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2025/06/13

人材育成のロードマップとは?メリット・作成のステップ・運用方法を解説

人材データの一元管理を実現し、あらゆる人事施策の実行をサポート

目次
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変化の激しい時代において、計画的な人材育成は企業の成長に欠かせません。人材育成のロードマップは、従業員がどのようなステップで成長すべきかを可視化し、育成を体系化する重要なツールです。

本記事では、人材育成ロードマップの概要から、メリットや具体的な作成手順、運用のポイントまでわかりやすく解説します。組織の育成課題に悩むご担当者様は、ぜひ参考にしてください。

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人材育成のロードマップとは?

人材育成ロードマップとは、企業が目指す人材像に向けて、従業員がどのようなステップで成長していくべきかを示した育成の道しるべです。

役職やキャリアステージごとに必要なスキルや経験、受講すべき研修などを体系的に整理することで、次に何を学べばよいのかどのような経験を積むべきかが一目でわかるようになります。

ロードマップを整備することで、育成の抜け漏れや属人化を防ぎ、従業員自身も成長のイメージを具体的に持ちやすくなります。人事・育成担当者にとっては、計画的な育成プログラムの設計や、タレントマネジメントの基盤づくりに欠かせないツールです。

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なぜ今、人材育成ロードマップが重要なのか?

変化の激しい現代において、企業の持続的な成長と競争力維持のために人材育成ロードマップは不可欠です。その理由は、場当たり的な研修やOJT(On-the-Job Training)だけでは、組織全体として必要なスキルレベルを計画的に引き上げることが難しいためです。

人材育成ロードマップがあれば、どのような人材を、いつまでに、どのように育成するのかという具体的な計画を立て、一貫性のある育成施策を実行できます。加えて、現代の日本企業を取り巻く環境も、計画的な人材育成の重要性を高めています。

ロードマップがない場合、これらの環境変化に対応するための育成が遅れるだけではなく、研修投資の効果測定も難しくなり、経営層への説明責任を果たすことが困難になるでしょう。

このように、人材育成ロードマップは、組織力を体系的に強化し、外部環境の変化に柔軟に対応するための戦略的な基盤となります。

人材育成ロードマップを作成する目的

人材育成ロードマップを作成する主な目的は、企業の経営戦略やビジョン達成に必要な人材を計画的に育成し、組織全体のパフォーマンス向上と持続的な成長を促進することです。このロードマップは、従業員一人ひとりに対して具体的な成長の道筋と目標を示します。

そして、企業の方向性と個人のキャリア目標を結びつける羅針盤としての役割を果たします。これにより、従業員は自身の成長を具体的にイメージしやすくなり、学習意欲や組織への貢献意欲、すなわちエンゲージメントを高められます。

具体的な作成目的は、以下のように多岐にわたります。

  • 経営層や人事、現場管理職、従業員の間で育成方針に関する共通認識を醸成すること

  • 企業の理念や価値観を反映した理想の人材像を定義し、ロードマップに落とし込むこと

  • 明確なキャリアパスと段階的な育成ステップを示すこと

  • 次世代リーダーやDX人材のような特定の専門人材に必要なスキルや経験を計画的に育成すること

人材育成ロードマップは単なる研修計画書ではなく、組織と個人の成長を結びつけ、企業価値を高めるための戦略的なツールと言えるでしょう。

人材育成ロードマップを作成する7つのメリット

人材育成ロードマップを作成・導入することで企業や従業員が得られる具体的なメリットについて、7つの側面から解説します。

<人材育成ロードマップを作成する7つのメリット>

  •   育成の方向性が明確になり、現場の納得感が高まる

  •   スキルギャップを可視化でき、的確な育成施策につながる

  •   キャリアパスの提示により、従業員のモチベーションが向上する

  •   評価・登用の基準が明確になり、公平性が担保される

  •   人材育成の計画性が高まり、組織全体の生産性が向上する

  •   研修・OJTなどの施策に一貫性が生まれ、効果が最大化する

  •   マネージャーの育成支援がしやすくなり、現場の育成力が強化される

育成の方向性が明確になり、現場の納得感が高まる

人材育成ロードマップを作成するメリットのひとつは、組織全体で人材育成の目標と方向性を共有できる点です。ロードマップは、経営層が描くビジョンや戦略と、現場で行われる具体的な育成活動とを結びつける役割を果たします。

会社としてどのような人材を育てたいのかそのためにどのようなステップを踏むのかが明確になることで、現場の管理職や従業員一人ひとりが育成の目的や意義を理解しやすくなります。特に、現場の管理職にとっては、部下指導の方針が明確になり、育成活動を進めやすくなるでしょう。

また、従業員自身も、会社が自分の成長にどのように投資し、期待しているのかを知ることで、育成プログラムへの参加意欲や納得感が高まります。たとえば、ロードマップ策定プロセスに現場の意見を反映させたり、完成したロードマップについて丁寧に説明する機会を設けたりすることで、一方的な押し付けではなく、組織全体で育成に取り組むという意識が醸成されます。

これにより、やらされ感が減少し、育成施策への協力体制が築きやすくなるのです。結果として、研修参加率の向上や、OJTの質の向上といった効果も期待できます。

スキルギャップを可視化でき、的確な育成施策につながる

人材育成ロードマップの作成プロセスは、組織が必要とするスキルと従業員の現状スキルとのギャップを客観的に把握するための機会となります。ロードマップを作るには、まず自社が目指す姿から逆算し、その実現のために、どのようなスキルや能力を持った人材が必要かを定義することが大切です。

次に、定義したあるべきスキルに対して、現状の従業員はどのスキルをどの程度保有しているのかを評価します。このあるべき姿と現状を比較することで、組織全体あるいは部署・個人単位でのスキルギャップが明確に見える化されるのです。

たとえば、スキルアセスメントの結果、特定の部門でデータ分析能力が不足していることが判明すれば、その部門を対象としたデータ分析研修を重点的に実施するといった、的を絞った効率的なアプローチが可能になります。

スキルマップを作成したり、タレントマネジメントシステムを活用したりすることで、スキルギャップの把握と管理はさらに容易になります。このように、客観的なデータにもとづいて育成課題を特定し、最適な打ち手を講じることができるようになる点は、ロードマップ作成の大きなメリットといえるでしょう。

キャリアパスの提示により、従業員のモチベーションが向上する

人材育成ロードマップは、従業員に対して、社内における具体的なキャリアパスを示すうえでも有効なツールです。ロードマップを通じて、現在の役職・等級から、どのようなスキルや経験を積めば、将来どのようなポジションや役割を目指せるのかという道筋が明確になることは、従業員の働くモチベーションにポジティブな影響を与えます。

多くの従業員は、自身の将来のキャリアに漠然とした不安や期待を抱いています。ロードマップによって、会社が従業員のキャリア形成をどのように支援し、どのような成長の機会を提供しようとしているのかが具体的に示されれば、従業員は将来に対する見通しを持つことができ、安心感を得られます。さらに、「このスキルを習得すれば、憧れの職種に就ける可能性があるこの研修を受ければ、リーダーへの道が開ける」といった具体的な目標が見えることで、自己成長への意欲が高まるはずです。

