#人材育成
2024/03/15

越境学習とは?実施する方法やメリット、成功のポイントについて解説

目次

    近年、越境学習に注目が集まっています。
    それでは、越境学習とはどのようなもので、なぜ注目されているのでしょうか。
    また、越境学習を実施することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
    この記事では、越境学習の具体的な方法やメリット、実施する際の注意点や成功のポイントなどについて説明します。

    越境学習とは

    越境学習とは、所属する企業や部署の枠を超えて、外部で学びを得ることをいいます。
    越境学習は一時的な活動であるため、従業員本人の籍は元々在籍している企業や部署に置いたまま行います。
    一つの企業や部署にいるのみでは、その組織の中での価値観や視点しか知ることができません。
    しかし、自社や部署の外で学びを得ることで、まったく知らなかった価値観や文化に触れることができる点が越境学習の大きな特徴です。

    越境学習が注目される理由とは

    近年、なぜ越境学習に注目が集まっているのでしょうか。
    それには、近年の社会構造の変化が大きく関係していると考えられます。
    以下で、越境学習が注目される背景について、3点に分けて説明します。

    企業として成長し続ける必要性

    現代は「VUCA時代」と呼ばれ、経済を含めた社会全体が非常に慌ただしく動く時代です。
    VUCAとは、英語の

    • Volatility(変動的)

    • Uncertainty(不確実性)

    • Complexity(複雑性)

    • Ambiguity(曖昧さ)

    という単語の頭文字を取ったもので、「将来を予測するのが困難な状態」をいいます。

    このような時代の中で、企業は社会の動向を敏感に察知し、ユーザーの需要に応じて柔軟に変化していくことが求められます。
    社会のニーズに対応していくためには、幅広い視野と、柔軟で独創的な発想を持つことが大切です。
    そこで、自社内のみでは得にくい新しい視野や発想力を外部の組織で育てられる越境学習に注目が集まっているのです。

    終身雇用に代わるキャリア形成の必要性

    従来の日本では、倒産した場合などを除いて企業が従業員を解雇することなく、定年を迎えるまで雇用し続ける終身雇用制が一般的でした。
    しかし近年、長期的な経済の停滞により、企業にとって人件費の負担が大きくなってきたことなどから、終身雇用制が崩壊しつつあります。
    また、平均寿命が長くなったことから、60歳を超えても働く人が多くなってきました。

    これらのことから、リストラや定年で企業を離れても、別の職場で働き続けられるスキルを身につけることがより重要になったのです。
    越境学習は、自社内で習得できない知識やスキルを学び、新たなキャリアを形成する機会と言えます。

    中高年層の活性化の促進

    近年、少子高齢化が急速に進み、企業が若手の人材を確保することが難しくなっています。
    その結果、従業員の高齢化が進んできました。
    中高年層の従業員は、比較的多くの業務経験があることから、若手と比べて成長意欲が低く、スキルの習得などに積極的に取り組まない傾向があるとされています。

    そこで越境学習を行い、外部の環境に触れることが重要と考えられます。
    越境学習は、自社では知り得なかった価値観や文化を知ることにより、中高年層の従業員の意欲を引き出せることが期待できるのです。

    越境学習の具体的な方法とは

    越境学習には、外部の組織で活動を行う、本業以外に別の仕事をするなど、さまざまな方法があります。
    具体的な越境学習の方法について、以下で5つに分けて説明します。

    プロボノ

    プロボノとは、NPO(営利を目的とせず社会的活動を行う民間団体)や地方自治体などで、スキルや経験を活かした社会貢献活動を行うことをいいます。
    企業にとって、従業員のプロボノへの参加を支援することは、消費者を始めとする社会全体からの信頼を得られるなどのメリットがあります。

    プロボノの具体例としては、マーケティングスキルを活かして市場調査やWebサイトの制作を行ったり、プロジェクトの運営スキルを活かして地域振興のイベントを企画したりする場合などが挙げられます。

    副業・兼業

    本業とは別に副業や兼業を行うことも、越境学習の一つです。
    具体例としては、ITに関する知識を活かしてWebサイトを運営したり、日頃趣味で行っていることを活かしてカルチャースクールの講師を行ったりすることが挙げられます。

    従業員が独自に副業や兼業を行う際は、自社の就業規則を確認することが大切です。
    副業・兼業を行うのに届出や許可が必要な場合は、必ず規則に定められた手順に沿って行いましょう。

