業員のプライベートな事情や価値観を尊重し、柔軟な働き方を認める姿勢を示すことは、従業員からの信頼感を高め、働きがいのある会社としての魅力を向上しやすくなります。代表的な制度には、働く場所を自由に選べるリモートワーク、始業・終業時間を調整できるフレックスタイム制度、週の労働日数を減らす圧縮労働時間制(週休3日制など)があります。
これらの制度を導入する際には、コミュニケーション手段の確保や公平性の担保など、運用面での工夫も必要ですが、従業員の自律性を尊重し、主体的な働き方を支援することが、結果的にエンゲージメントと組織全体の活力向上に寄与します。
福利厚生を見直し、従業員満足度を高める
法律で定められた法定福利厚生だけでなく、企業独自の法定外福利厚生を充実させ、従業員の多様なニーズに応えることは、従業員満足度を高め、エンゲージメント向上のための良好な基盤を築くうえで重要です。
福利厚生は、従業員の経済的な安定や健康維持、生活の質の向上をサポートするものであり、会社が従業員のことを大切に考えてくれているというメッセージを伝える役割も担います。従業員が安心して働ける環境が整っていると感じることは、仕事への意欲や会社への愛着心を育むためには欠かせません。
福利厚生には、以下のような種類があります。
住宅手当、家族手当、通勤手当などの金銭的支援
社員食堂や食事補助
健康診断のオプション追加や人間ドック補助、フィットネスクラブ利用補助といった健康支援、
育児・介護休業制度の充実や時短勤務制度、ベビーシッター補助などの両立支援
資格取得支援や書籍購入補助などの自己啓発支援
近年では、従業員が用意されたメニューの中から自分に必要なものをポイントなどで選択できるカフェテリアプランも人気です。重要なのは、自社の従業員がどのような福利厚生を求めているかを把握し、ニーズに合った制度を提供・改善していくことです。
定期的なエンゲージメントサーベイで現状を可視化する
従業員エンゲージメントサーベイを定期的に実施し、組織やチーム、従業員個々のエンゲージメントの状態を客観的なデータにもとづいて測定・可視化することは、効果的な改善策を講じるための不可欠なプロセスです。
現状のエンゲージメントレベルや、それに影響を与えている要因を正確に把握しなければ、課題に対する的確なアプローチを見つけることは困難です。サーベイを通じて従業員の生の声を収集し、分析することで、組織が抱える問題点や、エンゲージメント向上のための具体的なヒントを得られます。
サーベイには、年に1回程度、網羅的な質問で全体像を把握するセンサスサーベイや、月1回・週1回など短い間隔で特定のテーマについて尋ねるパルスサーベイなどがあります。また、eNPSのように従業員の推奨度を測るシンプルな指標も有効です。
重要なのは、調査を実施して終わりにするのではなく、その結果を分析し、具体的な改善アクションプランを策定・実行し、その効果を次のサーベイで測定するというPDCAサイクルを確立することです。
上司による定期的な1on1とフィードバック文化の醸成
上司と部下が1対1で対話する1on1ミーティングを定期的に実施し、日々の業務の中で建設的なフィードバックを双方向で行う文化を組織全体で醸成することは、従業員エンゲージメントを直接的に高めるうえで効果的な施策です。
1on1ミーティングは、単なる業務報告の場ではなく、上司が部下一人ひとりの状況や考え、悩み、キャリアに対する希望などを深く理解し、個別のサポートや成長支援を行うための重要なコミュニケーション機会です。信頼関係にもとづいた対話を通じて、部下は心理的安全性を感じ、安心して本音を話せるようになります。
また、日常的なフィードバックは、従業員の成長を促す上で欠かせません。具体的な行動に対するタイムリーなフィードバックは、従業員の行動変容を促し、スキルアップやモチベーション向上につながります。大切なのは、フィードバックが一方的な指示や批判になるのではなく、双方向の対話を通じて行われることです。
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従業員エンゲージメントの4つの測定方法
従業員エンゲージメントを向上させるためには、まず組織の現状を正確に把握することが不可欠です。エンゲージメントの状態が見えにくいどの施策から手をつけるべきか分からないといった課題をお持ちではないでしょうか。
