
従業員の「声」を「戦略」に変える。 東急ストアのデータドリブンな組織改善事例
株式会社東急ストア 人材戦略部 ダイバーシティ推進課長
齋藤 香絵 様
株式会社東急ストア 人材戦略部ダイバーシティ推進マネジャー
萩原 祐治 様
株式会社東急ストア 人材戦略部ダイバーシティ推進マネジャー
西村 真太朗 様
- 卸売・小売業
- 1001名~
- 従業員エンゲージメントを向上させたい
- 組織の課題把握・分析がしたい
- 女性活躍・雇用の推進をしたい
- 人材データの分析・活用を行いたい
- 組織診断サーベイ
HRBrain導入開始:2024年08月01日
従業員の「声」を「戦略」に変える。 東急ストアのデータドリブンな組織改善事例
- 課題背景
- 特定部署の業務負荷の増加
- 若手を中心とした離職増加と採用難
- 従来の調査では課題に対する具体的な要因の特定や、施策の立案が困難だった
- 打ち手
- エンゲージメントスコアを可視化することで、課題に対する具体的な施策の実行が可能になった
- 課題として挙げられた「キャリア」「仕事環境」「企業理念」に対して具体的な施策を実行
- 効果
- パート・アルバイト募集時、身だしなみ緩和をアピールしパート・アルバイト採用応募数が3倍に増加
- 業務負荷軽減に向けた施策の提案(デリカ部門の人時充足・休暇取得・長時間勤務の改善など)
Q.「東急ストア」の事業内容を教えてください。
齋藤様:
当社は、一般食品、生鮮食品、衣料品、日用雑貨、生活関連商品など、総合小売業のチェーンストアとして地域のお客さまの暮らしを支えています。特に東急線沿線のお客さまが多く、長きにわたりご愛顧いただいております。

Q.直近の経営状況や、経営課題を教えてください。
齋藤様:
近年、当社を取り巻く経営環境は非常に厳しい状況です。
原材料の枯渇や価格高騰、資材・工事費の高騰、物流コストの上昇に加え、採用難が深刻化し、競合との競争も激化しています。
2024年度は、これらの逆風の中、全社一丸となって収益拡大に努め、売上高は目標予算・前年ともに達成することができました。しかし、スーパーマーケット事業全体においては、依然として課題が残る状況です。
顧客アンケート(NPS調査)の結果からは、鮮度・品質、価格、品揃えなどの項目において、お客さまからの支持が十分に得られていないという課題が見えてきました。
特に、鮮度や品質は最上位には及ばず、品揃えや価格、若年層からの支持も他社と比べてやや劣る状況です。この状況を改善し、東急ストアのファン獲得、コスト効率の改善、顧客離反防止に取り組むことが喫緊の課題です。
Q.そのような課題の中、どのような取り組みをされてきましたか?
齋藤様:
当社では、経営理念である「共存共栄」のもと、「働く仲間を大切に、パートナーと心を合わせて、地域のお客さまの日々の幸せをお手伝いすること」を使命とし、東急ストア独自の価値と強みを築いていくことに取り組んでいます。また、2024年度より中期3か年経営計画をスタートさせました。
「お客さま」「従業員」「地域社会」とのつながりを深めることを主軸に据え、3つの柱「食を極める」「土台を固める」「周辺に染み出す」を掲げ、施策を推進しています。
「食を極める」では、鮮度、品質、健康価値の追求、そして価値に見合った価格の提供に注力し、お客さまに選ばれる商品とサービスをご提供していきます。
「土台を固める」では、具体的には、インナーブランディング、従業員エンゲージメントの向上、多様化するニーズへの対応(ダイバーシティ推進)を通じて、生産性の向上と働きやすさを実現します。
「周辺に染み出す」では、サステナブル経営の推進やアウターブランディング経営(顧客ロイヤルティ向上)を通じて、地域と共に豊かな社会を築くことを目指します。
これらの取り組みにより、「“食”の文化的価値を通じて、地域と共に豊かさや幸せをもたらす無くてはならない存在」となることを10年後のビジョンとして全社的に目指しています。