    社会人大学院・ビジネススクール

    社会人向けの大学院やビジネススクールに通うことも、越境学習の一つです。
    大学院の中には、社会人が通いやすいよう、日中のみではなく夜間や休日に開講している所もあります。
    また、ビジネススクールには、経営者の養成を目的としたものが多くあります。
    大学院やビジネススクールで現在の仕事に直結する知識を得ることで、実務の中で活かしていけると考えられます。

    さらに、大学院やビジネススクールには、さまざまな年齢や目的で通う受講生がいます。ゼミやワークショップなどを行う中でコミュニケーション能力を高めたり、知識・知見を広げることも期待できます。

    異業種勉強会

    さまざまな業種の人々が集まって、ワークショップなどを行う異業種勉強会も越境学習の一つです。
    異業種勉強会は、ただ勉強をするだけではなく、経営者同士で意見を交換したり、一つのテーマについて全員で討論をしたりするなど、活発なコミュニケーションが取れる場でもあります。
    人脈が広がることによって、共同でビジネスを企画するなど、新たな事業が生まれることもあるでしょう。

    ワーケーション

    ワーケーションとは、観光地やリゾート地などの普段の居住地から離れた場所で、休暇を挟みながら仕事をすることです。
    ワーケーションの大きな特徴は、普段とまったく異なる環境で仕事をすることにより、斬新なアイデアや視点を発見できる可能性が大きいことでしょう。
    新たに思いついたアイデアが、

    • 従来なかった商品・サービスの開発

    • 社内制度の改善

    につながることも考えられます。
    また、ワーケーションには企業側から見ても、従業員の有給休暇消化率が上昇するなどのメリットがあります。

    越境学習を行うメリットとは

    越境学習は、若手から中高年層までの幅広い従業員にとって、普段の職場では得られない新鮮な経験ができるものです。
    それでは、越境学習の具体的なメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
    以下で3点に分けて説明します。

    従業員の自己理解と成長につながる

    外部で学ぶことによって、従業員が自分のやりたいことや適性、価値観などを改めて認識できる点は、越境学習の大きなメリットです。
    たとえば、普段の職場では周囲との共同作業に参加する機会がない従業員が、越境学習でプロジェクトに参加する中で、コミュニケーション能力や分析スキルなど、自分の新たな強みに気づける場合もあるでしょう。

    逆に、自身の強みと思っていたスキルが社外では十分に発揮できない、役に立たないといった状況もあるでしょう。
    越境学習は、さまざまな環境の中で従業員が自身の強み・弱みを改めて把握し、改善・成長していける機会と言えます。

    イノベーションが生まれやすくなる

    イノベーション(革新)が生まれやすくなる点も、越境学習のメリットの一つです。
    普段、自社で仕事をしていると、自社での業務のやり方やルールが当たり前になりがちです。
    しかし、越境学習では自社にはない文化やルール、価値観に出会う機会が多くあります。
    それらの発見を自社に取り入れることにより、事業や人事などの面で大きなイノベーションが生まれることが期待できます。
    これらのイノベーションは、

    • 社内文化の停滞を防いで組織を改善する

    • 新たな事業の創出につながる

    など、企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。

    リーダーの育成につながる

    越境学習は、リーダーの育成にも役立ちます。
    部署やプロジェクトなどにおけるリーダーには、周囲のメンバーをマネジメントし、業務を円滑に回していく役割が求められます。

    しかし、自社内では役職や業務の数に限界があり、マネジメントなどの現場経験を積みにくい場合もあるでしょう。
    その点で越境学習では、外部のプロジェクトに参加し、その中でマネジメント経験を積むことが可能です。
    ひいては、学習終了後に自社でリーダーとして活躍できる人材の育成につながると考えられます。

    越境学習を行うデメリットとは

    従業員が外部で学びを得られる越境学習ですが、実施にあたってはデメリットもあります。
    越境学習のデメリットについて、以下で3点に分けて説明します。

    希望者全員が参加できない場合がある

    越境学習への参加を希望する従業員が多すぎた場合、希望者全員の希望が通らないこともあります。
    希望する従業員全員を越境学習に参加させてしまうと、自社の業務に支障が出るおそれがあるためです。
    越境学習を希望していたのに参加できなかった従業員から不満の声が上がったり、業務へのモチベーションが低下したりする可能性があるのは、越境学習を実施するデメリットと言えるでしょう。

    成果を残す必要がある

    越境学習として外部のプロジェクトなどの活動に参加する間は、自社での業務が免除されます。
    業務が免除された分、従業員は越境学習によってどのような学びや成果を得たのかを、自社に報告する必要があります。
    そのため、「参加した以上は何らかの成果を残さなければいけない」と、従業員自身がプレッシャーを感じる場合もあるでしょう。