日々の業務や、会社が提供する研修・学習プログラムに対しても、自分のキャリアアップにつながる重要なステップだという認識が生まれ、より主体的に取り組むようになるでしょう。

人材育成ロードマップを活用して、従業員一人ひとりが自身の成長と将来像を描き、前向きに仕事に取り組める環境を提供することは、組織全体の活性化にもつながる重要なメリットです。 

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評価・登用の基準が明確になり、公平性が担保される

人材育成ロードマップの導入は、従業員の業績評価や昇進・昇格といった人事評価・登用制度の運用において、その基準を明確にし、公平性や透明性を高めるというメリットをもたらします。ロードマップには通常、各役職や等級ごとに求められるスキルレベル、期待される能力、達成すべき目標などが具体的に定義されています。

これらの定義は、そのまま人事評価を行う際の客観的な基準として活用が可能です。これにより、評価を行う上司の主観や個人的な関係性、あるいはその時の印象といった曖昧な要素に左右されることなく、定められた基準にもとづいて、より公平で客観的な評価を行うことが可能になります。従業員の立場から見ても、どのような行動や成果が評価されるのか、どうすれば昇進・昇格できるのかという基準が明確になっていれば、評価結果に対する納得感が高まります。

評価への納得感は、従業員のモチベーションや会社への信頼感に直結する重要な要素です。逆に、評価基準が不明確であったり、不公平だと感じられたりすると、従業員の不満が高まり、エンゲージメントの低下や離職を招く原因にもなりかねません。

人材育成ロードマップを人事評価制度としっかりと連携させ、評価・登用の基準として明確に位置づけることで、従業員が安心して能力を発揮し、正当に評価される組織風土を醸成できます。

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人材育成の計画性が高まり、組織全体の生産性が向上する

人材育成ロードマップを策定することで、人材育成の計画性が格段に向上し、組織全体の生産性向上につながります。ロードマップは、人材育成における地図であり工程表です。

いつ、誰に、どのようなスキルを、どのレベルまで育成するのか、そしてそのためにどのような手法を用いるのか、といった具体的な計画を時間軸とともに示します。これにより、場当たり的で思いつきの育成施策や、部署ごとにバラバラに行われる非効率な取り組みを防げるのがメリットです。

たとえば、3年後に必要となるであろうスキルが明確なときに、今から計画的に育成したい新入社員が数ヶ月後に独り立ちできるよう、段階的なOJT計画を立てるといった、中長期的な視点にもとづいた育成投資が可能になります。

このように計画的に人材を育成することで、必要な時に必要なスキルを持つ人材がいないといったスキルミスマッチによる業務の遅延や機会損失を防げるのがメリットです。従業員一人ひとりが計画的に能力を高め、それぞれの持ち場で最大限のパフォーマンスを発揮できるようになることは、組織全体の業務効率改善と生産性向上に直接的に貢献します。

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研修・OJTなどの施策に一貫性が生まれ、効果が最大化する

人材育成ロードマップは、個別の育成施策を効果的に連携させ、人材育成全体の効果を最大化するための設計図としての役割を果たします。ロードマップが存在しない場合、それぞれの育成施策が独立して企画・実施されがちです。

研修で学んだ内容が現場のOJTで求められるスキルと異なっていたり、ある部署では手厚いOJTが行われる一方で別の部署では放置されていたりするなどのミスマッチが発生しやすくなります。しかし、人材育成ロードマップにもとづいて各施策を設計・実施することで、これらの問題を防ぎやすくなります。

ロードマップは、育成の最終的なゴールと、そこに至るまでの段階的なステップ、各ステップで習得すべきスキルや目標を明確に示します。この全体像の中で、個々の研修やOJT、eラーニングなどがどのステップのどの目標達成のために位置づけられているのかが明確になります。

これにより、この基礎研修で知識をインプットし、次のOJTで実践を通じて定着させ、さらに応用研修でスキルを深化させるといった、一貫性のある体系的な学習プロセスを設計することが可能です。各施策が相互に補完しあい、相乗効果を発揮することで、単発で実施するよりもはるかに高い学習効果が期待でき、人材育成への投資効果を最大化することにつながります。

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マネージャーの育成支援がしやすくなり、現場の育成力が強化される

人材育成ロードマップは、現場で部下の育成を担うマネージャーにとって、育成に効果的なツールとなります。

マネージャーは日々の業務遂行に加え、部下の指導・育成という重要な責務を負っていますが、何をどのように教えればよいのか、具体的な指針がないまま手探りで育成を行っているケースも少なくありません。その結果、育成の質がマネージャー個人の経験や能力に依存してしまい、ばらつきが生じたり、多忙さから育成自体が後回しになったりする課題があります。

人材育成ロードマップがあれば、マネージャーは部下の役職やレベルに応じて、どのようなスキルをどのレベルまでいつまでに育成する必要があるのか、そのためにどのような指導や機会提供が有効かという具体的な指針を得られます。

これにより、OJTの計画性が高まり、日々の指導やフィードバックも、より的確で効果的なものになります。たとえば、部下との1on1ミーティングにおいても、ロードマップを共通言語として活用することで、具体的な成長目標やアクションプランについて建設的な対話を進めやすくなるでしょう。

このように、ロードマップがマネージャーの育成活動を具体的にサポートすることで、マネージャー自身の育成スキル向上にもつながり、結果として部署やチームといった現場全体の育成力を底上げする効果が期待できます。

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人材育成ロードマップ作成の7つのステップ

効果的な人材育成ロードマップを具体的に作成していくための7つのステップについて、順番に詳しく解説します。

<人材育成ロードマップ作成の7つのステップ>

  1.   経営戦略・事業計画と連動した人材要件を明確にする
  2.   役職・職種ごとに求められるスキルや能力を定義する
  3.   現状のスキルレベルを可視化し、ギャップを把握する
  4.   育成ステップを時系列で整理し、到達目標を設定する
  5.   各ステップに対応した育成手法(研修・OJT・自己学習など)を決める
  6.   ロードマップを見える化し、現場と共有・運用する
  7.   定期的にレビュー・アップデートを行い、継続的に改善する

上記のステップに従って進めることで、戦略的で実効性のあるロードマップを作成しやすくなります。

1. 経営戦略・事業計画と連動した人材要件を明確にする

人材育成ロードマップ作成の第一歩は、自社の経営戦略や将来の事業計画を深く理解し、それらの目標を達成するためにどのような知識、スキル、資質を持った人材が、いつまでに、どれくらい必要なのかという人材要件を明確に定義することです。

これはロードマップ全体の方向性を決定づける、最も重要な工程といえます。なぜなら、人材育成は単に従業員のスキルアップを目指すだけでなく、企業の経営目標達成に貢献するための戦略的な投資活動であるべきだからです。