ファンの獲得、コスト効率の改善、顧客の離反防止といった事業上の課題に対して、これらの施策を推進し、お客さまと従業員に信頼され、選ばれる企業になることを目指しています。
Q.取り組みを進める上で、組織における課題は何でしょうか。
齋藤様:
コロナ禍以降に人材確保の難しさが顕著になったことです。新卒採用計画の未達やパート・アルバイトの人手不足が深刻化し、特に若年層の離職が増加傾向にあったため、離職防止が喫緊の課題でした。
特にデリカ部門では、社員一人がマネジメントするパートナー従業員の人数が多く、業務負荷が高いことがあげられます。また、早期にリーダーに昇格する若手社員が経験不足から負担を感じ、離職に繋がるケースが見受けられました。
萩原様:
2024年3月には人材戦略部内に組織としてダイバーシティ推進を設立し、女性活躍の推進や外国人技能実習生の受け入れ、高齢者の雇用年齢を78歳まで引き上げるなど、様々な取り組みを進めています。多様な人材の活躍推進や働きやすい環境づくりを行っていく中で、言語の壁や身だしなみルールの統一、既存従業員との関係値の構築など、新たな課題も生じています。
多様な価値観を持つ従業員が、いきいきと活躍できる環境をつくるためには、従来の満足度調査だけでは不十分だと考えました。より深く組織の状態を把握し、効果的な打ち手を講じるために、エンゲージメントサーベイの導入を決断しました。
Q.そのような中、貴社が従業員エンゲージメント向上に取り組むことになった背景をお聞かせください。
齋藤様:
当社では、2014年から全従業員を対象とした満足度調査を毎年実施していました。しかし、最近は満足度の数値は基準値を上回ってはいるものの下降傾向にあり、何より「エンゲージメント」という視点での測定ができていないことが大きな課題でした。
Q.HRBrainを選んだ決め手(提供サービス、営業の印象、サポート体制など)を教えてください。
齋藤様:
複数の会社と打ち合わせを行いましたが、HRBrainを選んだ決め手は、3つあります。
1つ目は、エンゲージメントスコアの他社比較ができる点
2つ目は、行動につながるアウトプットデータを提示可能である点
3つ目は、柔軟なクロス分析ができる点です。
課題を特定するだけでなく、詳しく分析ができることで、よりピンポイントな課題特定ができますし、具体的なアクションプランを提示してもらえることで課題解決が可能だと期待しました。また、弊社では昨年度より従業員満足度調査と合わせてコンプライアンス意識調査を実施しています。この2種類のアンケートを同一の仕組みで運用できる点も大きな決め手となりました。エンゲージメントが低い層はコンプライアンス意識も低いのではないかという仮説があり、もしそうであれば、そこに効果的な施策を打てるのではないかと考えたためです。
実際に調査した結果、エンゲージメントに関する示唆とコンプライアンスに関する示唆がほぼ同様であったため、エンゲージメント施策をきちんと行うことで、コンプライアンス意識も高まっていくということが分かりました。
Q.実際にEXサーベイを導入してみて、どのようなことが明らかになりましたか?
齋藤様:
昨年の調査結果である満足度3.6点を本年調査のスコアに換算し、EXスコア72点を本年の目標KPIとして設定しました。全社のEXスコアは73点となり、良好な水準を達成できました。内訳を見るとパートナー従業員のスコアが73.8点と高い一方、社員は70.9点と当社が設定したKPIに届かず、課題があることが明確になりました。
特に社員は、期待と実感のギャップが大きい項目として「キャリア」「仕事環境」「企業理念」の3つが浮かび上がってきたのです。
セグメント別に見ると、リーダー層や女性社員、そして若年層の離職課題のあったデリカ部門のスコアが特に低いこともデータで裏付けられました。これまで漠然と感じていた課題が具体的な数値として可視化され、どこから手をつけるべきか、優先順位が明確になったことは大きな収穫でした。

Q.見えてきた3つの課題に対し、どのようにアプローチされたのでしょうか?