    越境学習は、参加するプロジェクトの内容などによって、必ずしも明確な成果が得られるものばかりではありません。
    企業側は、越境学習に参加した従業員に対して、過度に厳しい成果を求めないようにすることが大切です。

    企業側のコストがかかる

    越境学習の内容によっては、企業にコストの負担が発生する場合があります。
    越境学習のために従業員を有料の研修に参加させる、従業員が不在の間の交代要員を配置する、などの可能性があるためです。
    そのため、越境学習への参加者を社内で募る際は、発生するコストと、従業員が得られると思われる成果の釣り合いが取れるかどうかを、十分に見極めることが重要と言えるでしょう。

    越境学習を効果的にするポイントとは

    越境学習は、従業員にとって自社にはない知識や価値観に触れ、成長できる貴重な機会です。
    一方、企業にとって越境学習は、従業員の不在や研修コストなど、負担が発生する可能性があるものです。
    メリットやデメリットがあるからこそ、越境学習が従業員と企業それぞれにとって効果的なものになることが理想的です。
    以下で、越境学習を効果的なものにするためのポイントについて説明します。

    参加の目的を明確にする

    越境学習においては、従業員ひとりひとりの参加目的を明確にすることが大切です。
    「時にはいつもの業務を離れてみたいから」などの曖昧な理由で越境学習に参加しても、「普段と違っておもしろかった」といった単なる体験にしかならない可能性があります。

    職場を離れて貴重な時間を費やすからこそ、事前に従業員の参加目的を十分に確認し、従業員本人にも自覚させましょう。

    具体的な参加目的としては、

    • 「普段知ることがない価値観に触れて、発想力を育てたい」

    • 「自分のスキルを活かせるプロジェクトに参加しながら、リーダーシップを磨きたい」

    などがあります。
    目的を明確に設定することによって、越境学習に対する意欲が高まり、従業員自身の成長につながりやすくなると期待できます。

    強制ではなく自発的な参加を促す

    越境学習は、企業が強制するのではなく、従業員自身が自発的に参加することが大切です。
    企業が従業員に越境学習への参加を義務付けても、「自社の業務だけをしたいのに、どうして自分が越境学習をしなければいけないのか」と不満が募ります。
    当然、越境学習に対するモチベーションも上がりにくいでしょう。

    越境学習は、自身の課題を克服したい、普段出会えない文化や価値観に触れたい、と考える従業員が意欲的に参加してこそ、最も効果的なものになると考えられます。
    従業員が自発的に参加したくなるよう、企業としても魅力的な越境学習プログラムを設計したり、従業員が抱える課題を正確に把握したりする取り組みを行うことが重要です。

    振り返り・内省の場を設ける

    越境学習は、学習を終えた後に振り返りをしないと、単に体験しただけで終わってしまいがちです。
    越境学習を終えた従業員には、上司との面談や1on1ミーティングなどで自分が何を学び、何を感じたのかを言語化する機会を設けることが大切です。
    何を学び、どう感じたのかを言葉で振り返ることによって、従業員自身も自分が次に取るべきアクションが見えやすくなると期待できます。

    学びを社内で共有させる

    越境学習に参加した従業員には、社内でその体験を共有してもらうと良いでしょう。
    体験を共有してもらうことにより、越境学習を参加した従業員本人だけのものに留めず、社内全体での学びに変換することができます。

    ひいては、組織全体の成長につながることが期待できるでしょう。
    具体的な共有の方法には、社内報や社内向けメディアでの体験記の掲載、研修などの場を設けたプレゼン形式での発表などがあります。

    その際に、越境学習について十分に社内周知がされていないと、せっかくの共有内容も他の従業員からは自分には関係のない話と捉えられてしまいがちです。
    従業員ひとりひとりが、越境学習は自身にも関係があるものであると認識できるよう、普段から越境学習についての周知をすることが大切です。

    まとめ

    越境学習は、普段自社で得ることのできない体験をしたり、新しい文化や価値観に出会うことができる貴重な機会です。
    その方法には、一人でできる副業・兼業から、本業から離れて参加するプロボノまで、さまざまなものがあります。
    越境学習の体験を自社全体で活かすためには、振り返りや社内共有の機会を設けるなど、従業員と企業のそれぞれが努力することが大切です。
    従業員がより広い視野と強い発想力を持ち、企業が変化の激しい経済社会の中で成長していくためにも、越境学習は今後より意味の大きなものになっていくでしょう。

    越境学習に関しては、下記のような本や資料もあります。

    ぜひ参考にしてみてください。

    HR大学編集部
    HR大学 編集部

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