人材管理
2023/09/11
複線型人事制度とは?メリット・デメリット・導入の流れを徹底解説
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複線型人事制度とは、1つの企業に複数のキャリアコースがある制度のことです。
多様なキャリアパスを用意することで、自社内で多様な人材を育成することができます。
この記事では、複線型人事制度の概要と、そのメリット・デメリット、導入事例について説明します。
複線型人事制度とは
先に述べたように、複線型人事制度とは、1つの企業に複数のキャリアコースが設けられている人事制度のことです。
複線型人事制度に対応する制度として、単線型人事制度があります。その名の通り、単線型人事制度はキャリアコースが単線(ひとつ)しかない人事制度です。
複線型人事制度のキャリアコース設定には、3つの核となる考え方があります。以下、紹介します。
キャリア志向
従業員のキャリア志向により、総合職・一般職などから選べるコースが設定されています。
総合職は、社内の中核を担う業務を担当し、一般職はそのサポートを担当します。そのため、総合職の方が責任が重く、ジョブローテーションの観点から転勤が多いという特徴があります。
一般職は内勤のため、基本的に異動・転勤がありません。一般職はサポート業務がメインのため、総合職に比べて、給与が低く設定されている場合があります。
適性
次に、適性にウエイトを置いた複線型人事制度について紹介します。
従業員の適性・希望により、「マネジメント業務を担当する」「職種の専門性を高める」のいずれかのコースを選ぶことができます。
特に、エンジニアはプロジェクトマネジメントよりも「技術に携わりたい」という傾向が強いため、マネジメント以外のコースを用意することで、技術力のある人材の流出を防ぐことができます。
「マネジメント」以外のコースには「スペシャリスト」「エキスパート」など、企業によって異なる名称がついています。
職群
職群とは、企業や団体で働く従業員を、職務上の「一定の基準」で分類したグループのことです。
具体的な職群の名称は企業によって異なり、「営業職」「技術職」のように、従事する業務に由来する場合があります。
従業員を職群に分けるだけではなく、その分類ごとに等級・報酬を設定するなど、企業独自の職群に応じて複線型人事制度を構築する場合もあります。
複線型人事制度のメリット
複線型人事制度を設定する3つの考え方について紹介しました。
次に、複線型人事制度について、会社と従業員、それぞれのメリットについて説明します。
会社側のメリット
- 事業に必要なスペシャリストを育成できる
企業が展開する事業に応じて、専門知識を持つ人材を育成することができます。
近年、「マネジメントではなく、自身のスキルを磨いていきたい」と専門性を高めるキャリアを選択する人材が増えています。複線型人事制度は、そうした従業員のニーズにもマッチしていると言えるでしょう。
複線型人事制度を導入することで、企業は技術の高い人材の流出を防ぐだけでなく、ノウハウの蓄積や、技術の高度化も期待できます。
- 職位のポスト不足の解消
ピラミッド型組織で、1つしかキャリアコースがない場合、職位のポストが不足する恐れがあります。
その場合、事業の貢献度が高い人材を昇進させたくても、すでにそのポストはほかの従業員に占められている状態になっている可能性があります。
また、日本企業の場合、よっぽどのミスや不祥事がない限り、一度昇進させたポストから降ろすことがないという傾向があります。そうした慣習も、企業のポスト不足に拍車をかけていると言えます。
しかし、複線型人事制度の場合、それぞれにキャリアコースが定められているため、主任・課長といった職位(ポスト)に「昇進」させるのではなく、職群に設定された等級に対して「昇格」させることができます。
そうしたポスト不足を補うことは、従業員のモチベーションアップにも繋がります。
従業員側のメリット
- 望むライフスタイルに応じてキャリアを選べる
「ワークライフバランスを充実させたい」「出産・妊娠を見越して、転勤のないキャリアコースを選択したい」など、キャリアに合わせてコースを選択することが可能です。
また、そうしたキャリアコースを企業が用意することによって、業務の継続が難しくなった場合、退職ではなく「総合職から一般職へ」とコースを変更することもできます。
また近年の働き方の多様化を受けて、総合職よりも一般職の方が倍率が高いといった現象も起きています。
- モチベーションが向上する
「マネジメントが苦手でも、専門性を高めることによって会社から評価される」「社内にロールモデルとなる先輩社員がいる」ことは、従業員のモチベーションアップに繋がります。