齋藤様:
3つの課題に対し、本部と店舗が連動する形で具体的な施策を推進しました。
1つ目の「キャリア」については、若手社員向けにキャリアパスを考える研修を実施し、人事考課面談では上長が部下のキャリア目標を一緒に考えるよう促しました。また、スコアが低かった女性社員向けの取り組みとしては、社長自らキックオフ宣言を行い、約160名のリーダー層を対象とした「女性活躍セミナー」を開始しています。
2つ目の「企業理念」については、経営層と従業員の対話機会を増やすため、若手向けの役員研修を企画しました。現場では、日々の業務が「共存共栄」という企業理念にどう繋がっているのか、上長から部下へ具体例を交えて伝えられるようにしています。
3つ目の「仕事環境」については、最も大きな課題であった業務負荷の軽減に向けて、会社としての採用強化はもちろん、特に負荷の高かったデリカ部門への人員増強を進めています。
また、従業員からの要望が最も多かった「身だしなみ基準」を大幅に緩和したことで働きやすくなったという声が寄せられています。これにより働き手の多様性を尊重し、ニーズに合った働きやすい環境をつくるという会社からの明確なメッセージにもなりました。
Q.HRBrainのEXサーベイ導入後の成果を教えて下さい。
齋藤様:
これまで漠然としか捉えられなかった組織課題をデータに基づいて正確に把握し、具体的な打ち手を考えられるようになったことが最大の成果です。
サーベイを導入したことで、例えば「社員層の『仕事環境』に対する課題意識」が明確になり、その具体的な一因として「身だしなみ基準」への要望が多いことをピンポイントで特定できました。その結果として実行した身だしなみ基準の大幅な緩和は、従業員からも非常に好評です。
誰もが働きやすい職場づくりを目指して取り組み、パート・アルバイト募集時に身だしなみ緩和を打ち出したところ、採用応募数が以前の約3倍にまで増加し効果を実感しています。
具体的な課題特定は、「店長が自店の課題を理解し、行動できるようになる」という現場主導での組織改善点にも繋がっています。これは、経営層からも要望されていたことです。
西村様:
サーベイ結果を基に、店舗ごとの「良好点」「改善点」「具体的な改善アクション例」をまとめたサマリレポートを作成して配布したところ、現場から非常に分かりやすいと好評です。店長からは「自分の所属する店舗の強みや弱みが具体的に把握でき、どこにどうアプローチすれば良いか理解できた。とても役に立った」という声が多数寄せられています。
このように、課題の根本原因を突き止めることを起点として、的確な施策を打ち、それを現場が自分ごととして捉える一連の流れが生まれました。まさに、経営層から現場までが客観的なデータを共通言語として、主体的に改善アクションを起こした好事例だと感じています。
Q.今後の展望として、HRBrainのEXサーベイやサービスを活用してどのようなことを実現していきたいとお考えですか?
齋藤様:
今後の展望としては、初年度の結果を踏まえ、エンゲージメント向上の要因をさらに深く分析していきたいです。例えば、エンゲージメントの高い従業員と低い従業員の特徴や行動を分析し、コミュニケーション施策、マネジメントスタイルの改善、働き方改革など、多岐にわたるアプローチの中から、最も効果的な打ち手を見つけたいと考えています。
また、各部門や部署ごとの強みと弱みを可視化し、現状を正確に把握したうえで、重点的に改善すべき課題を明確にしたいです。退職を検討している層やエンゲージメントが低い従業員の特徴を洗い出し、迅速かつ効果的なフォローアップを行うことで、離職防止とモチベーション向上を目指します。さらに、短期的な改善にとどまらず、中長期的な人材育成プラン、リーダーシップ開発、能力開発プログラムなど、サーベイで取得したソフト情報に基づいて人事戦略を策定していきたいと考えています。
最終的には、従業員一人ひとりがやりがいを持っていきいきと働ける環境を整備すること、それが離職率の低下や、企業の生産性向上、業績向上へと繋がることを目指しています。
Q.HRBrainはどのような企業におすすめですか?
齋藤様:
HRBrainの組織診断サーベイは、自社の強みや弱みを詳細に分析し、優先すべき課題を明確にして解決策を検討したいと考えている企業様におすすめです。サーベイ上で採用やオンボーディングから始まり、業務遂行、評価など領域ごとに回答を得られる点、また、全社だけでなく、部署や役職、年齢、性別といった属性ごとにクロス分析ができる点も非常に役に立つと感じています。
特に、従業員満足度調査だけでは具体的な課題が見えにくいと感じている企業様や、エンゲージメントを向上させ、従業員一人ひとりの行動変容やマインドチェンジに繋げたい企業様、業績向上に結びつけることを目指している企業様には、HRBrainの組織診断サーベイが力を発揮すると思います。
Q.最後に他の企業の人事様に向けてメッセージをお願いします。
齋藤様:
エンゲージメント向上で目指すべきは、従業員の「行動変容」と「マインドチェンジ」だと思います。エンゲージメントを高めることは、従業員のモチベーション向上、生産性向上、最終的には業績向上に直結すると考えています。
組織が大きくなると、経営層の思いやビジョンが従業員一人ひとりに届きにくくなることが往々にしてあります。しかし、サーベイを通じて課題を可視化し、それを現場に浸透させる努力をすることで、従業員が自分ごと化して改善に取り組む土壌をつくることができると実感しています。
ぜひ、従業員の声を経営に反映させながら、多様な人材がいきいきと活躍できる職場環境の実現に向けて、皆さまと共に目指していけると嬉しいです。
※掲載内容は、取材当時の2025年6月時点のものです。