従業員エンゲージメントの状態を多角的に捉え、具体的な改善策につなげるための主要な4つの測定方法について、それぞれの特徴や活用ポイントを詳しく解説します。
<従業員エンゲージメントの4つの測定方法>
フレームワーク名称 | 詳細 |
---|---|
センサスサーベイ | 年1回の全社調査で組織の全体像を可視化する |
パルスサーベイ | 高頻度な調査で変化をタイムリーに把握する |
eNPS | 従業員の推奨度からロイヤルティを定量的に測定する |
1on1 | 対話を通じたエンゲージメントの質的把握 |
センサスサーベイ:年1回の全社調査で組織の全体像を可視化する
センサスサーベイは、年に1回程度の頻度で、原則として全従業員を対象に行われる大規模なアンケート調査です。この調査の最大の目的は、組織全体の従業員エンゲージメントの現状を包括的に把握し、その構造的な要因や課題を明らかにすることにあります。
まるで組織全体の健康診断のように、業務内容、人間関係、上司との関係、評価制度、企業文化、福利厚生などエンゲージメントに影響を及ぼすさまざまな側面にわたって詳細な質問を設定します。
組織全体としての強みや弱点を網羅的に特定し、長期的な視点での改善計画や人事戦略を立案するための基礎データを得られます。収集されたデータは、部署別、役職別、勤続年数別といった属性ごとに分析することで、どの層でエンゲージメントが高い/低いのかどのような要因が影響しているのかといった、より詳細なインサイトを得ることも可能です。
ただし、網羅的な調査であるため設問数が多くなりがちで、従業員の回答負担が大きくなる可能性があります。また、実施から結果分析、施策実行までには時間を要するため、短期的な変化への迅速な対応には限界があります。年に一度の貴重な機会として、組織全体の現状を深く理解するために戦略的に活用することが重要です。
パルスサーベイ:高頻度な調査で変化をタイムリーに把握する
パルスサーベイは、センサスサーベイとは対照的に、数問から十数問程度の短い質問項目で構成され、週に1回や月に1回といった高い頻度で実施される調査手法です。パルス(脈拍)という名前の通り、組織や従業員のコンディションの変化を、リアルタイムに近い形で継続的に測定することを目的としています。
現代のビジネス環境は変化が速く、従業員のモチベーションやエンゲージメントも日々変動します。パルスサーベイを活用することで、年1回の調査では見逃しがちな短期的な変化や、特定の出来事に対する従業員の反応を迅速に捉えられます。
これにより、問題の兆候を早期に発見し、タイムリーな対策を講じることが可能になります。質問項目を絞ることで、従業員は数分で回答でき、回答負担が少ないため、比較的高い回答率を維持しやすいというメリットも得やすいです。
継続的にデータを収集・分析することで、エンゲージメントの変化と特定の施策との関連性を検証したり、離職の予兆を早期に検知したりといった活用も期待できます。ただし、頻繁な調査は従業員に調査疲れを感じさせるリスクがあるため、調査の目的を明確にし、適切な頻度と質問数を設定すること、調査結果にもとづいたアクションを迅速に示すことが重要です。
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eNPS:従業員の推奨度からロイヤルティを定量的に測定する
eNPS(Employee Net Promoter Score)は、「あなたが現在の職場を、親しい友人や家族にどの程度勧めたいと思いますか?」というシンプルな問いを通じて、従業員の自社に対する推奨度、すなわちロイヤルティ(忠誠心)や愛着度を定量的に測定するための指標です。
従業員が自身の働く会社を、信頼する身近な人に勧められるかどうかは、その会社に対する総合的な満足度やエンゲージメントの高さを端的に示すものと考えられています。
上記の質問に対し、0点(全く推奨しない)から10点(非常に推奨する)の11段階で評価を求めます。そして、回答者を点数に応じて推奨者(Promoters:9~10点)中立者(Passives:7~8点)批判者(Detractors:0~6点)の3つのグループに分類します。
点数 | 分類 |
---|---|
0~6 | 批判者(Detractors:0~6点) |
7~8 | 中立者(Passives:7~8点) |
9~10 | 推奨者(Promoters:9~10点) |