「キャリア・専門性を高めるために、具体的に何をすればいいのか」という情報が企業から提供されているため、成長の機会も多いと言えるでしょう。
- 報酬を与えられる機会が増える
キャリアコースが複数あることで、より細やかな成長機会・評価を得ることができます。
そのため、1つしかキャリアコースがない場合に比べて、報酬を与えられる機会が多いと言えるでしょう。
複線型人事制度のデメリット
複線型人事制度について、会社と従業員それぞれのデメリットについて説明します。
会社側のデメリット
- 給与体系の抜本的な見直し、評価システムの構築・運用が必要
複線型人事制度を導入するためには、複数のキャリアコースを用意する必要があります。
そのためには、コースごとに給与体系を見直し、それに連動した評価システムの構築が必要です。新たに評価システムを導入した場合は、継続的な運用コストがかかるでしょう。
複線型人事制度の導入には、抜本的な人事制度の改革・見直しが必要なため、時間と手間がかかります。
- 評価・運用のルールが複雑化する
複線型人事制度は、複数のキャリアコースを同時に展開する必要があります。
「公平さ」を意識しながら、それぞれの評価制度のルールを把握する必要があります。1つのキャリアコースしかない場合に比べて、運用が複雑化すると言えるでしょう。
- 報酬を与える機会が多くなり、人件費が増加する傾向がある
複線型人事制度(適性・職群)の場合、会社に対する貢献度に応じて報酬を与える機会が増えます。
そのため、1つしかキャリアコースがない場合に比べて、人件費が増加する傾向にあります。複線型人事制度の導入前に、綿密な試算を行う必要があると言えます。
- 従業員へ周知する機会を設ける必要がある
新たに複線型人事制度を導入する場合、従業員に周知を行いましょう。
複線型人事制度の導入には、従業員の同意と理解が必要不可欠です。人事制度が変化する場合、従業員は「今までと何がどう変わるのだろうか」と不安を抱きます。導入の際には、背景や目的、また従業員自身のメリットなどを説明するなどして、安心させましょう。
また、評価者・被評価者のための複線型人事制度の資料などを用意するなどして、スムーズな運用のための準備を行う必要があります。
- 複線型人事制度が定着するまで時間がかかる
先に述べたように、複線型人事制度の定着には時間がかかります。また、従業員の説明会などの周知のほか、採用方法も変える必要があります。
いきなりすべてを変更するのではなく、まずは1つの職群からテスト的に開始するなど、「どのように実施するのか」を慎重に検討をしましょう。
複線型人事制度の定着には時間とともに手間がかかることを頭に入れて、余裕を持ったスケジュールを策定しましょう。
従業員側のデメリット
- 他のキャリアコースに移ることが難しい
従業員にとって、一度そのコースを選択してしまうと、他のコースに移行するのが難しい場合があります。
例えば、一般職から総合職にキャリアチェンジする場合、同一の企業であっても、試験や面接を行うことが一般的です。
- 評価制度が複雑化して理解しにくい
会社側のデメリットとしても先に述べましたが、複数のキャリアコースがある場合、その複雑化した評価制度の把握は、従業員の負担になります。
特に、入社後に評価制度が大きく変わった場合、評価者・被評価者として一から覚えることが多く、戸惑うこともあるでしょう。
- 待遇に関して不平等を感じる場合もある
もし、会社が定めたキャリアコースと、職務の実態に乖離がある場合、「結局、同じような仕事をしているのに、こんなにも給与が違う」と従業員が不満を感じる場合があります。
そうした不満を従業員が持たないためにも、複線型人事制度を導入する場合は、それぞれの職務の範囲・責任のあり方などを明確に定める必要があります。
複線型人事制度の導入方法
では、次に複線型人事制度の導入方法について説明します。
必要な人材・スキルを定義する
事業成長のために「必要な人材・スキルはなにか」を定義しましょう。
事業計画に基づき、どの事業領域に人員を配置するのかを決定します。そして、そのポジションに求められる役割・スキルを割り出します。
キャリアコースを作成する
求められる役割・スキルに対して、適切なキャリアコースを作成しましょう。スキルの項目の洗い出しに関しては、現場の従業員の協力が欠かせません。
複線型人事制度のメリットを理解してもらうためにも、導入の前段階から従業員を巻き込むことが重要です。従業員の意見を反映する制度となるよう、積極的に意見を交換しましょう。
制度を見直し、スキルと評価・報酬を紐づける
