#人材管理
2024/05/27

人的資本の情報開示とは?義務化の背景と時期や開示項目と手順について解説

目次

人的資本の情報開示とは、企業の人的資本の情報を社内外に開示することを指します。

近年、人材を資本であると考え、価値を最大限まで高めようとする「人的資本」の考え方に注目が集まっています。

人的資本の考え方に基づいた経営を行う際、企業は人的資本の情報をステークホルダーである投資家を含めた社内外に公開することがあります。

この記事では、人的資本の情報開示について、人的資本の情報開示がなぜ義務化されたのかと時期について、人的資本の情報開示の項目、人的資本の情報開示の手順について解説します。

人的資本の情報開示に向けた取り組みを支援する

人的資本の情報開示とは

人的資本の情報開示とは、企業の人的資本の情報を社内外に開示することを指します。

日本では2023年3月期決算から、有価証券報告書を発行している企業を対象に、有価証券報告書に人的資本の内容を記載し、株主や顧客など企業のあらゆる利害関係者である、ステークホルダーに公開することが義務化されました。

人的資本とは

人的資本とは、従業員を単なる労働力としてではなく、「スキル」「知識」「ノウハウ」「資源」など、従業員がもつ能力を資本としてとらえ、投資をしたりその価値の最大化に努めたりするべき自社の資本であるという考え方を指します。

近年、人的資本の考え方に基づいて自社の経営方針や経営戦略を策定する「人的資本経営」という経営方法が、急速に広まっています。

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人的資本の情報開示は2023年から義務に

人的資本の情報開示を通して、自社の人的資本に関する情報や具体的な取り組みに関する情報を開示することは、ステークホルダーである投資家を含む社内外に、人的資本経営を実施していることを広くアピールできると考えられます。

人的資本の情報開示に関して日本では、2022年8月に内閣官房から「人的資本可視化指針」が公表されました。

人的資本可視化指針は、上場企業に向けた人的資本に関する情報開示のガイドラインで、最初から完璧な人的資本の情報開示を行うより「できるところから開示」を行ったうえで、開示へのフィードバックを得ながらブラッシュアップしていくことが重要とされています。

そして、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されたことにより、2023年3月の決算以降、人的資本の情報開示が義務となりました。

義務の対象となるのは、「金融商法取引法第24条」で有価証券報告書を発行する大手企業で、有価証券報告書に2023年より新設された「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目に、「サステナビリティ」と「人的資本」の2つの情報についての情報を明記することとされています。

(参考)内閣官房「人的資本可視化指針

(参考)金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ

(参考)金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について

人的資本の開示が注目される理由とは

人的資本の情報開示については、有価証券報告書を発行する大手企業を対象に義務化されるなど、近年注目が高まっていることが分かります。

人的資本に関する情報開示が注目されている理由について、3点に分けて確認してみましょう。

人的資本の情報開示が注目される理由

1.ESG投資への注目の高まり

2.アメリカなど海外での人的資本の情報開示の義務化

3.人的資本への関心の高まり

ESG投資への注目の高まり

人的資本の情報開示には、ESG投資への注目度の高まりが関連していると考えられます。

ESG投資の「ESG」とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取ったものです。

ESG投資とは、気候変動問題などの「環境面」とダイバーシティの推進などの「社会面」にそれぞれ配慮し法令を遵守している企業に投資しようとする考え方です。

ESG投資の中で、人的資本は「Social(社会)」に特に関連しています。

投資家が人的資本に関する正確な情報の開示を企業に求めていることが、人的資本の情報開示が注目されている大きな要因の1つといえます。

アメリカなど海外での人的資本の情報開示の義務化

海外では従業員を人的資本と考え、従業員に関する情報を開示する動きが日本よりも先に始まっています。

欧州連合(EU)では、2014年に「非財務情報開示指令」で、従業員が500人以上の企業に対して、従業員に関する情報を開示することが義務付けられています。

アメリカでは、2020年8月に米国証券取引委員会で「レギュレーションS-K」(財務諸表以外の開示に関する要求事項)に、「人的資本の情報開示を義務付ける項目」が追加されました。

そして、人的資本に関する情報開示を行う流れが世界的に浸透していきました。

(参考)金融庁「サステナブルファイナンスにおける情報開示

(参考)SEC.gov「Modernization of Regulation S-K Items 101, 103, and 105: A Small Entity Compliance Guide

人的資本への関心の高まり

近年、人的資本を始めとした「無形資産」に、市場価値としての注目が集まっています。

これまで、企業価値を評価する際は、数字として明確に測ることが可能な「有形資産」である物的資本が重視されていました。

しかし、2008年のリーマンショックを始めとするさまざまな社会的な出来事を経て、財務情報などだけでは、中長期的な企業価値を判断することは難しいと考えられるようになりました。