最終的なeNPSスコアは、推奨者の割合(%)から批判者の割合(%)を差し引いて算出されます。質問が1問(多くの場合、理由を問う自由記述と合わせて2問)と非常にシンプルなため、従業員の回答負担が少なく、手軽に実施できる点がメリットです。定期的に測定することで、組織全体のロイヤルティレベルの変化を簡単に追跡できます。
ただし、eNPSはあくまで推奨度を測る指標であり、なぜそのスコアなのかという具体的な背景要因まではわかりません。そのため、eNPSの結果と合わせて、他のエンゲージメントサーベイや1on1ミーティングなどを実施し、スコアの変動要因を探ることが重要です。
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1on1ミーティング:対話を通じたエンゲージメントの質的把握
上司と部下が1対1で定期的に行う1on1ミーティングは、エンゲージメントサーベイのように数値を測定するアプローチとは異なり、直接的な対話を通じて、従業員一人ひとりのエンゲージメントの状態や、その背景にある感情、価値観、抱えている課題などを質的に深く理解するための重要な機会です。
サーベイのスコアだけでは捉えきれない、個々の従業員の生の声に耳を傾けることで、よりパーソナライズされたサポートやエンゲージメント向上策のヒントを得られます。
部下のキャリアプラン、仕事におけるやりがいや悩み、人間関係、プライベートとのバランス、最近の学びや成長実感など、テーマを限定せず、部下が話したいことを中心に対話を進めることが大切です。上司には、指示やアドバイスをする前に、まず部下の話を真摯に傾聴し、共感する姿勢が求められます。安心・安全な雰囲気の中で対話を行うことで、部下は本音で話すことができ、上司との信頼関係が深まります。この信頼関係こそが、エンゲージメントの基盤となります。
対話を通じて、部下のモチベーションの源泉や、エンゲージメントを阻害している要因、コンディションの変化などをきめ細かく把握し、サーベイデータと組み合わせることで、より実態に即した効果的なエンゲージメント向上策へとつなげていくことが可能です。
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従業員エンゲージメントを高めた5つの事例
従業員エンゲージメントに課題をもちながらも、改善に成功した企業が多くあります。ここでは、従業員エンゲージメントを高めた事例を5つ紹介します。
<従業員エンゲージメントを高めた5つの事例>
多大な労力と時間を大幅に削減。 迅速に課題を抽出し、 改善アクションを明確化した方法とは?
自社に最適なオリジナル研修を設計。 社員の成長と高い満足度を実現した独自の1on1研修とは?
現場主導の組織改善を図る。 従業員がいきいきと働くための取り組みとは
人事業務効率化とエンゲージメント向上を推進。人材育成に力を入れるC-Unitedの取り組みとは
カギは現場主導の組織改善。一人ひとりの社員体験を継続的に向上させる取り組みとは
多大な労力と時間を大幅に削減。 迅速に課題を抽出し、 改善アクションを明確化した方法とは?

株式会社ひろぎんホールディングスでは、従業員エンゲージメント向上を目指して取り組んでいたものの、手作業による集計・分析作業に多大な労力と時間がかかり、リアルタイムでの組織状態把握や迅速な改善アクションの立案ができていない課題を抱えていました。また、施策効果の検証も十分に行えず、改善サイクルの定着に課題がありました。
スピーディーかつ正確に調査・分析ができるシステムをHRBrainと協力して構築し、グループ会社や職場単位で柔軟に運用できるよう設計を最適化しました。EX Intelligenceを導入することで、多角的なデータ分析や属性別配信、設問カスタマイズを可能とし、さらに運用面でも直感的な操作性と手厚いサポート体制を整えています。
調査・分析にかかる労力と時間を大幅に削減でき、リアルタイムで課題抽出から改善アクションまでをタイムリーに行えるようになりました。各職場ごとの課題が可視化され、従業員一人ひとりの当事者意識が高まり、エンゲージメントへの理解と改善意識が浸透するとともに、社内コミュニケーションの活性化にもつながっています。
自社に最適なオリジナル研修を設計。 社員の成長と高い満足度を実現した独自の1on1研修とは?