従来の人事制度を見直し、新たに設定したスキルと、複線型人事制度の評価ランク・報酬を紐づけましょう。
キャリアコースごとに、求められるスキルの項目を追加し、柔軟に評価のランクや報酬を設定しましょう。キャリアコースごとの特色が、企業自身の魅力となります。
また、自社だけの基準だけではなく、「人材の市場価値」といった外部からの視点も持ち込むことで、独りよがりな失敗を回避することができます。
被評価者・評価者向けに説明会・研修を行う
複線型人事制度の概要が整ったら、従業員向けに「複線型人事制度を導入したことによって何が変わるのか」「なにをしなければならないのか」などを説明しましょう。
また、被評価者・評価者向けに研修を行うことも重要です。
コースごとに従業員を配置する
複線型人事制度が整った後、キャリアコースごとに従業員の配置を行います。配置の際には、本人の希望だけでなく、適性を考慮しましょう。
一方的に通知を行うのではなく、従業員との面談を通じて、納得を促すことも重要です。複線型人事制度の導入が、従業員のモチベーション低下に結びつかないよう、配慮を行いましょう。
また、キャリアコースが設けた基準を満たさない従業員は、そのコースの選択ができない旨の通知や判断を徹底しましょう。
採用方法を変更する
複線型人事制度の導入後は、採用を制度に即したものに変更する必要があります。
総合職と一般職では、異なった応募条件を設けている企業もあります。
複線型人事制度の導入事例
以下、複線型人事制度を導入している企業の事例を紹介します。
りそなホールディングス
2021年4月に人事制度を改定したりそなホールディングス。その目的は「従業員一人ひとりがビジネス環境の変化に対応しプロフェッショナルとして成長すること」です。
従業員が多様な分野でプロフェッショナルを目指せるように、業務分野別の全19コースからなる「コース制」を導入しました。「渉外・融資外為」「サービス」「事業再生」など、業務分野別の19コースがあります。
また、社員・スマート社員・パートナー社員には共通の人事評価制度を適用し、それぞれが柔軟に登用・転換を経て職種を変更できる制度を整えています。※2021年4月時点の情報です
中野区(自治体)
2022年3月、中野区は「区の目指す将来像」の実現を担う職員の総合的な人材マネジメントのため、「中野区人材育成基本方針」を策定しました。
「ゼネラリスト職員」「エキスパート職員」「特定部門エキスパート職員」を設定し、採用10年目以降の職員については、職員自らが選択したキャリアや希望を尊重した人事異動・配置を行い、意欲や専門性の向上を図る、としています。
- ゼネラリスト職員…行政全般に精通。3年〜5年程度で様々な部署に異動。
- エキスパート職員…特定の業務(福祉・生活支援、まちづくり等)に精通。異動は限定的に行う。
- 特定部門エキスパート職員…特定の部門(①企画・計画、②内部管理、③窓口・相談、④事業執行)に精通。異動は原則部門内において、3年〜5年程度で他の部や課に異動。
※2022年4月時点の情報です
東日本旅客鉄道株式会社
2012年、東日本旅客鉄道株式会社では、人事・賃金制度の抜本的な見直しを実施しました。
等級試験を廃止し、管理者の補佐役としての「主務職」、人材育成のプロとして「技術専任職」を新設するなどの複線型人事制度を導入しました。
あわせて昇進資格の短縮や飛び級制度の新設なども実施し、社員のバックグラウンドにかかわらず公平なチャンスの付与を実現しました。
※2015年3月時点の情報です
まとめ
複線型人事制度とは、複数のキャリアコースを選べる人事制度です。
キャリア志向・適性・職群の3タイプが人事制度の考え方の基本となっています。
複線型人事制度のメリットは、事業に必要なスペシャリストを育成できること、ポスト不足が解消できることです。従業員にとっても、成長の機会が多く、モチベーションが上がりやすいという利点があります。
複線型人事制度のデメリットは、評価制度が複数のキャリアコースを運用するため、そのルールが複雑化しやすいという点です。制度を整えるために手間と時間がかかるだけでなく、従業員の同意と理解が必要になります。
2022年9月時点で、複線型人事制度は、りそなホールディングス、中野区、東日本旅客鉄道株式会社などの企業や自治体において導入されています。
複線型人事制度の導入には、今ある人事制度の抜本的な見直しが欠かせません。
「自社に合った評価制度をゼロから構築したい」
「職務に応じた適切な待遇を実現したい」
「感覚評価から公平感のある評価制度に変更したい」
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