#人材管理
2023/12/08

人的資本とは?注目される背景と開示効果、高める方法をわかりやすく解説

目次

    人的資本に対する重要度が企業経営において高まっています。そこには、ESG投資やSDGsなど人への投資や人権が重視されるといった様々な背景があります。

    今回は、人的資本の意味、人的資本開示と「ISO 30414」の関係や人的資本を高める方法をわかりやすく解説します。

    人的資本について知っておきたい基礎知識

    人的資本とは

    人的資本とは

    人的資本(Human Capital)とは「スキル」「知識」「ノウハウ」「資源」など、従業員がもつ能力を資本としてとらえる考え方をさします。

    アメリカでは、2020年8月に上場企業に対して「人的資本の情報開示」が義務づけられ、日本でも、上場企業などを対象に、2023年3月期決算から、情報開示が義務づけられます。

    人的資本の定義

    人的資本はどのような定義なのでしょうか。人的資本の定義については、各国の国際機関や会計基準等において様々な定義がされており、確固たる定義はありません。

    1つ例を挙げると、経済協力開発機構(OECD)では、「個人の持って生まれた才能や能力と、教育や訓練を通じて身につける技能や知識を合わせたもの」と定義されています。

    (※参考)経済協力開発機構(OECD)「人的資本:知識はいかに人生を形作るか(Human Capital : How what you know shapes your life)

    人的資本の歴史

    人的資本の概念の起源は、18世紀の経済学者アダム・スミスの研究にまで遡ることができます。

    アダム・スミスは「すべての住民や社会構成員の獲得した有用な能力」の重要性を訴えました。その後、経済学的概念として重要視され始めたのは、1950年代末から1960年代になってからになります。

    セオドア・シュルツ等の経済学者によって、アダム・スミスの提唱した考え方が「人的資本」として再定義されました。

    資本とは

    人的資本の「資本」とは、そもそもどのような意味なのでしょうか。

    資本とは、一般的に事業を行うために必要となる資金を指します。

    ただし、学問分野によって厳密には意味が異なり、近代経済学においては「土地と労働に並ぶ生産三要素の1つ」として定義されています。

    人的資本と人的資源との違い

    人的資本と似た言葉に、「人的資源」があります。人的資源と人的資本の違いは、「資源」と「資本」の違いにあります。

    • 資源:人の活動に役立つモノ全て

    • 資本:企業活動に役立つモノ

    という意味となっており、資本は資源をより限定した意味となっています。

    このことから、人的資源は企業活動によらず人の活動に役立つ個人の能力を指し、人的資本は企業の活動に役立つ個人の能力を意味することになります。

    人的資源について、さらに詳しく知りたい方は、「人的資源管理(HRM)とは?目的や課題と企業例」をご覧ください。

    人的資本が注目される背景

    人的資本が注目される背景

    人的資本が注目される背景には、「人材の多様性の高まり」「ESG投資への関心」「アメリカでの人的資本開示の義務化」の3つがあげられます。

    それぞれの人的資本との関わりについて解説します。

    人材の多様性の高まり

    企業のグローバル化や、働き方改革、女性の社会進出に伴って、人材の多様性が加速しています。また、世代によって働き方への考え方や価値観の違いなども生まれています。

    このような人材の多様性の高まりに対して、人材を効果的に活用し、企業価値向上を図るために、人的資本という考え方が重要視されるようになりました。

    ESG投資への関心

    ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って生まれた言葉です。ESG投資とは、環境や社会、ガバナンスに配慮した企業に対する投資を意味します。

    人的資本への投資は、ESG投資の中の社会(Social)に該当することから、ESG投資への関心が人的資本への注目に繋がっています。

    ESG投資について、さらに詳しく知りたい方は「ESG投資は指標の事前理解が大事!3つの指標を解説」をご覧ください。

    アメリカでの人的資本開示の義務化

    アメリカでは2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)がアメリカの上場企業に対して人的資本の開示を義務化しました。