そこで、より長期的な投資が行えると考えられる、人的資本などの無形資産を重視する動きが広まってきました。

人的資本で情報開示が求められる7分野・19項目

人的資本経営では、人的資本に関する情報を開示することが求められます。

人的資本の情報開示では、具体的にどのような内容の開示が必要なのでしょうか。

人的資本の情報の開示が求められる、7つの分野と19の項目について確認してみましょう。

1.人材育成

  • 1.1 リーダーシップ

  • 1.2 育成

  • 1.3 スキル・経験

7つの分野には、開示が必須の分野と推奨の分野とがあり、「人材育成」に関する情報は開示が必須とされています。

人材育成の分野は、「リーダーシップ」「育成」「スキル・経験」の3項目に分かれており、経営戦略に即した人材戦略を策定し、その取り組み内容について知らせるための分野と言えます。

具体的な開示内容の例には、従業員の研修プログラムの詳細や時間、費用のほか、教育環境や後継者の育成などがあります。

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2.エンゲージメント

「エンゲージメント」の情報は、開示が望ましいとされており、必須ではありません。

エンゲージメントとは、「従業員満足度」のことであり、従業員の待遇や労働環境の他、やりがいを持って働けているか、職場の環境に満足できているかなどの情報を指します。

具体的には、従業員に対するエンゲージメントサーベイの結果や、エンゲージメント向上に対する取り組み内容を開示すると良いでしょう。

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3.流動性

  • 3.1 採用

  • 3.2 維持

  • 3.3 サクセッション

「流動性」は、「採用」「維持」「サクセッション」の3項目に分かれており、自社の人材の流動に関する分野です。

あまり聞き慣れない「サクセッション」という言葉には、「継承」や「相続」の意味があります。

流動性の分野の具体的な数値の例には、従業員の離職率や定着率、採用コストなどがあります。

数値以外で開示するべき情報の例には、人材の維持と定着に関する取り組みの内容などがあります。

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4.ダイバーシティ

  • 4.1 ダイバーシティ

  • 4.2 非差別

  • 4.3 育児休業

「ダイバーシティ」は「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」の3項目に分かれており、情報開示が必須となっています。

具体的な開示内容には、男女の賃金の差や性別ごとの従業員や経営層の比率、育児休業取得人数の差などがあります。

多様なバックグラウンドを持つ従業員を受け入れる姿勢や体制の構築ができているかどうかを示すのが、ダイバーシティの分野といえます。

5.健康、安全

  • 5.1 精神的健康

  • 5.2 身体的健康

  • 5.3 安全

「健康、安全」は、従業員の心身の健康が守られているかを指す分野です。

「精神的健康」「身体的健康」「安全」の3項目に分かれており、身体の健康のみではなく、メンタルヘルスにも配慮された分野であることが分かります。

具体的な開示内容には、従業員の欠勤率や労働災害の発生件数、発生割合などがあります。

また、従業員の健康づくりや安全な労働環境の整備に関する情報も求められます。

具体的には、医療やヘルスケアサービスの利用促進状況などが含まれます。

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6.労働慣行

  • 6.1 労働慣行

  • 6.2 児童労働・強制労働

  • 6.3 賃金の公平性

  • 6.4 福利厚生

  • 6.5 組合との関係性

「労働慣行」は、企業と従業員との間で公正な関係が構築できているかを示す分野です。

「児童労働・強制労働」「賃金の公平性」「福利厚生」などの項目に分かれており、項目数が他の分野に比べて多いことからも、自社の社会的な信用度を左右する分野であることが分かります。

具体的な開示内容には、平均賃金や平均時給、福利厚生の種類などがあります。

従業員ひとりひとりが適正な賃金のもとで働けているか、強制的に働かされていないかといった情報を示す項目が集まっており、リスクマネジメントの観点からも重要視されている分野といえます。

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7.コンプライアンス、倫理

「コンプライアンス、倫理」は、企業が社会的規範や倫理観に基づいた経営を行っているかを示す分野です。

具体的な開示内容には、苦情件数や業務停止件数、人権やコンプライアンスに関する研修を受講した従業員の割合などの情報があります。

「労働慣行」の分野と同じく、自社の社会的信用に大きく影響する、大変重要な分野といえます。

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人的資本の情報開示のポイント

人的資本の情報開示内容には、人材育成からコンプライアンスまで、さまざまな分野のものがあります。

初めて人的資本に関する情報開示を行う際は、判断に迷うこともあるでしょう。

人的資本の情報開示をする際は、どのような点に留意すれば良いのか、人的資本の情報開示のポイントについて確認してみましょう。

人的資本の情報開示のポイント

  • ストーリー性を意識する

  • 開示情報を数値化する

  • 戦略的な情報開示を行う

ストーリー性を意識する

人的資本経営は、経営戦略と人材育成などの人材戦略とを関連付けて行われるため、人的資本の情報開示では、単に必要な情報を公開するのではなく、自社の経営戦略と開示した情報とがどのように結びついているのかを、ストーリー性を持たせながら説明できることが重要と言えます。

具体例として、まずは自社の経営状況がどのような状態なのか考慮した結果、どのような人材戦略を策定したのかを説明します。

そして、人材戦略に基づいてどのような施策を打つことにしたのか、施策の結果どのような成果が得られたのか、といった流れで説明ができると良いでしょう。

明確なストーリー性を持たせることで、投資家を始めとするステークホルダーに対して、説得力のある情報開示が可能になります。

開示情報を数値化する

人的資本経営に関する取り組みは、必ずしも全てが数値で表せるものではありません。

しかし、取り組みや施策について、開始した時の状況から現在までの経過や、目標と現状とのギャップなどを把握するためには、各データが数値で表されているほうが分かりやすいと考えられます。