経営戦略と人材育成の方向性が一致していなければ、育成に時間やコストをかけても期待する成果にはつながらず、貴重なリソースを浪費してしまう可能性があります。たとえば、5年後に新規事業分野で市場リーダーになるという戦略目標があるならば、その実現に必要な新しい技術への深い理解変化に対応できる柔軟性イノベーションを創出する能力といった人材要件を具体的に定義する必要があります。

これらの要件を明確にすることで、採用活動や育成プログラムの焦点を絞り込み、戦略達成に向けた効果的な人材投資を行うことが可能です。経営層や事業部門の責任者と緊密に連携し、将来の事業展開を見据えたうえで、必要となる人材像とその要件を具体的に言語化することからはじめましょう。

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2. 役職・職種ごとに求められるスキルや能力を定義する

経営戦略と連動した人材要件が明確になったら、その要件を組織内の具体的な役職や職種ごとに求められる具体的なスキルや能力、期待される役割や行動のレベルに分解し、詳細に定義していきます。

組織は多様な役割と専門性を持つ人材で構成されており、それぞれのポジションで必要とされるスキルやその習熟度は異なります。全社員に共通して求められるコミュニケーション能力のような基礎スキルもあれば、特定の職種に不可欠な専門知識や技術スキル、管理職に求められるリーダーシップやマネジメント能力などもあるでしょう。

これらのスキル要件を役職や職種、等級ごとに具体的に定義することで、従業員一人ひとりに対する育成目標が明確になります。たとえば、プロジェクトマネジメント能力という要件も、メンバーレベルでは担当タスクの計画的な遂行能力、リーダーレベルでは小規模プロジェクトの計画・実行・管理能力、マネージャークラスでは複数プロジェクトの統括管理とリスク対応能力といった形で、期待されるレベルが変わってくるはずです。

スキルマップなどのツールを活用して、これらのスキル項目とレベルを体系的に整理し、定義することが推奨されます。このステップでスキル定義を詳細に行うことが、後のスキルギャップ分析や育成計画策定の精度を高めやすくなります。

3. 現状のスキルレベルを可視化し、ギャップを把握する

次に、定義したスキル・能力レベルに対して、従業員一人ひとりが現時点でどのスキルをどの程度保有しているのかを、客観的な方法を用いて評価し、そのギャップを明確に可視化・把握します。

効果的かつ効率的な育成計画を立案するためには、育成対象となる従業員の現在地を正確に把握することが不可欠です。誰にどのようなスキルがどの程度不足しているのかをデータにもとづいて明らかにすることで、育成の優先順位を判断し、無駄のない育成投資を実現できます。

従業員のスキルレベルを評価する方法には、自己評価、上司による評価、筆記試験や実技テスト、外部のアセスメントツールの活用、360度評価など、さまざまなアプローチがあります。

どの方法が最適かは、評価するスキルの種類や組織の状況によって異なりますが、できるだけ客観性と信頼性の高い方法を選択したり、組み合わせたりすることが重要です。評価結果は、個人別・部署別・スキル別に集計・分析し、スキルマップ上にレベルを記入したり、レーダーチャートで表示したりするなど、視覚的にわかりやすい形で見える化します。

個々の従業員の強み・弱みだけでなく、組織全体としてのスキル保有状況や潜在的なリスクも一目で把握できるようになり、戦略的な育成計画の策定につなげることができます。

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4. 育成ステップを時系列で整理し、到達目標を設定する

スキルギャップが明確になったら、そのギャップを埋めていくための具体的な育成プロセスを設計します。

ここでは、習得すべきスキルや積むべき経験を、時間軸に沿って段階的に整理し、それぞれのステップにおける具体的な到達目標を設定することが重要です。

多くのスキル、特に高度な専門性やマネジメント能力などは、短期間で習得できるものではありません。基礎的な知識・スキルの習得から始まり、実践経験を通じて応用力を養い、徐々に難易度の高い課題に取り組んでいく、という段階的な成長プロセスが必要です。育成プロセスを具体的なステップに分解し、各ステップでの明確な到達目標を設定することで、従業員は自身の成長過程を具体的にイメージし、着実にスキルアップしている実感を得やすくなります。

目標設定の際には、SMARTの法則を用いると効果的です。

  • Specific(具体的)

  • Measurable(測定可能)

  • Achievable(達成可能)

  • Relevant(関連性がある)

  • Time-bound(期限が明確)

時系列での育成ステップとSMARTな到達目標の設定は、人材育成ロードマップを具体的で実行可能な計画にするための骨格となります。

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5. 各ステップに対応した育成手法(研修・OJT・自己学習など)を決める

各育成ステップで設定した到達目標を達成するために、どのような育成手法を用いるのが最も効果的かを検討し、決定します。

ひとつの手法に限定するのではなく、目標達成に必要な知識・スキル・態度の種類やレベル、対象者の経験や学習スタイルなどを考慮し、複数の手法を戦略的に組み合わせることが重要です。

育成手法にはさまざまな種類があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。自社の状況や育成目標に合わせて最適な組み合わせを考えることが、学習効果を最大化するため必要です。

これらの多様な手法の中から、各育成ステップの目標達成にもっとも適したものを選択し、効果的に組み合わせることで、より質の高い育成プログラムを設計できます。

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6. ロードマップを見える化し、現場と共有・運用する

ここまでのステップで作り上げた人材育成ロードマップは、関係者全員が理解し、活用できる状態にして初めてその価値を発揮します。そのため、完成したロードマップを、図や表、説明文などを効果的に用いて、誰にとってもわかりやすい形に見える化することが重要です。

そして、その内容を経営層、人事部、現場の管理職、育成対象となる従業員など、関係するすべての人々と適切に共有し、日々の人材育成活動の中で着実に運用していく必要があります。

ロードマップが見える化され、共有されることで、組織全体としてどのような人材を目指し、どのように育成していくのかという共通認識を持つことができます。これにより、育成施策に対する現場の納得感が高まり、管理職は部下指導の指針を得やすくなり、従業員自身も自身のキャリアパスを具体的にイメージできるようになるでしょう。

共有の方法としては、社内イントラネットやポータルサイトへの掲載、全社または部門別の説明会の実施、管理職研修でのインプット、上司と部下の1on1ミーティングにおける活用などが挙げられます。また、ロードマップにもとづいた育成の進捗状況を効率的に管理し、関係者間で共有するためには、タレントマネジメントシステムやLMS(学習管理システム)といったデジタルツールの活用も有効です。

7. 定期的にレビュー・アップデートを行い、継続的に改善する

人材育成ロードマップは、一度作成したらそれで終わり、というものではありません。市場環境の変化、技術の進歩、自社の経営戦略の見直し、従業員の意識の変化など、企業を取り巻く環境は常に変化しています。

そのため、作成したロードマップが常に現状に適合し、効果を発揮し続けるためには、定期的にその内容と成果をレビューし、必要に応じて柔軟にアップデートしていく、継続的な改善プロセスが不可欠です。