    ここでは、定性情報だけではなく、定量情報の開示も義務化されています。

    人的資本情報の開示が義務化されたという事実は、投資家が人的資本情報を重要視しているという意味に他なりません。

    市場環境の変化が激しいなか、経営における人的資本の重要性が高まり、投資判断においても人的資本情報が重要になっているのです。

    人的資本開示と「ISO 30414」

    人的資本開示とISO30414

    人的資本と同様に注目されているのが、人的資本における情報開示ガイドラインである「ISO 30414」です。

    「ISO 30414」とはどのようなものなのでしょうか。人的資本開示と「ISO 30414」の関係とあわせて解説します。

    ISO 30414とは

    「ISO 30414」は、国際標準化機構(ISO)が制定するマネジメントシステム規格で、「社内外に対する人的資本の情報開示のガイドライン」です。

    2018年12月に制定され、その内容は、11領域49項目にわたり、人的資本の情報開示規格を制定しています。

    「ISO 30414」に則って人的資本の情報開示を行うことで、世界のどの国の企業であっても同じように人的資本状況を把握することが可能になります。

    ISO 30414の11領域

    「ISO 30414」では11の領域において人的資本の情報開示を求めています。

    1. コンプライアンスと倫理
    2. コスト
    3. ダイバーシティ
    4. リーダーシップ
    5. 組織文化
    6. 組織の健康・安全・福祉
    7. 生産性
    8. 採用・異動・離職
    9. スキルと能力
    10. 後継者育成
    11. 労働力確保

    各領域にさらに複数項目が存在し、全て合わせて11領域49項目になります。

    「ISO 30414」について、さらに詳しく知りたい方は「ISO30414とは?49項目の人事情報開示規則と導入企業を解説」をご覧ください。

    人的資本開示とISO 30414の関係

    「ISO 30414」は人的資本開示のガイドラインです。

    ISOは国際的な規格を決める機関のため、「ISO 30414」に則って開示を行うことで、グローバルに対して人的資本情報の開示を行うことができます。

    つまり、日本国内だけでなく、世界の投資家に向けて、幅広く投資を募ることができるようになるのです。

    今後、人的資本開示を検討する際には、「ISO 30414」に準拠して情報開示を行うと良いでしょう。

    人的資本を高める方法

    人的資本を高める方法

    投資家からも重視される人的資本情報は、企業価値向上を図る上で重要な指標になっていきます。そのため、企業にとって人的資本を高めていくことが非常に重要です。

    ここでは、日本における人的資本の課題と、課題をふまえたうえでの人的資本を高める方法を解説します。

    日本における人的資本の課題

    日本においては、人的資本への投資がこれまであまりされてきませんでした。

    その理由は、新卒採用といった画一的な採用や、終身雇用制、年功序列といった日本独特の制度のためです。

    また、終身雇用制を前提とした就職のため、人材の流動性も低く、人的資本への投資が重要視されていなかったのです。

    ですが、市場環境の変化が激しくなり、人材の多様性の高まりや、能力を持った個人の力が大きくなる中で、徐々に人材への投資が進み、人的資本への投資がされるようになってきました。