投資家などのステークホルダーが、自社と他社の取り組みを比較しやすくなるという観点からも、開示する情報はできる限り定量的なデータで記載することが望ましいでしょう。

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定量的・定性的の意味と使い分け、ビジネスや目標設定では注意も

戦略的な情報開示を行う

経営や人材育成に限らず、情報開示そのものも戦略的に行うことが大切です。

具体的には、投資家などのステークホルダーが人的資本経営に関してどのような情報を知りたいのかを分析し、自社がより魅力的な企業に映るような工夫をすることが重要です。

戦略的な情報開示のためには、経済産業省の「非財務情報の開示指針研究会」や、国際的指針である「ISO30414」などの資料を参考にすると良いでしょう。

(参考)経済産業省「非財務情報の開示指針研究会

(参考)ISO「ISO 30414:2018 - Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting

▼「ISO30414」についてさらに詳しく
ISO30414とは?49項目の人事情報開示規則と導入企業を解説

人的資本の情報開示を行う際の流れ

人的資本の情報開示は、決められた項目について、ストーリー性をもって開示することが求められます。

実際の人的資本の情報開示は、どのように行うのが良いのか、人的資本の情報開示の流れについて確認してみましょう。

人的資本の情報開示を行う際の流れ

  1. 開示する項目を選定する
  2. 情報収集のための環境を整備する
  3. 人的資本の情報開示での目標を設定する
  4. 部署や部門間で連携する
  5. 意見を取り入れながら改善を繰り返す

開示する項目を選定する

まずは、どの項目の情報を開示するかを選定する必要があります。

さらに、開示が必須となっている項目に加えて、自社の独自性がアピールできる項目や、他社と比較することが可能な項目を選定することがポイントです。

また、開示しないことが自社にとってリスクになる項目がないかという点から検討することも大切です。

情報収集のための環境を整備する

開示する項目が決定したら、各項目についての情報収集を行う必要があります。

人的資本の情報開示は一度のみではなく、ブラッシュアップしながら何度も継続して行うため、長期的に正確なデータを集めることができる環境を整備することが大切です。

正確なデータの収集には、専用の計測ツールなどを活用すると良いでしょう。

途中で担当者がかわった場合も考慮し、長年にわたって誰もが使いやすいツールやシステムを選定することが重要です。

人的資本の情報開示での目標を設定する

情報開示する各項目について、目標を設定します。

目標は、自社の経営方針や経営戦略に即した内容にすることが大切です。

「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」を設定する場合は、項目ごとに細かく設定すると、目標を達成するために今後やるべきことが可視化しやすくなります。

これまでの決算資料などを参考にしながら、どの施策がどのような結果につながるのかを予測し、ストーリー性のある情報開示ができるような目標設定を意識しましょう。

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部署や部門間で連携する

より効果的に人的資本の情報開示を行うためには、実際に開示の対応を行う部署だけではなく、他部署や部門の意見や知見を取り入れながら、内容をブラッシュアップしていくことが大切です。

経営部門や人事部門などに対して必要なデータの提供を依頼したり、完成した資料についてのフィードバックを依頼したりするなどして、積極的に協力を求めるとよいでしょう。

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意見を取り入れながら改善を繰り返す

人的資本の情報開示についての大枠が完成した後は、継続的に「PDCA」を回していくことが大切です。

PDCAとは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(対策・改善)」の頭文字を取ったものです。

人的資本の情報開示を行った後は、内容についてのフィードバックをもらい、内容を検証して、より良い情報開示につなげていくことを指します。

PDCAを回し続けることは、自社の魅力がより伝わりやすい情報開示につながり、さらに人的資本経営における目標の達成にもつながることが期待できます。

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人的資本の情報開示はガイドラインに沿って行うことが重要

人的資本経営は、近年多くの企業で取り入れられている経営方法です。

そして、人的資本に関する情報開示については、日本のみではなく世界的にその流れが広がっています。

人的資本に関する情報は、人材育成やダイバーシティ、コンプライアンスなど、多くの分野と項目に分かれています。

人的資本の情報開示を行う際は、必須項目を含めてどの項目を開示するのが良いか、そして、投資家などのステークホルダーに対して説得力のあるストーリー性を持てているかなどを、細部まで確認しながら行うことが大切です。

特に、初めて人的資本の情報開示を実施する際は、ガイドラインとして国際的に公表されている「ISO30414」や内閣官房の「人的資本可視化指針」などを参考にすると良いでしょう。

また近年、人的資本開示のKPIとして、サーベイで取得したエンゲージメントスコアを、統合報告書や有価証券報告書等へ公開する取り組みが広がっています。

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  • 人的資本の情報開示にも対応したデータの収集から活用

エンゲージメント状態の定量化を実現し、人的資本の情報開示に必要な人材データの収集が可能

HR大学編集部
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