具体的には、PDCAサイクルを意識した運用が効果的です。まずロードマップ(Plan)にもとづき育成施策を実行(Do)し、一定期間ごとにその成果や有効性を検証(Check)します。検証の際には、研修の満足度や理解度、スキル習得状況、行動の変化、目標達成度、従業員エンゲージメントの変化、生産性への影響など、事前に設定したKPIを用いて定量・定性の両面から評価します。

評価結果や現場からのフィードバック、外部環境の変化などを踏まえ、ロードマップの内容を見直し、改善(Action)して次の計画につなげるまでが一連のサイクルです。

常に変化に対応し、実効性の高い人材育成を継続するためには、ロードマップを定期的に見直し、改善していく仕組みを組織内に定着させることが重要です。

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人材育成の9つの手法

人材育成ロードマップで計画されたスキル習得や能力開発を実現するための、代表的な9つの育成手法について、それぞれの特徴、メリット・デメリットなどを解説します。

<人材育成の9つの手法>

育成手法の例

概要

OJT(On the Job Training)

実務を通じたスキル習得

Off-JT(Off the Job Training)

外部研修や講義による知識強化

eラーニング

個人のペースで学べるオンライン教育

メンター制度

先輩社員との対話を通じた成長支援

1on1ミーティング

継続的な対話で課題と目標を明確化

リーダーシップ研修

マネジメント力や統率力の強化

ジョブローテーション

多様な業務経験による視野の拡大

アセスメントツールの活用

スキルや特性の可視化による育成指針づくり

自己啓発支援

書籍購入・資格取得・外部セミナー参加の補助制度

これらの手法は単独で用いられることもありますが、多くの場合、目的や対象者、育成内容に合わせて組み合わせることで、より高い効果を期待できます。

OJT(On the Job Training):実務を通じたスキル習得

OJT(On-the-Job Training)は、実際の業務現場において、上司や先輩社員が部下や後輩社員に対して、仕事を通じて必要な知識やスキル、仕事への取り組み方などを直接的に指導・育成する手法です。多くの企業で日常的に行われている、もっとも基本的で実践的な育成方法といえるでしょう。

OJTのメリットは、実務に直結したスキルを効率的に習得できる点にあります。実際の業務プロセスの中で、具体的な指示やアドバイスを受けながら作業を進めるため、学んだことがすぐに仕事に活かされやすく、即戦力の育成につながりやすいのが特徴です。また、育成対象者一人ひとりの理解度や進捗状況に合わせて、指導内容やペースを柔軟に調整できます。

しかし、OJTにはいくつかの課題も存在します。ひとつは、指導担当者のスキルや経験、指導への熱意によって育成効果にばらつきが生じやすいことです。また、場当たり的な指導になりやすく、業務に必要な知識やスキルを体系的に学ぶことには限界があります。

これらのデメリットを補い、OJTの効果を高めるためには、事前に指導計画を立てること、指導担当者向けの研修を実施すること、Off-JTやマニュアルなどを活用して体系的な知識を補完すること、定期的なフィードバックを行うことなどが重要です。

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Off-JT(Off the Job Training):外部研修や講義による知識強化

Off-JT(Off-the-Job Training)とは、日常の業務が行われる職場から離れて行われる人材育成の手法全般を指します。

具体的には、社内または社外で実施される集合研修、外部機関が主催するセミナーや講演会、ワークショップ、eラーニングなども広義のOff-JTに含まれることがあります。Off-JTの主な目的は、特定のテーマに関する知識やスキルを体系的に、かつ集中的に習得することです。

日常業務から離れた環境で学習に専念できるため、業務の中では断片的にしか学べないような専門知識や理論、職種や階層に共通して求められるビジネススキルなどを効率的にインプットするのに適しています。また、社内では得られない最新の情報や専門知識、異なる業界の動向や他社の事例などに触れることができる点も大きなメリットです。さらに、集合研修などの形式では、他の参加者とのディスカッションや交流を通じて、新たな視点を得たり、刺激を受けたり、社内外のネットワークを広げたりする機会にもなります。

一方で、研修で学んだ知識やスキルが、必ずしもすぐに実務で活用できるとは限らないこと、受講費用や交通費、宿泊費などのコストが発生すること、研修参加中は通常の業務から離れる点で業務の調整や代替要員の確保が必要になることなどはデメリットとして挙げられます。

Off-JTの効果を高めるためには、研修の目的を明確にし、対象者を選定すること、実務への応用を意識したプログラムを選ぶこと、研修前後の課題設定やフォローアップを丁寧に行うことが重要です。

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eラーニング:個人のペースで学べるオンライン教育

eラーニングは、パソコンやスマートフォン、タブレットなどのデジタルデバイスとインターネット接続環境を活用し、オンライン上で提供される学習コンテンツを通じて知識やスキルを習得する教育手法です。近年、テクノロジーの進化とともに急速に普及しており、多くの企業で人材育成の有効な手段として取り入れられています。

eラーニングのメリットは、時間や場所に縛られずに、受講者自身のペースで学習を進められる高い柔軟性です。通勤時間や業務の隙間時間などを活用して、効率的に学習できます。従業員に必須のコンプライアンス知識や情報セキュリティに関する教育、特定のソフトウェア操作方法の習得、基礎的な専門知識のインプットなど、多くの対象者に均質な内容を届けたい場合に適しています。

また、一度学習した内容を繰り返し視聴・確認できるため、知識の定着にも効果的です。企業側にとっても、集合研修のような会場費や講師費用、参加者の交通費などが不要なため、コストを抑えながら大規模な教育を展開できるというメリットがあります。

ただし、eラーニングの効果を最大限に引き出すためには、いくつかの点に留意が必要です。学習の進捗やモチベーション維持が個人の自己管理能力に大きく依存するため、学習管理システム(LMS)による進捗フォローや、修了を促す仕組みが重要です。また、知識のインプットには適していますが、実践的なスキルや対人能力の習得には限界があるため、OJTや集合研修など、他の育成手法と組み合わせることも検討しましょう。

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メンター制度:先輩社員との対話を通じた成長支援

メンターとは

メンター制度は、社内において比較的経験豊富な先輩社員(メンター)が、主に新入社員や若手社員、あるいは異動してきた社員など(メンティー)に対して、1対1の関係性をベースに、一定期間、定期的な対話を通じてサポートを行う人材育成施策のひとつです。

指導内容は、直接的な業務スキルに関するものだけではなく、キャリア形成に関する相談、職場での人間関係の悩み、企業文化への適応、精神的なサポートなど、より広範にわたります。

直属の上司とは異なるメンターの存在は、メンティーにとって心理的な支えとなります。新しい環境で不安を感じやすい時期に、気軽に相談できる相手がいることは、早期の職場適応と定着率の向上につながるでしょう。

また、メンター自身の経験談を聞いたり、キャリアについて相談したりする中で、メンティーは自身の将来像を描くヒントを得たり、仕事に対する視野を広げたりできます。

この制度は、メンター役を務める社員にとってもメリットがあります。後輩を指導・支援する経験を通じて、自身のコミュニケーション能力、傾聴力、指導力といったマネジメントスキルの向上につながります。