JA三井リース株式会社では、1on1ミーティングを導入していたものの、体系的な1on1研修プログラムが存在せず、マネージャー向けに個別で動画視聴型の研修を行なっていたため、理解度や視聴ペースにばらつきが生じていました。また、従業員体験の可視化も不十分であり、社員一人ひとりのキャリア形成支援や意見・要望を引き出す仕組み作りが急務でした。
HRBrainと連携し、徹底した現場ヒアリングを基に自社に最適化したオリジナルの1on1研修プログラムを設計。既存の社内施策との重複を避けるため、他の研修との棲み分けにも配慮しながら内容を細部までカスタマイズしています。また、研修受講者の声やEXサーベイの結果をもとに、回を重ねるごとにプログラム内容をアップデートし、ロールプレイングや自己分析を組み合わせたインタラクティブな構成を採用しました。
その結果、受講者満足度の高い1on1研修を実現し、従業員間のコミュニケーション活性化にも成功しています。マネージャー間での横のつながりが強まり、従業員体験(EX)向上にも寄与するだけではなく、研修を通じて得られたデータを今後の人材育成や事業成長に活かすための基盤作りが進み、会社全体のエンゲージメント向上に大きく貢献した事例です。
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現場主導の組織改善を図る。 従業員がいきいきと働くための取り組みとは

東レ株式会社では、従来の従業員サーベイが十分に組織改善に活かされておらず、データの分析やフィードバックに時間がかかることで現場主導の改善活動が進みにくいという課題がありました。コロナ禍を経て従業員のキャリア観や就業観が大きく変化し、サーベイの実施頻度やスピード感も見直す必要もあったのが導入前の状況でした。
従業員サーベイのシステムをHRBrainのEX Intelligenceに変更し、データの見やすさと分析のしやすさを向上。サーベイの実施頻度を2年に1回から1年に1回に短縮し、現場が主体的に組織改善へ取り組めるよう支援体制を強化しました。
現場のライン長がサーベイ結果を迅速に把握し、組織課題に対する自律的な改善活動が活発化しています。経営層を含めサーベイ結果への関心が高まり、会社全体で組織改善に向けた意識醸成が進むなかで、従業員からも前向きな声が寄せられ、社内外へのPRや人的資本開示にも活用を広げる展望が見えてきています。
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人事業務効率化とエンゲージメント向上を推進。人材育成に力を入れるC-Unitedの取り組みとは

C-United株式会社では、人事評価を紙ベースで運用していたため、年間約1,700時間もの作業時間がかかっているだけではなく、従業員の評価データが一元管理されていないという課題を抱えていました。さらに、会社統合や新型コロナウイルスの影響により、従業員の不安が高まり、退職者の増加という問題も発生していました。
人事業務の効率化と従業員エンゲージメント向上を目的に、HRBrainを導入して人事評価の運用をシステム化しました。さらに、組織診断サーベイEX Intelligenceを活用し、従業員の不安や組織課題を可視化・分析する取り組みをはじめています。
HRBrain導入により、評価にかかっていた1,700時間の作業時間を削減し、その分を評価内容の充実や納得度向上施策に充てられるようになりました。EX Intelligenceの活用により、課題点をスコアとして可視化し、具体的な改善策を講じられるようになったことで、従業員エンゲージメント向上にもつながっています。
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カギは現場主導の組織改善。一人ひとりの社員体験を継続的に向上させる取り組みとは

株式会社博展では、事業規模拡大やリモートワーク普及により、社員の状況把握や組織課題への対応が難しくなっていました。そこで、従業員一人ひとりの体験(EX)向上を目指し、組織診断サーベイ「EX Intelligence」を全社導入しています。
導入の鍵は「現場主導」での活用です。人事部が主導する「サーベイ職場MTG」を通じて、各組織のマネジャー自身がサーベイ結果を分析。組織の課題を特定し、具体的な改善アクションプランを策定・実行するサイクルを構築しました。
これにより、従来は経験や勘に頼りがちだった組織改善が、データにもとづいた客観的なものへと変化し、施策の効果測定も可能となり、「アクションに自信が持てるようになった」「課題解決のため、他部署の好事例を学びたい」といったマネジャーの自発的な動きも生まれています。
サーベイ結果という共通言語を持つことで、組織改善への当事者意識が高まり、従業員エンゲージメント向上につながっている好事例です。
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おすすめの従業員エンゲージメント向上ツールHRBrain

従業員エンゲージメントの向上は、企業の成長や組織力強化に欠かせない重要なテーマです。しかし、エンゲージメントの現状把握から課題の特定、改善施策の実行、効果測定に至るまでを自社だけで完結させるには、多くの時間と労力が必要になります。
そこでおすすめしたいのが、従業員エンゲージメント向上を支援するツール、特にHRBrainのような統合型プラットフォームの活用です。
HRBrainは、サーベイによる現状把握から分析、改善アクションの管理までを一元化し、組織の課題解決をスムーズに進められます。データにもとづく客観的なアプローチにより、確実にエンゲージメント向上を目指せる点が大きな魅力です。
従業員エンゲージメント向上は組織成長への第一歩
従業員エンゲージメントの向上は、企業の成長と持続的な競争優位性を支える重要な鍵です。
単なる満足度向上にとどまらず、組織への愛着や自発的な貢献意欲を育むことで、離職率の低下や生産性向上に直結します。そのためには、明確なビジョン共有、活発なコミュニケーション、柔軟な働き方支援などが不可欠です。
従業員エンゲージメントが高い企業の共通点を参考にしながら、さまざまなサーベイや日々のコミュニケーションを通じて従業員の声に耳を傾け、従業員エンゲージメントの向上に取り組みましょう。
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