    さらに、その動きを加速させ、人的資本を高めるための3つの方法を解説します。

    人的資本を高める方法1:戦略人事の推進

    人的資本を高める方法の1つ目は、「戦略人事の推進」です。

    戦略人事とは、経営戦略を実現するために、人材という資源をどのように活用するのかを考えていくことです。

    従来のオペレーション的な人事とは異なり、経営戦略の実現を第一に人的資本の活用を戦略的に考えます。

    そのためには人的資本への投資も必要となるため、人的資本を高めることにもつながります。

    戦略人事について、さらに詳しく知りたい方は「【人事部必見】「戦略人事」とは?経営戦略を実現する人事を徹底解説します」をご覧ください。

    人的資本を高める方法2:人材育成の取り組み

    人的資本を高める方法の2つ目は、「人材育成の取り組み」です。

    人材育成の取り組みは、人的資本への投資に他なりません。従業員の能力向上やスキル習得等に積極的に投資することで、人的資本を高めることができます。

    また、人材育成に力を入れることで、求職者にとっても魅力的な職場環境になるため採用競争力の強化にもつながります。

    優秀な人材の獲得によって、人的資本をさらに高めることができるでしょう。

    人材育成について、さらに詳しく知りたい方は「人材育成に重要なポイントとは?若手や部下を育てる人材育成の考え方」をご覧ください。

    人的資本を高める方法3:HRテクノロジーの活用

    人的資本を高める方法の3つ目は、「HRテクノロジーの活用」です。

    HRテクノロジーとは、人事分野をサポートするテクノロジーの総称です。採用・育成・労務など各領域において、様々なサービスが存在します。

    HRテクノロジーサービスを活用することで、

    • 人事業務の効率化

    • 実効性の高い人事施策の実行

    • 定量的な人事分析

    ができるようになります。これらによって人的資本をより効率的に高めることが可能です。

    HRテクノロジーについて、さらに詳しく知りたい方は「HRテック(HR Tech)とは?人事がいま知っておくべき知識と導入方法」をご覧ください。

    人的資本経営に取り組むためのヒント

    人的資本経営に取り組むために、人的資本の必要性や、人的資本のガイドラインである「ISO 30414」への対応、HRテクノロジーの活用方法、人的資本経営への企業の取り組み事例、そして、企業価値を高める要素の一つである従業員エンゲージメントについて詳しく解説します。

    人的資本TIMES 資料3点セット

    「人的資本」お役立ち資料で分かること

    1.人的資本経営を成功に導く人事部門のKPIとは 〜ISO 30414への対応とHRテクノロジーの活用〜

    • 人的資本の情報開示はなぜ必要か

    • 人的資本経営を成功に導く人事部門のKPI

    • 人材データ活用までの4つのステップ

    2.鍵は従業員エクスペリエンスにあり!従業員エンゲージメントを高める重要なポイント

    • 従業員エンゲージメントとは

    • 従業員エンゲージメント施策の重要なポイント

    • 従業員エクスペリエンスとは

    • 従業員エクスペリエンスの可視化・改善を行うためには

    3.【イベントレポート】トッパングループの人的資本経営 〜 「企業は人なり」を体現する具体的な取り組み 〜

    • トッパングループについて

    • トッパングループの人的資本に関する考え方

    • パネルディスカッション

    ▼「人的資本」についてさらに詳しく
    人的資本の情報開示について
    人的資本TIMES

    ▼「従量員エンゲージメント」についてさらに詳しく
    従業員エンゲージメントとは?向上施策・事例も紹介

    人的資本経営に向けた人材情報の管理

    今回は、人的資本について解説しました。人的資本の重要性が高まる昨今、人的資本を高め、社内外に向けてその情報を開示していくことが重要です。

    経営戦略の実現、さらには企業価値の向上を目指して人的資本を高めていきましょう。

    人的資本を高める方法の1つとして、HRテクノロジーの活用を挙げました。数多くのHRテクノロジーサービスがある中で特に人的資本を高める上でおすすめになるのが、「タレントマネジメントシステム」です。

    タレントマネジメントシステムは人材データベースの構築から、人事情報の活用までをワンストップで行うことができます。

    HRBrainは、従業員の目標設定から評価までのオペレーションの全てをクラウド上のソフトウエアで効率化するタレントマネジメントシステムです。MBOやOKR、1on1などの最新のマネジメント手法をカンタン・シンプルに運用することができます。

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    ▼人的資本TIMESでさらに詳しく
    人的資本経営を成功に導く人事部門のKPIとは 〜ISO 30414への対応とHRテクノロジーの活用〜
    人的資本経営と「ISO 30414」に人事はこれからどう向き合うべきか
    〜海外企業の実践事例から紐解く〜投資家・従業員視点の人的資本経営とは
    「人材版伊藤レポート2.0」から考える人的資本経営〜これからのリスキリングと従業員エクスペリエンスとは〜

    株式会社HRBrain 吉田 達揮
    吉田 達揮
    • 株式会社HRBrain 執行役員

    • ビジネス統括本部 本部長

    • 人的資本TIMES編集長

    新卒で東証プライム 総合人材サービス企業に入社。2020年HRBrainに入社。
    人事制度コンサルティング部門の立ち上げから大手企業向けのクラウド営業に従事。
    また社内タレントマネジメントのユニットの立ち上げと運営を担当。
    以後、事業企画にてゼネラルマネージャーとして全社戦略の策定・推進を担当。
    その後、組織診断サーベイ「EX Intelligence」を提供しているEX事業本部を管掌。
    2022年4月に執行役員へ就任。2023年4月よりビジネス統括本部の本部長として全体を統括。「人的資本TIMES」の編集長も兼務。

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