メンターとメンティの相性が合わない場合、効果が得られにくいことには注意が必要です。また、メンター自身の通常業務に加えて負担が増えるため、会社としてのサポートが欠かせません。制度の目的や役割分担を明確にし、形骸化させないための工夫も求められます。

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1on1ミーティング:継続的な対話で課題と目標を明確化

1on1ミーティングは、上司と部下が定期的に1対1で実施する面談のことです。従来型の評価面談や業務報告・指示の場とは異なり、部下の成長支援と内発的動機づけを主な目的として、対話を通じて現状の課題や目標、キャリアについて話し合う点に特徴があります。

近年、従業員のエンゲージメント向上や人材育成の有効な手段として、多くの企業で導入が進んでいます。1on1ミーティングのメリットは、上司と部下の間の信頼関係を深め、個々の状況に合わせたきめ細やかなサポートができる点です。

定期的な対話の機会を持つことで、上司は部下が日々の業務で感じていること、抱えている課題や悩み、あるいは将来のキャリアに対する考えなどをより深く理解できます。部下にとっては、安心して自身の考えや感情を話せる場があることで、心理的安全性が高まり、業務へのモチベーション向上につながります。また、上司からのタイムリーなフィードバックや、対話を通じた内省の機会は、部下の課題解決能力や自律的な成長を促します。

人材育成ロードマップの運用においても、1on1ミーティングは重要な役割を果たします。ロードマップ上の目標に対する進捗状況を確認したり、目標達成に向けた課題について話し合ったり、次のステップに向けた具体的なアクションプランを一緒に考えたりする場として活用できます。

ただし、1on1ミーティングを効果的に行うためには、上司側の傾聴力や質問力、フィードバックのスキルが求められます。単なる世間話や業務指示に終始しないよう、目的意識を持った対話の実践が重要です。

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リーダーシップ研修:マネジメント力や統率力の強化

リーダーシップ研修は、主に企業の管理職層や、将来の管理職・経営幹部候補となる人材を対象として実施される育成プログラムです。

その目的は、チームや組織をまとめ、目標達成に向けてメンバーを効果的に導くために必要な知識、スキル、リーダーとしての適切な心構えを体系的に習得することにあります。組織のパフォーマンスは、リーダー層の能力に大きく左右されるため、計画的なリーダー育成は企業の持続的成長にとって重要な取り組みです。

リーダーシップは、生まれ持った才能だけではなく、学習と経験を通じて開発できるという考え方が主流であり、多くの企業がOff-JTの一環としてリーダーシップ研修に投資しています。研修で扱われる内容は、対象者の階層や組織のニーズによって異なりますが、一般的には以下のような要素が含まれます。

育成手法の例

概要

目標設定と管理

組織目標と連動したチーム目標の設定、部下への適切な目標付与、進捗管理と達成支援

部下育成と動機づけ

コーチング、フィードバック、ティーチング、メンバーの強みを活かす方法、エンゲージメント向上

チームマネジメント

果的なコミュニケーション、チームビルディング、コンフリクトマネジメント、会議運営

意思決定と問題解決

状況分析、課題特定、解決策の立案と実行、リスクマネジメント

自己認識とセルフマネジメント

自身のリーダーシップスタイルの理解、感情のコントロール、倫理観

近年では、VUCA時代の変化に対応するための変革推進能力や、多様な人材を活かすダイバーシティ&インクルージョンの視点、DXを推進するためのデジタルリテラシーなども、リーダーシップ研修の重要なテーマとなっています。座学だけではなく、ケーススタディ、グループワーク、ロールプレイングなど、実践的な学びを取り入れたプログラムが効果的です。

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ジョブローテーション:多様な業務経験による視野の拡大

ジョブローテーションとは、人材育成戦略の一環として、従業員を計画的に異なる部署、職種、事業所などに一定期間異動させ、多様な業務や役割を経験させる制度のことです。

特に、新卒で入社した総合職の社員などに対して、キャリア初期に複数の職場を経験させることで、幅広い知識やスキルを習得し、会社全体の事業活動への理解を深められるため、将来の幹部候補として必要な多角的な視点を養うことを主な目的として導入されるケースが多く見られます。

ジョブローテーションを通じて、普段は関わらない業務プロセスや異なる組織文化に触れることで、従業員は自社事業の全体像をより立体的に捉えることができるのが特徴です。

また、異動先での新たな人間関係の構築は、社内ネットワークの拡大につながり、部署間の円滑なコミュニケーションや連携を促進する効果も期待できます。さらに、従業員自身にとっても、さまざまな業務を経験する中で、自身の新たな興味や適性を発見する機会となり、キャリアの可能性を広げるきっかけにもなり得ます。

ただし、ジョブローテーションには、専門性が深まりにくい、異動の度に教育コストや一時的な生産性低下が発生する、本人のキャリア志向と合わない場合にモチベーションが低下するリスクがあるといったデメリットもあります。そのため、導入にあたっては、制度の目的を明確にし、対象者の選定、ローテーションの期間や順序などを慎重に計画し、本人の意向も十分に考慮することが重要です。

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アセスメントツールの活用:スキルや特性の可視化による育成指針づくり

アセスメントツールとは、従業員の能力、保有スキル、性格特性、価値観、行動特性、ストレス耐性、キャリア志向といった、目に見えにくい個人の側面を、客観的な指標にもとづいて測定・分析し、可視化するためのツールや診断手法のことです。人材育成ロードマップをより効果的に作成・運用していく上で、アセスメントツールを活用することは有効です。

日常業務でのパフォーマンスや上司による評価だけでは捉えきれない、従業員の潜在的な強みや弱み、あるいは特定のスキルに関する客観的なレベルを把握することで、よりデータにもとづいた的確なスキルギャップ分析が可能になります。

これにより、勘や経験だけに頼らない、客観的な根拠にもとづいた育成ニーズの特定や、個々の従業員の特性に合わせた育成計画の設計、さらには適材適所の配置やリーダー候補者の選抜といったタレントマネジメント全般における意思決定の質を高められます。

アセスメントツールには、SPIのような基礎能力を測る適性検査、特定の専門スキルを測るテスト、MBTIやエニアグラムのような性格診断、360度評価を支援するツールなどの種類があります。自社の目的や課題に合わせて適切なツールを選択し、その結果を面談での対話など他の情報と組み合わせながら、育成指針の策定に活用していくことが重要です。

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自己啓発支援:書籍購入・資格取得・外部セミナー参加の補助制度

自己啓発支援制度とは、従業員が自身のキャリアアップやスキル向上を目指して、自主的に学習や能力開発活動に取り組むことを、企業がサポートする制度の総称です。

具体的には、以下のような支援が挙げられます。

  • 業務に関連する書籍や専門誌の購入費用の補助

  • 特定の資格取得にかかる受験料や教材費の補助

  • 外部で開催されるセミナーや研修への参加費用の補助

  • オンライン学習プラットフォームの利用料補助

  • 学習のための休暇(教育訓練休暇)の付与

企業が提供するOJTやOff-JTだけでは、従業員一人ひとりの多様な学習ニーズやキャリアプランに完全に対応することは困難です。自己啓発支援制度は、そのような公式な育成プログラムを補完し、従業員の学びたいという自律的な意欲を後押しするうえで重要な役割を果たします。

従業員が主体的に学び続けることは、個人の能力向上やキャリア満足度の向上につながるだけではなく、そこで得られた新しい知識やスキル、視点が組織にもたらされ、結果として組織全体の活性化やイノベーションの促進に貢献する可能性も秘めています。

学習する組織文化を醸成する上でも有効な施策といえるでしょう。制度を導入・運用する際には、支援対象となる学習内容の範囲、補助金額や休暇日数の上限、申請・承認のプロセスなどを明確に定め、従業員にわかりやすく周知することが重要です。

また、単に制度を用意するだけでなく、従業員が制度を積極的に活用できるよう、上司からの声かけや情報提供、利用しやすい雰囲気づくりなども合わせて行うことが、制度の効果を高めるうえで大切になります。

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成果を最大化するロードマップ運用の8つのポイントと注意点

作成した人材育成ロードマップを形骸化させず、その効果を最大限に引き出すための運用上の重要なポイントと、陥りやすい注意点について、8つの観点から解説します。

<成果を最大化するロードマップ運用の8つのポイントと注意点>

  •   SMARTの法則を活用する

  •   ロードマップは“つくって終わり”ではなく定期的な見直しが重要

  •   進捗確認とフィードバックの仕組みを設ける

  •   汎用的すぎず、職種やレベルに応じた柔軟性を持たせる

  •   育成の目的を社内にしっかり浸透させる

  •   運用状況をデータで把握し、改善に活かす仕組みを整える

  •   従業員にとってのやらされ感を生まない工夫が必要

  •   目標達成だけに偏らず、成長プロセスを重視する文化を育む

効果的なロードマップ運用のためには、計画の策定だけでなく、その後の実行と改善プロセスを重視しましょう。

SMARTの法則を活用する

SMARTの法則

人材育成ロードマップに組み込む各ステップの目標設定において、SMARTの法則を活用することは、計画の実効性を高める上で非常に有効なアプローチです。

目標設定において重要とされる5つの要素、Specific(具体的な)、Measurable(測定可能な)、Achievable(達成可能な)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限が明確な)の頭文字を取ったフレームワークに沿って目標を設定することで、曖昧さがなくなり、従業員は何をいつまでにどのレベルまで達成すればよいのかを具体的に理解できます。

たとえば、営業スキルを向上させるという目標は曖昧ですが、SMARTの法則を用いると、新規顧客への提案における受注率を、次の四半期末までに現状の10%から15%に引き上げるという目標を立てられるでしょう。そのために、上司による週1回のロールプレイング指導と月2回の営業同行を受けるといったように、具体的かつ測定可能な目標に落とし込むことができます。

従業員自身の行動計画が立てやすくなるだけでなく、上司や人事担当者も進捗状況を客観的に把握し、適切なサポートを提供しやすくなります。ロードマップ全体の質を高め、着実な成果につなげるためにも、各育成目標の設定にSMARTの法則を取り入れてみましょう。

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ロードマップは“つくって終わり”ではなく定期的な見直しが重要

人材育成ロードマップは、作成した後の継続的な見直しと改善こそが真に価値あるものにするためには欠かせません。

つくって終わりにしてしまうと、せっかくの計画も時間とともに形骸化してしまうおそれがあります。その理由は、企業を取り巻くビジネス環境、必要とされるスキル、技術のトレンド、従業員のニーズなどが常に変化しているためです。

たとえば、数年前に策定したロードマップが、その後の市場の変化や新しい技術の登場に対応できていなければ、育成目標が現状にそぐわなくなってしまいます。組織体制の変更や事業戦略のシフトがあった場合も、ロードマップの見直しは不可欠です。

定期的な見直しを怠ると、ロードマップは古い地図となり、実際の育成活動との間に乖離が生じ、効果を発揮できなくなります。最低でも年に1回、あるいは事業年度の変わり目などのタイミングで、ロードマップの内容をレビューする機会を設けることが重要です。

その際には、当初設定した目標の達成状況、育成施策の効果、従業員からのフィードバック、外部環境や内部環境の変化などを総合的に考慮し、必要な修正やアップデートを行いましょう。

進捗確認とフィードバックの仕組みを設ける

人材育成ロードマップを効果的に運用するためには、計画にもとづいた育成活動が予定通りに進んでいるかを確認し、従業員一人ひとりに対して適切なフィードバックを行う仕組みを構築・定着させることが不可欠です。

計画の実行状況を把握せずに放置していては、目標達成に向けた軌道修正や必要なサポートをタイムリーに行うことができません。定期的な進捗確認は、計画と現実のギャップや、従業員が直面している課題・困難を早期に発見するための重要な機会となります。

進捗確認の方法としては、上司と部下が1対1で対話する1on1ミーティングの場を活用するのが効果的です。ロードマップ上の現在のステップや目標達成度、学習の進捗状況、困っていることなどを共有し、共に次のアクションプランを考えます。

進捗確認と合わせて重要になるのが、フィードバックです。単に進んでいる遅れているという事実だけではなく、具体的な行動や成果に対する承認・称賛、改善に向けたアドバイスなどを伝えることで、従業員のモチベーションを高め、さらなる成長を促します。

汎用的すぎず、職種やレベルに応じた柔軟性を持たせる

人材育成ロードマップは、組織全体の人材育成の方向性を示す上で重要ですが、その内容が全ての従業員に対して画一的で汎用的すぎると、個々の状況やニーズに合わず、効果が薄れてしまう可能性があります。

組織には多様な職種が存在し、求められる専門性は異なります。同じ職種であっても、経験年数や役職、個人のスキルレベル、さらには将来目指したいキャリアパスによって、育成の重点課題は変わってきます。そのため、ロードマップを設計・運用する際には、全社共通の基盤となる考え方やコアスキルは維持しつつも、個々の状況に合わせて柔軟に対応できるような遊びや選択肢を持たせることが重要です。

たとえば、全社共通のコンプライアンス研修やビジネスマナー研修などは必須項目としつつ、専門スキルに関する育成プランは職種別に詳細なロードマップを作成したり、複数の研修コースの中から本人の希望や上司との相談によって選択できるような仕組みを取り入れたりすることが考えられます。

また、従業員一人ひとりのキャリア目標に合わせて、ロードマップをベースとしながらも個別の育成計画を作成し、運用していくアプローチも有効です。画一的な計画を一方的に適用するのではなく、個々の従業員の状況や意欲に寄り添った柔軟な運用を心がけることで、ロードマップはより自分ごととして受け入れられ、育成効果を高められるでしょう。

育成の目的を社内にしっかり浸透させる

人材育成ロードマップを策定し、それにもとづく施策を効果的に推進していくためには、そのロードマップがなぜ必要なのか、何を目指しているのかという根本的な目的や背景、ロードマップを通じて得られる企業や従業員にとってのメリットを、組織全体に丁寧に伝え深く理解・共感してもらうプロセスが重要です。

目的が曖昧なまま、一部の関係者しか理解していない状態で計画を進めようとしても、現場の従業員や管理職からはまた新しい施策が増えた、何のためにやるのかわからないといったネガティブな反応が出てしまい、形骸化につながるおそれがあります。

人材育成は短期的に成果が見えにくく、日々の業務に加えて時間や労力を要するため、その意義や重要性に対する納得感がなければ、優先順位が下がりがちです。

育成目的の浸透は、組織全体が人材育成の重要性を認識し、共通の目標に向かって協力し合う文化を醸成するための基盤となります。浸透を図るためには、経営トップ自らが全社集会やメッセージ動画などで、人材育成への想いやロードマップへの期待を繰り返し語ることが効果的です。また、管理職向けには、ロードマップの内容説明だけでなく、部下育成における活用方法や期待される役割について具体的に伝える研修を実施することも有効でしょう。

社内報やポータルサイトでの特集、成功事例の共有なども、継続的な情報発信として重要です。さまざまなコミュニケーション手段を通じて、粘り強く目的を伝え続ける努力が求められます。

運用状況をデータで把握し、改善に活かす仕組みを整える

人材育成ロードマップの運用効果を最大化し、継続的な改善を図るためには、感覚や印象に頼るのではなく、客観的なデータにもとづいて運用状況や成果を把握し、その分析結果を次の改善アクションにつなげる仕組みを構築することが重要です。

データにもとづかない運用評価では、どの育成施策が本当に効果を発揮しているのかどこに改善の余地があるのかを正確に判断することが難しく、効果の薄い施策を続けてしまったり、潜在的な問題点を見逃してしまったりする可能性があります。

客観的なデータを活用することで、育成投資の費用対効果を検証し、リソース配分の最適化を図るなど、根拠にもとづいた意思決定ができるようになります。

運用状況を把握するために収集・分析すべき主なデータは、以下の通りです。

データの種類

詳細

育成施策の実施状況に関するデータ

・研修参加率
・eラーニング修了率
・OJT実施時間

参加者の反応や学習度に関するデータ

・研修満足度アンケート
・理解度テスト結果
・スキル評価

行動変容や業績への影響に関するデータ

・従業員エンゲージメントスコア
・目標達成度
・生産性指標
・顧客満足度
・離職率

これらのデータをLMSやタレントマネジメントシステム、人事評価システムなどから収集し、一元的に管理・分析できる体制を整えることが望ましいでしょう。そして、分析結果から得られたインサイトをもとに、ロードマップの内容や育成施策の改善点を特定し、具体的なアクションプランに落とし込み、実行していくという改善サイクルを回していくことが、データ活用のポイントです。

従業員にとってのやらされ感を生まない工夫が必要

人材育成ロードマップにもとづく育成施策は、従業員の成長を支援するためのものですが、その運用方法によっては、従業員に会社から一方的にやらされているというネガティブな感情を抱かせるおそれがあります。

従業員が受け身の姿勢で育成施策に取り組んでしまうと、学習意欲が湧かず、内容が十分に吸収されないばかりか、かえって仕事に対するモチベーションを低下させることにもなりかねません。そのため、ロードマップを運用する際には、従業員が自らの成長やキャリア実現にとってプラスになると感じ、主体的に取り組めるような工夫を凝らすことが重要です。

たとえば、ロードマップの策定や見直しのプロセスに従業員の代表や現場の意見を取り入れることで、計画への当事者意識を高められます。従業員が自身の興味や課題感、キャリアプランに合わせて自由に選択できる学習機会を提供することも効果的です。

さらに、育成を通じて得られたスキルや知識、自己啓発への努力を人事評価や昇給・昇格、表彰制度などで適切に評価する仕組みがあれば、学習意欲が高まるでしょう。学習時間を業務時間として確保したり、社内に学習コミュニティを作ることを支援したりすることも、主体的な学びを後押しします。トップダウンで一方的に指示・命令するのではなく、従業員の自律性を尊重し、ポジティブな動機づけを図る工夫が求められます。

目標達成だけに偏らず、成長プロセスを重視する文化を育む

人材育成ロードマップを運用していくうえで、目標達成に至るまでの従業員の努力や工夫、挑戦といった成長プロセスを組織として認め、奨励する文化を育むことが、従業員の長期的な成長と組織全体の学習能力向上にとって大切です。

結果のみを重視する評価システムは、時に従業員を過度な成果主義に陥らせ、目標を達成するためなら手段を選ばない失敗するリスクのある挑戦は避けるといった行動を誘発する可能性があります。これでは、新しいスキルの習得やイノベーティブな発想が生まれにくくなってしまいます。

一方で、目標達成に向けた過程での努力や試行錯誤、困難に立ち向かう姿勢などを評価し、たとえ結果が伴わなくてもその挑戦を称賛する文化があれば、従業員は失敗を恐れずにチャレンジしやすくなります。

このような心理的安全性の高い環境は、従業員の学習意欲を引き出し、潜在能力を開花させる土壌となります。

失敗を個人の責任として追及するのではなく、組織全体の貴重な学びとして共有し、次に活かすための前向きな議論を促すことも効果的です。ロードマップは目標達成のための道筋ですが、その道のり自体にも価値があるという認識を組織全体で共有していきましょう。

経営戦略と連動した人材育成を実現する 失敗しない人材育成ハンドブック

人材育成の5つの成功事例

最後に、人材育成に成功した5社の事例を紹介します。人材育成に悩む企業は多くあり、課題を解決することで人材が育っているため、他社の事例も参考にしながら、自社の人材育成を推進していきましょう。

<人材育成の5つの成功事例>

  • 株式会社アシロ|多様性のある人材が集まる組織へ。今、マネジメント育成に力を入れるワケとは

  • C-United株式会社|人事業務効率化とエンゲージメント向上を推進。人材育成に力を入れるC-Unitedの取り組みとは

  • JA宮崎経済連|目標設定研修から始まる人材育成。JA宮崎経済連が踏み出す第一歩

  • 株式会社猿|効率化とマネジメント層の育成が目的。他社の事例をもとに、再現性の高い方法を実現する。

  • 株式会社nicori|一人ひとりに合わせた育成とポジション配置で責任者の育成

多様性のある人材が集まる組織へ。今、マネジメント育成に力を入れるワケとは

株式会社アシロ_導入事例

では、事業拡大に伴う組織の急拡大により、マネジメント範囲の拡大と質のばらつきという課題が発生しました。加えて、従業員満足度調査を実施していたものの、得られたデータを十分に活用できていなかったため、より精緻な従業員体験の把握とマネジメント力強化の必要性が高まっていました。

従業員の体験を定量的に測定できる組織診断サーベイ「EX Intelligence」を導入し、従業員の満足度や課題を数値化しました。サーベイ結果をもとに、マネージャーや経営陣との議論を活発化させ、マネジメント力向上や人事制度見直し、新たな研修プログラムの実施など具体的な改革に着手しました。

その結果、マネージャー層がマネジメントへの意識を高め、危機感を持って行動するようになっており、人事制度の見直しや新入社員研修の大幅拡充など、人事領域における改革が進展しています。また、組織として多様性のある人材を受け入れ活躍させる基盤作りにもつながり、従業員エンゲージメント向上にもよい影響が見られています。

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人事業務効率化とエンゲージメント向上を推進。人材育成に力を入れるC-Unitedの取り組みとは

C-United株式会社_導入事例

C-United株式会社では、「評価こそ人材育成・自己成長の原動力になる」という考えを重視しています。しかし、年間1,700時間にも及ぶ紙ベースの評価作業が、本来注力すべき育成活動の時間を奪っていました。

人事評価システム「HRBrain」導入で評価集計などの時間を大幅に削減し、捻出された時間を活用して、全スーパーバイザーが店長一人ひとりの評価理由を深く議論・調整するなど、質の高いフィードバックと納得感の醸成に注力できるようになりました。

さらに組織診断サーベイ「EX Intelligence」で従業員のエンゲージメントや成長阻害要因となり得る課題をデータで特定し、具体的な改善策を通じて、社員がより意欲的に成長を目指せる環境整備を進めています。HRBrainを駆使し、評価プロセスの質の向上と、成長を支える環境づくりの両面から、効果的な人材育成を推進している事例です。

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目標設定研修から始まる人材育成。JA宮崎経済連が踏み出す第一歩

JA宮崎経済連_導入事例

JA宮崎経済連では、人事考課制度が十分に浸透・機能しておらず、職員が自身の役割や期待される成果を理解できないため、評価を通じた人材育成が進んでいないことが長年の課題でした。この状況を打開し、人材育成を本格化させるための第一歩として、HRBrain導入を機に全職員向けの目標設定研修を実施しています。

研修で、人事考課制度の目的や、等級ごとの役割期待、目標設定の重要性と具体的な方法論を明確に伝えた結果、「自分の役割が理解できた」「目標設定の重要性がわかった」といった声が多く寄せられ、特に若手職員から高い満足度を得られました。

これにより、これまで不足していた育成の基礎となるインプットを実現し、職員の成長意識を高める重要なスタートを切ることができました。組織的な人材育成の基盤構築に向け、まずは意識改革と基礎知識の徹底から着実に歩みを進めた事例といえます。

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効率化とマネジメント層の育成が目的。他社の事例をもとに、再現性の高い方法を実現する。

株式会社猿_導入事例

株式会社猿では、組織拡大に伴い、社員の働きやすい環境づくりと成長基盤の整備が急務となっていました。特に、評価制度の透明化とマネジメント層の育成が課題となり、従来の表計算ソフトによる管理では限界を感じていました。

目標管理や人事評価を効率的かつ定量的に行えるHRBrainを導入したことで、目標や評価の数値化と簡単な集計を可能とし、評価基準の透明性を高めました。さらに、月1回の1on1面談や、メンバーに課題を与えて成長を促す取り組みを実施し、マネジメント層の育成を進めています。

また、表計算ソフトからの移行によって作業効率が大幅に向上し、集計作業の手間が軽減されました。評価のブラックボックス化が解消され、上司の評価内容も可視化されることで、管理職育成にも効果を発揮しました。組織拡大に向けた基盤づくりが進み、エンゲージメント向上や離職防止にもつながる環境が整備されつつあります。

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一人ひとりに合わせた育成とポジション配置で責任者の育成

株式会社nicori_導入事例

株式会社nicoriでは、整骨院やジムの運営を行う中で、人材の育成や配置に課題を抱えていました。特に、人事業務における判断や育成に関する客観性が不足しており、スタッフの評価への納得感を高める必要がありました。

スタッフ自身が目標設定を行い、その達成度を自己評価できるタレントマネジメントツールHRBrainを2018年5月に導入しました。これにより、月1回の1on1面談を実施し、技術・売上・コミュニケーションの3軸にもとづいた育成を推進しました。また、個々の目標やキャリアイメージに合わせたサポートと、バリュー(価値観)の共有・浸透にも力を入れています。

スタッフが主体的に技術向上や目標達成に向けた行動を取るようになり、責任者候補としての成長が促進されました。さらに、人事管理作業が効率化され、業務負担の削減にも成功しており、今後は責任者層の育成を強化し、組織拡大に向けた体制づくりを進めています。

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おすすめの人材育成効率化ツール「HRBrain」

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人材育成は、企業の成長や競争力強化に欠かせない重要な取り組みです。しかし、個々の社員の目標設定や育成計画の立案、進捗の管理、成果の可視化など、育成プロセスには多くの工数と専門的なノウハウが求められます。限られたリソースの中で効果的に人材育成を進めるには、効率化と仕組み化が不可欠です。

そこでおすすめしたいのが、人材育成を効率化するツール、HRBrainのような統合型プラットフォームの活用です。

育成計画の管理や目標達成度の可視化をはじめ、データにもとづいた最適な施策立案まで一貫して管理や分析に対応しています。属人化しがちな人材育成業務を標準化し、組織全体の育成力を底上げするツールとなっているため、ロードマップをはじめとした人材育成に力を入れたい方はぜひ詳細をチェックしてみてください。

HRBrain タレントマネジメント 資料ダウンロード

人材育成ロードマップで、育成の見える化・効率化を実現しよう

変化の激しい時代において、計画的な人材育成は企業の成長に不可欠です。人材育成ロードマップを導入すれば、従業員の成長ステップを可視化し、育成の方向性を全社で共有できます。

これにより、スキルギャップの把握、キャリアパスの明確化、育成施策の一貫性確保が可能となり、組織力を向上するためにすべきことが明らかになるでしょう。

まずは現状の人材育成課題を洗い出し、計画的な人材育成を実現できるロードマップの作成に着手してみましょう。

株式会社HRBrain 東本真樹
東本 真樹
  • 株式会社HRBrain コンサルティング事業部 組織・⼈事コンサルタント

2008年、デジタルマーケティングを支援する企業に入社。
企業ブランディングを活かしたマーケティング支援を経験した後、人事コンサルティング事業の立ち上げに参画。
主に300名未満の中小企業に向けた人事評価制度設計・運用支援・研修企画/実施を行う。

その後、1,000名規模の上場企業にて人事ポジションを経験し事業会社人事としての職務にも従事。

人事評価制度の運用、サーベイによる組織傾向分析、人材データベースの運用管理を経験。
現在は、HRBrainコンサルティング事業部にて組織人材コンサルタントとして活躍中。
人事評価制度の設計から定着に向けたコンサルティングまで各企業のフェーズに沿った支援を行っている。

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